コンピテンシー評価とは?評価方法や基準の設定手順、メリットを解説
コンピテンシー評価は人事評価の方法のひとつで、優秀な成績・成果を挙げる従業員の行動特性を、人事評価や採用活動の基準として用います。
今回は、コンピテンシー評価を導入するメリット・デメリットや、コンピテンシー評価基準の作成手順などについて、説明します。
コンピテンシー評価とは
コンピテンシー評価とは、高い業績を挙げている従業員に共通する行動特性を基準として、従業員の評価をおこなう人事評価手法です。
「高い業績を挙げている従業員に共通する行動特性」のことをコンピテンシーと呼ぶため、このような名前になっています。
従業員が高い業績を挙げるための特性・要因は、役割や業務によって異なるので、コンピテンシーは職種や職階ごとに設定されるのが一般的です。
能力評価との違い
人事評価の代表的な方法としては、コンピテンシー評価以外に能力評価がありますが、能力評価は業務に必要なスキルや知識など、その名の通り「能力」によって人事評価をおこなう方法です。
能力評価とコンピテンシー評価では、評価基準の具体性や評価内容などに違いがあります。
能力評価では「責任感」「協調性」「コミュニケーション力」といったような、比較的抽象的な能力が評価基準となることが多いです。
一方コンピテンシー評価では、「目標設定および目標達成のための行動が明確である」「相手の立場に立って話を聞いたうえで、その場の目的と相手に合わせた発言ができる」などというように、比較的具体的な内容が評価基準として設定されます。
「どのように行動するか」という行動特性が評価内容となる点も、能力評価との大きな違いです。
KPI、OKRとの関係性
KPIとはKey Performance Indicatorの略で、重要業績評価指標、つまり組織の事業計画上の目標に対して重要となる数値的指標のことを指します。
成約率・売上高・受注単価などが、KPIの主な指標とされることが多いです。
OKRとはObjective and Key Resultの略で、日本語では「目標と主要な結果」を意味し、結果のために重要な目標を管理することを指します。
KPIやOKRは数値的な要素が大きい一方で、コンピテンシーは定量的な指標ではありません。
ただ、コンピテンシーで定義される特性が従業員にしっかり浸透することで、KPIやOKRは達成されやすくなります。
また、KPIやOKRのような定量的な指標を達成するだけでなく、それらを超えた会社の未来作りという役割も、コンピテンシーは担っています。
コンピテンシー評価の歴史や導入状況
コンピテンシー評価は、ハーバード大学のマクレランド教授によって1970年代に提唱され、アメリカで最初に採用された人事管理の概念のひとつです。
日本にコンピテンシー評価が導入されはじめたのは、1990年代以降です。
1990年代にはバブルが崩壊し、いわゆる「成果主義」を導入する企業も増えていました。ただ、従業員それぞれが自分の成果のみにこだわるようになった結果、組織としての業務活動に支障をきたすようになってしまった企業も数多くあったのが現実です。
2000年代になると、働き方自体に対する考え方がこれまでとは大きく変化し、年功序列や終身雇用といった概念にとらわれずに働きたいと感じる人が、若者を中心に増えてきました。
コンピテンシー評価は、そういった日本企業の実情にうまくフィットする人事評価手法として、多くの企業に受け入れられたのです。
実際に、アサヒビールやソニー・JTBなどの多くの大手企業で、コンピテンシー評価が導入されています。
コンピテンシー評価を導入するメリット
自社でコンピテンシー評価を導入すべきかどうか悩んでいる場合は、まずはコンピテンシー評価を導入することのメリットやデメリットを、正確に把握しなければなりません。
コンピテンシー評価を導入するメリットとしては、主に以下のようなことが挙げられます。
評価が公平になりやすい
能力評価における評価基準は、「コミュニケーション力」のような抽象的なものであるため、評価者によって判断に偏りが生じてしまうことも少なくありません。
コンピテンシー評価ではより具体的な行動が評価基準として設定されるため、評価者の主観によらない公平な評価が可能です。
「公平に評価をおこなってもらえている」と従業員が感じることで、評価に対する納得感も生まれやすくなります。
育成における課題が見えやすい
コンピテンシー評価では、たとえば「チームワーク」というひとつの項目に関しても、いくつかのレベル感を設定して行動特性を定義します。
そのため、それぞれの従業員がどの程度のレベルに達しているかや、どの行動特性を満たせていないかなどが分かりやすいのが大きな特徴です。
従業員それぞれの抱えている課題や理想とする姿との乖離などがハッキリすることで、今後の育成方針を定めやすくなります。
適材適所への配置に活かせる
コンピテンシーは職種や職階ごとに設定されるのが一般的なので、従業員の特性に応じた人材配置をおこなうのに有効です。
たとえば今は総務として働いている従業員でも、営業向きのコンピテンシーが高いと判断できれば、理にかなった配置転換をおこなうことができます。
適材適所への配置がおこなわれていると従業員が感じることで、会社へのエンゲージメントが高まって、生産性が向上して離職率が低下するといった効果も期待できるでしょう。
コンピテンシー評価を導入するデメリット
上述したようにいくつものメリットがあるコンピテンシー評価ですが、デメリットがないわけではありません。
コンピテンシー評価を導入するデメリットとしては、主に以下のようなことが挙げられます。
導入ハードルが高い
コンピテンシー評価を導入するためには、それぞれの組織において高い業績を挙げている従業員である、「ハイパフォーマー」の行動特性を明確にしなければなりません。
決まったテンプレートがあるわけではなく、組織の文化や方向性によって項目が異なるため、ゼロからの作成になるのでかなりの期間や手順を要します。
職種や職階が変わればコンピテンシーの内容も変わってくるので、導入にあたってのハードルがかなり高いことは、デメリットと考えられるでしょう。
定めたコンピテンシーが正しいとは限らない
苦労に苦労を重ねてコンピテンシーを定めたとしても、そのコンピテンシーが必ずしも「正しい」とは限りません。
定めたコンピテンシーをもとにしたコンピテンシー評価モデルを実際に運用してみて、自社の業績などに対する貢献度合いをモニタリングする必要があります。
また、世の中の風潮や会社の方向性が変わることで、よいとされるコンピテンシーの内容が変わることも考えられます。
そのため、コンピテンシーは一度定めればOKというわけではなく、定期的に改善を重ねなければなりません。
柔軟に変更することが困難
上述したように定期的な改善・変更が求められるコンピテンシーですが、導入するのが難しい以上、改善することも決して簡単なことではありません。
コンピテンシーを改善する場合は、それまでのコンピテンシーをある程度前提にすることができる場合もありますが、あらためてまったくの白紙の状態からスタートしなければならない場合もあります。
そのため、その都度莫大な労力とコストをかけなければならない可能性があるのは、組織運営上看過できない問題と言えるでしょう。
コンピテンシー評価の評価基準の設定手順
コンピテンシー評価の評価基準は、かなり細かい手順を踏んで作成しなければなりません。
以下では、コンピテンシー評価基準の作成手順を、順を追って説明します。
(1)プロジェクトを作る
コンピテンシー評価は人事評価ではありますが、実際に作成する場合は他部署のメンバーをアサインしてプロジェクトを作るのが現実的です。
コンピテンシーは職種や職階によって異なるため、さまざまな部署やポジションの人の意見を反映させなければ、納得のいく項目を策定することができないからです。
プロジェクトメンバー選びは、コンピテンシーの作成がうまくいくかどうかに大きく関わるので、慎重におこないましょう。
(2)組織の理想を明確にする
コンピテンシーは、短期的または定量的な目標の達成だけでなく、中長期的な組織創造にも大きく影響します。
そのため、まずは組織としてどうありたいか、組織としての理想の姿を明確にして、プロジェクトメンバーがしっかりと認識することが重要です。
理想とするべき姿や方向性がハッキリしていないと、策定されたコンピテンシーもうまく機能しないでしょう。
(3)評価方法としての理想状態を明確にする
コンピテンシーは人事評価手法のひとつなので、評価方法としてどのような状態にあることが望ましいかが、明確になっている必要があります。
そのためこの段階で、評価方法としての目的を定めておくのが好ましいです。
(4)コンピテンシーディクショナリーを基に大まかな要素を洗い出す
コンピテンシーを策定する際の参考になる、いくつかの分類項目例がまとまっている「コンピテンシーディクショナリー」というものがあります。
そういったものを例にして、自社にとって重要だと思われる項目をピックアップしましょう。
このとき、どの職種にどの項目が当てはまりそうかも検討しておくことで、その後の手順をスムーズに進めやすくなるでしょう。
(5)モデルの行動特性をブレストする
コンピテンシーの内容となる行動特性について、プロジェクトメンバーでブレストをおこなってモデルを作ります。
ブレストでモデルを作るための方法は、以下に挙げるように大きく3つあります。
理想型モデル
自社にとって理想となるモデルを創造したうえで、そのモデルをもとにしてブレストをおこなう方法です。
このとき取り上げるモデルはあくまでも理想的な姿なので、実在しなくてもかまいません。
会社の現状や実際の従業員の姿にとらわれずに、理想を明確にできるのがメリットです。
実在型モデル
実際に自社に存在するハイパフォーマーをもとにして、その従業員が兼ね備えている能力や特性を要素分解していく形で、ブレストをおこなう方法です。
実在する従業員をモデルにすることで、プロジェクトメンバーの共通認識が取りやすく、より踏み込んだブレストをおこないやすいというメリットがあります。
ハイブリッド型モデル
理想とするモデルと、実在するハイパフォーマをもとにしたモデルの両方をもとにして、ブレストをおこなう方法です。
理想型モデルと実在型モデル、両方のよいところを含められるのがメリットです。
理想の姿と実際の従業員の姿を比較することで、足りない要素や特性に気付きやすくなるという効果も期待できます。
(6)ハイパフォーマーへのインタビュー実施や意見を聞く
ブレストで挙がった要素や特性は、現場レベルに落とすと少し実感を伴わなかったり、ともすれば見当違いのことになっていたりする場合もあります。
そのため、自社のハイパフォーマーにインタビューしたり意見を聞いたりすることで、ブレストで挙がった要素や特性に関する妥当性を確認しましょう。
(7)項目をまとめる
ブレストで挙がった内容やハイパフォーマーへのインタビュー結果を整理して、自社の人事評価基準として設定するのにふさわしい行動特性をまとめます。
(8)まとめた項目とVMVとすり合わせる
まとめた行動特性を、自社のVMV(ビジョン・ミッション・バリュー)や文化とすり合わせます。
一見するとしっかりまとまっているように思われる行動特性でも、自社のVMVや文化に沿ったものでなければ、評価基準としてうまく機能しないことが多いです。
また、中長期的な組織創造にも寄与しないでしょう。
(9)コンピテンシーとする項目を決定する
ブレストで挙がった内容の中から、最終的にコンピテンシーとして設定する項目を決定します。
コンピテンシーとする項目と組織との適性や、序盤で定めた評価方法としての目的を満たせるようなものになっているかどうかも十分検討したうえで、決定するよう心がけましょう。
(10)各項目にレベルを付与する
定めた各項目に、4~6段階程度のレベルを付与しましょう。
レベルを付与することで、それぞれの従業員がコンピテンシーをどの程度まで満たしているかを把握しやすくなり、今後の育成方針を定めやすくなります。
付与するレベルの具体例は、以下の通りです。
■上司・先輩との関係 上司・先輩とのコミュニケーション、補佐代行を怠らない
(引用:人事評価システム,「コンピテンシーマスター評価項目一覧」,<https://www.ashita-team.com/jinji-cloud/compi/compi-list/>,2021年4月閲覧)
■チーム精神の発揮 効果的に仕事を遂行するために、自ら苦労を買って出る
■ムードメーカー性 本人の存在や言動が、チームを目標達成意欲にみなぎらせる
■マンパワーの結集 (リーダーではないが)多くの人の知恵や力を集め、まとめ上げる
■政治力 自ら働きかけ、組織を動かすためのツボや手段を持ち合わせている
(11)全社向け、職種別に大まかに項目を分ける
職種別・役割別に、定めたそれぞれのコンピテンシーのうちどの項目を指標とするかを決定します。
営業には営業向きの、組織のリーダーにはリーダー向きのコンピテンシーがあるので、それぞれ適したコンピテンシーを指標に設定しなければなりません。
(12)運用とともに見直し、改善する
コンピテンシーは、一度決定すれば今後ずっとそのまま運用できるというわけではなく、適宜変更・改善する必要があります。
変更しなければならない理由は、運用した結果があまりよくないからという可能性もあれば、コンピテンシーが時代に沿わないものになってしまったからという可能性もあります。
定期的にプロジェクトメンバーで集まり、コンピテンシーのブラッシュアップをおこないましょう。
コンピテンシー評価導入における5つのポイント
上述したようにコンピテンシー評価は、評価基準を作成する手順も大変でしたが、実際に導入するにあたっても注意しなければならないことがいくつかあります。
コンピテンシー評価導入にあたっての主な注意点を、以下で説明します。
導入目的をぶらさない
人事評価の一つであるコンピテンシー 評価を導入することの目的は、業績を上げることおよび、中長期的な視点で組織作りをおこなうことです。
ただ、評価基準の作成に悪戦苦闘していると、ついつい導入すること自体が目的化してしまうこともあります。
根本的な目的にコンピテンシー評価の制度自体が合っているかどうか、都度振り返るようにすることを心がけましょう。
完璧なモデルを探求し過ぎない
コンピテンシーはハイパフォーマーの行動特性のことを指しますが、導入するにあたってあまりに完璧なモデルを探求しすぎないことも重要です。
コンピテンシーは一度で完璧なものが作れるわけではありませんし、導入してからも適宜変更・改善することが可能です。
また、先ほども少し触れましたが、コンピテンシー を作って導入すること自体が目的ではありません。
あくまでも評価制度として導入すべきものであることを、忘れないようにしましょう。
定期的に見直し・更新をおこなう
導入した当初はうまく機能していたコンピテンシー評価基準も、組織の状態や社会情勢の変化によって、うまく機能しにくくなることがあります。
そのため、定期的に組織としてのあるべき姿を見直したうえで、コンピテンシーもそれに沿った内容にブラッシュアップしていく必要があります。
導入して終わりではなく、モニタリングをして経過観察をしなければならない以上、モニタリングにおいてはどのような点を重視するかについても、事前に決めておくのが望ましいでしょう。
導入時は社員に説明の機会を設ける
コンピテンシー評価における評価項目は、比較的具体的な内容ではありますが、定量的な指標というわけではありません。
そのため導入時は必ず、導入目的や評価項目の詳細について、社員に対して説明する機会を設けることが重要です。
社員が納得して受け入れられるかどうかは、評価基準における重要な要素である「公平性」に大きく関わるため、この部分を疎かにしてはいけません。
評価決定時、本人の振り返りとFBの機会を設ける
コンピテンシー評価では、それぞれの従業員の行動に基づいて評価がおこなわれるため、本人が自覚・納得している部分も多いものです。
そのため、被評価者である従業員自身が振り返りをおこない、評価者の認識と齟齬がないかをすり合わせて、ていねいにフィードバックする機会を設けるようにしましょう。
認識のずれがあったとしても、フィードバックをきっかけにしてその後の行動や意識を変えていくことができます。
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まとめ
コンピテンシー評価とは、組織で高い業績を残している人材に特有の行動特性(コンピテンシー)をもとにして、従業員の評価をおこなう人事評価の手法です。
「責任感」や「コミュニケーション力」といったような抽象的な内容ではなく、行動が具体的に示されるため、評価基準がそろいやすく公平性が担保されることや、人材配置や人材育成に有効活用しやすいのが大きなメリットです。
一方でコンピテンシーモデルの作成は非常に手間がかかって難しいため、導入障壁が高いことや、導入して終わりではなく適宜変更・改善することが求められるものの、柔軟に対応することが難しいことは、デメリットとして考えられます。
ただ、KPIやOKRなどのような定量的な目標ではないため、中長期的な組織作りにも役立ちます。
コンピテンシー評価はあくまでも人事評価手法のひとつであって、この方法でなければいけないというわけではないため、組織に合った人事評価を作成・導入することを心がけましょう。