パーパス経営の意味とは?注目の理由や事例、取り組み方を解説

パーパス経営とは、「企業の存在意義」に重きを置いた経営のことです。
パーパス(Purpose)は「目的、意図、意思」の意味ですが、これを重視し、社会に対する存在価値を示し、資本主義から志本主義へ:「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」から「PDB(パーパス・ドリーム・ビリーフ)」へと転換するトレンドが近年注目されています。
この記事では、パーパス経営のメリットと注意点、そして企業の成功事例を解説します。
また、ourly Mag.(アワリーマガジン)では、「パーパス・マネジメントー社員の幸せを大切にする経営」の著書である丹羽様に、パーパス経営についてや日本人という国民性とパーパス経営は合致しやすいのか・しにくいのかなど、さまざまな角度からいただきましたので、ぜひご覧ください。

パーパス経営とは

パーパス経営とは、自社の社会における価値や存在意義を重視する経営のことです。本来、パーパス(Purpose)は「目的、意図、意思」を指す言葉です。しかし、昨今では「存在意義」や「志」というニュアンスで用いられることも多くなりました。
パーパス経営の概念は、世界最大の投資会社であるブラックロック社の会長兼CEO、ラリー・フィンク氏が2018年に投資先の経営者に宛てた書簡にも登場します。氏は次のように言及しています。
- 社会に対する貢献を示す、パーパス主導の経営でなければ成長を継続できない
- すべてのステークホルダーに価値あるパーパスを示すことが競争力強化につながる
さらに彼は2022年の年頭書簡にて、「パーパスをステークホルダーとの関係の基盤に位置付けることが、長期的な成功の鍵だ」と、パーパスの重要性を強調しました。
資本経営から志本経営への転換トレンドは、時代の流れに即したものといえるでしょう。
MVVとパーパスの違い(資本経営と志本経営の違い)
近年、資本から志本へ、「MVV」から「PDB」への転換がトレンドとして注目を集めています。
資本経営の時代においては、企業理念に「MVV」を掲げる企業が大半でした。これらは、どちらかというと外発的な観念です。
- Mission(使命)
- Vision(構想)
- Value(価値観)
「MVV」に対し、近年のトレンドである志本経営における理念は「PDB」だといわれています。
- Purpos(志)
- Dream(夢)
- Belief(信念)
これら3つの観念は自身の内側から湧き出てくる、より内発的なものといえるでしょう。内発的であるが故に、多くの従業員に浸透するのではないでしょうか。

パーパスと企業理念の違い
パーパスとよく似た概念に「企業理念」があります。
企業理念には、会社の設立された目的や価値観が色濃く反映されるものです。「創業者の想い」を表現したものであり、会社が存続する限り大きく変わることはありません。
これに対しパーパスは、時代の移り変わりにより変化する可能性があります。消費者(社会)の求めるものが変われば、企業の存在意義も変わっていくからです。
「経営理念」は「経営上の考え方や方針」を指す言葉で、パーパスと同様、時代の変化に対応していくものです。パーパスと経営理念の概念は、より近いといえるでしょう。
パーパス経営を学べるおすすめ書籍
一実践者である著者の丹羽氏の知見をベースに、パーパス経営について解説した一冊が「パーパス・マネジメントー社員の幸せを大切にする経営」です。
丹羽様は、「パーパス」を起点としたコンサルティングをしているアイディール・リーダーズ株式会社の、CHO(Chief Happiness Officer)です。同社は、多くの企業のパーパス経営を支援しています。
本書では、CHO(Chief Happiness Officer)という社員の幸せをデザインする経営職またはその機能をもつ役職に注目して、パーパス経営のポイントを分かりやすく解説しています。
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パーパス経営の事例5選
ここでは、パーパス経営をおこなう国内企業の事例を5つ紹介します。
三井住友トラスト・ホールディングス

三井住友トラスト・ホールディングスは、信託銀行を中核とする金融持株会社です。
同社は2020年に以下のパーパスを掲げました。
「信託の力で、新たな価値を創造し、お客さまや社会の豊かな未来を花開かせる」
先を見通すことが難しい昨今、投資や運用の分野ではこれまでの常識が通用しないことが多くなりました。こうしたなか、同社は「原点回帰」をテーマに掲げたパーパスを策定します。
全従業員がこのパーパスをもとに顧客の期待に応え、社会に対する責任を果たすことを宣言しています。
ソニー

ソニーグループが掲げたパーパスは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というものです。
コロナ禍において、ソニーのパーパスは社会に対する存在意義を存分に示すものとなりました。
同社は日常生活の制約により、ストレスを抱える消費者を喜ばせるために尽力します。「プレイステーション5」の発売や、「鬼滅の刃無限列車編」の映画公開を予定通り実現し、2020年度の収益は過去最高を記録しました。
また、同社は明確なパーパスがあったことで、コロナ禍においても従業員の足並みが乱れることなく、意識の統一がなされていたとのことです。
東京海上ホールディングス

東京海上ホールディングスは、保険業を中心とした各事業を束ねる持株会社です。
同グループは、1879年の創業以来「お客様や地域社会の”いざ”を支え、お守りする」というスローガンをもとに、保険業を営んできました。そして、このスローガンは今も変わらず、パーパスとして根付いています。
現在では「いざ」というときの保険金の支払いだけでなく、事故や災害の防止や対応といった、「事前・事後」の安心にまで踏み込んだ活動を重視しています。より一歩先を行く保険会社の価値を創造するべく、パーパスの解釈を進化させているのでしょう。
味の素
味の素では現在、グループビジョンとして以下のパーパスを掲げています。
「アミノ酸のはらたきで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人びとのウェルネスを共創します」
同社はこれ以前にも違うビジョンを定めていましたが、定着しないことに危機感を覚えます。2年間にわたり40人弱の執行役員が議論を重ね、「食の健康課題解決」が味の素の存在意義であるという結論に達し、上記のパーパスを掲げました。
パーパスを浸透させる目的で表彰制度を新設し、エンゲージメント向上にも努めています。
ネスレ日本

ネスレ日本は、自社の存在意義を「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」と定義しています。
このパーパスのもと、「個人と家族」「コミュニティ」「地球」の3分野に貢献するべく、長期的な目標を定めました。
日本における取り組みは、健康的なコーヒー飲用習慣の推奨や、子ども食堂や医療機関への製品の寄贈、製品パッケージの改善による環境負荷の軽減などが挙げられます。こうした実効的な取り組みにより、社会における共通価値の創造に努めているのです。
パーパス経営に欠かせない概念

企業がパーパス経営をおこなうには、定めたパーパスを従業員に浸透させる必要があります。また、企業価値を高めるためには、パーパスを社会に周知しなくてはなりません。
ここでは、パーパス経営に欠かせない2つの概念を解説します。
パーパス・ドリブン
ドリブンとは、「何かに駆り立てられ、突き動かされる」ことを意味します。
すなわち、パーパス・ドリブンとは、従業員が自社のパーパスに駆り立てられ、突き動かされた状態といえるでしょう。多くの従業員が、自社の存在意義に突き動かされている組織は、目覚ましい成果を上げるのではないでしょうか。
ドリブンには転じて「起点」という意味もあります。自社のパーパスが起点となり、経営目標をはじめ、従業員の行動までが定められることでもあります。
パーパスが明確なことで従業員は同じ目線で仕事の意義を共有し、企業力の向上に貢献するのです。

パーパスブランディング
パーパスブランディングとは、自社の存在意義を広く社会に認知させ、共感の輪を広げることで自社の価値を高める手法です。
かつてのブランディングは消費者目線のものでした。消費者(個人)に対する価値提供に終始する、利益追求のブランディングです。一方、パーパスブランディングは、個人でなく社会に目を向けたものです。自社の存在価値を浸透させ、共感を集めることでファンを増やす手法といえるでしょう。
目先の利益に直結しないこともありますが、長期的視点では企業価値の向上に大きな効果を発揮します。

パーパス経営が注目される理由

近年、これほどまでにパーパス経営が注目されるのは、さまざまな社会情勢の変化が背景にあるようです。コロナ禍をはじめ不確定要素が多く、社会の価値観も大きく変化しつつあります。
パーパス経営が注目される背景として、以下の5つを挙げます。
VUCA
VUCA(ブーカ)とは、将来が容易に見通せない状態のことを指します。
- Volatlity(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Conplexity(複雑さ)
- Ambuguity(両義性・曖昧さ)
上記4つの頭文字をとったもので、ビジネス環境が変動的で、将来が不確実なことを指しています。既存の価値観は通用しなくなり、変化に対応する柔軟さが求められる時代といえるでしょう。
こうした変化に対応するには、確固とした判断軸となるパーパスが必要になるのです。
VUCAについては以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

SDGs
SDGsとは、持続可能(サステナビリティ)な社会を実現するための世界目標です。2015年の国連サミットで採択され、2030年までに達成するべき17の世界目標が定められました。
その目標には個人だけでなく、企業単位・国単位で取り組むべき課題も含まれます。企業が社会における価値を維持するには、SDGsへの取り組みは不可欠なものとなりました。
サステナビリティを意識した経営をするためには、自社のパーパスを見直し、明確にする必要がでてきたのです。
DX
DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みは、企業の存続に不可欠とまでいわれています。DXは単なるデジタル化ではなく、デジタル化により社会や企業の「変革」を目的とするものです。
DXとパーパス経営には密接な関係があるとされます。
企業がDXを推進し「変革」していくためには、さまざまな意思決定をしなくてはなりません。判断軸を定めるために、自社の存在意義を今一度、見直す必要があるからです。
ミレニアル世代・Z世代
人材確保の面からも、パーパス経営は注目されています。
ミレニアル世代・Z世代と呼ばれる若手人材は、仕事選びに「社会的意義」を重視する傾向が強いとされるからです。この世代の若者は、バブル経済崩壊以後の厳しい経済状況のなかで成長してきたため、社会貢献に強い意欲を示します。
仕事選びの視点は「いかに社会貢献できるか」にあり、それを実現できる企業が就職先の選択肢となります。優秀な人材を確保するためには、自社のパーパスを明確化し、その志をこの世代の若者に訴求する必要があるのです。
新型コロナウィルスの感染拡大
コロナ禍もパーパス経営に注目が集まる理由の1つとされています。新型コロナウイルスの感染拡大は、人々の価値観や行動様式を変え、社会構造にまでその影響を及ぼしました。
コロナ禍で企業は、これまでの価値観や自社の在り方の見直しを迫られたといってもいいでしょう。
社会のシステムが変化するなかで、社会的価値を維持するには、自社の存在意義を再定義し、広く知らしめる必要があるのです。
パーパス経営3つのメリット

時代背景があるとはいえ、なぜこれほどまでに多くの企業がパーパス経営に注目するのでしょうか。それは、パーパス経営には企業価値を高める、さまざまなメリットがあるからにほかなりません。
以下に3つのメリットを挙げます。
ブランディング向上
パーパス経営は企業のブランディングにも良い影響をもたらします。
自社の存在意義を明確化し、社会貢献に真摯に取り組む企業は世間に良いイメージを与えるでしょう。株主や従業員をはじめとした、すべてのステークホルダーから信頼を得られ、応援される存在となります。
また、多くの人々が共感できるパーパスは、自社のファンを増やし売上に貢献するでしょう。パーパスを宣言することで、企業としての姿勢をアピールでき、ブランディング向上につながるのです。
従業員のエンゲージメント向上
従業員が誇りをもって働くことも、パーパス経営の大きなメリットです。パーパスが明確で共感できれば、従業員は自身の担当業務に意義を見いだせます。
仕事への邁進が社会貢献につながると実感すれば、従業員は自分の仕事に誇りをもつでしょう。これほどモチベーションを向上させることはありません。
エンゲージメントが向上し、ロイヤリティや自律性の高い人材が育つ、良い循環が生まれます。
企業のサステナビリティ向上
近年、SDGsを盛り込んだパーパスが、信頼獲得に不可欠になりつつあるようです。
「二酸化炭素排出量の削減」や「再生可能エネルギーの使用」といった環境負荷軽減を、パーパスに掲げ、取り組んでいる企業が多いのはそのためです。
SDGsを意識したパーパスを定め長期的に継続することは、企業活動そのものが社会貢献につながる重要な意義をもつようになります。信用につながり、企業のサステナビリティも向上するのです。
パーパス経営の取り組み方

共感を得られるパーパスが、自社の信頼度を高めることは前述の通りです。しかしパーパス実現の行動がともなわなければ、信用をなくすことにつながります。
パーパス経営は、その点を十分に注意する必要があります。
パーパスを明確にする
パーパスは可能な限り分かりやすく、明確にする必要があります。策定の際は以下のポイントに気をつけましょう。
企業は慈善団体ではないため、パーパスは利益につながるものでなくてはなりません。そのためパーパスには、自社のビジネスとの深い関連性が必要になります。
また、壮大すぎるパーパスを掲げても、実現できないのであれば逆効果です。最悪の場合、反感を買い信用を失うことにもなりかねません。
また、従業員に共感してもらえるものでなくては、パーパス実現に向けた協力は得られないでしょう。
社会的影響力・存在意義を示す
パーパスは社会問題の解決に貢献するものでなくてはなりません。
「地球温暖化」「大気汚染」といった地球レベルのものから、「男女格差」などの人権問題、「食品ロス」といった生活に密着したものまで、多くの社会問題が存在します。
パーパスを定める際には、自社のビジネスが、こうした社会問題の解決にどのようにリンクし、社会的影響力を及ぼすのかを考慮しなくてはなりません。社会問題の解決に取り組む姿勢が自社の存在意義を示し、多くの共感を得るのです。
パーパス・ウォッシュの回避
パーパス・ウォッシュは、別名グリーン・ウォッシュとも呼ばれ、パーパス経営においてはもっとも回避するべきものです。
パーパス・ウォッシュとは、掲げたパーパスに実際の活動がともなわないことを指します。「環境配慮を掲げておきながら、実際には配慮していない」といったことが、例に挙げられるでしょう。
立派なパーパスを掲げても実現に努力する姿勢がなければ、社会的信用を失う結果が待っています。
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パーパス経営を学べるおすすめのインタビュー記事
冒頭でも紹介したように、ourly Mag.(アワリーマガジン)では、「パーパス・マネジメントー社員の幸せを大切にする経営」の著書である丹羽様に、パーパス経営についてインタビューさせていただきましたので、ぜひご覧ください。
丹羽様は、「パーパス」を起点としたコンサルティングをしているアイディール・リーダーズ株式会社の、CHO(Chief Happiness Officer)です。同社は、パーパスというものが日本で注目される前から、多くの企業のパーパス経営を支援しています。
パーパス経営のことや、日本人という国民性とパーパス経営は合致しやすいのか・しにくいのかなど、さまざまな角度からお話をお聞きしています。
詳しくは、以下の記事「幸せの半分をコントロールするちょっとした習慣と、会社と個人のパーパス」をご覧ください。

利益追求から理念追求へ
自社の利益を求めるだけの企業は、やがて存在価値を失い市場から淘汰されるでしょう。
事業活動を通じての社会貢献こそが企業の存在意義であり、その実現が企業価値を高めることにつながるのです。
そのためにはパーパスとして掲げた理念を、真摯に追求する姿勢が求められるでしょう。
パーパスによる従業員の動機付けは不可欠です。
パーパス浸透のため、真剣に社内広報の取り組みを考える時期にきているのかもしれません。