「働きがいのある会社」を受賞。バリュー浸透とゆるい繋がりを育む組織づくり
近年、働く環境が多様化するなかで社員の働きがいへの関心はますます高まっています。Great Place To Work® Institute Japanが実施する2024年版 日本における「働きがいのある会社」ランキングにて3位に選出されたのは、コンテンツクラウドサービスを提供している株式会社Box Japan。
「シリコンバレー企業と日本企業のいいとこ取り」で、7つのバリューを土台とした“ゆるい繋がり”を育む組織づくりを行ってきました。
今回は、創業期からの社員であり、組織づくりを先導してきた人事の風間さんに、働きがいを高めコラボレーションを促進する取り組みについてお話を伺いました。
※日本における「働きがいのある会社」ランキング…Great Place to Work® Institute Japanが発表しているランキング制度。同社では働きがいに関する調査の結果が一定水準を超えた企業を「働きがい認定企業」、さらにその上位企業を「働きがいのある会社」ランキングとして発表しています。2024年版は653社が参加しています。
シリコンバレー企業と日本企業のいいとこ取り
──まず組織のカルチャーをつくる行動指針である「7 Values」について教えてください。
「7 Values」はCEOのアーロン・レヴィの起業後間もない頃から存在しています。失敗から学ぶ俊敏性を示す「Take risks. Fail fast. GSD.」や、当事者意識を促進する「Be an owner. It’s your company.」など、私たちのカルチャーはこれら7つのバリューに基づいています。
──7 Valuesを土台にした組織を構築するなかで、どんな観点で採用をしてきましたか?
業務を行うための知識や経験がある「テクニカルフィット」と、カルチャーに適合する「カルチャーフィット&アッド」の観点です。この2つがあっていれば普通とはある意味異なる“ぶっ飛んだ(Rockな)人”を採用したいと考えてきました。
理想の人材像に依拠し過ぎるといい人は採用できますが、同質性の高い多様性が限定的な集まりになる可能性があるからです。そのため私たちの会社には、さまざまなバックグラウンドを持つ社員がいます。
──多様な個性を持つ人が集まる組織そのものはどのような体制ですか?
多くの外資系のレポートラインをみますとカントリーマネージャや日本法人の社長は営業のリーダーで、レポートラインは本国中心の職能別マトリックス型が多いですが、私たちの場合は社長の古市にレポートラインを集めています。
この体制の利点は、ナレッジが横展開しやすいため連動して動きやすいこと。限られたリソースでパフォーマンスを最大化する必要があったため、社長に直接レポートラインを持つ体制にこだわってきました。
シリコンバレー企業と日本企業のいいとこ取りをした組織経営を目指しており、それはイノベーションの促進や創出に繋がっていると思います。
“ゆるい繋がり”を作る場の設計に力を入れる
──組織設計を進めるにあたって根底にあったのはどんな考えでしょうか?
当社のイベントでもお話しいただいたことがあるのですが、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授が注目されている「トランザクティブ・メモリー・システム(TMS)」です。つまり、ゆるい繋がりを多く張り巡らせることです。それはTMS理論でいうところの情報が伝播しやすく、誰が何を知っているのか、社員が理解しあっている状態を目指しています。
──具体的にはどのような取り組みがあるのか教えてください。
コミュニティを活性化させる目的で、ERC: Employee Resouce Community (Pride、Woman、Young Professional などの各Network)やEIC: Employee Interest Community (サッカー部や競技麻雀部など)の活動があります。また社員や外部の専門家が講師として登壇する「学びの場」、1対1で社長とランチをしながら話すプログラムもあります。
バリューを浸透させるための施策も積極的に実施しています。集中的に学ぶ「Learn Fest」期間中に関連セッションをもったり、バリューを体現する取り組みをした社員を賞賛する「7 Values Award」があります。
さらに「CFO制度」では、Chief Fun Officerとして指名された社員が、カルチャー大使として全社の交流促進をはかります。「Fun Team」という部署や年齢は異なるものの同時期に入社した社員グループと一緒に、全社的に行われる忘年会や社員の家族やパートナーが参加する「Family Day」などのイベントの企画運営を行います。
このようなコミュニティやイベントを通して、さまざまなバックグラウンドを持ち、多種多様な仕事に従事している社員同士の交流を促します。バリューの浸透はもちろん、社員間の自発的なコラボレーションを大切にしていますね。
繋がりを支える情報の透明性
──社員に公開する情報はどのように透明性を担保されているのでしょうか?
機密性が高い情報以外は部門ごとや経営会議の資料・アーカイブを全てBoxを通して安全に公開しています。イノベーションを起こそうと思った時に、ビジネスにとって重要な情報が共有されていなければ間違った方向に陥りやすいので、共通したインフラとして重要情報を公開しています。所属部門以外の四半期報告会議に出席することもでき、疑問があればその場で声を挙げることもできます。
静かに失敗するよりも、失敗までの過程と理由を共有し、それを聞いた人が同じ失敗をしないで済むようにしようというカルチャーです。言語化することは失敗した人自身の学びにも繋がるため、本当の意味での失敗は学びです。良質な失敗をしないと成長がないと考えているので、会社を良くしたい・成功させたいとの思いがある意見や失敗に関して真摯に耳を傾けるようにしています。
──情報の透明性を担保することでどんな効果がありましたか?
まず、全社戦略、各部門の課題、仕事相手の背景を理解し、想像しやすくなり円滑に仕事が進むようになりました。社員ひとりひとり歩んできたキャリア、ビジネスのアプローチも違います。相手の背景を知ると相互理解が深まり、積極的に助け合ったり協力するようになったと感じます。
また、社員が主体性を持ってキャリアを選択するようになったこともあげられます。外資系企業は、例えば“営業”で採用されると同職種への転職はよくあるものの、社内の他部署や別職種への異動はなかなかありません。私たちの会社では募集中の職種と、キャリア・フレームワークによりそれぞれの要件が常に公開されているのでポスティングにも促進効果があり、情報の公開を通して自らのキャリアを能動的につくる社員が増えてきていると思います。
個人力だけでなく、組織力のさらなる向上を目指す
──バリューを浸透させ活発なコミュニケーションを促す取り組みがたくさんあることがわかりました。
バリューに基づきコラボレーションを促進し学び合う取り組みを大切にしています。社長自身から「こんな意見があったんだがどうしようか」と相談を直接受けることも多いです。そうした日常会話からのヒントやエンプロイーサーベイのような統計結果から新しい施策が生まれることもあります。
施策を設計・運用していくなかで難しいことや失敗ももちろんありますが、うまくいかなかったら次の打ち手を考え、また前に進めていくしかありません。成功したと思った瞬間からさびれていくと思うので、常に目的に立ち返り進化を繰り返していきます。
──最後に、今後の組織の展望について教えてください。
“組織の壁”みたいなもので申し上げますと、50人のときは何でも自分でする状態から人に任せていくことが求められました。100人のときは各部門でリーダーがたつようになり、全体最適ではなく部分最適の傾向が強くなるという課題が生まれました。
今は250人の壁にあたっています。秀でたスキルや豊富な知識、稀有な経験を持った個人がたくさんいます。これから組織をスケールさせていくには、そうした個人の能力に頼るだけではなく、組織力そのものを上げていく必要があると考えています。
250人を突破したら次はまた新しい壁が見えてくるでしょう。その時は何が壁か議論することから始め、設定して、越えていくための組織づくりを仲間と一緒にワクワクしながら挑戦することになりますね。
interview / Design:Sachi Kagayama
Write:Ao
Photo:Narumi Miura