企業経営の成否を分ける『目標設定力』と『戦略精度』の高め方
中俣 博之
(なかまた ひろゆき)
インタビュイー
株式会社START
代表取締役社長
1984年新潟市内野生まれ。2019年に株式会社STARTを創業。グループ全体では、インターネット決済事業、医療DX事業やD2C事業、ベンチャー投資事業などを展開。
グループ外では、オルビス株式会社取締役(HR/DX管掌)、データX社外取締役、SHOWROOM社外取締役など、上場企業からスタートアップまで複数社の取締役を兼任。同社創業以前は、DeNAのゲーム部門の事業部長、LITALICOの新規事業/経営企画/HR/マーケティング担当の管掌取締役などを歴任。2016年に東証マザーズ、2017年に東証一部に上場。
新潟ベンチャー協会理事。
成果が出ない要因は目標設定と合意のプロセスの精度の問題?
──DeNA、LITALICO、オルビス、他にも複数の企業を経験したなかで、事業を成長させるためのポイントは何だと考えていますか?
事業を伸ばすためには、事業と組織の戦略が「擦りあっている」ことが何より重要です。その上で、組織にとって最も重要なことを1つだけ選べ、と言われたら私にとっては圧倒的に「目標設定」が重要です。ですので、事業を成長させる上で、自社の組織にとってとりうるオプションの中から、これだという事業の戦略を、自社の組織で達成できそうという大前提を意識した上で、正確な目標を設定する。そして、その目標を丁寧に合意する。これが全てです。
多くの企業や経営者を見ていると目標の設定と合意のプロセスが荒く、意図した成果を出せていない経営をよく目にします。
戦術の精度をあげるとか、士気を上げるとか、モチベーションを上げるとか様々な手法が世の中では語られていますが、事業成果が出ていないときはとにかく戦略が組織にあってない。そういうものです。
──戦略があっていても実行力が足りなかったみたいなこともありそうですが、それについてはどう考えていますか?
実行力を見積もるのも戦略の一部ですから、戦略の精度、先程の言葉でいうと目標の設定と合意のプロセスの粗さだと思います。
今の自分達の組織がどの程度の実行力があるのか?そして何を実行すればどの程度の目標が達成できるのか?そこから見積もります。その精度をとにかく上げる。そうすると結果として100点取れそうだと見えてくると、人がやる気を出して120点とかの結果が出る。そういった目標を設定することが大事です。
例えば、私の所属するある会社では、部長陣を集めて丸1日かけて目標を合意します。そして、その目標を達成するための自分たちのコミットメントや、他部署や役員へのヘルプ要請なども明確にする。達成できない時のストーリーも作って、それを回避するために全員で対策を考える。そこに圧倒的なエネルギーとリソースを割くからこそ、事業計画の達成確率が上がるものだと思います。
多くの会社は事業計画から経営陣がそれとなくKPIを分解して「あとよろしく!」みたいになってしまっているところも多くあります。それだと現場の責任者の納得感もコミットも引き出すことはできません。
組織カルチャー、リーダーシップスタイルはビジネスモデルに起因する。
──そんな中での組織づくりやカルチャーづくりについてはどう考えるべきでしょうか?
組織づくりを起点に考えるのは本質ではないと考えます。
考え方の起点は事業やビジネスモデルがあり、そのためにどんな組織構造がベストか?という視点で考える。それによって組織カルチャーやリーダーシップスタイルも決まってきます。
例えば、サイバーエージェント、DeNA、リクルートのような新規事業を複数進める会社は、複数のリーダーをつくるというのが経営戦略の根幹になる。とにかく優秀な人材を採用してのびのびやらせる。採用が命です。変な組織の仕組みは邪魔です。現場の意思決定やチャレンジを尊重して地方分権のような組織のつくりかたになります。
一方で、BtoB SaaSみたいな1プロダクト1メッセージみたいなビジネスモデルにおいては、中央集権型で一人の強烈なリーダーが必要になります。仕組みが命。複数のリーダーがいる状態だと、営業やプロダクト、人事などに対して一貫性が出ません。
ですから、ビジネスモデルがあり、組織構造が決まり、組織カルチャーやリーダーシップスタイルが決まるということかなと思います。
事業停滞からの脱却もシンプルに戦略の精度を上げるべき
──事業が伸びなくなってきたときに再び成長曲線に戻せる会社とそうでない会社は何が違うのでしょうか?
それもやはり戦略ですよね。事業の停滞のときに、チームの士気を上げるとか、MVV浸透がとか語られがちですが、シンプルに戦略が当たっていないのが問題と捉える必要があります。
もちろん事業が伸びているときには見えなかった組織のネガティブな要素などが浮き彫りになる部分もありますから、そういうところはきちんと潰す必要はあります。
常日頃から精度の高い目標設定をし、実行プロセスを丁寧に合意しておけば組織の問題は起こりにくくなります。
CHROとはCOOであるべき、事業を伸ばせない人事は信用されない
──中俣さんのようなCHROというかプロ人事になりたい方はたくさんいると思うのですが、どのようにしたらなれるのでしょうか?
事業を高い解像度で捉えていないと、高いレベルの目標設定は不可能です。なので、人事キャリアというのは本質的には存在しなくて、事業責任者がCHROであるべきです。要はPLの責任を負うこと。PLの責任を負うということは売上、費用に責任を負う、そしてキャッシュフローも見ないといけない。CHROとか人事部長を名乗っている人が事業の解像度が低かったら、戦略的な目標設定が不可能です。なので、僕の場合はバリューチェーン全部の解像度を上げるためにあらゆることを自分でやっています。
例えば、今はオルビスのHRの取締役を担わせていただいているので、シャンプーやサプリメントを自分で企画・開発してAmazonで販売しています。生産工程から、広告出稿、モールオペレーションから契約書まで全レビュー可能です。その経験が、目標設定面談に生きます。CHROを語るなら、そのくらい事業のバリューチェーンの全領域の解像度が高くないとできないはずです。
優れた組織を作れる人は戦略にも明るい必要がありますし、そうなると事業を伸ばした経験というのは必要でしょうね。
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