多くの企業で広報の重要性が高まる一方、「何から始めればいいかわからない」「手法論ばかりに振り回されてしまう」といった課題を抱える広報担当者や経営者は少なくありません。また、経営と広報の連携がうまくいかず、期待通りの成果が出ないことに悩むケースも多く見られます。
今回は、『広報で一番大切なこと』の著者であり、数々の企業で広報を経験されてきた高場経営広報舎 代表の高場氏をお招きし、企業フェーズごとの広報の役割や、失敗しない広報戦略の立て方について、具体的なエピソードを交えてお話を伺いました。
【対談vol.2】【危機管理広報】「マニュアルを作って安心」は幻想。有事に備える7つの準備の記事はこちらをご覧ください。

広報で一番大切なことは「社内と社外の間に立つこと」
髙橋:本日は『広報で一番大切なこと』を出版された高場さんにお越しいただきました。まずは、高場さんが考える「広報で一番大切なこと」について教えてください。
高場:広報の定義や手法論は世の中にたくさんありますが、まず大事なことは「手法論に翻弄されないこと」です。今はハウツーが花盛りで、「あの会社がこれをやって成功したからウチもやろう」といった情報に惑わされがちですが、その前に本質を抑えないと自分の軸がぶれてしまいます。
それを前提に申し上げると、私が考える「広報で一番大切なこと」は、会社の内側に片足、外側に片足、つまり会社と社会の間にまたがって立っているという立ち位置を、いつなんどきもまっとうすることです。

髙橋:内側と外側の間、ですか。非常にバランス感覚が求められそうですね。
高場:はい。例えば、メディアにいいニュースを発表したい時は、どうしても内側目線で「これいいでしょう!取り上げてください!」と言いたくなりますよね。でも、それが本当に良いかどうかを判断するのは、外のメディアの方であり、社会です。
逆に危機が起きると、会社はどうしても防御の姿勢に入り、内側に閉じこもってしまいます。しかし、そこで内側に立ちすぎると、「自分たちが世の中からどう見られているか」という客観的な視点を失い、対応に失敗してしまいます。
この「またがって立つ」という立ち位置を維持するのは口で言うほど簡単ではありませんが、これが一番大事です。
髙橋:なるほど。社会からどう見えているかという客観的な目線を、広報担当者は常に持ち続けなければならないということですね。
高場:その通りです。私の考える広報の定義は、会社と社会の間に立って、経営・事業活動の「前さばき・補強・伝播」の役割を果たすことです。
メディアの力を借りることもありますが、それはあくまで「前さばき」や「伝播」のための一つの手段であって、「メディア対応=広報の仕事」ではありません。

企業の成長フェーズで変わる広報の役割
髙橋:次に、スタートアップや中小企業、上場企業など、企業の成長フェーズによって求められる広報の役割は異なるのでしょうか?
高場:全くその通りで、経営のステージによって広報の位置付けや目的は変わります。大きく分けると、以下の4つのフェーズがあると考えています。

創業期(スタートアップ)
何よりも事業を軌道に乗せなければならないため、「認知・理解の獲得」が最優先です。「知ってもらう」「この商品やサービスを使ってみてほしい」という点に心血を注ぐのが創業期の広報です。
成長期
軌道に乗ってさらに飛躍するために、「共鳴・共感の獲得」を目指します。ファンを増やしたり、IPOを見据えて新しい人材を獲得したりと、モチベーションやアセットを増やすための支援が求められます。
安定・拡充期
企業規模が大きくなり、攻めだけでなく守りも重要になる時期です。「ガバナンスの強化」や「危機管理広報」、組織内の仕組みづくりなど、経営にとってはしんどい時期でもありますが、攻守の一体化がテーマになります。
再成長期
M&Aで新事業を組み込んだり、持ち株会社化して事業ポートフォリオを再編したりするフェーズです。 創業期から培ってきた企業の「パーパス」や在り方が、事業の組み合わせによって変化します。そのため、広報は企業の存在意義を「再定義」し、世の中に改めて違う形で知ってもらう必要があります。
髙橋:ステージごとに明確に違うんですね。特に「再成長期」における広報による再定義の必要性は、非常に学びになります。大変そうですが、やりがいもありそうです。
高場:そうですね。再成長期は一番大変ですが、広報として一番面白く、やりがいのあるフェーズだと私は思っています。
広報戦略のフレームワーク「As Is / To Be / To Do」
髙橋:多くの企業では、広報に割けるリソース(ヒト・カネ)が限られています。そうした中で、どのように戦略を立てればよいのでしょうか?
高場:まず前提として、「広報」や「戦略」という言葉の定義を社内で合わせることが重要です。
「広報」は人によってマーケティングだったり、ブランディングだったり、IRだったりと捉え方が異なります。 また、「戦略」という言葉も厄介で、多くの場合は「思いつきや場当たり的ではなく、ちゃんとやろうよ」という意味で使われがちですが、人によってはロジカルな組み立てを指すこともあります。
この曖昧さを排除した上で、私が考える広報戦略は極めてシンプルです。

As Is(今の状態)
今、会社が世の中のステークホルダーからどう見られているか。どのようなコミュニケーション状態にあるか。
To Be(なりたい姿)
3年後くらいに、どういうコミュニケーション状態にしたいか。
To Do(すること)
As IsからTo Beに向かうために何をするか。
これらをセットで考えることが広報戦略です。
髙橋:非常にシンプルですね。
高場:ポイントは「As Isをどう切るか」です。 「新卒の認知も上げたい」「お客様の評価も変えたい」「取引先への認知も…」と欲張りすぎると、To Beが総花的になり、焦点がぼやけてしまいます。ターゲットを絞ってAs Isを定義し、To Beを明快に言語化することが大切です。そうすれば、そのためのTo Doが正しいかどうかも自ずと判定できるようになります。
広報戦略で失敗しないための「7つのDon’ts」
髙橋:広報戦略を実行する上で、失敗しないために重要なことはありますか?
高場:著書の中でも紹介している、広報戦略で失敗しないための「7つのDon’ts」をご紹介します。

1.内側の目線に偏らない
最初に申し上げた通り、常に「外から見てどう映るか」をチェックすること。主語を自分たちではなく「お客様は」「学生さんは」「株主様は」と外に出して考えることが大切です。
2.手法から入らない
『広報会議』などのメディアを見ると、他社の成功事例がたくさん載っていて真似したくなります。しかし、手法ありきでTo Beを合わせようとすると、本来目指すべき姿とは違うメッセージをばら撒くことになりかねません。あくまでTo Beありきで手法を取捨選択すべきです。
3.成功体験を引きずらない
広報において、全く同じシチュエーションは二度とありません。一度うまくいったとしても、それは当時のさまざまな条件が重なった結果です。再現性があるかは別問題として、一回一回新しい案件としてフラットに臨むことが重要です。
4.手を広げすぎない
「As Isをどう切るか」の話と同じで、あっちもこっちもと対象を広げすぎると、足並みが崩れて全てが中途半端になります。
5.机上の計画に拘泥しない
広報はやってみないと分からないことが多い世界です。例えば「ビジネス交流会で人脈を広げる」と計画しても、実際にキーマンと名刺交換できるかは行ってみないと分かりません。計画(As Is / To Be)は大事ですが、実行段階では「まずはやってみて、軌道修正する」という柔軟性が必要です。
6.策定に時間をかけすぎない
As IsとTo Beの合意ができたら、具体的なTo Doの考案や実行には時間をかけすぎないこと。特にメディア対応などはスピード感が命です。
7.期待値調整を玉虫色にしない
広報に対して「これで絶対に認知が取れるんだよね?」と過度な期待をされることがありますが、「頑張ります」と曖昧に答えてはいけません。 私はいつも「広報は漢方ですから、効き目は穏やかでゆっくりですよ」と伝えています。これは「効かない」と言っているわけではなく、「即効性のある特効薬ではないので、期待値のメモリ(時間軸)を変えてください」という意味です。これを最初に握っておかないと、後で「全然効果が出ないじゃないか」と痛い目を見ることになります。
髙橋:最後の「広報は漢方」という表現は非常に分かりやすいですね。即効性を求めすぎて手法に走るのではなく、経営とシンクロしながらじっくりと効かせていく姿勢が大切だと感じました。
高場:はい。どのフェーズであっても、広報は経営課題解決の一部を担っています。経営者が広報を理解し、広報担当者も経営を理解する努力が、何より大切ですね。
髙橋:本日は貴重なお話をありがとうございました。次回は「有事の広報」についてお伺いします。
【対談vol.2】【危機管理広報】「マニュアルを作って安心」は幻想。有事に備える7つの準備の記事はこちらをご覧ください。
