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【対談vol.2】強い組織を作る「3つの条件」とは?心理的安全性・共通目標・リーダーの自己開示がポイント

髙橋 新平

公開日:

2026.01.26

更新日:

2026.01.26

【対談vol.2】強い組織を作る「3つの条件」とは?心理的安全性・共通目標・リーダーの自己開示がポイント
田中 安人さん

田中 安人
(たなか やすひと)

インタビュイー

株式会社グリッド
CEO

東証一部上場企業経営企画室で戦後初の倒産を会社経営人と対峙しながら会社分割、譲渡、社員移籍を推進しながら会社の清算を経験後、アドバタイジングエージェンシー創業、後にマーケティングコンサルティング会社を創業し吉野家CMO、(公)日本スポーツ協会ブランド戦略委員、スタートアップ支援、大手エージェンシーアドバイザー等々歴任。スポーツ界とビジネス両方での組織変革、リーダーシップ育成を得意領域とする。(2025年12月16日時点)

「組織のエンゲージメントを高めたい」「勝てるチームを作りたい」
そう考えたとき、リーダーはどのようなアクションを取るべきなのでしょうか。

前回の「エンゲージメント低下の原因」に続き、今回は「強い組織の作り方」について、組織開発のプロフェッショナルである田中安人氏にお話を伺いました。

スタンフォード大学のレポートや、Google「プロジェクト・アリストテレス」などの知見を交え、強い組織に共通する3つの条件とその実践方法を深掘りします。

【対談vol.1】エンゲージメント向上の鍵は「マネージャーの翻訳力」と「無知の知」の記事はこちらをご覧ください。

目次

世界最強チームに共通する「3つの条件」

髙橋:前回はエンゲージメントが低い原因について解説いただきましたが、今回は逆に「どうすれば強い組織を作れるのか」について詳しく伺いたいと思います。田中さんはさまざまな組織を見てこられたと思いますが、強い組織を作るための条件とは何でしょうか?

田中:これについては、スタンフォード大学がまとめている非常に興味深いレポートがあります。そこでは「強い組織の3条件」として、以下の3つが挙げられています。

  1. 共通目標があること
  2. ボスが自己開示(弱さの開示)できること
  3. 心理的安全性があること

代表的な例として、勝率86%という驚異的な数字を誇るラグビーの「オールブラックス」や、ほぼ勝率100%と言える映画スタジオの「ピクサー」、そしてウサマ・ビンラディン殺害作戦を遂行した米海軍特殊部隊「チーム6」などが挙げられます。

これらの世界最強と言われるチームに共通しているのが、この3つの要素なんです。

条件1:共通目標 〜 「エベレスト」と「高尾山」のズレをなくす〜

髙橋:まず1つ目の「共通目標」ですが、これは具体的にどういうものですか?単なる売上目標とは違うのでしょうか。

田中:より大きな視点での「会社の夢」ですね。5年後、10年後にどうなりたいかというビジョンです。

例えば「地球環境を良くする」という大きな目標があったとします。それを部署や個人の活動に落とし込む過程で、技術開発やサービス提供といった具体的な「手段」が決まってきます。中期経営計画などはあくまでそのための「手段」であって、目的そのものではありません。

シンプルに言うと、遠くに行きたいから仲間を集めているわけですよね。「どこに行きたいのか」という共通目標(目的地)と、「どうやって行くのか」というルート(手段)が明確でなければなりません。

髙橋:目的と手段の区別ですね。

田中:そうです。ここが共有されていないと、社長は「エベレストに登るぞ」と言っているのに、現場は「高尾山に登る」装備で来てしまう、といったことが起こります。そこで「何やってるんだ」と怒っても、それはコミュニケーションの不一致が原因です。「部下が考えない」のではなく、「上司が考えさせていない」あるいは「情報の量と質が足りていない」ことが多いのです。

髙橋:なるほど。リーダーは単に目標を掲げるだけでなく、それを各セクションの役割に分解し、「なぜその山に登るのか」「自分たちはどう貢献するのか」を丁寧にコミュニケーションする必要があるんですね。

田中:おっしゃる通りです。トップには見えている景色が、部長、課長と階層が下がるにつれて伝わらなくなり、現場では全く違う山が見えてしまっている。これは多くの組織で起きている問題です。楽天の三木谷さんのように、トップ自らが「携帯料金を下げることは生活を豊かにすることだ」というパーパスを語り、先陣を切って動くような姿勢が、AI時代の今こそ重要になってきます。

条件2:弱さの開示 〜「わからない」と言えるリーダーが組織を強くする〜

髙橋:2つ目の「弱さの開示」についてですが、リーダーは強くあるべきだというイメージもあります。なぜ弱さを見せることが重要なのでしょうか。

田中:かつての「昭和型」のリーダー像は、情報を独占し、ナポレオンのように「俺についてこい」と指示するスタイルが主流でした。しかし、現代のようなフラットで変化の激しい時代には、そのスタイルは通用しにくくなっています。

リーダーが「これについては僕もわからない。だからみんなで考えよう」と言えること。これが重要です。ボスが「わからない」と言うことで、メンバーは「あ、この組織ではわからないと言ってもいいんだ」「自分たちが考えなきゃいけないんだ」と自覚し、思考し始めます。

髙橋:逆に、リーダーが全てを知っているふりをしたり、指示命令だけで動かそうとすると、メンバーは思考停止してしまうわけですね。

田中:その通りです。特に、誰も達成したことのない高い目標(エベレスト)を目指す場合、誰も正解を知らないのは当たり前なんです。

「やり方はわからないけど、ここに行けたら最高だよね」という目標を掲げ、そこに対してリーダーが弱さをさらけ出して「みんなの知恵を貸してくれ」と言う。これがいわゆる「フォロワーシップリーダー」や「サーバントリーダーシップ」と呼ばれるスタイルで、メンバーの自発性を引き出す鍵になります。

条件3:心理的安全性 〜「ぬるま湯状態」との違い〜

髙橋:3つ目の「心理的安全性」は、最近よく耳にするキーワードです。改めて、これはどういう状態を指すのでしょうか。

田中:Googleの「プロジェクト・アリストテレス」で有名になった概念ですが、誤解されやすいポイントがあります。心理的安全性とは、単に仲が良いとか、厳しいことを言われないということではありません。

定義としては、「共通目標を持ち、全員を信頼し、自分の意見や失敗をさらけ出しても対人関係のリスクがない状態」のことです。

髙橋:ただ優しいだけの組織ではない、と。

田中:ええ。心理的安全性だけが高くて目標が低いと、それはただの「ぬるま湯組織」になります。逆に、目標だけ高くて心理的安全性がないと、メンバーは疲弊して潰れてしまいます。

重要なのは、「高い目標(チャレンジ)」と「高い心理的安全性」を両立させることです。心理学者のチクセントミハイ教授が提唱した「フロー理論」のように、組織のチャレンジレベルと個人のスキルレベルが高い次元でバランスしたとき、チームは「ゾーン」に入り、最高のパフォーマンスを発揮します。

フロー理論(4チャンネルフローモデル)

内発的動機と「桃太郎理論」

髙橋:高い目標と心理的安全性、そして個人のスキルを見極めて任せる。これらを統合していくには何が必要でしょうか。

田中:「内発的動機」に着目することです。仕事は「やらされるもの」ではなく、自ら「やりたい」と思えるものにする必要があります。

そのためには、リーダーが部下一人ひとりの能力やモチベーションの源泉を理解していることが不可欠です。「君にはこの力があるから、この方法でやってみてほしい」と、個人の能力を認めた上で裁量を任せる。そうすることで、自己決定感が生まれ、人は意欲的に動くようになります。

髙橋:それを怠って、単に給料などの条件(外発的動機)だけで人を動かそうとするとどうなりますか?

田中:私はそれを「桃太郎理論」と呼んでいます。桃太郎の犬・猿・キジは、なぜ「きびだんご」一つで命を懸けて鬼退治に行ったのか。きびだんご(報酬)だけが目的なら、もっと良い条件があれば他へ行ってしまいますよね。

彼らが命を懸けたのは、「村人を助ける」という共通の目的(ビジョン)があったからだと解釈しています。

髙橋:なるほど。「きびだんご」ではなく「村人を助ける」という目的に共感したからこそ、最強のチームになれたわけですね。

田中:そうです。困難な社会課題(鬼)に立ち向かうとき、お金だけのつながりでは脆いものです。「村人を助けたい」という共通の夢やロマンを語り、それに共感する仲間を集めること。そして、その夢に向かって、互いに弱さを認め合いながら心理的安全性の高いチームを作っていくこと。

これが、これからの時代に求められる「強い組織」の本質だと思います。

髙橋:スキルや条件のマッチングだけでなく、「何のためにやるのか」というビジョンの共有が何より大切だということですね。今回も非常に勉強になりました。ありがとうございました。

【対談vol.3】組織をV字回復させる「変革の8プロセス」と「成功循環モデル」の記事はこちらをご覧ください。