大企業からベンチャー企業まで、1on1ミーティングを導入している企業はたくさんあります。例えば、Yahoo!(ヤフー)は、2012年から1on1ミーティングを実施しており、書籍化されているほど有名です。
この記事では、1on1ミーティングの目的から、設計プロセス、成功のポイントを解説します。
1on1ミーティングとは?

“1on1ミーティング”とは、定期的に、上司と部下で行う面談です。基本的には、上司が1on1ミーティング設計の中心となって、実施されます。
目的としては、信頼関係の構築や、戦略・施策の浸透など、多様に設計できます。
1on1ミーティングのメリットは、主に5つ挙げられます。
- さまざまな種類の目的達成のために設計できる
- 上司と部下の信頼関係の構築できる
- 上司のマネジメントを見つめ直せる
- 部下のリアルな課題を把握できる
- 部下のモチベーション管理ができる
反対に1on1ミーティングを行うデメリットも、3つ挙げられます。
- 社員数に応じて時間を取られる
- 設計を怠ると簡単に形骸化する
- 1on1ミーティングの成果の測定がしづらい
1on1ミーティング注目の背景・必要性
昨今はVUCA時代と呼ばれ、将来への不確実性が高くなっています。そのため人材の流動化が進み、会社経営にも大きな影響を与えている現状です。
これからの会社経営には、社員と会社の信頼関係を構築し、社員の主体的な行動を引き出すことが大切でしょう。その手段として、1on1ミーティングなどの、社内向けの施策が注目されています。
VUCA時代、従業員エンゲージメントについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
評価面談との違い
評価面談と1on1ミーティングでは、目的が異なります。
評価面談では、その名前の通り、上司が部下の評価を決め、今後の進退を決定することが目的です。
一方、1on1ミーティングは、評価が主な目的ではないことが多いです。例えば、上司と部下の信頼関係の構築や、戦略や企業文化の浸透など、対等な会話で目的の達成を目指します。
詳しくは次の章で解説しています。
1on1ミーティングの目的・アジェンダ

1on1ミーティングは、解決したい社内課題や、把握したい社内環境によって、自由に設計できます。目的と、それに対応するアジェンダを紹介していますので、設計の参考にしてみてください。
信頼関係の構築
1on1ミーティングの目的の1つ目は、「上司と部下の信頼関係構築」です。雑談に近い自由な会話で、相互理解を深め、信頼関係を構築しましょう。
信頼関係の構築には、相槌や姿勢、表情、声のトーンなど非言語の部分も大切です。
例えばこんな悩みのある組織で:
- 部下が、上司のアドバイスや指示に従ってくれず、反抗的……
- 部下が、上司への不満をためている
- 上司と部下のコミュニケーションが少ない etc
アジェンダ例:
- 好きな食べ物・スポーツについて
- 気になるニュースについて
- 最近の体調について
- 仕事環境・人間関係について etc
仕事の進捗把握
1on1ミーティングは定期的に行うことが一般的なため、「仕事の進捗把握」の機会に使えます。把握と同時に、催促などの進捗管理も行いましょう。
例えばこんな悩みのある組織で:
- 部下の仕事の進捗に不安がある
- 部下の裁量権が大きい
- スピーディーに進めたいプロジェクトである etc
アジェンダ例:
- 次回ミーティングまでの目標設定と確認
- プロジェクト全体の進捗・タイムラインについて
- 仕事を進める上で障害となっていることについて etc
戦略や施策の浸透
代表や経営者での会議で決まった戦略などを浸透させたい時は、1人1人に対して個別に伝えることで、理解の確認や反応を見ることができるため、効果的です。正確な浸透で、企業文化の醸成にもつながります。
例えばこんな悩みのある組織で:
- 多くのチームを持っている
- 新しい戦略が浸透しない
- 効果がでていない戦略がある
- 部下と経営者の間で、戦略の解釈にズレを感じる etc
アジェンダ例:
- 新しい戦略の設計背景や上司の意図について
- 戦略の疑問点・不明点について
- 既存の施策の効果や印象について etc
モチベーション確認&刺激
1on1ミーティングの1番の目的はこれかもしれません。社員によって、仕事に対するモチベーションに差があることは当然です。アジェンダも大切ですが、上司と1対1で話す機会そのものがモチベーションアップにつながる可能性は大きいです。部下の話したいことをしっかりと聞くようにしましょう。
例えばこんな悩みのある組織で:
- 離職率が高い
- 成果が出ていない
- 若いメンバーが多い
- 勤務態度が良くないメンバーがいる
- 社員が成果の見えづらい仕事を行っている etc
アジェンダ例:
- 不安なことについて
- 今頑張っていることについて
- 仕事で困っていることについて
- 部下のキャリアビジョンについて
- 部下の目標・仕事の目的について etc
目標設計と振り返り
上司と目標を設計し、共に振り返られることは、部下にとって貴重な成長機会となるでしょう。より成果を出せる組織を作るためにも、部下の成長に真摯に向き合ってみましょう。
例えばこんな悩みのある組織で:
- メンバーの成長を感じない
- もっと成果の出せるチームにしたい
- 仕事の内容がシンプルで、メンバーのモチベーションが下がりがち etc
アジェンダ例:
- 部下のキャリアビジョンについて
- 仕事で困っていることについて
- 最近の仕事内容について etc
1on1ミーティングの設計プロセス

1on1ミーティングをただの雑談で終わらせないために、かっちりと設計しましょう。
大切なのは、目的をベースに設計することです。目的に応じて、実際に話すテーマ(アジェンダ)や実施場所、態度、雰囲気まで明確に設計してみると良いでしょう。
(1)目的の明確化
まず初めに目的を明確にしましょう。数個の目的を設定して、アジェンダも数個用意すると、充実した1on1ミーティングになります。
(2)1on1ミーティング実施方法の設計
いつ、どこで、誰と誰が、どんな態度で、1on1ミーティングを行うのかについて決めましょう。
実際にたくさんの人と行う場合には、専用のシート(テンプレート)を用意しておくと便利です。例えば、当社メンバーが所属していたエンジニアチームで使われていたシートでは、仕事の進捗管理や、目標設計と振り返りができるようになっていました。

(3)連絡と実施
日程調整を行い、実行しましょう。
毎回新たに日程調整を行うと負担が増えるため、「○週間に1度、○曜日○時~」というように決めておくと良いでしょう。
(4)継続
1on1ミーティングは継続しなくては意味がありません。
特に現代は、変化が激しく将来が不確実で、部下の不安も蓄積しやすいでしょう。メンタル面の把握も含めて、風通しの良い会社を目指しましょう。
1on1ミーティング成功のポイント

1on1ミーティングを導入した結果として、次のような問題が発生しがちです。
- おしゃべりを楽しんで終わる
- なんのために行っているのかわからなくなる
- 1度の実施以来行われていない
こうした事例の解決には、4つのポイントを抑えた設計を行うことで解決できるでしょう。
目的を明確にしておく
なんのために1on1ミーティングを行うのか(目的)を、明確にしておきましょう。目的は主に次の5つです。
- 信頼関係の構築
- 仕事の進捗管理
- 戦略や施策の浸透
- モチベーションの確認・刺激
- 目標設計と振り返り
1on1用のシートを作成する
目的をもとにシートを準備し、部下の回答を入力しておきます。そうすることで、次回以降の1on1ミーティングにも役立つでしょう。特に仕事の管理と振り返りを行う際には有効です。
また、モチベーションやたわいもない会話を上司が覚えてくれていると、部下は嬉しいものです。より良い信頼関係を構築できるでしょう。
時間を設定する
時に1on1ミーティングは長引いてしまいます。時にそれは生産的でない、お喋りになってしまっていることもあるでしょう。各社員何分で終わらせるのかを決めておきましょう。
1on1ミーティングに乗り気でない部下も、時間が決められていれば少しは参加意欲が高まるはずです。
相手を主語にする
上司のアドバイスを与えるよりも、部下の主体的な行動を促すような1on1の行い方にしましょう。
日常的にPDCAを回せる社員は、成長速度が速いです。1on1ミーティングでもその癖をつけることを意識しましょう。具体的には、部下が話したいことを引き出し、課題を明確化させ、ネクストアクションを部下自身で出せるようにします。
1on1ミーティングの事例紹介3選

1on1ミーティングで有名な企業を3つ紹介します。これから導入する方も、改善をしたい方も、これらの企業を参考にしてみてください。
ヤフー株式会社
Yahoo! Japanなどを運営する大企業ヤフーは、2012年から1on1ミーティングを実施しています。
ヤフーの1on1ミーティングには1点目立つ特徴があります。それは1on1そのもののクオリティをあげる施策を行ってきたことです。具体的には、上司のコーチング研修や部下からのフィードバックです。
1on1ミーティングを仕組み化し、その上で改善を続けていく着実な姿勢が見受けられます。結果としてヤフーは、変化した経営体制の浸透に成功しています。
グリー株式会社
ゲーム事業やメディア事業など幅広く展開するグリーも、1on1ミーティングで有名な会社です。1番の特徴は目標管理制度(MBO)をうまく運用している点でしょう。
社員の目標の達成度合いを5段階で評価し、定期的な1on1で上司からのフィードバックをもらったり、振り返ることのできる仕組みを作りました。
目標設計の振り返りは、社員の主体的な行動を促す上で重要であり、それを1on1ミーティングと結びあわせることで、確実に部下を育成できます。
ソフトバンク・テクノロジー株式会社
ソフトバンクの連結子会社です。この会社が1on1ミーティングで達成していることは、風通しの良い会社の実現です。
業務的な管理だけでなく、部下の悩みまで上司が把握することを求められています。トップダウンとボトムアップの両立により、風通しの良さが実現されているのです。
社内課題解決ツール3選

ここまで、1on1ミーティングを行う際は、目的が大切だと述べてきました。しかし、それらの目的の達成に役立つツールは、実は他にも存在します。
有名なものを3つほど紹介します。「1on1ミーティングの継続は、自社に適していないかも…」と思う方も多いかもしれません。そんな方は、こちらのツールを参考にしてみてください。
社内報
社内報は信頼関係の構築や、モチベーションの刺激に有効なツールです。
紙版とWeb版のある社内報にできることは、現在とても幅広くなっています。例えば、Web版では様々な計測ができるようになったり、簡易的に幅広い情報を発信できるようになりました。
社内報やWeb社内報について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
ピアボーナス
ピアボーナスは、信頼関係の構築、戦略や施策の浸透、モチベーションの刺激に有効なツールです。
ピアボーナスとは、社員同士が互いの良い行いを評価し、ポイントやコイン、チップなどを付与する仕組みです。仕組みが定着すると、経営理念にそった社員の行動を促すことができます。その他にもモチベーションのアップなども期待できるでしょう。
タレントマネジメント
タレントマネジメントとは、従業員が持つ資質(=タレント)やスキルを最大限発揮できるよう、戦略的に人事マネジメントを行う取り組みのことを指します。人事領域において、とても大切な概念です。
クレド
クレド(行動規範)として設定する項目を工夫することで、多様な目的を達成できるでしょう。また、設定しているだけでモチベーションの刺激が可能です。明確な行動規範は社員の会社での生活を支えるからです。
クレドとは、ラテン語で約束や信条を意味し、企業の社員全員に求められる信念や行動規範のことを指します。クレドは企業全体に共有され、社員はクレドを意識した行動が求められます。
360度評価
これまでの人生で、評価方法に不満を持った経験は誰しもあるでしょう。この評価方法は、仕事の進捗把握や、信頼関係の構築、社員のモチベーションの刺激に有効です。
360度評価とは、上司の他に同僚や部下などの複数の評価者が、対象者の評価を行う制度のことです。多面評価、360°サーベイとも呼ばれ、社内に限らず取引先や顧客にも評価してもらうこともあります。
1on1ミーティングを使いこなそう!
1on1ミーティングは社内課題を解決するためには、有効な手段の1つです。
上司・部下の両者にとって時間的なコストは伴いますが、部下の成長や貢献を引き出すことができます。目的の設定など、設計に時間をかけて、継続的に1on1ミーティングを行いましょう。
また、1on1ミーティングの他にも社内課題を解決する手段は存在します。様々なツールを上手に運用し、社員のエンゲージメントを高めみてはいかがでしょうか。