【Voicyの組織復活劇】組織ランクCCC→AAAへの鍵は「誰がやるか」
今、日本で急速に広まっている音声プラットフォーム「Voicy」。
2021年の年間利用者数は、前年比2倍の1,300万人。
誰もが知るサービスに成長する裏で、2019年に組織は崩壊していたそうです。
しかし、ものの2年でリンクアンドモチベーション社のエンゲージメントサーベイでスコアが47→68となり、最高ランクのAAA(モチクラ利用企業の上位1〜2%)を記録しました。
この2年間でどのようなことに取り組んだのか。
株式会社Voicyで人事責任者をつとめる勝村さんと全社横断プロジェクトチームの水橋さんに話を聞いてきました。
インタビュイー:
勝村泰久
東証一部上場 総合人材サービス企業の株式会社クイックにて営業部長や新規事業開発を経験後、HRの責任者として採用や組織開発、制度設計などに携わる。2020年にVoicyに参画した後はVPoHRとして総務人事領域を管掌しつつ、メディア編成や事業開発も担当。2021年2月より執行役員に就任。キャリア教育やHRに関する学会公演・イベント登壇、大手企業の人事顧問や自治体の戦略顧問など、幅広く社会活動も行っている。
水橋美の里
2017年に株式会社パソナのキャリアカンパニーにエンジニアとして新卒入社。2018年に音声の魅力に惹かれ、2人目社員としてVoicyに入社後は、コミュニティマネージャーとしてリスナーコミュニティの立ち上げを行なう。その後人事総務を担当するカンパニークリエイターチームに異動し、インナーコミュニケーション・オンボーディング・全社横断プロジェクト等の組織開発をメインで担当しながら、総務や情シス領域も兼任している。
株式会社Voicy:https://corp.voicy.jp/
組織も一つのプロダクト
ーー御社が組織づくりをする上でこだわっていることはなんでしょうか?
(勝村さん)
「ベンチャー企業が作るプロダクトは2つ。それはサービスと組織である。」
代表の緒方はいつもそう言っています。そして、サービスと組織、どちらも全員で作っていくことに強いこだわりがあります。
じゃあどうやって組織を作っているの?って話だと思うんですけど、目的にあった組織作りをすることを心がけています。
一口に組織と言っても、人数の増え具合や組織のコンディションによって、状態や必要なことは異なりますよね。
なので、時期によって組織の作り方も組織開発の目的も変わります。
年度ごとでも半年ごとでもいいので、組織づくりの目的を設定するべきです。
ーーどのように目的を設定しているのでしょうか?
(勝村さん)
Voicyは2019年に大きな組織崩壊を起こしたため、2020年は組織を立て直すことを目的に組織づくりをしました。(*Voicyは2019年1月から採用を開始し、夏頃には社員が数名から40名まで増えましたが、年度末には10名強まで減ったそうです。)
組織が痛んでいたことに加え、コロナウイルスが流行したため、保守的な組織づくりに徹したんです。
ボイメシという社員交流イベントの実施や、Coicyというオンボーディングイベントの導入、カルチャー浸透のための表彰制度やMVP制度の策定……などファニーなイベントを多めに企画したおかげで、1年で従業員満足度やカルチャー浸透などが高まり、Voicyにとって有意義な1年となりました。
ただ、これは本質的な組織開発とは言えません。
なぜ1人でも生きていけるこの時代に、組織として活動しているのか。
それはステークホルダーの幸せや社会への新しい価値提供のためです。決して自分たちが楽しむためではありません。
ですので、組織が落ち着いた2021年からは、より社会や事業へのバリューやアウトカムが最大化するよう、事業理解の深化や能動性向上を目的とした組織づくりを行いました。
カルチャーの体現者が鍵。現場を巻き込みまくった組織づくり
(勝村さん)
代表的な例としては、人事主導ではなく挙手制で現場メンバーを募り、現場主導の組織開発を行うクロスファンクショナルチーム(以下、CFT)の立ち上げです。
「組織も全員で作りたい」代表の緒方がそう常々言っているので、Voicyを創業当時から支えていたメンバーである水橋をCFTのリーダーとして推進しました。
先ほど組織づくりは目的が大事だと言いましたが、合わせて「誰がやるのか?」もとても重要です。
というのも、CFTの推進にあたって欠かせなかったことが、組織のカルチャーの体現者に任せることでした。
カルチャーの体現者がCFTのリーダーだからこそ、社員は参加しようと思いますし、手伝いたいと思うわけです。
実際、CFTへの参加アンケートをとったところ、3分の2ほどの社員が手を上げてくれ、CFTに参画してくれました。
私がCFTのリーダーだったら、恐らく2割程度の社員しか参加しなかったでしょう(笑)
短期的に見れば、人事のプロである私が率いた方が効率的に成果を出せるかもしれません。
しかし、長期的に成果を出すためにはカルチャーの体現者である水橋が率いる方が遥かに効果的なんです。
人事のプロが率いてしまうと、言い方は悪いですが、現場メンバーの役割としては組織開発の駒でしかなく、組織開発におけるマンパワーが増えるだけです。それはみんなが人事に答えを求めてしまうからです。
その点、メンバーと同じ目線で話せる水橋をリーダーにすると、答えを求める相手がいないため、必然的に自分たちで考えないといけない。分からないながら、苦しみながらも、みんなで主体的に能動的に作り上げていく。
そんなプロセスの体験にこそ価値があり、それ自体が組織開発と言えます。
そしてそれを纏めることができるのは、カルチャー体現において信望のあるメンバーでないといけません。
ーーCFTのリーダーである水橋さん。実際にやってみてどうでしたか?
(水橋さん)
正直けっこう辛かったですね(笑)
とにかく考えさせられるけど、ずっと答えがわからないことも多くて。
あまりにもわからないから答えを求めて、勝村に質問しに行ったのに、もっと難しい問いかけが返ってくるだけ。みたいなことが何回もありました。
ただ、私たちに徹底的に考えさせてくれたからこそ、結果的によかったと思えることも多かったです。最終的にわかったことは、組織開発に正解はなくて、自分たちで描いたゴールを言語化し、それを自分たちが行動して結果を出して正解にしていくことなんだなと。
他職種のメンバーで集まるから、新しい発想が生まれる
ーー例えばどういうことでしょうか?
(水橋さん)
CFTは始動1年弱で7つものプロジェクトが立ち上がりました。
行動指針を0から作るプロジェクトやメンバーの理解を深める「社内ラジオ」など、さまざまな取り組みをしていますが、中でも特徴的なのは「ボ祝儀」というVoicy独自のピアボーナス制度です。
この取り組みのポイントは自社開発であること。
最初は外部ツールを運用しようと思い、さまざまなピアボーナスツールを調べたんですが、Voicyという組織に合うツールは見つかりませんでした。
「どうしようか……」と思っていた矢先、「ないなら自分たちで作ろう!」と、プロジェクトメンバーの1人だったエンジニアが言い出したんです。
そこからは、デザイナーのメンバーがUXを考えたり、経理のメンバーが給与規定を見直したりと、メンバー各々が強みを生かしながらリードし、プロジェクトメンバー全員でVoicy独自のピアボーナスツールを開発しました。
これは他職種のメンバーが集まったCFTだからこそ、生まれたアウトプットだと思います。
今は50〜60%くらいの利用率とまだまだ課題も多いですが、これからどんどん利用促進していきたいです。
(勝村さん)
これも面白くて、僕から見るとすでに60%の利用率はすごいと思っているんですよね。
けどミーティングとかを聞いていると、「どうやったら利用率が100%になるのか?」みたいな次元の高い話が繰り広げられています。
これは人事がやるのではなく、現場でやっているからこそ生まれている、ある意味いい勘違いですよね。
ーー現場主体の組織づくりをするにあたって、苦労したことなどはありますか?
(勝村さん)
「社員がCFTに参加すればするほどいい」と最初は考えていましたが、参加人数が多すぎるとそれはそれで意見がまとまらずに進みが悪くなるみたいなことはありました。
そうなると、みんな水橋に責任を求め出すんですよね。
でも水橋のリーダーシップだけ上がってもしょうがない。この部分が難しかったです。
ただ、何か特別な対策をするというよりは、とにかくメンバーに考えてもらいました。
それが嫌ならCFTを辞めればいいだけなので。
立候補しているからには、メンバーには当事者意識を求めています。
ただ、みんなとても真摯に取り組み、任せれば任せただけアウトプットが出てきます。メンバーのことはとても信頼しています。
ステークホルダーの幸せと社会への新しい価値提供を実現し続ける組織に
ーー最後に、これからの展望を教えてください。
(勝村さん)
CFTの流れで言うなら、「このチームを経ないとマネージャーになれない」みたいに評価制度に組み込んでいきたいと思っています。
「サービスも組織もプロダクトであり、全員で作っていく」。
代表の緒方がそう考えている以上は、組織づくりで実績を出せる人を評価するようにしなければいけません。
そして、全員で組織づくりをしたVoicyで、いいサービスを社会に新しい価値として提供していく。そんな組織であり続けたいです。
よく人事界隈で話すと、組織論と人事のポジショニングって、現場と経営どちらに寄るかって話になるんですが、どっちも違うと思っています。私はステークホルダーと社会に寄るものだと考えています。
ですので、僕たち人事自身は社員に向いていて、組織全体としては社会に向いている。これが理想だと考えています。
人事は社員のことを考え動き、結果的に社員たちは仕事が楽しいと思ってくれる。そしてその社員が楽しいと思う仕事が、社会やステークホルダーに向いている。この循環を大切にして、組織を作っていきたいです。
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