ピープルアナリティクスとは?定義やメリット、導入手順、活用方法・事例を紹介
近年、IT技術の発展により、さまざまな情報をインターネットで管理する時代になりました。書面での取引は少なくなっており、データで管理されるようになってきています。
しかし、採用や転職、社員の育成といった「人」の分野に関しては、まだまだアナログな領域です。長年、人事採用では直感や経験に頼ってしまっています。
そこで、今回紹介する「ピープルアナリティクス」は、データと人を結びつける手法であり、人事業界や組織づくりにおいて、近年注目を集めています。
この記事では、組織に蓄積されたデータを分析した結果、社員の採用や育成において、どのように活かすのか。
また、これからの組織づくりにおいて、どのような意思決定を行うべきなのか。ピープルアナリティクスの導入手順から活用事例まで、幅広く扱っていきます。
ピープルアナリティクスとは?
ピープルアナリティクスとは、社員や組織のデータを収集・分析した結果を基に、 組織づくりや社員の育成、採用、モチベーション維持などに生かしていく手法です。HRアナリティクス、タレントアナリティクスとも呼ばれます。
従来は、採用に関する問題に直面したとき、人事の直感や趣向により、その時々の感情によって意思決定されてきました。
そういった問題に対し、新しくデータを用いて分析的にアプローチすることで、より公正な選択ができると考えられ、近年注目が集まっています。
ピープルアナリティクスが注目されている理由
ピープルアナリティクスが注目されている理由として「データサイエンス」というキーワードをご紹介します。
データサイエンスとは、膨大なデータを分析し、新しい施策や課題解決へアプローチすることを意味します。
2014年ごろからGoogleトレンド(【図1】)において、「データサイエンス」の検索件数が急上昇しており、「データによって課題へアプローチする」ことがトレンドになってきています。
データによって課題へアプローチするという概念を人事領域に取り入れたものが「ピープルアナリティクス」です。
【図1】Googleトレンドにおいて、「データサイエンス」が検索されたボリューム数
(引用:Google Trends,<https://trends.google.co.jp/trends/>,2020年10月閲覧)
ピープルアナリティクスで扱うデータ
ピープルアナリティクスでは数多くのデータを用いて分析を行います。データをジャンル分けすると、人材データ、行動データ、デジタルデータ、オフィスデータの4つに分けられます。
人材データ
年齢や性別、所属部署、職位といった、ピープルアナリティクスにおいて最も基本的なデータです。分析の目的によっては、保有スキルや評価歴、勤怠等のデータも分析対象として扱われます。
行動データ
行動データは、従業員の勤務中の行動を見るためのデータです。具体的には、従業員の自席にいる時間や会議に使っている時間、外出時間、外出先のデータを扱います。
これらのデータは、共有カレンダーや社用携帯の位置情報から取得することが多いです。適切な評価や育成の成果を図る指標として活用されます。
デジタルデータ
従業員のデジタル上での行動を表すデータです。例えば社用パソコンの利用状況やインターネットの閲覧履歴、メールの送受信先、通話履歴などのデータが挙げられます。
これらのデータは、従業員それぞれの顧客に対する対応方法や結果を明らかにするため、各人のパフォーマンスの特性を知り、最適化するために用いられることが一般的です。
オフィスデータ
会社の設備がどのように利用・活用されているかを知るためのデータです。具体的には、時間帯ごとのオフィス設備の利用状況や、季節ごとの会議室・休憩室の使用状況、複合機の稼働率などのデータが挙げられます。
これらのデータからは、従業員の取りやすい行動パターンや、コミュニケーションの活性化度合いを知ることができます。
ピープルアナリティクスのメリット・目的
ピープルアナリティクスのメリットは、採用・育成・評価において分類されます。
採用コストの削減
従来の採用は、人事の主観や直感に頼られていました。しかし、過去の採用に関するデータや既存社員の特徴を分析することで、どのよう人材を採るべきなのか、また、将来活躍しそうな社員像などが具体的に分かるようになります。
新入社員と組織間でのミスマッチが減り、組織に合った人材を採ることで、採用コストの削減に繋がります。
具体的なメリットとして、
- 採用フローの効率化
- 応募率向上
- 内定承諾率の向上
- 組織にあった人材の採用
- 採用コスト削減
などが挙げられます。
離職率の低下・リテンション
人材の流動化が進む現代において、離職率は多くの企業の課題となっています。そこで有効なのが、ピープルアナリティクスで得られるデータの活用です。
例えば、従業員の行動のネガティブな変化をデータから読み取ることで、離職しそうな従業員が明らかになります。
離職は特に「従業員の本音」のため、エンゲージメントサーベイや従業員満足度では測りづらい部分ですが、ピープルアナリティクスであれば読み取ることができるのです。
従業員の効率的な成長・育成
採用時に新入社員の適性検査、特徴をデータ化し、各部署の従業員の特徴と成果とで比較することで、従業員一人一人がどの部署の、どの部長の元で働けば パフォーマンスを引き出せるのかが分かります。こうした施策を「タレントマネジメント」と呼びます。
- 研修トレーニング制度など利用
- 従業員の昇給/降給
- 従業員の行動特性と能力特性
などをデータとして分析します。
納得度の高い評価
従業員の勤怠や満足度、研修進度などを調べることにより、従業員をデータによって正しい評価を与えることができます。
その結果、従業員一人一人のモチベーションを維持し、離職率の低下や生産性の向上に繋がります。
ピープルアナリティクスの導入手順
では、実際にピープルアナリティクスはどのように導入するのでしょうか。具体的にステップごとに解説していきます。
ステップ1 目的を決める
まずピープルアナリティクスを導入する、もしくは分析を行う目的を決めます。
目的は主に「採用」「育成」「評価」の3つの領域に分けられます。自社の戦略や課題から、どの領域を強化するためにピープルアナリティクスを行うのか、定めましょう。
ステップ2 収集するデータを決める
目的が定まったら、どのデータを収集するのかを決めます。一般的には、以下のデータが用いられます。
- メンバー、マネージャーの出勤率
- 従業員の適性(IQ・性格特性など)
- 離職率
- 従業員満足度・幸福度
- 昇給率/昇格率
- パフォーマンス/生産性
- 組織と従業員の適合予測
- 社内の研修プログラムの参加率 etc…
ステップ3 データ収集の仕組み作り・データ収集
ばらばらにデータを集めても、どうまとめて、どの分野に活かすのかが定まっていなければ、時間と費用の無駄になってしまいます。
予め、データを収集するにあたって、土台を作成し、必要なデータのみを集めます。
仕組み作りにあたり、アンケートの実施や勤怠など、モニタリングする期間や 実施時期も決めておくことが必要になります。
ステップ4 データの分析・仮説立て
次に、収集できたデータを分析し、仮説を立てます。
そのデータによって、組織のどんな課題が浮き彫りになり、何を変えることによって解決に導けるのでしょうか。
もし、分析対象に漏れがあるならば、必要に応じてステップ3に戻り、また新しいデータを収集しましょう。
ステップ5 施策の実行
仮説から、具体的な施策を立て、実行してみましょう。ただ、実行するだけではなく、ある程度結果が得られる期間を決めて行いましょう。
また、1度の施策の実行では得られる結果に限りがあります。さまざまな角度からの情報を得るために、数回に分けたり、別の視点から新しい施策を行うことも検討しましょう。
ステップ6 検証・改善
行った施策は必ず効果検証し、PDCAに活かしましょう。(P:計画 D:実行 C:検証 A:改善)
最後に、検証で得られた効果は、誰が見てもわかるよう、客観的な数値にすること重要です。
ピープルアナリティクスを活用している企業事例
企業でどのように導入され、実際に活かされているのか。日系企業の他に、海外の事例を紹介します。
Googleの活用事例
Googleでは、採用面接の効率化をはじめ、ハイパフォーマーの分析、評価制度だけでなく、組織的な経営の意思決定にもデータの活用が行われています。具体的にGoogleの日本支店(Google Japan)は、リファラル採用に焦点を当てました。
当時2011年の日本のリファラル数はその他諸国と比べ、3分の1程度でした。ピープルアナリティクス導入後、紹介後の人間関係や募集事項の不明確が課題だとわかり、改善後、Google Japanの採用チームは1週間で前年の半年分のリファラル採用を獲得しました。
また、「re:Work」のサイトでは、実際にどのようなデータを収集し、応用しているかの事例が乗っているので参考にしてみてはいかがでしょうか。
(引用:人事ポータルサイト 【HRpro】,「人データの活用意義とは?」,<https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=1932&page=2>,2020年10月閲覧)
DeNAの活用事例
株式会社DeNAでは、2015年から仕事のやりがいや能力の発揮度合いを測る社員アンケートを運用しています。
アンケートの結果、現在の部署でパフォーマンスを発揮できていない人が4割もいました。そこで、「シェイクハンズ制度」という、本人と異動先の上長が合意すれば異動可能となる制度を導入しました。適切な部署異動により、社員のモチベーションアップに繋がります。
(引用:DeNAオウンドメディア【フルスイング】,「人事プロジェクト」<https://fullswing.dena.com/archives/54>,2020年10月閲覧)
リクルートの活用事例
リクルートでは2018年から、「SPI3」という新入社員の適性検査にピープルアナリティクスを用いています。入社時のデータから、活躍したメンバーがどのような経歴で、どの部署だったのかなどを分析し、実際に活躍する予測を立てることができます。
その結果、リクルートでの活躍予測では、性別や学力はあまり関係せず、SPIやFFSといった適性検査が重要な鍵を握ることが分かり、採用視点の転換をもたらしました。
(引用:リクルート適性検査SPI3,<https://www.spi.recruit.co.jp/>,2020年10月閲覧)
ピープルアナリティクスのサービス5選
ピープルアナリティクスを行えるサービスを、5つ紹介します。自社の目的にあったデータを得られるサービスを選びましょう。
ourly
ourlyは、株式会社ビットエーが提供する、全く新しい組織改善に特化したweb社内報サービス。誰でも手軽に投稿・閲覧できることはもちろん、豊富な分析機能により組織改善の加速化が実現できます。組織課題の可視化ツールとしても活用可能です。
ourlyの特徴
- web知識不要で、誰でも簡単に投稿可能
- メッセージ浸透度の可視化と従業員エンゲージメント分析の実現
- 運用を楽にする多様なツールの搭載
- 他社(ourlyユーザー)と組織状況比較の実現
- 企業横断分析機能など、他社にはない豊富な分析機能
(※)ourlyの詳細・活用事例はこちらよりご覧ください。
ジョブカン
主に出勤、勤怠を管理するサービスです。また、シフト・休暇申請管理から給与計算までを行うことも可能です。
ペーパーレスやシフト作成の時間短縮にも繋がり、効率良く社員管理をすることができます。
GROW360
受検者の性格、特性、スキル、バイアス(価値観や認識)をAIによって分析し、データとして取得することが可能です。
採用から育成、組織づくりまで、すべてに応用することができ、中小企業から有名大手企業まで導入実績あります。
MOTIVATION CLOUD
独自開発の組織診断サービス「エンゲージメントサーベイ」に回答するだけで、組織状態を診断し、組織改善に活用できる国内初の組織改善クラウドです。
また、組織状態の診断だけでなく、従業員のモチベーション管理も行い、現状把握から目標設定、進捗確認まで行うことが可能です。
Talknote
経営者からマネージャー、従業員までのコミュニケーションをデータとして分析し、モチベーションを可視化や現場の状態を把握することが可能です。
また、アクセスしている時間からオーバーワーク防止や、従業員が企業全体を把握することができ、経営理念の浸透、離職率の低下に繋がります。
簡易的なピープルアナリティクスに ourly profile
ourly profile(アワリープロフィール)は、個人のプロフィール機能やスキル管理機能などにより、組織のサイロ化を解消する社内コラボレーション創出ツールです。
簡易的なタレントマネジメントのためにご活用いただけます。
3つの大きな特徴により、リモートワーク下でも部署を超えた相互理解や社内のコミュニケーション活性化を実現します。
- 人となりが一目でわかる自己紹介画面
- 独自の探索機能により、思いがけない出会いを創出
- 組織図により、チーム・部署を超えて組織を理解できる
社員名などの基本的な検索機能に加え、所属部署や役職、Q&Aの回答項目などさまざまなセグメントでメンバーを絞り込むことができます。
それにより「この人こんなスキルを持ってたんだ!」「プロジェクトで行き詰まったから同じような経験ある人にアドバイスをもらおう」など、これまでになかった”新たなはじめまして”を社内で実現します。
料金については、従来のタレントマネジメントシステムに比べ、安価に運用いただけます。加えて、従業員規模に応じて幅広くご用意しておりますので、詳しくはサービスページまたは無料相談にて、詳しくお伝えいたします。
ピープルアナリティクスを活用して組織改善を
データを用いたピープルアナリティクスは確かに人事課題解決において有効なアプローチ手法であることは間違いありません。しかし、「内定承諾率向上」「コスト削減」など、短期的な効果を追い求めるのではなく、本来の目的を見失わないことが重要です。
最後に、ピープルアナリティクスは、会社の将来にとってかかせないものであり、最近では専門の部署まで設立されるなど、注目度が高まってきています。
終身雇用制度の解体や、ファーストキャリアの概念が変わり、転職がしやすい世の中になってきています。そうした一方で、企業側としては、優秀な人材ほど残ってもらいたいのが現実です。
また、新型コロナウイルスの影響で、テレワークの普及やリモート稼働など、働き方や求められる能力、人材も変化してきています。従業員のスキルを最大限発揮できる環境を整え、適切な人材が輝ける組織構築を目指しましょう。