企業文化とは、同じ企業で働く人が共有する価値観、信条、行動規範のことを指します。
企業文化は、単なる理念や雰囲気を示すものではなく、社員の意思決定や行動、組織の一体感などにも繋がる、経営において欠かせない要素です。
本記事では企業文化の意味や醸成する方法、他社事例などを紹介します。ぜひ最後まで読んで自社の企業文化の見直し等に役立てて頂けると幸いです。
企業文化とは?
企業文化とは、「同じ企業で働く人が共有する価値観、信条、行動規範」です。会社の価値観であり、何に価値があるのか、ないのか、を判断し意思決定するための基準と言えるでしょう。
同じ組織に属している以上、従業員はその価値観を意識的・無意識的に共有しています。その形成には、会社の実績や創業者・経営者の思想が影響を与えるため、企業ごとにそれぞれ特徴があります。
マネジメントの父と称されるピータードラッガー氏が「企業文化は戦略に勝る(Culture eats strategy for breakfast)」という言葉を残していることからも分かるように、企業文化は今日の企業経営に欠かせない要素だと言えるでしょう。
企業文化と企業風土の違い
企業風土とは、「無意識的につくられた、会社・社員の雰囲気、考え方の特徴」です。
企業風土は、時間の経過や会話によって浸透し、社員の考え方や価値観に根付いていきます。経営者の意図がなく、無意識に浸透している価値観は、企業風土であると言えるでしょう。
しかし、企業文化は意識的に作り浸透させることができる要素です。
企業文化と社風の違い
社風とは「企業文化と企業風土を合わせた、会社の印象・雰囲気」です。「無意識的に」社内外の人が受け取る会社全体の雰囲気・印象を指しています。
やはり社風も企業文化とは、意識的に作り共有できるのか、という点において違うことが分かります。
企業文化が重要視される理由・メリット
近年多くの企業が、会社経営における企業文化を重要視しています。
その背景にあるのは、人材の流動化です。企業には、一度採用した従業員に、できるだけ長く働いてもらうための施策が求められています。そのひとつとして、企業文化の明確化・浸透は大きな役割を担うのです。
具体的なメリットを3つ紹介します。
他社との差別化になる
企業文化は、理念や行動指針から形成されるため、会社独自の判断軸として機能し、差別化をもたらします。そして、理念や行動指針に基づいた、意思決定の連続が、その会社らしさを社会に印象づけ、他社との違いが明確に表れます。
例えば世界90か国以上に展開しているスターバックス。店舗スタッフの笑顔や、店内の雰囲気が、スターバックスブランドとしての価値を保ち続けています。それは私たち顧客だけでなく、店舗スタッフも一緒です。浸透した企業文化は、社内、社外にメリットをもたらします。
会社全体で共有する指針となる
企業文化は会社全体の統一的な指針となり、一体感を生み出します。
例えば、ある企業では急速な人員増加に対し文化が浸透せず、意思決定が個人の価値観に委ねられ、全社の方向性がばらついてしまいました。一方、スターバックスのように明確な価値観が浸透していれば、社員は共通の指針に基づいて行動し、全社で一貫した意思決定が可能になります。

社員のエンゲージメントや働きがいを高める
企業文化は、社員が自分の仕事に意味や価値を見いだすための土台となります。
経営理念や行動指針が明確で社員の価値観と一致すれば、「社会的に良いことをしている」「会社の方向性に共感できる」という意識が生まれ、日々の活動にやりがいを感じやすくなります。こうした文化が浸透した組織では、社員のモチベーションが高まり、主体的に貢献しようとするエンゲージメントが強化されます。

企業の競争優位性を高め、長期的な成長につながる
優れた企業文化は、組織の判断基準や行動を統一し、強い競争力を生み出す基盤となります。
マッキンゼーの調査でも、健全な組織文化を持つ企業ほど長期的な収益パフォーマンスが高いことが報告されています。文化を軽視すれば、社員の働きがいを高められず、採用や定着も難しくなり、いずれ市場競争から淘汰されるリスクが高まります。
出典:Organizational health is (still) the key to long-term performance
企業文化を醸成できない原因
企業文化はただ理念を掲げるだけでは根付きません。
多くの企業が文化醸成に失敗する背景には以下の3つの原因が考えられます。
コミュニケーション不足
企業文化を醸成させるためには、経営者やリーダーがビジョンや価値観を繰り返し発信し、従業員に理解させることが不可欠です。しかし、この発信が不十分だったり、社内コミュニケーションが滞っていると、従業員の企業文化に対する理解が浅くなり、結果として文化が根付かなくなります。
リーダーシップの欠如
企業文化はトップダウンで形成されることが多く、経営者や管理職が明確なビジョンを持ち、それを従業員に伝えることが不可欠です。
リーダーが自らの価値観や行動規範を示さないと、従業員は何を基準に行動すればよいか分からず、結果としてバラバラな行動を取ることになります。
変化への抵抗
企業文化は時代や環境に応じて進化する必要がありますが、新しいアイデアや変革に対して抵抗感を持つ従業員が多いと、文化醸成は停滞します。
特に長年同じ方法で運営されてきた企業では、「これまで通り」が優先され、新しい試みが受け入れられないことがあります。
企業文化を作り醸成するポイント
続いて企業文化を作り醸成する流れやポイントを紹介します。
理念を掲げても醸成している様子がないという企業も多いので、ぜひチェックしてみてください。
自社の現状を把握する
企業文化を作る最初のステップは、自社の現状を正確に把握することです。具体的には組織の強みや弱み、従業員の価値観と行動パターン、社内コミュニケーションの状況などを把握しましょう。
さらに従業員の意見やフィードバックを集めることで、今の企業文化の実態や課題が明確になり、今後の方向性を決めるための土台になります。
理念・価値観・行動指針を言語化する
会社として何を大切にし、どんな未来を目指すのかを言葉にすることが重要です。
ミッション、ビジョン、バリューを明確にし、社員が共感しやすく、日々の行動判断に活かせる言葉に落とし込みましょう。曖昧で抽象的すぎる表現では現場に浸透しづらいため、具体的な行動例や判断基準と結びつけることがポイントです。
社内制度を見直す
企業文化に沿った人事評価基準などを設けることで、企業文化を意識して行動する従業員が増えます。
例えば、挑戦を重視するなら「失敗を許容する評価」、チームワークを重視するなら「協働を評価する制度」など文化と行動を結びつける仕組みを整えることが重要です。
このように、企業文化に沿った制度設計をすることで企業文化が浸透しやすくなります。
従業員へ浸透させる
どんなに素晴らしい企業文化を掲げても、従業員全員が理解し、日々の業務で実践しなければ意味がありません。
そのためには、経営層がビジョンや価値観を繰り返し発信し、定期的なコミュニケーションや研修、社内イベントを通じて文化を伝え続けることが重要です。
従業員が「自分はこのビジョンを持つ企業の一員だ」と自覚できるようになれば、文化は徐々に根付き、組織全体に浸透していきます。さらに、文化に沿った行動を積極的に評価・表彰することで、実践が加速しやすくなります。
企業文化(理念・行動指針)の事例9選
様々な業界の有名企業9社の理念・行動指針をまとめました。
各社が掲げる理念や行動指針には、その企業ならではの価値観や強みが表れています。自社の指針づくりの参考として、ぜひご覧ください。
株式会社ファーストリテイリング

理念
服を変え、常識を変え、世界を変えていく
行動指針
・お客様のために、あらゆる活動を行います
・卓越性を追求し、最高水準を目指します
・多様性を活かし、チームワークによって高い成果を上げます
・何事もスピーディに実行します
・現場・現物・現実に基づき、リアルなビジネス活動を行います
・高い倫理観を持った地球市民として行動します
(引用:株式会社ファーストリテイリング, 「企業理念」,
〈https://www.fastretailing.com/employment/ja/about/frway.html〉,2020年9月閲覧)
トヨタ自動車株式会社

理念
1. 内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業市民をめざす
2. 各国、各地域の文化・慣習を尊重し、地域に根ざした企業活動を通じて、経済・社会の発展に貢献する
3. クリーンで安全な商品の提供を使命とし、あらゆる企業活動を通じて、住みよい地球と豊かな社会づくりに取り組む
4. 様々な分野での最先端技術の研究と開発に努め、世界中のお客様のご要望にお応えする魅力あふれる商品・サービスを提供する
5. 労使相互信頼・責任を基本に、個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくる
6. グローバルで革新的な経営により、社会との調和ある成長をめざす
7. 開かれた取引関係を基本に、互いに研究と創造に努め、長期安定的な成長と共存共栄を実現する
行動指針
PDFにまとまっています。網羅的に記述されているの参照してみてください。
(引用:トヨタ自動車株式会社, 「トヨタ行動指針」〈https://global.toyota/pages/global_toyota/company/vision-and-philosophy/code_of_conduct_001_jp_2.pdf〉, 2025年6月閲覧)
株式会社オリエンタルランド

理念
自由でみずみずしい発想を原動力に
すばらしい夢と感動
ひととしての喜び
そしてやすらぎを提供します行動指針
1. 探究と開拓 2. 自立と挑戦 3. 情熱と実行
(引用:株式会社オリエンタルランド, 「企業理念」,
〈http://www.olc.co.jp/ja/company/philosophy.html〉, 2020年9月閲覧)
株式会社NTTドコモ

理念
私たちは「新しいコミュニケーション文化の世界の創造」に向けて、個人の能力を最大限に生かし、お客様に心から満足していただける、よりパーソナルなコミュニケーションの確立をめざします。
行動指針
−HEART−
国・地域・世代を超えた豊かな社会への貢献 [Harmonize]
サービス・ネットワークの進化[Evolve]
サービスの融合による産業の発展 [Advance]
つながりによる喜びの創出 [Relate]
安心・安全で心地よい暮らしの支援 [Trust]
(引用:株式会社NTTドコモ, 「企業理念、ビジョン」,
〈https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/about/philosophy_vision/index.html〉, 2020年9月閲覧)
東日本旅客鉄道株式会社

理念
私たちは「究極の安全」を第一に行動し、 グループ一体でお客さまの信頼に応えます。 技術と情報を中心にネットワークの力を高め、 すべての人の心豊かな生活を実現します。
行動指針
安全の追求 お客様志向 地域密着 自主自立 グループの発展
(引用:東日本旅客鉄道株式会社, 「グループ経営ビジョン「変革2027」について」,〈https://www.jreast.co.jp/press/2018/20180702.pdf〉, 2020年9月閲覧)
味の素会社

理念
私たちは地球的な視野に立ち、”食”と”健康”、そして明日のより良い生活に貢献します。
行動指針
私たちは、「私たちは地球的な視野にたち、”食”と”健康”そして、明日のよりよい生活に貢献します」というグループミッションに根ざした、高い道徳観、倫理観に基づき社会的良識に従って行動します。
私たちは、「味の素グループWay」を常に行動の基本とし、「健康な生活」、「食資源」、「地球持続性」の課題解決に向けて、事業を通じて明日のよりよい生活に貢献します。
私たちは、国内外の法令、「行動規範」およびそれらの精神を遵守し、公正、公平、透明、簡素を基本として、信頼される味の素グループを目指します。
(引用:味の素株式会社, 「味の素グループの目指す姿」〈https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/aboutus/vision/〉,2020年9月閲覧)
アサヒビール株式会社

理念
高付加価値ブランドを核として成長するグローカルな価値創造企業
行動指針
全てのステークホルダーとの共創による企業価値向上
顧客: 期待を超える商品・サービスによるお客様満足の追求
社員: 会社と個人の成長を両立する企業風土の醸成
社会: 事業を通じた持続可能な社会への貢献
取引先: 双方の価値向上に繋がる共創関係の構築
株主: 持続的利益向上と株主還元による株式価値の向上
(引用:アサヒビール株式会社, 「企業情報」, 〈https://www.asahibeer.co.jp/aboutus/summary/〉,2020年9月閲覧)
野村不動産株式会社

理念
あしたを、つなぐ
行動指針
お客様第一の精神
独創的発想による新たな価値創造
挑戦者であり続ける姿勢
社会と共に成長していく自覚
活き活きと働く、ウェルネスの実現
(引用:野村不動産株式会社, 「企業情報」,
https://www.nomura-re.co.jp/corporate/philosophy/, 2020年9月閲覧)
東京電力ホールディングス株式会社

理念
エネルギーの最適サービスを通じてゆたかで快適な環境の実現に貢献します
行動指針
1. 人間の尊重
2. 企業倫理の徹底
3. 透明な事業活動の推進
4. 商品・サービスの品質・安全確保
5. 環境問題への積極的な取り組み
6. 地域社会の発展への貢献
7. 明るく元気な職場づくり
(引用:東京電力ホールディングス株式会社, 「グループ経営理念・企業行動憲章」https://www.tepco.co.jp/about/corporateinfo/group_philosophy/, 2020年9月閲覧)
web社内報「ourly」を活用して企業文化の醸成を行った事例
最後にweb社内報「ourly」を活用して文化醸成に成功した事例を紹介します。
実際の導入背景や成果を知ることで、自社の企業文化醸成の参考にしてみてください。
株式会社ロック・フィールド|全国300店舗すべてで高い店頭品質を維持
株式会社ロック・フィールドは、販売スタッフが本社や製造部門の情報に触れる機会が少なく、会社の想いやこだわりが十分に伝わらないという課題がありました。
特に店舗ではパソコンを使える時間が限られていたため、スマホから手軽に情報を受け取り、部門を越えてつながれる環境を整えるべくourlyを導入しました。
導入後は、製造部門のこだわりや経営メッセージが現場にタイムリーに届き、情報共有やコミュニケーションが活性化。結果として全国どの店舗でも高い店頭品質を維持できる文化が育まれています。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。

シコー株式会社|理念が浸透し、従業員の発言・行動が変わった
シコー株式会社は、理念が全国の拠点や多様な世代の従業員に十分に浸透しておらず、社員の発言や行動にズレを感じていました。
この課題を解消するため、理念を刷新し全社に浸透させる取り組みを開始。そこで、理念浸透の度合いをデータで把握でき、分析結果をもとに最適な施策や運用体制を提案してくれるourlyを導入しました。
導入後は、社内報を通じてトップの想いや会社の方針を発信し続けることで、拠点や部署を越えた対話が生まれ、従業員一人ひとりが理念に沿った発言や行動を自然に取るようになりました。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。

株式会社GENDA GiGO Entertainment|M&Aによる急拡大の中でもカルチャーを強化
M&Aで歴史や文化の違う仲間が加わる中、会社の文化を共有し、記録として残せる仕組みが必要でした。
そこでGiGO Entertainmentは、記事の閲覧率や反応率をデータで確認でき、現場に情報がどの程度届いているか把握できること、社員同士をつなぐプロフィール機能に魅力を感じ、ourlyを導入しました。
導入後は、店舗で社内報が話題になったり、現場からの情報発信も増加しました。改善アイデアや成功事例も一瞬で全社に共有され、店舗と本社の双方向のコミュニケーションを通じて文化醸成が加速しました。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。

まとめ
ここまで企業文化の意味や醸成するためのポイント、他社の企業文化の事例など紹介してきました。
明確な文化が醸成されていれば、意思決定や行動が統一され、組織の一体感や働きがいが高まるなど、企業文化の醸成は経営において欠かせない要素です。ぜひ本記事で紹介したポイントや他社事例を参考に、自社の文化を見直し、より良い組織づくりにお役立てください。