MBO(目標管理制度)とは?メリットや失敗しない注意点・運用手順
MBOは、経営学者のドラッカーが提唱したことでも有名な、組織における目標管理制度のことです。
今回は、MBOを導入することのメリットや導入に失敗しないための注意点、MBOの運用手順などについて説明します
MBOとは
MBOとは、経営学者のピーター・ドラッカーが1954年に刊行した著書『The Practice of Management(現代の経営)』において、「Management By Objectives and Self Control(目標と自己統制による経営)」というフレーズで紹介したものです。
社員個人、またはグループで目標を設定し、その目標の達成度によって評価を決定する仕組みです。
各社員の目標を経営目標やチーム目標に紐付けたり、同じベクトルの延長線上にあるものにしたりすることで、各人の成果を組織の業績と連動させるようにすることができます。
各個人が組織の目標について考え、その目標を達成するためにはどうすればよいかという目線で自身の目標設定をおこなうので、上から目標を押し付けられるよりも前向きかつ自主的に目標達成を目指せるのが、大きな特徴です。
MBOの目的とOKRとの違い
最近では、MBO以外にOKRという目標管理制度を導入する企業も増えてきています。
OKRとは「Objectives and Key Results」の頭文字であり、定性的な目標や定量的で測定可能な結果を設定したうえで、それらに対する達成度合いで評価をおこなう手法です。
MBOは組織の業績と連動した個人の目標を立て、成果を高めることが目的であるのに対して、OKRは業務効率化や社員一人ひとりの能力向上を目的としています。
そのため、MBOでは設定した目標に対してほぼ100%の水準での達成が期待されますが、OKRでは60%~70%程度達成できれば十分とされることが多いです。
また、結果に対する評価スパンにも違いがあり、MBOではたいていの場合1年に1度評価がおこなわれます。
一方のOKRでは、個人の成長にしたがって設定される目標や結果が変わるので、4半期に1回、早い場合は月に1回程度のスパンでレビューをおこない、目標や結果の再設定をおこないます。
MBO導入の背景
MBOは、1960年代に日本でも大手企業の一部で取り入れられるようになり、1990年代には多くの企業が導入するようになりました。
2010年には、日本全体のおよそ7割にあたる企業が導入するに至っています。
MBOの導入が進んだ1990年代はバブル崩壊後であり、ちょうど社会に大きな動きがあった時代でもありました。
MBO導入の背景には、以下に挙げる3つのことが大きく関係していると考えられます。
終身雇用・年功序列制度の崩壊と成果主義
バブルの崩壊と同時に、これまで日本企業では当然と思われていた終身雇用や年功序列制度の崩壊が徐々に進み、代わりに「成果主義」が普及するようになりました。
成果主義では社員個人個人が成果を挙げることが求められましたが、社員に対する評価が成果に基づいたものでなければ、成果を挙げているのに評価されないという事態に陥ってしまい、社員の意欲低下を招いてしまいます。
そのため、企業の業績と社員の目標を連動できるような制度が必要になり、MBOが注目されるようになったのです。
変化の速さと企業の業績
バブル崩壊後は、企業を取り巻く環境や社会が変化していくスピードが、これまでより早くなりました。
企業はこれまで通り中長期的な経営目標を掲げつつも、より短期的なスパンで業績を上げることも求められるようになり、そのために社員自身の意識変革や行動変容・行動量増大がより重視されるようになりました。
そのため、社員個人の行動の方向性を定める目標に関しても、従来とは異なる考え方が必要になった結果、MBOに白羽の矢が立ったと考えられます。
売り手市場と従業員エンゲージメントの重要性
終身雇用が崩壊して採用市場が大きく売り手市場に傾いた結果、企業が「選ばれる組織」であることの重要性が、これまで以上に大きくなりました。
売り手市場にあっても自社を選び続けてもらうために、従業員自身の企業に対する愛着である「従業員エンゲージメント」を高めて、離職率を低下させることが喫緊の課題となっていたのです。
従業員エンゲージメントは評価制度とも密接に関係しており、自身の努力が正当に評価されていないと感じれば、従業員エンゲージメントは自然と低下してしまいます。
そこで、従業員エンゲージメントを高める評価制度として、MBOを取り入れる企業が増えだしたのです。
MBOの導入メリット
MBOの導入にはどのようなメリットがあるのかを把握しておかなければ、ほかの人事評価制度とMBOを比較することはできません。
以下では、MBOを導入することにはどのようなメリットがあるのかについて、説明します。
評価がしやすい
設定される目標およびそれに対する結果が明確なので、評価がしやすいのはMBOの大きなメリットです。
評価が適切におこなわれること(少なくともそうであると従業員が感じること)は、従業員エンゲージメントの観点からも重要なことなので、そういった点においてもMBOは優れています。
目標に対して責任感ができる
トップダウンで決められた目標では、達成に向けてイマイチ気乗りがしないこともありえます。
しかしMBOでは、組織の状況および達成すべき目標を踏まえたうえで、自分の目標を設定することができるので、目標に対して責任感を持って取り組むことが可能です。
仮に、トップダウンで決められた目標と自分で決めた目標が同じものであっても、目標が決められるまでのプロセスが異なることで、目標に対する意識は大きく異なります。
モチベーションの向上につながる
MBOでは自分で決めた目標を達成することが、自然と組織の業績向上に結びつきます。
そのため、自分の仕事の意義を感じたり、自分が役に立っているという実感を得たりしやすく、モチベーションを維持・向上させることにもつながるのです。
モチベーションとエンゲージメントは密接に関係しており、モチベーションが高い社員はエンゲージメントも高いため、エンゲージメントの観点からもモチベーションを向上させることは重要であると考えられます。
社員の成長につながる
MBOでは自身で目標を設定し、設定した目標に関しては100%に近い水準での達成を求められますが、目標のレベルは今の能力のままでは100%の達成が少し難しいぐらいであることが多いです。
そのため、その「少し」の部分をどのように満たせばよいかに関して社員自身が創意工夫するため、社員の成長にもつながります。
目標達成を通じて自身が成長できたことが実感できれば、自然とモチベーションも向上していき、よいサイクルに入っていけるでしょう。
【資料】縦割り組織・離職率の改善ノウハウ – 組織開発ガイド –
近年「組織開発」と頻繁に聞くようになりました。その一方で、言葉の意味合いは曖昧で、正確に理解し組織に落とし込めている企業は少ないかもしれません。
そこで弊メディアでは、「組織開発とはそもそも何か」や「組織開発の進め方」、「組織開発の豆知識」などをまとめた資料を作成しました。
組織開発に興味がある方や、これから組織開発に取り組まれる方は是非ご覧ください。
MBO導入で失敗しないための注意点
上述したようにMBOには多くのメリットがありますが、導入を失敗しないようにするためには、いくつか注意しなければならないこともあります。
MBO導入で失敗しないための注意点を、以下でいくつか挙げていきます。
目標の達成可能性があまりにも高くならないようにする
MBOでは100%に近い水準での目標達成を求められるため、目標の達成可能性が高い(=難易度が低い)目標を設定してしまう恐れがありますが、それはあまり好ましくありません。
目標の達成が容易すぎると、従業員の能力向上に寄与しない可能性が高いうえに、従業員自身のモチベーション向上にもつながらないからです。
MBOで設定される目標は、個人の目標であると同時に組織の業績達成に関連する目標でもあります。
そのため、組織として到達すべき業績に届くかどうかという観点も踏まえて、目標設定をおこなうことが重要です。
目標にはない業務も率先しておこなう文化を築く
目標達成を第一に考えるようになると、目標の達成に直接的には関係ない業務を軽視してしまう可能性が出てきます。
たとえば、営業職で新規顧客開発に関する目標設定をおこなった場合、新規顧客へのアプローチを重視するあまり、既存顧客に対するサポートを疎かにしてしまうといったような具合です。
そのため、数値的な目標には影響しなくとも、組織として重要である行動は従業員自身に主体的におこなってもらわなければなりません。
そういったことは口頭で伝えたり説明したりしても、なかなか浸透していきにくいものなので、組織としてそのような文化を築き、醸成しておくことが重要です。
単なるノルマ管理にならないようにする
目標を設定してそれを達成するように業務をおこなうというプロセスは、ともすれば単なるノルマ管理と混同されてしまいがちです。
MBOでは自身の目標やノルマが、組織自体の目標や業績と連動しているという点がノルマ管理とは大きく異なるのですが、その点を従業員自身にきちんと認識しておいてもらわなければなりません。
目安として1年に1回おこなわれる振り返りやレビューでは、そのことを行動ベースで振り返る必要がありますし、必要に応じてより短いスパンで振り返りをおこなうことも検討すべきでしょう。
部署・職種別に考慮が必要になる
数値的な目標設定の難易度は、部署や職種によって大きく異なります。
たとえば営業職の場合、「個人としての売り上げを前年度の105%にする」や「ひと月あたりのアポの回数を10回増やす」などのように、数値的・定量的な目標設定をおこないやすいです。
それに対して人事やバックエンドのエンジニアといったような部署・職種の場合、組織の業績に直接的に関係する定量的な目標を設定するのは、なかなか難しいでしょう。
そのため、部署や職種による違いも考慮したうえで、適切な目標設定をおこなうよう心がけましょう。
目標管理制度(MBO)の運用手順
実際にMBOを導入する場合は、きちんとした手順を踏むことで円滑な運用が可能になります。
MBOの運用手順について、以下で説明します。
組織・チームの目標設定
MBOにおける個人の目標は、組織やチームの目標に紐付いたものです。
そのため、まずは組織やチームとしての大きな目標を設定しなければなりません。
その後、その目標を達成するために重要な要素を分解し、目標達成に至るまでに段階的にクリアしていく目標などを決定したうえで、各部署やプロジェクトに対する目標設定をおこないましょう。
個人の目標設定
各部署やプロジェクトに対する目標が決まれば、それに応じて個人の目標も決まります。
このとき、部署やプロジェクト、ひいては組織やチームで定められている目標の方向性と、社員個人に割り当てられる目標の方向性が若干異なることも考えられます。
そのような場合は、社員に対して自身の目標と部署やチームの目標がどのように関係しているのかを、きちんと説明しなければなりません。
そうすることで、社員としても納得感を持ったうえで目標達成のために行動することができるでしょう。
進捗確認
目標を設定したあとは、上司は部下に対して定期的に進捗確認をおこないながら、必要であれば適宜軌道修正をおこないます。
部下から毎日その日の業務内容についてメールを送ってもらったり、月に1回程度面談をおこなったりするといった方法が、進捗確認の手段としては有効です。
もし軌道修正をおこなう必要があるとしても、上司主導でおこなうのではなくできるだけ部下自身に考えさせて、主体的な軌道修正を心がけるようにしましょう。
評価と振り返り
MBOでは1年に1回評価をおこないますが、まずは各社員が自身で評価をおこない、その後上司によって評価がおこなわれるという流れが一般的です。
そして、両者の評価を1on1ミーティングなどで突き合わせて、振り返りとフィードバックをおこないます。
ここで適切に振り返りをおこなうことで、今の自身に足りない部分が明確になりますし、翌年度の目標設定も的確におこなえるでしょう。
スムーズなMBO運用は相互理解から ourly profile
ourly profile(アワリープロフィール)は、個人のプロフィール機能や組織図機能などにより、組織のサイロ化を解消する社内コラボレーション創出ツールです。
3つの大きな特徴により、勤務形態・メンバー数にとらわれず、マネージャー(リーダー)とメンバーの相互理解を促します。
- 人となりが一目でわかる自己紹介画面
- 独自の探索機能により、思いがけない出会いを創出
- 組織図により、チーム・部署を超えて組織を理解できる
こうした特徴から「この人こんなスキルを持ってたんだ!」「Aさんはこんな趣味・経験があったのか!」などの気づきを生み出し、効率的なチームマネジメントやコミュニケーション円滑化を実現します。
チーム単位での導入も可能で、ユーザー規模に応じた料金をご用意しております。詳しくはこちらからサービスページをご覧ください。
まとめ
MBOとは、「Management By Objectivesの略」で、著名な経営学者であるドラッカーによって提唱されたものです。
設定される目標およびそれに対する結果が明確であり評価がしやすいことや、従業員が自分の目標に主体的に取り組めることなどが、MBOのメリットとして挙げられます。
その一方で、単なるノルマ管理になってしまったり、目標に直接的には関係ない行動や業務をしなくなってしまったりする恐れがあることは、デメリットして把握しておかなければなりません。
デメリットとして挙げた状態に陥っていないか、または当初設定していた目標から軌道修正が必要ではないかを把握するためにも、日々進捗管理や振り返りをすることが重要です。
MBOは非常に便利な評価手法ではありますが、組織によって向き不向きはあるので、MBOをひとつの選択肢として考えつつ、自社に合った目標管理をおこなうようにしましょう。