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必要なのは修羅場と飲み会? 専門家に聞く、経営理念浸透の秘訣

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個や働き方の多様性が尊重されるなかで、組織が同じ目線で進んでいくための経営理念の必要性が重視されています。しかし、組織のなかで経営理念を浸透させていくことは容易くありません。

今回は「経営理念浸透のメカニズム」の著者であり、帝塚山大学 経済経営学部 教授の田中 雅子先生にインタビュー。約20年にわたり経営理念の浸透について研究されてきた田中先生に、経営理念浸透のメカニズムや、浸透において重要な要素などを伺いました。

田中先生

田中 雅子
(たなか まさこ)

インタビュイー

帝塚山大学 経済経営学部 経済経営学科 教授
経済経営研究所 所長
日本マネジメント学会常任理事・関西部会 会長
博士(政策科学)

専門は組織行動論。経営哲学学会学会賞受賞(2022年)、帝塚山大学教職員教育功績表彰(2022年)。著書に『ミッションマネジメントの理論と実践―経営理念の実現に向けて』(​​中央経済社、2006年)、『経営理念浸透のメカニズムー10年間の調査から見えた「わかちあい」の本質と実践』(中央経済社、2016年)などがある。

インタビュアー

2019年よりフリーランスライター・編集者・Webメディアディレクターとして活動。前職ではベンチャー企業のメディア事業部に在籍し、Webマガジンの副編集長としてWebメディアの運営・企画やライターマネジメントに従事。

現在は、ourly magazine編集部にてコンテンツ企画やインタビュー、ライティングを担当している。

目次

経営理念浸透の鍵を握るのは“経験”

──田中先生は約20年間、経営理念(以下、理念)の浸透について研究されています。研究を始めた当初と今現在の社会において、理念の捉え方や向き合い方はどのように変化していますか。

私が研究を始めた当初は、理念浸透の重要性はほとんど注目されていませんでした。しかし、2000年前後から学会で理念浸透に関する研究が盛んとなり、それに関連した書籍も数多く出るようになりました。

時を同じくして企業でも、失われた10年の反省や、度重なる不祥事、倒産を背景に、理念をあらためて見直す動きが広がりました。最近ではパーパス経営がブームになっていますが、理念が市民権を得てきたと感じています。

また、就職活動においても理念の文言や表現を参考にする学生も増えており、選ばれる企業になるためにも、理念浸透は見過ごせない要素になっているのではないでしょうか。

──たしかに最近はミッション・ビジョン・バリューの策定などに力を入れる企業も多いですよね! そもそも理念は、具体的にどのようなメカニズムで浸透していくのでしょうか。

理念浸透のメカニズムはさまざまな要素が組み合わさっているので、なにか1つ「これをすれば理念が浸透します!」と言えるようなものではありません。

ただ1つ言えるのは、社員一人ひとりの理念への理解が進むことが重要だということ。そのためには、経験を積むことがモノを言います。

──経験、ですか。

どのような経験が意味づけをもたらすのかは、キャリアによって異なります。例えば、若手社員の場合は、それまでの価値観や志向をもとに、各自が理念に意味を見い出しています。そしてそれに近い言動をとる先輩や上司をシンボルとして観察している。つまり主観的ながらもモデルケースを見ることで、理念の意味を学んでいるのです。

田中先生ご提供「理念の理解統合モデル(若手社員)」

その後、社内外の人とやりとりをしたり仕事をするなかで、部門や組織に沿った客観的な解釈ができるようになってきます。このときに仕事の楽しさを感じることができれば、働く意味のようなものがなんとなくわかり、理念の理解が進みます。

対して中堅社員の場合は、“修羅場”といわれるような痛みを伴う経験(転機となる経験)が必要です。過酷な状況を乗り越えていく過程で達成感や乗り越えた感を味わい、学びや自信を深めるなかで、理念への理解が自分の中に広がっていく。仕事に対する使命感や責任感が、理念の意味や重要性に気づかせてくれるんです。

田中先生ご提供「転機となる経験がもととなる理念の深化(中堅社員)」

──若手社員と中堅社員は、真逆の経験から理念への浸透を深めているんですね。

さらに、管理職になり部下を持つようになると、過去の自身の上司の姿を思い出すようになります。脳裏に浮かぶ上司が理念に沿った働き方をしていたり、尊敬できる人だった場合、自分も「気がついたら同じことをしていた」という方が多くいらっしゃいます。

上司のなかに見た理念を、無意識のうちにご自身のリーダーシップに反映されているんです。

浸透と洗脳を履き違えてはいけない

──今のお話を聞いていると、さまざまな経験をとおして出会う“人”の存在がすごく大きいような気がしています。

おっしゃるとおり、理念浸透には“人”がなによりも重要です。壁に文言を貼ったり、みんなで復唱したりなど、小手先の方法で浸透するものではありません。

とくに経営者の考え方や行動は理念の浸透に大きな影響を与えています。組織で主導権を握れるのはやはり経営者なので、経営者がいかに理念に沿った行動をとり、浸透のために努力を惜しまないかが生命線となります。

以前私がインタビューをした管理者が、次のような話をしてくださいました。その企業の創業社長は、理念に沿った行動をする尊敬できる方だったそうです。でも2代目社長に就任した方は、私利私欲に傾きがちな人だった。そんな2代目が理念について語っても、社員には絵空事にしか映らず、今まで浸透していた理念が浸透しなくなったという事例です。

この事例からもわかるように経営者が理念を心底信じて、それに沿った言動をとるということは、浸透を進めるうえでの大前提となります。ただ、浸透と洗脳を履き違えてはいけません。

──洗脳と浸透を履き違える……?

経営者が「右を向け! 」と言ったときに、何も考えさせず、言われたままに右を向くよう強いるのは洗脳です。対して、ふだんは皆があちらこちらを向いているけれど、何かあったときには各々が自分がすべきことを認識し、足並みを揃えた行動をとることができるのが浸透です。理念が浸透している組織は個性を尊重し、自由度が高くて柔軟性があります。

ステンドグラスをイメージしてみてください。遠くからだと綺麗で、まとまっているように見えますが、1つ1つのガラスを見ると色も形もバラバラです。理念が浸透している組織とは、まさにステンドグラスのような組織と言えるでしょう。

人だけではダメ。制度がなければ理念は浸透しない

──これまでのお話を伺っていると、経営者をはじめとする人が良ければ理念は浸透するということでしょうか。

と言いたいところですが、そうではないんです。経営者が理念の浸透に熱い思いを持ち、行動で示していたとしても、その理念を反映させた制度がなければ浸透は難しくなります。

例えば、「人を大切にする」という理念であれば、社内の教育制度を充実させたり、補助制度などの福利厚生を整えたりと、理念を意識することができるような制度を併せて作ることが非常に重要です。

車を5台売った人と、10台売った人がいたとします。売った台数だけを見れば10台売った人が評価されるのは当たり前です。でも、車を5台売った人が、理念に沿った行動をとり、お客様から大変喜ばれていたならば、そのような人が評価、表彰される制度を構築するべきです。

──なるほど。人だけではなく、制度も重要なんですね。

制度を理念に紐づけることで、組織全体から理念が感じられるようになるんです。正しいことをすれば正しく報われるというイメージでしょうか。それと同時に、社内でよりよい人間関係が築けるような仕組みづくりも大事です。人と人とのつながりは一体感を生み出しますからね。

例えば、全社員が集まって各部門の成果を報告しあうような場を設け、その後飲み会でコミュニケーションを活性化させるといった、他部門の人たちとつながりを持てるようなしかけを、ぜひ考えてみてください。

理念を浸透させたいなら、飲み会をせよ!

──縦だけじゃなく、横のつながりも重要なんですね!

理念が浸透している企業の経営者に、「理念浸透とは何か」という質問をしたことがあります。そのとき、「うねり」だとおっしゃったんです。強いスポーツチームをイメージしてもらうと理解しやすいかもしれません。コーチやメンバーの間に相互信頼があり、ライバルの動きをしっかりと見ながら、チームの不足を補ったり、助け合ったりしながら、総和以上の力を発揮する。

これって、組織にとっても重要な要素ですよね。企業をあげて、1つの製品やサービスを世に送り出していくには、個人の意識や能力の高さはもちろんのこと、他部門に対して信頼や敬意を持てることが不可欠です。つまり組織内の自律した個人同士が、協働しているといった一体感を感じるための仕組みが求められるんです。そのために効果的なのは、やはり他部門の人とコミュニケーションをとれる勉強会やイベント、飲み会の開催ですね。

全社会や総会など業務内でのコミュニケーションだけでなく業務外で他愛もない話ができる場を設けることが非常に効果的です。

──リモートワークなど働き方が多様化している現代では、関係性構築のためのイベントも含め、オンラインで人とコミュニケーションをとるケースも多いと思います。オフラインとオンラインを比較すると、コミュニケーションの回数や質は異なってくるのかな…と感じているのですが、理念浸透にも何らかの影響はあるのでしょうか。

私は、100回オンラインMTGで理念について語るよりも、1回対面で会って話すことのほうが重要だと思っています。理念の浸透には、「共にくぐり抜けた経験」が必要です。同じものを見て、同じことを聞いて、同じように悩む。疲れた時は一緒に飲みにいき、一つのテーブルを囲んで愚痴を言いつつも夢を語り合う。そんなふうに同じ空間で話し合ったり、励ましあったりすることがとても大切なんです。

少し文学的な言い方になりますが、目に映る同僚や上司の懸命さやため息、感嘆の声、そんな空気感のなかにこそ理念浸透の種が眠っていると思っています。なぜなら、理念浸透とは働く意味や意義を、自身に問いかけることに他ならないからです。それは「組織のなか」で「人々と働く」意味や意義を考えるということです。なので、リモートワークの普及は理念浸透が進みにくくなる要素の1つになり得ると思いますね。

──最後に、理念浸透に向けて奮起している企業の担当者にメッセージをお願いします!

私は、理念浸透にとって重要なのは掛け算の組織を作ることだと思っています。これまでお話ししたとおり、理念の浸透には、経営者の意識や行動、理念に基づいた制度作りなどが重要ですが、それは一朝一夕にできるものではありません。

まずは、すぐに取り組めることとして人と人が交わることができる機会を可能な限り設けてみてください。互いの理解が進み、好意的な感情を抱くようになると、他人事が私事になっていきます。他部署の問題ではなく、自部署の問題として捉えられるようになってくる。そうなると、3+3ではなく、3×3の相乗効果が生み出されます。「一緒にがんばろう」という気持ちは「うねり」を作り、理念浸透にも一役買うことでしょう。

 お話を伺っているなかで、経営理念の浸透は経営者や組織側からの働きかけだけでなく、組織のなかの1人として働く個人としての意識も重要なのだと感じました。普段関わることのない部署の人とのつながりを拡大していくことが、理念の浸透につながっていく。まずは新しい掛け算を生み出せるように動いてみてはいかがでしょうか。(加賀山)

Interview / Write / Design:Sachi Kagayama
Edit / Photo:Nozomu Iino

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