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【対談vol.2】「マニュアルを作って安心」は幻想。有事に備える7つの準備【危機管理広報編】

髙橋 新平

公開日:

2026.01.22

更新日:

2026.01.22

【対談vol.2】【危機管理広報】「マニュアルを作って安心」は幻想。有事に備える7つの準備
高場 正能さん

高場 正能
(たかば まさのり)

インタビュイー

高場経営広報舎
代表

1961年生まれ。早稲田大学商学部卒。1985年リクルート入社。翌年リクルートコスモス(現 コスモスイニシア)の広報室立ち上げ以降、一貫して広報業務に従事。カルチュア・コンビニエンス・クラブ、ゴルフダイジェスト・オンライン、ベルシステム24等の広報責任者を歴任。4度の上場、経済社会を揺るがす事件、企業変革等を多数経験。 2022年1月に高場経営広報舎を起業し、経営広報視点のアドバイザリー、広報担当者育成、広報関連の講演・講義などの事業を展開中。

企業の広報活動において、避けて通れないのが「有事」への備えです。不祥事や事故、そしてSNSによる炎上など、企業を取り巻くリスクは年々複雑化しています。

前回に続き、元リクルートで数々の危機対応を経験し、『広報で一番大切なこと』の著者である高場さんにお話を伺います。

第2部となる今回は、きれいごとのマニュアル論ではなく、高場さんの実体験に基づいた「有事の広報(クライシスマネジメント)」の泥臭い現実と、平時に行うべき具体的な準備について深掘りしていきます。

【対談vol.1】広報で一番大切なこととは?広報戦略で失敗しない7つのポイントの記事はこちらをご覧ください。

目次

危機管理広報における「3つの誤解」

髙橋: 第1部では「平時の広報」について伺いましたが、第2部では「有事の広報」についてお聞きします。スタートアップから大企業まで、どんなにガバナンスを強化してもリスクはなくなりません。広報は初動が鍵だと言われますが、日頃からどのような準備をしておくべきなのでしょうか。

高場: 準備の話に入る前に、まず多くの企業で蔓延している「危機に関する3つの誤解」を解いておきたいと思います。これを広報と経営陣で腹を割って話し合い、解きほぐすことがスタートラインです。

危機管理広報を取り巻く誤解

1つ目の誤解は、「リスクマネジメントをしているから大丈夫」という思い込みです。

そもそも「リスク」は起きる前のこと、「クライシス」は起きてしまった後のことです。リスクマネジメントは「火が出ないようにする予防」ですが、危機管理広報は「起きてしまった火を消す消火活動」です。

「うちは予防(リスクマネジメント)をしっかりやっているから大丈夫」と言っている時点で、実は一番危ない。予防と消火は全く別のスキルセットが必要なんです。

2つ目は、「危機管理広報をやれば評判を挽回できる」という幻想です。

「危機管理広報を導入すれば、メディアの攻勢をかわして、落ちた評判をV字回復できるよね」と思われがちですが、それは誤解を通り越して「幻想」です。 クライシスが起きている時点で、すでに企業価値は毀損しています。

危機管理広報の役割は、マイナスをゼロに戻すことではなく、マイナスの拡大を最小限に食い止めること。仕損じれば、傷口はさらに広がり、企業イメージの悪化に拍車をかけます。

3つ目は、「マニュアルを作って模擬会見をすれば安心」という考えです。

立派な危機管理マニュアルを作って、模擬記者会見をやって、メディアトレーニングを受けて、「よし、これでオッケー!」と満足してしまう会社さんも多いんですが、本当にそれで安心できますか? 

形だけ整えても現場では役に立ちません。もっと本質的で、泥臭い準備が必要です。

有事に備える「7つの準備」

髙橋: 誤解を解いた上で、具体的に平時から何を準備すべきなのでしょうか。

高場: 私が実践してきた「7つの準備」をご紹介します。かなり具体的ですが、これくらいやっておかないと有事には対応できません。

平時にやるべき7つの準備

1. ネガティブ・ブレインストーミングを実施する

自社のリスクマップの中から、「もしこれが起きて、最悪の条件が重なったらどうなるか?」という最悪のシナリオを妄想する、何でもありのブレインストーミングです。

イメージが湧くように、私の実体験をお話ししますね。私が最初にいた会社はマンションデベロッパーでした。 ある時、マンションで水漏れ事故が起きました。例えば台風が来たり、上の階で洗濯機のホースが外れたりして水漏れが起きること自体は、あってはならないですが、管理会社としては想定内のトラブルです。

しかしその時、水漏れの被害を受けた下の階の住人が、ある著名人の方だったんです。 これで一気に火がつきました。タブロイド紙や週刊誌、ニュースバラエティ番組などで「あの著名人が被害に!」と大々的に報じられ、事実に基づいた報道ではありますが、一気に「メディアクライシス」の状態に陥りました。

単なる「水漏れ」という事象に、「被害者が著名人」という条件が加わっただけで、対応の難易度が跳ね上がるんです。こういう「こうなったら炎上するよね」という最悪のケースを想像しておくことが、大事な準備の一つです。

2. 危機対策本部のあり方を決める

いざという時に招集される「危機対策本部」のメンバーをあらかじめ決め、合意形成をしておきます。 本部長は社長だとして、他のメンバーは誰なのか。「これが起きたら、他の全ての予定をキャンセルしてここに来てください」というレベルで握っておく必要があります。

ここでやってはいけないのが、形式的な役職順で決めること。「御前会議」のようなメンバーを集めても意味がありません。実質的に物事を決めて動かせる人を選定し、一度集まって目線合わせをしておくべきです。

3. 外部関係先の担当責任者を決める

危機が起きると、財務は金融機関、人事は内定者、営業は取引先といったように、各部署がそれぞれのステークホルダーに対応します。 それぞれの現場で「どうなってるの?」と聞かれた時、対応内容がブレると、「あっちではこう言ってたのに」と不信感を招き、信用毀損につながります。

 広報は全体に目配りをする必要があるので、各部門の責任者と事前に「有事の際はこういうチームで連携するぞ」という関係を作っておく必要があります。起きてから連携しようとしてもてんやわんやになりますから。

4. 記者会見の開催基準を決める

謝罪会見に誰が出るか。これは間違いなく社長一択です。 しかし、いざ起きると人間誰しも「出たくない」というバイアスが働きます。「今回は担当役員でいいんじゃないか」とか言い出したくなるんです。 だからこそ、冷静な平時のうちに「こういう状況になったら社長が登壇する」とルールとして決めておくことが重要です。

5. 専門家とコンタクトする

判断を仰ぐ「危機広報コンサルタント」と、物量作戦を担う「大手PR会社」の両方とつながっておくこと。 前者は「このステートメントでいいか」「Goか、No Goか」を判断してくれる人。後者は「手数」を提供してくれるパートナーです。

記者会見を開くとなると、会場の手配、会見場の白い布の用意、案内状の送付、受付、カメラ位置のテープ貼りなど、膨大な物理的作業が発生します。これを広報だけでやるのは無理です。 「電話一本でバシッと動いてくれる」関係を作っておかないと、起きてから探したのでは遅すぎます。

6. 情報集約の仕組みをつくる

「非日常的なことが起きたら、事件か事故かの判断は後でいいから、まずこのメールアドレスに投げてくれ」というシンプルなルールを作ります。 さっきの水漏れの例で言えば、著名人が住んでいるかどうかは関係なく、「水漏れがあった」という事実だけでいいから報告してもらう。 とにかく広報に第一報が速く入る仕組みを作っておくこと。これが初動のスピードを決めます。

7. 3つの“引き出し”を準備する

有事の際に広報がやるべきことは「言語化する」「決める」「徹底する」の3つに集約されます。これらをスムーズに行うための準備をしておくのが7つ目です。

クライシス発生時の対応とは

髙橋: 非常に具体的な準備ですね。では、実際に有事が発生してしまった時、広報はまず何から手を付けるべきでしょうか。

高場: 先ほど触れた3つのアクションをロケットスタートで行います。

危機広報は3つの“引き出し”で対応する … 危機は突然やってきて、日常を一変させる

1.言語化する(ポジション・ペーパーの作成)

何が起きているか、今後どうなるか、どう判断するか。これらを箇条書きにした「ポジション・ペーパー」を即座に作成します。作戦に悩む時間も誰かに相談する余裕もないので、今の状況をパシッと落とし込む。これが全ての判断基準になります。

2.決める(社長の決断をサポート)

有事の際、社長は決断の連続でパンク状態になります。取引先対応、金融機関対応、お客様対応……決めることが山のようにある。 普通の状況なら「広報案件なんて後回し」にされがちですが、この時ばかりはメディアに火がついているので、早く対応しないと火に油を注ぐことになります。

広報は「申し訳ないですが、これを最優先で決めてください」と進言し、社長が即決できるようなお膳立てをする。あたかも自分が決めているかのように進行する演出力が求められます。

3.徹底する(情報統制)

決定した方針(ポジション・ペーパーの内容)以外は喋らないよう、対外的にも、そして社内的にも徹底させます。 実はこれが一番難しい。

社内にはさまざまな利害関係があり、「あの取引先には本当のことを言いたい」みたいな情も湧きます。でも、「今はここしか答えないでください」とバシッと徹底しないと、そこから情報が漏れておかしなことになります。

髙橋: 経営者をどう巻き込むかが重要ですね。

試されるのは経営者の2つの“本気度”

高場: おっしゃる通りです。有事の際、経営者には「逃げない、隠さない、嘘をつかない」という3つの姿勢が問われます。 少しでも隠そうとすれば、メディアはぐわっと食い込んできます。経営者が誠実に向き合えるよう、広報は時に「その判断は違います」と審判のような立場で進言する覚悟が必要です。

そして広報としての“本気度”

リクルート事件の最前線で学んだ「7つの心得」

髙橋: 高場さんはリクルート事件の最前線など、数々の修羅場を経験されています。当時の経験から、担当者として心がけるべきことはありますか。

高場: リクルート事件も経験しましたし、バブル崩壊なども含めて、いくつもの危機対応をしてきました。当時はインターネットもなかったのでスピード感は違いますが、「非日常が日常化してしまう」という逃げ場のない状況が、来る日も来る日も続きました。

そんな極限状態の中で、後になって「あれはこういうことだったな」と整理した、広報担当者が潰れないための「次につながる7箇条」があります。

危機から次につながる七箇条

1. 健康をキープしよう

危機対応は何が起きるかわからない長期戦です。1週間で終わると分かっていれば徹夜も辞さないですが、先が見えないので、まずは体を壊さないこと。

2. 目線を高く保とう

来る日も来る日もネガティブな取材を受けていると、会社が事件を起こしただけなのに、自分という人格まで否定されているような気分になり、押し潰されそうになります。でもそうではない。空元気で騒ぐ必要はないですが、目線だけは高く保とうと。

3. 経営者と話そう

広報もしんどいですが、絶対一番しんどいのは経営者です。対話を深め、シンクロするチャンスと捉えましょう。

4. 終わらせようとしない

どうしても「これをポンと出せば一発逆転できる(リターンエース)」を狙いたくなるんです。でも、そんなものはありません。終わらせる権利はこちらにはなく、世の中が納得してじわっと収まっていくしかない。来るものを淡々と打ち返す覚悟が必要です。

5. 社内を歩き回ろう

広報も大変ですが、お客様に頭を下げている営業など、現場も絶対に大変なんです。社内を歩き回って「今メディア対応はこういう状況だよ」と伝え、自分の存在も認めてもらうことが大切です。

6. 社会部の記者をつかもう

有事の際は、普段付き合いのある経済部ではなく、社会部の記者が相手になります。激しいアプローチを受けますが、中には一人くらい腹を割って話せる「同志」のような記者がいたりします。機密情報を漏らす必要はないですが、情報交換できる相手を見つけると非常に助けられます。

7. 家族に語ろう

意外かもしれませんが、これが大事です。家族は一番心配しているんですよ。でも「聞いちゃいけない」と気を使って、聞かずにいてくれる。だからこそ、公式見解レベルでいいので「今日こんなことがあったよ」と話す。ピンチの自分を支えてくれるのは家族ですから。

SNS炎上のメカニズムと「玄関ドアテスト」

髙橋: 現代ではSNSを起点とした炎上も頻発しています。これにはどう向き合うべきでしょうか。

炎上のメカニズム・・・SNSで閉じていない

高場: まず炎上のメカニズムを知ることです。SNSはそこだけで完結しません。 SNSでの火種がインフルエンサーに拡散され、まとめサイトやネットメディアが取り上げ、最終的にマスメディアが報道して、またSNSに戻ってくる……このサイクルで行ったり来たりしながら、ボヤが大火事になっていきます。

広報対応視点によるネット炎上の分類

私は炎上のパターンを「ネット/リアル」「会社の仕事/個人の日常」の軸で6つに分類しています。 「公式アカウントの誤爆」のような典型的なものから、「バイトテロ」、最近では「花見の場所取りでブルーシートを取りすぎている」「配達員が荷物を叩きつけている」といったリアルな行動が監視されて炎上するケースもあります。

こういったリスクに対して、私が広報担当者におすすめしている一番分かりやすい基準が「自宅玄関ドアに貼れるかテスト」です。

投稿ミスを減らすための10のチェックポイント

「その投稿を紙に印刷して、自分の家の玄関ドアに貼って、近所の人に見られても大丈夫か?」 この目線でチェックしてみてください。機密情報や差別発言はもちろん、「上から目線」や「ポエムっぽい投稿」なんかも、玄関に貼ると思ったら「うわっ、恥ずかしい」って気づけますよね。この感覚があれば、多くの不適切な投稿は防げます。

広報は「バリューセンター」である

髙橋: 最後に、広報担当者や経営者へのメッセージをお願いします。

高場: 私は、広報は経営者の仕事だと思っています。会社の評判やブランドという無形資産を作るのは、最終的には経営者にしかできません。 よく「広報はコストセンターかプロフィットセンターか」という議論がありますが、私はその議論を聞くと嫌な気持ちになります。

広報はバリューセンターである

広報はそのどちらでもなく、次元の異なる「バリューセンター」です。 信頼やブランドという「価値」を創出し、長期的な企業の競争力や収益力に貢献する役割です。 経営者の皆さんには、ぜひ広報をバリューセンターとして捉え、担当者とシンクロしてこの機能を使いこなしていただきたいと思います。

髙橋: 平時の準備から有事の心得まで、非常に実践的なお話をありがとうございました。

高場: ありがとうございました。