人事異動とは?必要な理由と決定するまでの手順・注意点を解説
人事異動とは、企業の命令によって従業員の配置や地位、勤務形態を変えることを指します。事業者には労働契約に基づく人事権が認められているものの、人事異動のやり方によっては従業員の反発を招き、離職等のトラブルを招きかねません。
本記事では、
- 人事異動が企業に必要な3つの理由
- 人事異動を決定するまでの手順
- 人事異動させる対象者の決め方
- 人事異動させる際の注意点
このような内容を解説しています。人材の適正配置による組織力強化や、経営戦略の実現にお役立ていただけると幸いです。
人事異動とは
人事異動とは、会社の命令により従業員の部署・役職・勤務地・勤務形態などを変えることを指します。
事業者には労働契約に基づく人事権が認められており、基本的に従業員側が拒否することはできません。人事戦略に則った効果的な人事異動ができれば、個々のパフォーマンスが発揮されやすくなったり適材適所な配置ができたり、多くのメリットが得られます。
しかし、人事異動を出すタイミングややり方次第では大きな反発を招きかねません。場合によっては反発による離職が起きる可能性もあるので、十分注意しておきましょう。
人事異動の種類
人事異動の種類として、主に下記が挙げられます。
- 転勤
- 昇格・降格
- 職種変更(部署異動)
- 出向・帰任
- 転籍
特にイメージしやすいのは、転勤・昇格(降格)・職種変更です。引っ越しを伴う転勤や海外赴任を命じられたり、部署が変わって仕事内容もガラッと変化したりする様子がイメージできます。
他にも、昇格(降格)や出向(帰任)・転籍なども人事異動のひとつです。一方、昇給(降給)は人事評価の一環であるため、人事異動には含まれません。
人事異動に関連する制度
人事異動に関する制度として、社内公募制度や社内FA制度が挙げられます。
社内公募制度は新たな人材を求める部署が社内に向けて求人を出す制度であり、従業員は文字通り立候補するような形式で名乗り上げることができます。社内FA制度は従業員自ら希望する部署に自分を売り込む制度であり、新たな人材を具体的に求めていない部署にも立候補することができます。
社内に人事異動に関する制度があれば、従業員が自分のキャリアを考えるきっかけになるので検討してみましょう。
人事異動が企業に必要な3つの理由
ここでは、人事異動が企業に必要な理由を解説します。部署分けがされていない中小企業でも役職や仕事内容が変わるケースがあるので、自社のことを想定しながら目を通してみましょう。
1. 経営戦略を成功させるため
人事異動は経営戦略に基づいて実行されるものであり、目標達成に向けた手段のひとつとして活用されています。営業部の人員を増やして短期的に爆発的な収益獲得を目指したり、反対にバックオフィス部門を拡充して組織活性化を狙ったり、自社ならではの課題に合わせて人事異動することが大切です。
適材適所な人員配置ができればパフォーマンスも発揮されやすくなるので、戦略のひとつとして人事異動に取り組む企業が多いのです。
2. 人材を育成するため
複数の部署・役職を経験させ、人材を育成するために人事異動をする企業も存在します。ジョブローテーション制度を積極的に推進している企業では、人事異動の頻度が高くなったり大規模な職種変更や転勤を伴ったりすることが増加します。
また、ゼネラリストの育成を目指している企業でも、人材育成を目的に人事異動することが多いです。多様な業務を経験できるようになるためには、欠かせない要素と言えるでしょう。
3. 組織の新陳代謝を促すため
人事異動に伴い社内の人間関係が一新されたり、新たなコミュニティが生まれたりすることは多いものです。また、社内の横つながりが強化されて縦割り組織が改善されたり、風通しがよくなったりすることもあるでしょう。
部署単位での不正を予防するなど健全性維持に向けた効果も高く、多数の企業が新陳代謝活性化のため人事異動に取り組んでいます。従業員個人の仕事に対するモチベーションも刺激されやすくなるので、検討してみましょう。
人事異動のメリットとデメリット
人事異動は一見すると組織にとってメリットばかりであるように感じられますが、実はデメリットも存在します。メリット・デメリットをどちらも理解しながら、自社に合った人事異動にしていくことが大切です。
メリット┃適材適所による組織力の強化
人事異動をするメリットは、適材適所の人員配置をすることによる組織力の強化だと言われています。
タレントマネジメントの思考を取り入れて個別の適性に合った部署をあてがうことができれば、従業員が持つスキル・経験・知識を最大限活用できます。また、相性の良い同僚と働くことでモチベーションが上がるなど、副次的な効果も期待できるのです。
他にも、組織活性化・人材育成などさまざまなメリットがあり、多くの企業で人事異動が採用されています。
デメリット┃専門性低下やトラブル発生のリスク
人事異動のデメリットとして、専門性の低下やトラブル発生のリスクが挙げられます。
頻繁に人事異動をすると特定の仕事内容について知見を深める時間が足りなくなり、専門知識が身につかないまま次の人事異動を迎えてしまうことが少なくありません。全員がゼネラリストになれるのがメリットとはいえ、スペシャリストが欠けて専門性が発揮されなくなるというというデメリットがあるのです。
また、従業員の希望に合わない人事異動命令を出すことで反発されたり、一貫性のない人事異動ばかりになって不信感を招いたりすることも少なくありません。経営戦略に合った妥当性のある人事異動か、常に検討していくことが大切です。
人事異動を決定するまでの手順
ここでは、人事異動を決定するまでの手順を紹介します。1ステップずつ細分化しながら追っていくので、確認してみましょう。
1. 目的の明確化
まずは、人事異動をする目的を明確にします。「恒例行事だから」「なんとなくそろそろ人事異動するべきかと思うから」など曖昧な理由にせず、人事異動する正当性を可視化していきましょう。
そのためには、今の自社が抱えている人事戦略上の課題を明らかにしたうえで、人事異動以外も含めてさまざまな解決策を検討するのが近道です。結果的に人事異動が最適だと思われる場合に、次のステップに進みましょう。
2. 人材情報の整理
人事異動することが決まったら、自社に在籍している人材の情報を整理します。直近の実績・保有資格・人事評価の結果など仕事に直結することはもちろん、最終学歴・出身地・家族情報などのプロフィールも確認しておきましょう。
また、部署ごとに在籍従業員を確認し、パワーバランスが崩れていたり極端な人材不足(もしくは過剰人員)になっていたりする部署がないかチェックすることも大切です。
3. 候補者の決定
次に、人事異動する候補者を決定します。今の部署以上に最適と思われる部署があったり、業績や役割に期待して新たな業務を任せたりしたい従業員がいれば、積極的にピックアップしましょう。
また、人事異動する従業員が抜けた後、元いた部署の業務が問題なく回るかにも配慮することが欠かせません。場合によっては玉突き人事が発生する可能性もあるので、大規模な人事異動になることも少なくないのです
4. 候補者への内示
辞令を交付する前に、候補者への内示をおこないます。根回しも兼ねてあらかじめ話を通しておけば、大きな反発に遭うことなく人事異動を完了させやすくなるでしょう。
また、異動をする従業員を管理している直属の上司や、今後直属の上司になる可能性がある異動先のマネージャーにも話を通しておくのが理想です。部署ごとの戦略が変わってくる可能性もあるので、現場からの声も慎重に拾い上げていきましょう。
5. 辞令交付
問題なく同意が得られれば、辞令を交付します。辞令に関する社内情報格差が出ないように配慮し、誰もが同時に同じ内容を閲覧できる方式で辞令を交付するのが理想です。
例えば、社内ポータルサイト・グループウェア・社内SNS・社内報・メーリングリストなどが挙げられます。役職・年代・職種・勤務場所の差なく届けることで、会社への信頼性が増します。
反対に、オフィスワークの従業員しか交付内容をチェックできない「社内掲示」や口頭のみでの伝達は避けるのが無難です。
人事異動させる対象者の決め方
人事異動させる対象を決めるには、まず全従業員の情報を正しく把握・管理することが大切です。
例えば情報通信関連の資格を保有していてコツコツした作業が苦でなく、ハングリー精神が高くて自発的なスキルアップが期待できる人であれば社内SEなどに向いています。反対に、コツコツした作業は苦手だがコミュニケーション能力が高く、初対面の人からも好かれやすい性格であれば営業職向きでしょう。それぞれの適性・特徴を把握して、適材適所を考えることが大切です。
また、「年老いた親の介護をひとりで担っている」「療養と仕事と何とか両立させているが高度先進医療に対応している病院が転勤先にない」など、プライベートに配慮すべき点がないかも探っていきましょう。これをせず無理に人事異動命令を出してしまった場合、就労継続が危うくなる可能性が出てきます。
従業員の適性・特徴の把握に ourly profile
ourly profile(アワリープロフィール)は、個人のプロフィール機能や組織図機能などにより、組織のサイロ化を解消する社内コラボレーション創出ツールです。
3つの大きな特徴により、リモートワーク下でも部署を超えた相互理解やスキル管理を実現します。
- 人となりが一目でわかる自己紹介画面
- 独自の探索機能により、思いがけない出会いを創出
- 組織図により、チーム・部署を超えて組織を理解できる
社員名などの基本的な検索機能に加え、所属部署や役職、Q&Aの回答項目などさまざまなセグメントでメンバーを絞り込むことができます。
それにより「この人こんなスキルを持ってたんだ!」「プロジェクトで行き詰まったから同じような経験ある人にアドバイスをもらおう」など、これまでになかった”開かれたスキル管理”を社内で実現します。
料金については、従業員規模に応じて幅広くご用意しております。詳しくはサービスページをご覧ください。
人事異動を進める際の注意点
最後に、人事異動を進める際の注意点を解説します。配慮すべきポイントや陥りやすい認識のズレに触れるので、従業員からの反発を防ぐためにも目を通しておきましょう。
従業員の事情に配慮を示す
従業員のプライベートにも目を向け、配慮すべきことがないか事情を探っていくことが大切です。
例えば、前述のように高齢家族の介護をひとりで担っている従業員がいた場合、海外赴任を命じることで家族の孤立を招く可能性が高いです。異動日までに介護施設に入居できるか、そもそも本人たちが入居を希望しているかまで調査する必要があるでしょう。
小さな子どもが生まれたばかりで単身赴任が生じたり、片道2時間を超える長時間の通勤が必要なオフィスへの異動を命じたりすることで、従業員のワークライフバランスが崩れてしまうことも少なくありません。
異動拒否を防ぐための対処策を講じる
原則として企業が命じる人事異動を従業員が拒否することはできないものの、強い反発に遭う可能性は否定できません。「異動するくらいなら仕事を辞める」「急に言われても困る」と言われ、会社と従業員との間に確執が生じることもあります。
まずは、なぜ人事異動してほしいのか、人事異動することで会社だけでなく従業員本人にとってどのようなメリットがあるのか、伝えるところから始めましょう。また、一方的な命令ではなく相談から入るなど、心理的な配慮をすることもポイントです。
異動が無効となるケースに注意する
人事異動命令が無効となるケースとして、下記が挙げられます。
- 労働条件の著しい低下を伴う場合
- 従業員のワークライフバランスに著しい支障が出る場合
- 「妊娠したから」「宗教に入っているから」など不合理な理由である場合
- 業務上の必要性がないと認められる場合
上記の場合、会社からの人事異動命令であっても従業員が拒否することができます。場合によっては労働基準法違反であるとして厳しい追及を受けるケースもあるので、注意しておきましょう。
人事異動のポイントを押さえて組織力強化に繋げよう
効果的な人事異動ができれば、組織活性化・パフォーマンス向上・適材適所での人員配置などさまざまなメリットが得られます。しかし、一方的かつ戦略に合わない人事異動をしてしまうと従業員からの反発を招き、却ってパフォーマンスが下がる可能性もあるので注意しておきましょう。
まずは社内報などを通して人事異動の価値を理解してもらうなど、社員教育を徹底する方法もおすすめです。人事異動のポイントを抑えてから実行に移し、満足度の高い戦略を実行していきましょう。