キャリア設計とは?目的や企業が支援するメリットと手順を解説
キャリア設計とは、ビジネスパーソンとしての将来の目標やビジョンを明確にし、実現に必要な行動を計画することです。
人生100年時代の到来や終身雇用・年功序列制の廃止などを背景に、長期的なビジョンをもつ重要性が増して来ており、従業員の長期的なキャリア設計を支援する企業が増えてきています。
そこで本記事では、キャリア設計の目的や企業が支援するメリット・デメリット、手順、おすすめの施策、企業事例について解説します。
キャリア設計とは?
キャリア設計とは、個々のビジネスパーソンが「自身の目指す姿」を思い描き、将来の職業人生を主体的かつ具体的に設計することです。現在の立ち位置を十分に理解したうえで、短期的・中期的・長期的な視点で、自身のなりたいビジネスパーソンとしての姿をデザインしていきます。
単に携わりたい職種や、役職をイメージするだけでは、キャリア設計とはいえません。また、キャリア設計において重要なのは、主体性を発揮することです。キャリアは人から与えられるものではなく、自身で切り開くといった考えを持つことが必要です。そのうえで、自身のこれまでの職業経験により得たスキルや行動特性をもとに、5年・10年・15年先のキャリア目標をイメージしていくとよいでしょう。
キャリア設計の目的
キャリア設計の目的は、個々の人材に「ビジネスパーソンとしての自身の価値や、今後の行動を明確化してもらう」ことです。キャリア設計が注目される背景には、さまざまな要因があります。具体的には、VUCAと称される社会構造の変化や、終身雇用や年功序列の崩壊により、人材の流動性が高まったことが挙げられるでしょう。
こうした環境の変化に応じ、個人の働き方も変化していかなくてはなりません。キャリア設計
は、自身のビジネスパーソンとしての「あるべき姿」を明確にし、職業人生をより充実させるものです。自分らしい働き方の軸を見定め、実現するために欠かせないものといえます。
キャリアプラン・キャリアパス・キャリア形成との違い
ここでは、キャリア設計と混同しがちな用語を整理しておきます。キャリア設計とは、自身のキャリアを主体的かつ具体的にデザインすることです。「キャリアプラン」とは、その実現のための具体的な行動計画を指します。
「キャリアパス」は、所属する企業のなかで目標とするポジション(役職)に就くためのステップです。そして、「キャリア形成」とは、日々の業務を通じて職業能力を得ていく活動そのものを指します。「キャリアプラン」「キャリアパス」「キャリア形成」は、個人の「キャリア設計」を実現するための要素と捉えることができるでしょう。
キャリア設計を企業が支援するメリット
企業が個々の社員のキャリア設計を支援することにより、さまざまなメリットが期待できます。具体的には以下の2つが挙げられます。
- 離職防止や定着率の向上
- エンゲージメントの向上
いずれも、企業運営にとって重要な課題となるものです。詳しくみていきましょう。
離職防止や定着率の向上
人材が定着しないことは、企業活動における大きな損失です。企業が社員のキャリア設計を支援することにより、離職の原因となる「ギャップ」を埋めることにつながります。
キャリア設計を支援することにより、個々の社員がどのようなキャリアを思い描いているのかを把握できます。社員が目指す姿を知れば、会社は必要な情報提供をおこなうなど、過不足のないフォローが可能になるでしょう。働き続けることで、目指すキャリアが実現できると理解する社員が増えることにより、おのずと定着率は向上していきます。
エンゲージメントの向上
会社が個人のキャリア設計を支援することにより、相互の信頼関係が構築されるでしょう。社員一人ひとりが望むキャリアを理解し支援することにより、多くの社員は自身が大切にされているという実感を持つようになります。
こうした実感は、企業に対する愛着を生み貢献意欲を高めます。エンゲージメントが向上することで個人の成長も加速し、企業運営にプラスの結果をもたらすのです。
キャリア設計を企業が支援するデメリット
一方、キャリア設計を支援することによるデメリットについても、注意しておく必要があります。懸念されるデメリットとしては、以下の2つが考えられます。
- 転職や退職を考えるきっかけにもなりうる
- 昇進や昇給が目的化されるリスクが高まる
詳しくみていきます。
転職や退職を考えるきっかけにもなりうる
キャリアを深く考えるプロセスで、このまま働き続けることが、自身の目指すキャリアにつながらないと感じる社員が出てくるかもしれません。個人が抱くキャリアの展望に、企業が応えられない場合、転職を考えるきっかけになってしまうのです。
こうしたリスクを回避するには、キャリアデザインの目的を再確認することが有効です。個々の社員の目指す姿や、習得したいスキルといったキャリア設計の本質的な部分にフォーカスし、企業としての支援を考えることが対策になるでしょう。
昇進や昇給が目的化されるリスクが高まる
企業がキャリア設計を主導してしまった場合、社員の多くが「企業が求める人材像」を意識しすぎる可能性があります。その結果、高い評価を得たいと考え、企業が望むような、キャリア設計をする社員が出てきてしまいます。キャリア設計の目的が、昇進や昇給だけになってしまうのです。
本来、キャリア設計は自身の目指すキャリアを実現し、職業人生を充実させるものでなくてはなりません。昇進や昇給だけが目的化されないよう、キャリア設計の目的を社員・企業双方で再確認する必要があります。
キャリア設計の手順
キャリア設計をおこなう際には、社員個人の「現在地」を把握してもらうことからはじめます。そのうえで、自身の「なりたい姿」「あるべき姿」を明確にしてもらい、実現のために「するべき行動」を決めていくプロセスが一般的です。
1. キャリアの棚卸しをする
自身の「現在地」を明確にするプロセスです。これまでのキャリアで経験した職務内容やその成果、どのようなスキルが身に着いたのかを振り返ります。
キャリアの棚卸しをする際には、実際の業務において関わった人や苦戦したこと、それをどうやって乗り越えたかなど、より具体的に振り返ることが大切です。こまかく整理することにより、自身の強みや弱点がより明確になるでしょう。
2. 目標とするキャリア像を明確にする
キャリアの棚卸しにより自身の現状が明確になったら、そこから目指す「なりたい姿」「あるべき姿」を明確にしていきます。その際、自身の興味や、強みを活かせる方向で考えをまとめるとよいでしょう。
目指すポジションや具体的な職務内容だけでなく、どのような働き方が理想かといった、仕事と人生の全体像をイメージすることが重要です。目指す姿が明確になれば、おのずと現状とのギャップが把握できるでしょう。
3. 目標を達成するためにやるべきことを整理する
現状と理想のギャップが明確になることで、解決すべき課題が見えてきます。課題解決のための具体的な行動を洗い出すプロセスです。
目指すゴールから逆算して、どのようなスキルをいつまでに習得する必要があるのか、というように目標を定めていきます。その際、それぞれの目標には「何歳までに」というような、期限を設定することで実現の可能性が高まります。最終ゴールを明確にしたうえで、最初のステップをクリアする、具体的なアクションをおこしていくとよいでしょう。
キャリア設計の支援におすすめの施策
ここでは、企業として社員のキャリア設計を支援するうえで有効な施策を紹介します。こうした施策を実行することは、社員のエンゲージメント向上に長期的なよい影響をもたらします。具体的には以下の5つです。
- キャリアデザイン研修
- キャリア面談
- 目標管理制度
- コーチング
- キャリア選択をしやすい人事制度の導入
キャリアデザイン研修
定期的にキャリアデザイン研修を実施することは、多くの企業で取り入れられている手法です。年次が上がるごとに業務内容も難易度が上がり、部下や後輩を持つなど、自身を取り巻く仕事の環境は変わります。当然、目標や悩みも変わってくるでしょう。入社時、3年目、5年目など節目の年次に研修を実施して、視野を広げてあげることが大切です。
管理職への登用時など立場が大きく変わる節目に、キャリアデザイン研修を実施するなど、長期的な支援をおこなうとよいでしょう。
キャリア面談
キャリア面談を実施して、社員と企業双方の相互理解を深めることも、キャリア設計において有効な手法です。面談により、企業は社員が考えているキャリアの希望や現状を把握できます。不足に対しタイムリーなサポートをおこなえば、社員の目標達成スピードも高まり、モチベーションも向上するでしょう。
キャリア面談は、人事部や直属の上司などがおこなうケースが多いようです。キャリアデザイン研修と同様に、単発ではなく定期的に実施することが望ましいといえます。
目標管理制度
目標管理制度を、キャリア設計に活用することも効果的です。人事評価に目標管理を用いている企業も多いでしょう。キャリア設計に目標管理を取り入れる場合、人事評価とは違った視点が必要です。
人事評価における目標管理は、営業数値など短期的な目標になることが多いようです。キャリア設計における目標管理は、職業生活全般にわたる長期的な視点で捉える必要があります。対象となる社員の、将来を見据えたものでなくてはなりません。
コーチング
コーチングもキャリア設計においては、有効な手法です。先輩や上司がメンターとなり実施する方法と、外部のコンサルタントを活用し専門家の力を借りる方法の2通りがあります。
上司や先輩がメンターとなる場合は、日々の業務行動で気が付いたことをタイムリーにフィードバックできる利点があります。外部コンサルタントを活用する場合は、適性テスト自己分析ツールを使用することが多いため、自身でも気が付かなかった強みを発見することもあるようです。
キャリア選択をしやすい人事制度の導入
人事に希望が反映されやすい仕組みや、働き方を柔軟に選べるような人事制度を導入すると、社員のキャリア設計の幅が広がります。以下に挙げる制度は、キャリアデザインを支援し、社員の可能性を広げる効果が期待できるものです。
- 社内公募制度
- 社内FA制度
- 異動自己申告制度
- 社内インターンシップ制度
- リモートワーク制度
- フレックス勤務制度
- 地域限定職制度
多様かつ柔軟な働き方を提供できる制度があることで、エンゲージメントが向上します。結果として、企業価値を高めることにもつながるでしょう。
キャリア設計の支援に力を入れる企業事例
厚生労働省は2012年度より、社員の自律的なキャリア支援に取り組む企業を公募し、優れた事例を表彰する「キャリア支援企業制度」を実施しています。また、ホームページ上で事例を紹介しており、そのなかからここでは2つの事例を紹介します。
(参照:,「キャリア支援企業表彰2015好事例集」,<https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/shokugyounouryoku/career_formation/career_consulting/goodpractice.html>, 2023年1月閲覧)
東京海上日動火災保険|すべての47歳社員を対象としたキャリアデザイン研修
東京海上日動火災保険では、OJTを中心に人材育成に力を入れています。実効性のあるOJTを実施するために、上司と部下の対話を重視し、部下一人ひとりに向き合ったキャリア支援を実施しています。
なかでも特徴的なものは、「キャリアデザイン47研修」です。47歳時点の社員すべてを対象にした集合研修で、会社への貢献と個人のライフプランの充実について考える機会を設けています。今後のキャリアを見据え、より主体的な働き方を実現すべく、必要な知識と情報を習得させ、受講後のフォローまでおこなっています。
リコー|キャリアの節目でのキャリアデザイン研修
リコーの人材育成は、人材のタイプを7つに分類し、人材タイプ別の育成プログラムを構築している点が大きな特徴です。キャリア支援の取り組みとしては、人生とキャリアの節目となる、30歳・40歳・50歳において、キャリアデザイン研修を実施しています。
同社のキャリアデザイン研修では、過去の振り返りから将来を見据え、自身と会社のニーズを踏まえたキャリアビジョンを描き、達成に向けたアクションプランを策定します。
また、専門の資格を持ったキャリア相談員を配置して、キャリア相談を実施するなど、社員の自律的なキャリア形成をサポートしているようです。
キャリア設計の情報共有に ourly
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キャリア設計を支援し社員の離職防止とエンゲージメント向上を
企業が積極的に社員のキャリア設計に関与することは、社員の離職防止やエンゲージメント向上につながるメリットがあります。社員一人ひとりの成長を願い、適切なサポートをおこなうことにより、貢献意欲とモチベーションが向上し、事業も成長していくでしょう。
反面キャリア設計は、その目的を企業と社員の双方で正しく理解していなければ、デメリットが生じるものでもあります。社内広報の取り組みを通じて、相互理解を深めることが必要です。