ホラクラシー組織とは?メリット・デメリットと成功事例を解説
ホラクラシー組織とは、組織内において、役職・階級、上司・部下などの上下関係が存在しないフラットな組織で、ヒエラルキー組織と対を成す組織形態です。
主な特徴としては、メンバー全員が対等な関係にあるため、意思決定の権利が分散され、自律性が高まるといったメリットがあります。
この記事では、ホラクラシー組織の構造と役割、メリット・デメリット、企業の事例について解説します。
ホラクラシー組織とは
ホラクラシー組織とは、役職・階級のないフラットな組織形態のことを指します。
上司・部下のような役職ごとに区切られた階級がなく、日本型の企業に多いピラミッド型のヒエラルキー組織と対を成す形態だと言えるでしょう。
ホラクラシー組織の特徴として、経営者・役員から新入社員までが同じ土俵で意見交換することが挙げられます。
語源である「ホロン(部分としての役割を持ちながら全体として機能すること)」や「ホラーキー(ホロン同士の結びつきを強めること)」が意味している通り、社員同士の交流が多くなります。経営に関する意思決定も社員全員の話し合いで決まることが多く、誰でもどんな意見でも言いやすい風通しのよさがあります。
フラットな組織であると言えますが、マネージャー(管理者)はいるため、フラット型組織とは区別されます。フラット型組織について詳しく知りたい方は「フラット型組織とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説」をご覧ください。
ホラクラシー組織とヒエラルキー組織の違い
ホラクラシー組織とヒエラルキー組織の大きな違いとして、階層の有無が挙げられます。
ヒエラルキー組織では階層がはっきり分かれており、上司・部下という役割が存在します。「命令する人・される人」に分かれるため指示命令系統が明確であり、特定のリーダーのもとで企業活動をおこないます。
一方でホラクラシー組織は、明確な階層がありません。社員が自ら判断し行動することも多く、意思決定が各人に委ねられます。とはいえ意思決定の全てが個人に委ねられるわけではなく、会社が定めたルールや行動指針には従うことがポイントだと言えるでしょう。話し合いで方向性を決めることもあり、コミュニケーションの機会が多いことも特徴です。
ホラクラシー組織とティール組織の違い
ティール組織とは、階層がなく全社員がフラットな組織のことを指します。上下関係がなく、各人に意思決定が委ねられていることはホラクラシー組織と同じです。
しかしティール組織には、明確なビジネスモデルやルールが存在しません。社員ひとりひとりの自律的判断で機能する組織形態であり、行動指針も示されていないことが多いのです。
ホラクラシー組織以上に自由度が高く、個人の責任が重いことが特徴だと言えるでしょう。詳しくは「ティール組織とは?次世代型モデルの5段階構造と成功事例を解説」をご覧ください。
ホラクラシー組織が注目される背景
ホラクラシー組織が注目されるようになった背景として、ニーズやトレンドの変遷が激しい時代に突入したことが挙げられます。
従来のヒエラルキー組織は、もともと社会の変化が緩やかで今後の見通しが立てやすい工業化時代に台頭した組織形態です。特定のリーダーのもとで全体が統一された行動を取りたいときに便利であり、トップダウン式の強烈な指揮命令系統を構築できることが強みでした。
しかし情報化社会が進み、柔軟で変化に富む経営判断が求められるようになると、特定のリーダーの意見・アイディアだけでは限界が出るようになったのです。
ホラクラシー組織の特徴は経営者が社員の意見を吸い上げやすいスタイルとして注目され、アメリカでの導入を皮切りに世界各国で採用されるようになりました。自分のアイディアを発信できるとして社員からも支持されるようになり、日本でも導入企業が増えています。
ホラクラシー組織を支える3つの役割
ホラクラシー組織には、組織の適正運営を支える3つの役割(リードリンク、ファシリテーター、セクレタリー)があります。
意思決定の要となる役割分担でもあるため、下記でひとつずつ解説しています。
リードリンク
リードリンクは、組織全体の目標達成に責任を持つ役割を持ちます。
経営戦略を立てたり行動指針を策定したりすることが多いほか、ヒト・モノ・カネの自社リソース配分などをおこないます。また、優先順位を見極めながら業務ごとに担当者を割り振ったり、取引先との重要な折衝に顔を出したりすることもあるでしょう。
ヒエラルキー組織における経営者・役員に近く、組織のコントロールをすることがポイントです。
ファシリテーター
ファシリテーターは、組織の活動がスムーズに進行するようサポートする役割を持ちます。
会議・プロジェクトの進行担当者を「ファシリテーター」と呼ぶことがあるように、ホラクラシー組織におけるファシリテーターもチームの潤滑油として機能することが多いです。
後述するセクレタリーからの意見を収集し、リードリンクが定めた行動指針に則った意思決定がおこなわれているかチェックします。
セクレタリー
セクレタリーは、組織におけるやり取りを記録しながら行動指針に合わせた業務をする役割を持ちます。
ミーティングの議事録を取ったりノウハウやナレッジを蓄積したりしながら、自身も意思決定を支える一員として意見・アイディアを発信します。
「秘書」「書記」という意味を持つ「セクレタリー」という言葉の通り、組織が目標達成するまでのプロセスを支えることが目的だと言えるでしょう。
ホラクラシー組織を導入する4つのメリット
ホラクラシー組織には、ヒエラルキー組織やティール組織にはないメリットが存在します。
下記でメリットをひとつずつ解説するため、ホラクラシー組織ならではの強みを探っていきましょう。
組織改善への柔軟性
ホラクラシー組織は、変化・進化に強い柔軟性を持つことが特徴です。
さまざまな社員から意見を吸い上げることができ、斬新なアイディアや真新しい意見に触れやすくなるでしょう。そのため、組織の固着を防ぐための手段としても有効です。
また、現場と経営層の距離感が近く、意見を吸い上げるスピードも早いです。その分意思決定のスピードも早くなりやすく、市場のニーズやトレンドが絶え間なく移り変わる時代において大きな強みとなります。
生産性の向上
ホラクラシー組織は社員が積極的に意見交換することが多く、生産性向上に寄与します。
シームレスな情報共有がおこなわれるためミスコミュニケーションによるトラブルや業務の被りがなくなり、効率のよい働き方ができるでしょう。ノウハウやナレッジも交換しやすく、最短距離で目標達成を叶えます。
結果として会社の収益が上がったり労務環境が向上したりすることも多く、パフォーマンスがどんどん高まるプラスのサイクルを構築しやすくなるのです。
ストレス軽減
ホラクラシー組織には上司・部下のような階層構造がなく、社員全員がフラットになります。
権力を振りかざしたパワハラや理不尽な指示命令がなくなり、ストレス軽減に貢献するでしょう。
また、「どんなアイディアでも発言してよい」「新入社員でも気軽にアイディアを出せる」などの心理的安全性が高く、職場の風通しもよくなります。
社員同士の信頼関係が強固になり、より働きやすい環境を構築しやすくなることもメリットのひとつです。
自律性の向上
ホラクラシー組織では社員ひとりひとりが意思決定に参画するため、自律性が向上します。
自社が持つ課題を自分事としてとらえ、解決するためにどうすればいいか常に試行錯誤するようになるでしょう。
自律性が高まることで新たなアイディア・発想が生まれることも多く、組織に柔軟性が加わることもメリットです。「指示待ち人間を少なくしたい」と考える企業にこそ、ホラクラシー組織が最適であるとわかります。
ホラクラシー組織を導入する3つのデメリット
ホラクラシー組織は非常にメリットの高い組織形態ですが、運営手法によってはデメリットの方が多くなるケースもあります。
下記でホラクラシー組織が持つデメリットに触れるため、リスクのひとつとして参考にしてみましょう。
リスク管理が困難
ホラクラシー組織は社員全員が意思決定に参画するという特性上、社内での情報共有が密におこなわれます。
そのため機密情報の管理が難しくなりやすく、社員の個人情報が知れ渡ったりリリース前に商品情報が漏洩したりするリスクが生じるでしょう。
また、トラブルが発生したときの原因も表面化しづらく、再発防止策を立てづらいことも特徴です。あらかじめ社内全体に共有する情報とそれ以外の情報を分け、ルール化しておくことが欠かせません。
組織管理が困難
ホラクラシー組織は特定のリーダーや管理職をおかず、細かな意思決定は社員個人に委ねられます。そのため組織を管理することが難しく、全体像やプロジェクトの進捗が把握しづらくなるでしょう。
強烈なリーダーシップを発揮する人からの「鶴の一声」で組織をコントロールしたり、トップダウン型の命令による指揮系統を敷いたりすることも困難です。
行動指針を明確に示し、高い共感を得ておくことがポイントです。
社員の自律性に依存
ホラクラシー組織は社員全員が自ら行動することが求められるため、自律性に依存します。
自主的に物事を考えられる社員が少なかったり、セルフマネジメント力が弱かったりする場合、ホラクラシー組織のメリットは実感しづらくなるでしょう。組織全体が迷走しやすくなり、意思決定力も損なわれてしまいます。
反対に、自律性が高く自走力のある組織はホラクラシー組織に向いています。
普段から社員に動機付けをするなど、ホラクラシー組織の運営を最適化する環境づくりを意識していきましょう。
ホラクラシー組織の導入事例5選
最後に、ホラクラシー組織の導入に成功した企業事例を紹介します。
今後ホラクラシー組織にすることを検討している企業は、事例を確認しながら自社にも役立てられる要素がないかリサーチしていきましょう。
Airbnb
サンフランシスコに本拠地を置くAirbnbでは、エンジニアリングマネジャーを配置したホラクラシー組織の運営に成功しています。
エンジニアリングマネジャーは「マネジャー」を冠する役職でありながらトップダウン型の指示命令はおこなわず、あくまでも現場から意見を吸い上げることや集約に特化しています。
会社全体がプロジェクトの進行状況を可視化するのに貢献し、ホラクラシー組織のデメリットをカバーしています。
URL:https://news.airbnb.com/ja/about-us/
ザッポス
ロサンゼルスに本距離を置くザッポスでは、1,500名以上の社員が在籍しながらホラクラシー組織を形成しています。
社長をリードリンクに配置した完全フラット型の組織運営をしており、合意形成にかかる時間の大幅短縮に成功しました。
意見を言いやすい風通しのよさも評判となり、優秀な人員も獲得しやすくなっています。
面白法人カヤック
面白法人カヤックでは、斬新な組織運営であることで注目されています。
例えば「ぜんいん人事部」として社員全員が人事部に所属する組織を作っており、採用・評価・給与査定に全社員が関わります。
成長のためのフィードバックも全社員が相互に実施するなど、スキルアップに向けた新たな取り組みをしていることも特徴です。
代表取締役や監査役を置いていることは従来のヒエラルキー型組織と同様でありながら、「全員参加型」のホラクラシー組織を形成しています。
URL:https://www.kayac.com/company
UPDATA(旧:ダイヤモンドメディア株式会社)
UPDATAでは、労使や権力を完全に取り払ったホラクラシー組織を形成しています。
雇う・雇われるの関係性がなく肩書を自分で決められること、代表・役員は選挙と合議制で決定していることが大きな特徴です。
また、経費清算が個人の裁量に任されていたり財務情報を完全にオープンにしていたり、日本では珍しい取り組みがあることでも注目されています。
URL:https://updata.tech/company
ソニックガーデン
ソニックガーデンでは、「管理のない会社」を志向し、「遊ぶように働く、働くことを楽しむ」ことを社風としています。
物理的なオフィススペースがなくいつどこで働いても自由であること、勤怠管理をせず裁量労働に任せることなどが労務上の特徴です。
業務の進捗管理は撤廃し、組織運営を根本から見直したことでホラクラシー組織特有のデメリットも解消しました。
上司による徹底された管理ではなく、社員本人の主体的な管理に任せた事例だと言えるでしょう。
URL:https://www.sonicgarden.jp/company
自社の経営を見直してホラクラシー組織を導入
ホラクラシー組織は、上司による管理が必要なヒエラルキー組織とは一線を画す形態です。
管理やリスク管理の難しさなどデメリットがある一方、組織全体は主体性を持って推進しやすくイノベーションも起きやすいなどのメリットが生じます。
ホラクラシー組織の導入には経営方針に応じて適否がありますが、経営を見直すシーンでは検討してみてよいでしょう。
実際にホラクラシー組織を導入するときには十分な社内コミュニケーションが取れる環境づくりに注力したいため、早い段階で社内報を導入しておくことがおすすめです。