この記事をシェアする

【対談vol.4】「優秀な人」を採用してはいけない?人口減少時代に組織を強くする“物語”の力

髙橋 新平

公開日:

2026.01.26

更新日:

2026.01.26

【対談vol.4】「優秀な人」を採用してはいけない?人口減少時代に組織を強くする“物語”の力
田中 安人さん

田中 安人
(たなか やすひと)

インタビュイー

株式会社グリッド
CEO

東証一部上場企業経営企画室で戦後初の倒産を会社経営人と対峙しながら会社分割、譲渡、社員移籍を推進しながら会社の清算を経験後、アドバタイジングエージェンシー創業、後にマーケティングコンサルティング会社を創業し吉野家CMO、(公)日本スポーツ協会ブランド戦略委員、スタートアップ支援、大手エージェンシーアドバイザー等々歴任。スポーツ界とビジネス両方での組織変革、リーダーシップ育成を得意領域とする。(2025年12月16日時点)

人口減少が進む日本社会において、企業の最大の課題の一つとなっている「採用」。 「優秀な人材が採用できない」「採用してもすぐに辞めてしまう」といった悩みを抱える経営者や人事担当者は少なくありません。

今回は、組織開発のプロフェッショナルである田中安人氏に、人口減少時代における採用と組織づくりについてお話を伺いました。

 「学歴で採用してはいけない」「人は情報を食べている」など、本質的な組織論とマーケティング視点を交えた採用戦略について語っていただきます。

【対談vol.3】組織をV字回復させる「変革の8プロセス」と「成功循環モデル」の記事はこちらをご覧ください。

目次

採用の目的は「遠くへ行くため」。学歴よりもカルチャーフィット

髙橋:今回は、多くの企業が課題を抱えている「採用」についてお伺いしたいと思います。人口減少が進み、人材獲得競争が激化する中で、企業はどのように採用活動に取り組み、組織を作っていくべきなのでしょうか。

田中:まず根本的な問いとして、「なぜ人を採用するのか」を考える必要があります。それは「遠くに行きたいから」ですよね。より高い目標、まだ見ぬ景色に到達するために、仲間を集めているわけです。

私が仕事で関わっているスポーツの世界で、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のアメリカンフットボール部のGMがこう言っていました。「俺たちの仕事の50%はリクルーティングだ」と。 全米トップ0.6%という狭き門の選手たちを獲得するために、自分たちの価値、パッション、戦略、戦術のすべてをプレゼンテーションするんです。

日本の企業の社長は、そこまでやっているのでしょうか?
組織の課題はすべて「人」に帰結します。だからこそ、採用には全力を注ぐべきなんです。

髙橋:なるほど。ただ、「全力を注ぐ」といっても、多くの企業はいわゆる「優秀な人」を採用しようと必死になっていますよね。

田中:そこが落とし穴なんです。皆さんがイメージする「優秀な人」とは、例えば高学歴であるとか、前職で実績があるといったスペックであることが多い。しかし、これからの時代に本当に重要なのは、「その組織にマッチしているか」です。

もっと言えば、「その会社に入った時に、内発的動機でワクワク働ける人か」ということ。 共通の目標を提示し、それに共感して自ら動ける人を採用できているかどうかが重要です。自分たちの会社のDNAや価値、ドリーム(夢)を設計せずに、ただ世間的に優秀な人を採用してしまうから、ミスマッチが起きるんです。

髙橋:世の中の「優秀」の定義と、自社にとっての「優秀」の定義は違うということですね。

田中:その通りです。学歴で採ってはダメです。よく「この人、経歴は優秀なんだけど、うちで働いている姿が想像できない」という相談を受けますが、それは採用してはいけません。カルチャーフィットしていないからです。

パーパスは「根っこ」、ミッションは「幹」。組織文化という土壌の耕し方

髙橋:カルチャーフィットを見極めるためには、まず自社のカルチャーを明確にする必要がありますね。

田中:はい。私はよく組織を「木」に例えて説明します。

  • パーパス(存在意義):木の根っこ
  • ミッション(使命):幹
  • バリュー(価値観・行動指針):枝葉

ミッションという「太陽」に向かって枝葉(バリュー)は伸びていきます。そして、根っこ(パーパス)がしっかり張っていないと、幹は太くなりません。 そして一番大事なのが、この土壌を耕す人間です。これが「文化」です。文化という土壌に、水と栄養を与えているか。この「水と栄養」こそが、その組織のバリューなんです。

田中さんが考えるMVV

バリューとは行動パターンであり、トップの評価基準そのものです。だから、このバリューを「楽しい」「やりがいがある」と思えない人を採用してはいけないんです。

髙橋:自社のカルチャーを言語化し、「うちはこういう人を求めている」と発信することで、本当に合う人が集まってくる状態を作ることが必要なんですね。

田中:そうです。自分たちの「Why(なぜ存在するのか)」と「価値」が明確であれば、それに惹かれる人が来ます。 もし自分たちの価値が分からなければ、お客様に直接聞いてみてください。「なぜ、うちにお金を払ってくれているんですか?」と。

有名な話ですが、「ドリルを買いに来る人は、ドリルが欲しいのではなく、1cmの穴が欲しい」という言葉がありますよね。 自分たちは高価で高性能なドリル(技術)を売っているつもりでも、お客様が求めているのは「穴」という結果かもしれません。ここを勘違いしている企業が多いんです。

人は「機能」ではなく「物語」を買う。価値創造ストーリーの作り方

髙橋:自分たちの提供している本当の価値を理解し、それをストーリーとして語れることが重要なんですね。

田中:P&Gのおむつの例も分かりやすいです。P&Gの人たちに自分たちの価値を聞くと、最初は「吸水ポリマーの技術」だと答えるかもしれません。でも、お母さんたちが買っているのは技術ではなく、「子供がすやすや寝てくれる時間」なんです。

技術や機能を、顧客にとっての価値に変換する。そして、自分たちの「Why」と「Dream」を一直線に結ぶ。これを私は「価値創造ストーリー」と呼んでいます。 このストーリーを新入社員が自分の言葉で語れるようになれば、絶対に物は売れますし、採用も上手くいきます。

価値創造ストーリー

髙橋:これからの時代、特に「物語」の重要性は増していきそうですね。

田中:情報は溢れかえり、AIの台頭で機能的な差はつきにくくなります。そうなった時、人は必ず「物語」で動きます。

私が吉野家の仕事をしていた時、店内で女性のお客様にインタビューをしたことがあります。「なぜ吉野家に来てくださるんですか?」と聞くと、皆さん共通して「子供の頃、家族で初めて食べた思い出」を語ってくれたんです。 その時、私は「この人たちは牛丼ではなく、思い出を食べているんだ。情報を食べているんだ」と気づきました。

自分たちが提供していると思っている価値と、お客様が受け取っている価値(インサイト=人間の欲望)にはズレがあることがあります。そこを対話によって埋めていくことで、真の「価値創造ストーリー」が見えてきます。

ビジョンは「絵」にする。言葉の限界を超える共有方法

髙橋:そうした物語や価値観を、社内外に浸透させていくための具体的な方法はありますか?

田中:暗黙知を形式知にすることですが、一番おすすめなのは「絵にする」ことです。

人間の脳は、鮮明にイメージできたことを実現しようとする習性があります。 「5年後、自分たちのサービスでお客様がどうなっているか、自分たちの家族がどうなっているか」を一枚の絵に描く。Airbnbの創業時の絵や、アラン・ケイがiPadの概念を描いたスケッチのように、絵にできたものは現実にできるんです。

髙橋:言葉だけでなく、ビジュアルで共有するということですね。

田中:言葉は解釈が人によってブレますが、絵は強いです。リーダーは、ドリームを絵に落とし込むことにチャレンジしてほしいですね。

変革は「辺境」から。「若者・バカ者・よそ者」と出島戦略

髙橋:ここまで、カルチャーフィットする人材の採用について伺いましたが、一方で、組織にイノベーションを起こすためにはどのような人材が必要でしょうか?

田中:イノベーションにおいて重要なのは、「若者・バカ者・よそ者」です。 歴史を見ても、「変革は辺境からしか生まれない」と言われています。中心にいる人たちではなく、端っこにいる危機感を持った人たちが新しい風を吹き込みます。

ただ、既存の組織の中に異質な人を入れると、「俺たちの稼いだ利益を食いつぶしやがって」と反発が起きやすい。 そこで有効なのが「出島」戦略です。

髙橋:長崎の出島のように、あえて本体とは切り離した組織を作るわけですね。

田中:そうです。出島を作って、そこでは評価基準も変える。既存事業と同じ評価軸では、新規事業やイノベーション担当者は評価されにくいですから。トップが彼らを守り、心理的安全性を担保することが不可欠です。

面白い事例として、ロート製薬さんの話があります。ロート製薬では、新規事業の出島にシニア人材を送り込んでいるそうです。 そうすると、本体組織が若返りますよね。一方で、出島に行ったシニアも「ここで一花咲かせてやる」と必死に頑張る。結果として、本体も出島も活性化し、業績が伸びているんです。

髙橋:それは面白い逆転の発想ですね! 若手に既存事業を任せ、シニアが新規事業に挑む。

田中:本体の若返りと、シニアの活性化を同時に実現する素晴らしいモデルだと思います。 既存事業を伸ばすためにはカルチャーマッチした人材を採用し、イノベーションのためには出島を作って「辺境」の人材を活かす。この両輪を回していくことが、これからの経営には求められるでしょう。

髙橋:人口減少時代における採用と組織づくりのヒントをたくさんいただきました。本日はありがとうございました。