CHRO(最高人事責任者)とは?5つの役割と必要な能力を解説
CHRO(最高人事責任者)とは、経営幹部の一員として企業の人事戦略を統括し、人事全般の責任を担う役職です。Chief Human Resource Officerの略称で、これまで日本では「執行役員人事部長」などの役職が同義で使われてきました。
いま、労働人口の減少や先行き予測の難しい社会情勢を背景に、経営戦略と連動させたCHROによる組織づくりが注目されています。
本記事では、CHROが必要とされる背景や企業で果たすべき5つの役割、CHROに必要な6つの能力などについて解説します。CHROを育成する方法や国内企業の事例も説明するので、ぜひお役立ていただければと思います。
CHRO(最高人事責任者)とは
CHROとは、「Chief Human Resource Officer」の略称で、日本語では「最高人事責任者」と称されます。人事関連の業務を統括するだけでなく、より経営に近い立場で人事戦略の立案から遂行までにかかわるポジションです。
ビジネス環境が大きく変化するなか企業が発展を続けるには、人材にかかわる経営判断が重要です。人事に関する権限を有し、経営の中枢で経営戦略に携わるポジションであるCHROは、組織運営において重要なポジションといえるでしょう。
CHROと人事部長との違い
人事部長とCHROの違いは、経営に直接的にかかわっているかどうかにあります。人事部長は採用や育成、労務管理などの実務責任者としてのポジションです。経営層より示された経営戦略を実現するために、これらの業務を遂行する立場といえます。
一方CHROは経営戦略の策定に参画し、人事戦略の中心的な役割を担います。会社全体を俯瞰しつつ戦略的な人事施策を講じ、経営の最適化に貢献することがCHROに求められる役割です。
CHROとHRBP(HRビジネスパートナー)との違い
CHROが経営の一端を担う人事責任者であるのに対し、HRBPはコンサルティング的な立場で企業人事にかかわります。HRBPは経営層のビジネスパートナーとして、人事にかかわる意思決定のサポートをすることが主な役割です。
CHROが策定した経営戦略に基づいた戦略人事を実現するために、より現場に近い立場で具体的な業務にも関与することもあります。最高経営責任者とCHRO、CHROと現場の橋渡しをするポジションといえるでしょう。
CHRO(最高人事責任者)が必要とされる背景
CHROが必要とされ注目を集める背景には、VUCAと称される社会の不確実性があります。労働人口の減少やパンデミック等さまざまな要素が絡み合い、先を見通した経営が難しくなっています。
優秀な人材の確保は企業の重要な経営課題です。人材の確保が困難を極めるなか企業が事業を継続し発展していくには、柔軟な人事マネジメントや経営戦略の強化が求められます。経営視点で人事施策を検討できるCHROの存在は、ますますニーズが高まるでしょう。しかし、国内での認知度はさほど高くない現状も忘れてはいけません。
日本企業におけるCHROの実態
欧米各国と比較し、日本企業におけるCHROの認知度は、依然として低いといわざるを得ません。日本においてもニーズは高まる一方で、導入が進んでいる企業は全体の1割程度というのが現状です。
こうした現状は、かつての日本企業で終身雇用が一般的であったことが原因と考えられます。人材の流動性は低く、戦略的な人事の必要性が薄かったのです。しかし、社会の変化が加速するなか、戦略的な人事の果たすべき役割は重要度を高めています。CHROは、今後ますます注目を集めるポジションといえるでしょう。
CHRO(最高人事責任者)が企業で果たすべき5つの役割
CHROに求められる役割は人事の視点から経営に影響を及ぼし、事業運営を最適化することです。具体的には以下の役割が挙げられます。
- 人事の視点から経営に参画する
- 人事施策をマネジメントする
- 人材育成の施策を構築する
- 人事評価の制度を構築する
- 企業のビジョンを組織内に浸透させる
1. 人事の視点から経営に参画する
組織のパフォーマンスは、人的な要因に大きく影響をうけることはよく知られています。適材適所の人員配置や、適正な労働力の確保が業績を左右するのです。
CHROは社内の人的リソースの現状を把握し、事業目標達成のための人員確保や、必要なスキルを身に着けさせるといった教育を実施していきます。こうした戦略的な施策を経営層に積極的に進言するのが、CHROの重要な役割の一つです。
2. 人事施策をマネジメントする
事業目標の達成や経営戦略の実現に向けて、あらゆる人事施策の進捗管理をすることもCHROの役割です。例えば、人事異動をした社員のその後の状況確認や、採用の進捗状況やモチベーションの管理などが挙げられるでしょう。
こうした施策の進捗や成果を経営層に報告することや、現場に起きた問題を把握し適切な指示により解決を図ることも求められる役割です。
3. 人材育成の施策を構築する
人材育成の施策構築と実行も、CHROの重要なミッションです。人材の確保および育成は、事業の推進と成長に欠かせない要素といえます。経営の立場で人事施策を考案するCHROであれば、より経営方針に沿った人材育成の方針を打ち出せるでしょう。
経営視点を持つCHROは、将来的な展望を見据えた育成計画を立案することも可能です。人材の現状と将来を踏まえたうえで現場の管理職と連携し、より精度の高い人材育成を構築できるのです。
4. 人事評価の制度を構築する
経営戦略に沿った人事制度を構築することもCHROの役割です。とくに人事評価は処遇に直結する重要な施策の一つです。社員のモチベーションを左右するため、自社にマッチした人事評価を整備することは業績にも大きくかかわります。
評価制度は制定し運営するだけでなく、定期的なメンテナンスも必要です。大きな方針転換があれば、評価制度そのものを大きく変革することも考えなくてはなりません。
5. 企業のビジョンを組織内に浸透させる
CHROは、企業のビジョンを社内に浸透させる役割も担います。自社や取り巻く環境を俯瞰したうえで、会社のあるべき姿や将来像といった理念を浸透させ、組織の健全性を保たなくてはいけません。
また、社内で問題が生じた際には適切に対処し、解決を図ることも大切な役割です。職場の雰囲気を明るく保ち、よりよい組織風土の醸成に向けアクションを起こすことがモチベーション向上に作用するでしょう。
CHRO(最高人事責任者)に必要な6つの能力
経営の一翼を担い戦略人事を展開するCHROには、人事の専門知識だけではなく、広範なスキルが求められます。具体的には以下に挙げる6つの能力が必要です。
- 経営の幅広い知識
- 人事トップとしての経験
- 人事管理のスキル
- 経営や人事戦略の立案スキル
- 問題を解決する能力
- コミュニケーション能力
詳しくみていきましょう。
1. 経営の幅広い知識
CHROは経営層の一員として、組織の経営にも深くかかわる立場です。専門領域である人事関連の知見だけでなく、経営にかかわる幅広い知識が求められるのは当然のことです。
国内外の経済情勢をはじめ、関連する業界動向などのタイムリーな情報収集も欠かせません。経営戦略の策定に人事の立場で関与するには説得力が必要です。こうした情報や知識を豊富に持つことが説得力につながり、将来を見据えた人事施策を経営戦略に反映できるのです。
2. 人事トップとしての経験
CHROは企業における人事の総責任者であり、人にかかわる業務の全責任を負う立場にあります。労務管理や給与に関する実務はもちろん、採用や人材育成など幅広い業務経験が必要なことはいうまでもないでしょう。
加えて、働き方改革をはじめとした、労働を取り巻く社会の動きにも敏感である必要があります。労働基準法など関係法令についても熟知しており、法改正にもタイムリーに対応しなくてはなりません。
3. 人事管理のスキル
CHROは、会社全体の人事を統括する立場であるため、総合的なマネジメントのスキルが求められます。全社を横断した人事施策を立案するためには、各部門の業務内容や課題まで深く理解しなくてはなりません。
全社的な労務管理を統括するには、社内各部署、各拠点の人員構成や業務量を把握しておく必要もあるでしょう。自部門だけでなく、部署をまたいだ横断的なマネジメントスキルが求められるのです。
4. 経営や人事戦略の立案スキル
会社のビジョンやあるべき将来像を理解し、それらを実現する人事戦略を立案することが役割であるため、高度な戦略立案スキルが求められます。そのために必要なのは、自社の経営方針や理念に対する十分な理解と、中長期的な視点です。
法令の改正や業界の動向、社会情勢の変化といった外部要因と、自社が抱える内部事情を加味した戦略を構築しなくてはなりません。長期的な発展を支える人事戦略の立案には、こうした情報収集力が必要です。
5. 問題を解決する能力
人事戦略策定のプロセスでは、多くの反対意見にさらされることもあります。また施策の実現においても、さまざまな問題に直面することもあるでしょう。人事施策の推進には、こうした反対意見や問題に対処する能力も求められます。
反対意見に対しては粘り強く説得を重ね、理解を引き出さなければ施策が前に進みません。また、発生するさまざまな問題にも、周囲の理解と協力を得ながら対処しなくてはならないでしょう。冷静かつ粘り強い問題解決の姿勢が求められるのです。
6. コミュニケーション能力
経営戦略に基づいた人事施策を立案する際には、経営層との密接な意思疎通が欠かせません。それを現場に落とし込む際には、それぞれの管理者の理解や同意を取り付けることも必要です。施策の実施過程においては現場の声に耳を傾け、現状を把握しながら進めなくてはならないでしょう。
このように、社内の多くの人材との関わりを求められるのが、CHROというポジションです。高度なコミュニケーション能力に加え、親しみやすさや信頼感といった人間性に根ざした資質も必要となるのです。
CHRO(最高人事責任者)を育成する方法
CHROには、経営の広範な知識と人事全般の専門知識が必要です。加えて各部門の業務内容に対する深い理解も求められます。そのため、CHROを育成するには、各部門で実務経験を積むことが望ましいといえるでしょう。実務を知っていることは、人事施策の推進において現場の理解を得る説得力につながります。
CHROに求められる判断力と対応力を養うには、アジャイル思考を身に着けることが有効です。アジャイル思考とは、まず行動が先にあり、改善を繰り返すことで施策の精度を上げていく思考法を指します。スピードが重視されるCHROの職務においては、武器となる思考法といえるでしょう。
CHRO(最高人事責任者)を導入した日本企業の事例
日本では導入事例が少ないCHROですが、すでに導入し成果を上げている企業も存在します。ここでは、企業事例を2社紹介します。
- サイバーエージェント
- メルカリ
詳しく解説します。
1. サイバーエージェント|人事にかかわる問題の早期把握
インターネット広告やゲーム・メディア事業を営むサイバーエージェントでは、CHROを導入し、人材育成と企業文化の浸透に力をいれています。同社の人事施策の特徴は、若手の抜擢と組織の現状把握です。
新規事業を立ち上げ分社化していく過程において、外部から人材を調達するのではなく、既存の若手を抜擢し重要なポジションを任せることで、劇的な成長を促しているようです。また、月に一回、社員のパフォーマンスを計測する施策も実施しており、人材にかかわる問題の早期把握に努めています。
2. メルカリ|HRBPやデータドリブンの導入
メルカリではCHROを導入し新たな評価制度を設けるなど、さまざまな施策を講じています。同社の施策の特徴は、HRBP制度とデータドリブンの導入です。
HRBP制度を導入し、キャリア相談により社員の成長を後押しするなど、現場に密着した人事支援をおこなっています。データドリブンの導入により、人材データの精度が各段に向上しました。こうしたデータの活用により、活躍する人材の傾向をつかむなど、採用にもよい影響をもたらしているようです。
CHROの人材育成に ourly profile
ourly profile(アワリープロフィール)は、個人のプロフィール機能や組織図機能などにより、組織のサイロ化を解消する社内コラボレーション創出ツールです。
3つの大きな特徴により、リモートワーク下でもマネージャー(リーダー)とメンバーの相互理解を促し、効果的な育成をサポートします。
- 人となりが一目でわかる自己紹介画面
- 独自の探索機能により、思いがけない出会いを創出
- 組織図により、チーム・部署を超えて組織を理解できる
こうした特徴から「この人こんなスキルを持ってたんだ!」「Aさんはこんな趣味・経験があったのか!」などの気づきを生み出し、効率的なチームマネジメントやコミュニケーション円滑化を実現します。
CHRO(最高人事責任者)の役割を理解して組織の課題解決を
CHROのポジションは今後、日本企業においても一般化していくと思われます。経営視点による人事施策は、企業の発展に直結する重大な関心事であるためです。CHROとして職務を遂行するには幅広い知識と経験が必要であり、育成にはかなりの時間を要するでしょう。
多くの企業はCHROの役割を理解し、早期に育成を検討しなければならないようです。CHROの育成が、自社の課題解決の近道であるかもしれません。