「私は社内報に救われたんです」。離職率が劇的に変化した組織改革の秘訣
人口減少・少子高齢化・コロナ禍などの様々な影響で働く人々の価値観が多様化し、企業と働く人との関係性が変化しています。採用難や採用コストの増加が予測されることから、企業からは従業員エンゲージメントを向上させ、長く活躍し続けてもらうための取り組みに注目が集まっています。
「社内報は組織課題を解決できる、価値あるツールです」。そう語るのは、研究開発型インターネットコンサルティング事業を提供する株式会社ペンシル(以下、ペンシル)代表取締役社長CEO 倉橋 美佳様(以下、倉橋社長)です。
ペンシルは社内報の刷新を行い、従業員サーベイの数値や離職率が劇的に改善されています。今回は、ペンシルが抱えていた組織課題や、社内報の効果、適切な社内報の運用方法についてお話しを伺いました。
組織改革に「対話」の重要性を感じ、社内報を刷新
──はじめに、ペンシルの事業内容について簡単に教えてください。
私たちは「インターネットの力で世界のビジネスを革新する」を理念に、BtoBのインターネットコンサルティング事業を行なっています。クライアント様のデジタル戦略の企画・立案から、サイトの制作・構築・運用から、プロモーション(販促)といった実行面、施策を行った後の結果の検証・解析・分析まで、売上を上げるためのサポートを一気通貫で行っています。
──ありがとうございます。ペンシルでは社内報を戦略的に運用しはじめてから、離職率が下がり、社員のエンゲージメントに変化が出たと伺っています。社内報を運用するまでの社内の状況がどのようなものだったのか、詳しく教えてください。
弊社では定期的に従業員サーベイをとっているのですが、経営陣への信頼のスコアがかなり低かったんです。
私はもともとペンシルの社員で、親族外継承で会社を引き継いだので、今働いている社員の気持ちはわかっているつもりでしたし、社員からの信頼もそれなりにあると思っていました。しかし、実際にサーベイで数値をとってみると、そんなことはなくて。
自分への信頼がないことを知ってすごく驚きましたし、落ち込みました。私って、社員のために何もできていなかったんだ…と感じましたね。
──なるほど。そこから社内報の刷新にいきつくまでに、どのような背景があったのでしょうか。
サーベイの結果から、まずは経営陣への信頼を取り戻さないといけない。社内の福利厚生をしっかり整えないといけないと感じ、それまでは存在しなかった評価制度を作るなど、さまざまな取り組みを始めました。そうしないと結局、社長に気に入られないと役職が上がらない、給料が上がらないと思われかねないと考えたんです。そうして社内の色々な部分を変えてはみたものの、エンゲージメントはなかなか上がりませんでした。
うまく行かない状況に困り果てていたタイミングで、ちょうどコロナ禍に入り、リモートワークを導入することになりました。Web社内報の刷新と運用を始めたのは、その時期でした。というのも、もともと全社が集まる会議などで私から会社の状況や未来の話をすることはあったものの、コロナ禍で全員集まることが叶わなくなりましたよね。つまり全社に情報を伝えるためには、社内報で発信せざるを得なかったんです。
そこで社内報を刷新し、発信する内容なども工夫するようになりました。
──社内報を刷新し、運用をはじめてから社内にどのような変化がありましたか?
従業員サーベイの数値が徐々に上がり、離職率も下がりはじめました。従業員サーベイの数値は、40.9から64.8と20ポイント以上アップ。離職率は30%程度から10%前後に変化しています。
ほかにも定性的にはなりますが、社内の風通しがよくなったと感じています。社内報に社員からコメントがつくことも増えましたし、社内報のなかでコミュニケーションが生まれることも増えて、対話の場になっていると感じています。
社員にとって身近なコンテンツを。双方向のコミュニケーションがポイント
──Web社内報の刷新によって、サーベイの数値や離職率に変化があったとのことですが、もともと運用していた社内報からどのような部分を刷新されたのでしょうか。
これまでの社内報の発信は、完全に社員に任せ切っていて、ほとんど更新もされていませんでした。
刷新してからはさまざまな工夫をしていますが、とくに意識しているのは“社員に寄り添う発信をする”という点です。社内報は、強制して読んでもらうものではありません。でも、基本的には見る意識をつけてもらいたい。そうなると、やはり社長の発信といった堅苦しい内容だけではダメで、社員が面白いと思えるコンテンツや身近に感じられるコンテンツを発信していく必要があります。
新たに刷新した「ペン知るん。」では、各部門ごとにさまざまな人に登場してもらったり、記事を書いてくれる人をできるだけ増やしたりして、社内報上で身近な人との接点を持ってもらうようにしています。知っている人が社内報に登場していれば読む気になりますし、ましてや自分が書いた記事だとすると、みんなに読んでもらいたい!と働きかけますよね。
──社内報を書いてもらう人、つまり運用側の人を増やすことで、より興味を持ってもらうように工夫しているんですね!
そうですね。また弊社の場合、D&I推進室という広報や人事メンバーが入っているチームが社内報運用を牽引してくれています。私1人の力ではどうしても限界があるので、社内報を推進してくれるメンバーやチームを構成するのも重要なポイントだと思いますね。
あとは、一方通行にならないようにするのも重要です。ただメッセージを押し付けるだけでは、誰も読んでくれませんし、「また社長がなんか言ってる…」で終わってしまいますよね。弊社ではサーベイで社員からもらった意見などについて、社内報を通してお返事をしたり、私なりの解釈を伝えたりと、双方向のコミュニケーションができるように意識しています。
──なるほど! 双方向のコミュニケーションがポイントなのですね。
ほかにも、常に社内報を改善をしていくことも大切です。「ペン知るん。」では部門ごとに閲覧率を出すようにしたのですが、実はそのなかで社内報をよく読んでいる部署ほどエンゲージメントが高いことがわかったんです。
つまり、社内報を読んでもらうようにすることが、社員のエンゲージメントを高めることに直結する。そこから「この部署は閲覧率が低いから、この部署の人に読んでもらうための企画を作ろう」「この部署の人を取り上げて、興味を持ってもらおう」といった、改善策を打つようにもなりましたね。
社内報での発信を評価項目に。社員を巻き込む運用方法
──かなり工夫をしながら「ペン知るん。」を運用されているとはいえ、社員に記事を書いてもらうのはなかなか難しいことだと思います。どのように発信する人を増やしているのでしょうか?
一番重要なのは、経営者が社内報が重要だと認識し、誰よりも熱量を持って運用に取り組むことです。私は常々メッセージを発信し続けていますし、とくにマネージャー陣に対してはかなり強く記事の発信をプッシュしています。また、マネージャー陣の書いた記事は、必ず私がレビューをして、社員への寄り添いがあるかどうかという点を軸に、修正をしています。
──かなり熱量高く運用されているのですね。とくにプレイングマネージャーは、社内報の発信に意義を見つけにくかったり、優先度が下がりがちだったりすると思うんですが、そのあたりはどのように鼓舞しているのでしょうか?
社内報を書いたほうが、マネージャー自身の仕事が楽になることを伝え続けていますね。社内報で戦略的に記事を発信し続けていれば、コミュニケーションコストは減りますし、社員のエンゲージメントも高まります。そうなれば、マネジメントの工数は少なくなりますよね。
つまり、社内報を書くことで仕事が楽になるんです(笑)。いかにそれを感じてもらうかは、経営者がしっかりと熱量高く社内報発信ができるかにかかっていますし、それを実際に体現していけば、社内報の優先度を下げる人はいなくなるはずです。
──なるほど! たしかに、それを認識すれば社内報発信の優先度は上がっていきますよね。
全社へのメッセージだけでなく、マネージャー陣だけに向けた社内報記事も発信しながら、私からマネージャーに、マネージャーから社員にと、メッセージを伝播させていくことを意識しています。
あとは、人によって評価制度のなかに社内報発信の項目も入れることがあります。弊社では行動指針の項目から、「社内にインパクトのある行動をする」という評価項目を社員と一緒に考えるんですが、その項目に「ペン知るん。」での発信を入れ込んでいる方もいますね。「ペン知るん。」での発信は社内に貢献する行動なんだと改めて認識する機会にもなりますし、記事も蓄積されていくのでとても良い仕組みだと感じています。
社内報にはメリットしかない。経営上で最も重要なツール
──倉橋社長にとって、社内報とはどのようなものでしょうか?
実際にエンゲージメントや離職率にポジティブな効果がある点から見て、経営における最も重要なツールだと思います。そして、経営者が誰よりも本気で取り組むべきものだと思います。
会社として考えていること、社員たちが考えていることを言葉で伝えることももちろん重要ですが、社内報は会社のメッセージを繰り返し読んで理解できたり、昔を振り返ったりできるツールとして、とても価値があります。
工数対効果や費用対効果について他の経営者から「どうなの?」と聞かれることも多いのですが、費用対効果があるかどうかではなく、費用対効果を出すためにどうするか?を考えるべきだと、私は思います。本気で取り組めば、必ず費用対効果以上のものは実感できるはずです。
社内報に会社を救われた私が言うのですから間違いありません。本当に、社内報での発信はメリットしかないので、すべての経営者に力を入れてほしいです!
──ありがとうございます。最後に、今後「ペン知るん。」をどのような社内報にしていきたいですか?
記事もかなり増えてきているので、新しく入った社員が読みたい記事や知りたい情報にすぐアクセスできるように改善していきたいですね。
また、先ほどもお話しした通り、押し付けにならない、寄り添える社内報であることは最も重要だと思います。声を出せる人は積極的に意見をくれると思いますが、声を出せない社員たちにどれだけ寄り添えるかというのは今後の課題になってくると思います。