近年、「タレントマネジメント」という言葉を耳にすることが増えたのではないでしょうか。
現在、人事領域で注目されているキーワードで、タレントマネジメントシステムを導入・検討している企業が増えています。
そこで今回、この記事では、タレントマネジメントの意味や注目される背景、メリットや注意点、導入事例など詳しく解説します。
この記事が、何かしらのお役に立てれば幸いです。
タレントマネジメントとは?概要と注目される背景

タレントマネジメントとは一体何なのか? 概要と注目されている背景について解説します。
タレントマネジメントとは?
タレントマネジメントとは、従業員が持つ資質(=タレント)やスキルを最大限発揮できるよう、戦略的に人事マネジメントを行う取り組みのことを指します。
タレントマネジメントの概念は、1990年代のアメリカで提唱され始めました。
そのころ日本では終身雇用制度が採用されており、基本的には同じ企業で勤め上げるのが当たり前でした。また昇進についても年功序列制度が導入されていたため、個人の能力よりはどれだけ企業のいう通りに働けるのかが重要視されていました。
しかし、近年は時代の変化により終身雇用制度が崩壊したり、就労に関しての価値観が変化したりしています。
そんな理由から日本では2011年頃から、最新のマネジメント方法としてタレントマネジメントが注目され始めているのです。
タレントマネジメントが注目されている背景とは?
タレントマネジメントが注目されている背景は3つあります。
- 背景1:経営方針の変化により人材が必要だから
- 背景2:働き手の獲得難化により人材が貴重だから
- 背景3:働き手の価値観が多様化してきたから
それぞれ詳しく解説します。
背景1:経営方針の変化により人材が必要だから
1つ目の理由は、経営方針の変化です。
日本は戦後、世界でトップクラスの成長を遂げてきました。しかし、現在は、テクノロジーの発展やグローバル競争の激化により、日本企業は外国企業に遅れをとっています。ここ30年の世界の企業の時価総額ランキングを比べても、それは明白でしょう。
(引用:STARTUP DB,『平成最後の時価総額ランキング。日本と世界その差を生んだ30年とは?』,<https://media.startup-db.com/research/marketcap-global>,2020年8月閲覧)
昔は企業内のメンバーで協調性を重視してビジネスを進めればよかったのですが、今はそうではありません。
加速する時代の変化のスピードに対応するために、どれだけ早く新しい価値を創出できるかが重視されるようになりました。
そこで、必要な能力を持った人材の獲得や、社内で必要な能力を持った人材の適正配置、育成の必要が出てきたという背景があります。
*このような変化の予測が難しい現代はVUCA時代と呼ばれています。VUCAについては以下の記事で詳しく書いていますので、是非ご覧ください。
背景2:働き手の獲得難化により人材が貴重だから
働き手の獲得難化も、タレントマネジメントが注目されている大きな理由でしょう。
少子高齢化による労働人口の減少や人材の流動化により、年々採用は難しくなってきており、優秀な人材を定着させる必要が出てきました。
そのため、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高めたり、従業員の能力が最大限発揮させたりするよう、適正な人材配置や育成といったタレントマネジメントが、一つの解決策として注目されています。
背景3:働き手の価値観が多様化してきたから
最後の理由は、働き手の価値観の多様化です。
昔は歯車のようにとにかく働いていた時代でしたが、現在では仕事にやりがいを求めたり、社会的意義を大切にしたりする人が増えてきました。
また、テクノロジーの変化によりyoutuberのような職業が生まれたり、副業が世間的に認められたり、フリーランスが増えてきたりなど働き方が多様化してきました。
そういった背景から、個人を尊重するタレントマネジメントは注目されています。
タレントマネジメントのメリットとは

ここでは、タレントマネジメントのメリットについて説明します。
タレントマネジメントのメリットは以下の5つです。
- メリット1:人材の適正な配置
- メリット2:人材の適切な育成
- メリット3:人材の適切な評価
- メリット4:採用基準の明確化
- メリット5:離職防止
それぞれ詳しく説明します。
メリット1:人材の適正な配置
従業員の能力や経験、価値観を把握しておくことで、適材適所に人材を配置することができます。
日本企業、特に大手企業であれば、一度部署が決まればそのまま同じ部署で働くということが一般的です。
しかし、従業員の苦手なスキルや価値観を求められる部署に配属されてしまうと、なかなか成果を上げることは難しいでしょう。
企業側が従業員のことを把握し、適材適所に配置することで従業員のモチベーション、労働生産性や成果の向上に繋がり、企業にとっても従業員にとってもwin-winです。
また、新規プロジェクト立ち上げの際に、最適な人材をアサインできるなど、スピーディーな事業展開も可能となります。
メリット2:人材の適切な育成
従業員がどのようなキャリアパスを描いているのか、どのようなスキルや経験を得たいと考えているのか把握することで、適切な育成が可能になります。
それに沿ったフィードバックをしたり、業務を与えたり、研修を実施したりすることで、従業員の意欲やスキルの向上に繋がり、自社の業績向上が見込めます。
メリット3:人材の適切な評価
能力に応じた適切な評価が出来ることもタレントマネジメントのメリットの1つです。
これまでの日本では、不透明な評価による配置転換やそれによる従業員のモチベーションの低下がしばしば起きていました。
従業員の能力の把握や評価項目を明確にすることで、適切な評価が可能となります。
また、従業員の能力や評価を可視化することで、埋もれていた人材を発掘することも可能です。
従業員の評価について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
メリット4:採用基準の明確化
タレントマネジメントをすることで、採用にも大きく役立ちます。
従業員の能力を可視化、管理することで、業務を推進するにはどのようなスキル・能力・経験が必要なのか定義できます。
また、選考中の求職者や内定者に対しても、「どんな働きを期待しているのか、企業としては何を与えられるのか」を伝えることができるので、安心感を与えることができるでしょう。
メリット5:離職防止
離職防止もタレントマネジメントの非常に大きなメリットの1つです。
タレントマネジメントによって、従業員の能力と業務内容のすり合わせが企業側としっかりできており、企業と従業員が同じ方向を向いているので、モチベーション高く仕事に取り組むことができます。
また、従業員が悩んだりストレスを抱えているときも最適なマネジメントができるので、離職防止に繋がります。
タレントマネジメントの導入ステップ

タレントマネジメントの概要やメリットを説明してきました。
ここからは自社にタレントマネジメントを導入出来るように、導入ステップについて解説します。
タレントマネジメントの導入ステップは以下の通りです。
- ステップ1:目的の明確化
- ステップ2:タレントの把握とデータ化
- ステップ3:新規採用・人材の配置と教育
- ステップ4:人材の評価(効果観察・成果の観察)
- ステップ5:データの管理とそれによる改善
それぞれについて詳しく解説します。
ステップ1:目的の明確化
まずタレントマネジメントを導入する目的を定めましょう。
自社の課題は何なのか、導入することで何を解決できるのか、ゴールは何なのかを明確にすることが大切です。
このステップを怠って導入してしまうと、問題が起きたときにどの解決策が最適か判断できず、収集がつかなくなる恐れもあります。
ステップ2:タレントの把握とデータ化
次はタレントの把握を行いましょう。
従業員全ての経歴や顔写真、実績、評価、キャリアプランなど人材に関するありとあらゆる情報を可視化します。
人材に関する情報はセキュリティなどの観点で、適切な人材が扱えるようにし、蓄積とアップデートできるようにしておくことが大切です。
ステップ3:新規採用・人材の配置と教育
タレントの把握が一通り終わったら、人事戦略上、必要な人材と現状を整理しましょう。
今いる人材で万事解決出来ればいいですが、多くの場合は理想に対してのギャップがあるかと思います。
このギャップを埋めるために、今いる人材を適切に配置したり、理想の状態にまで教育したりすることを検討しましょう。
自社にないタレントが必要だったり、教育に時間をかけられない場合は、外部から新規採用を実施します。
ステップ4:人材の評価
次は、人材の評価を行います。
タレントが想定していた能力を発揮できているか、能力は向上しているか、またモチベーションの増減はどうかなどをチェックしましょう。
この情報は将来の人材配置の判断材料になるので、ステップ2のデータと一緒に蓄積させることが重要です。
人材の評価については、こちらの記事に詳しく書いていますので、是非ご覧ください。
ステップ5:データの管理とそれによる改善
最後のステップは、データの管理と改善です。
ステップ4で得たデータを基に、必要があれば計画の練り直しを行いましょう。
ほとんどの場合、一度決めた計画通りに物事は進みません。
うまくいかなかった場合に、何がいけなかったのか、次どうするかのPDCAサイクルを出来るだけ早く回すことが大切です。
タレントマネジメントの注意点

タレントマネジメントの注意点は以下の通りです。
- 注意点1:タレントの適切な把握・管理
- 注意点2:自社に合う方法で行うこと
- 注意点3:データを収集し、改善を繰り返すこと
注意点1:正確なタレントの把握・管理
正確なタレントの把握と管理はタレントマネジメントにおいて一番大切と言っても過言ではありません。
タレントの把握と管理が正確でなければ、人事戦略が崩れてしまうからです。
タレントの把握と管理において、現場マネージャーと管理者との連携は不可欠な要素でしょう。
人材配置や教育の際に、タレントの事前情報をしっかり共有しておかないと、ギャップが生まれてしまいます。
情報管理においても理解がなければ形骸化してしまう恐れがあるので、現場マネージャーとのすり合わせは入念に行いましょう。
また、タレントマネジメントへの理解がない従業員は、情報収集に非協力な場合もあります。
タレントマネジメントによる従業員へのメリットをしっかりと伝え、正確な情報を収集出来る環境を整えておきましょう。
注意点2:自社に合う方法で行うこと
自社に合う方法を模索しましょう。
現在、タレントマネジメントシステムにはさまざまな種類があり、それぞれのシステムにメリット・デメリットがあります。
適当にシステムを導入してしまうと、工数や機能の過不足が発生するなど、問題が多発します。
業種、従業員数、管理者、自社のニーズを満たしているか、人事戦略などを踏まえた上で、最適なシステムを選択しましょう。
もちろん、自社開発するのも1つの選択肢です。
*ちなみにタレントマネジメントシステムはHRテックの一つです。HRテックについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
注意点3:データを収集し、改善を繰り返すこと
データを収集し、改善を繰り返すことが大事です。
当たり前ですが、システムを導入して、計画を立てて、1通りやれば終わりなんてことはありません。データ収集の継続や改善の繰り返し抜きに、タレントマネジメントは成立しません。
逆にデータ収集に偏りすぎたり、改善に偏りすぎても意味がありません。
四半期や半期など、適切なタイミングで振り返り、評価と改善を繰り返しましょう。
タレントマネジメントのサービス紹介

タレントマネジメントにはどんなサービスがあるのか紹介します。
今回は、タレントマネジメントシステム「タレントパレット」と「カオナビ」について書きます。
タレントパレット

「タレントパレット」は株式会社プラスアルファ・コンサルティングが提供するタレントマネジメントシステムです。
タレントパレットは従来の人事情報(社員データや経歴データなど)に加え、社員アンケート、スキル情報、適性検査や評価なども一括管理・分析が可能であり、「多彩な人材の見える化・分析を実現するシステム」となっています。
これにより、採用管理から人材の最適配置、育成、評価や離職防止まで全てをカバーすることができます。
カオナビ

「カオナビ」は、株式会社カオナビが提供するタレントマネジメントシステムです。
カオナビは、顔と名前が一致しないというシンプルな悩みを解決するために作られたツールで、現在5年連続シェアNo.1の実績を誇っています。
顔と名前を一致させるだけでなく、一人一人の人事情報やスキルも管理できるため、
スピーディーな人材配置やコミュニケーションの促進が可能となります。
タレントマネジメント 中小・大企業での導入事例を徹底解説

ここでは、実際にタレントマネジメントを導入して、成功した事例を紹介します。
株式会社エス・エム・エス・キャリア
介護・医療分野において人材紹介や求人情報などのサービスを展開する株式会社エス・エム・エス・キャリアが、「タレントパレット(Talent Palette)」を導入した事例を紹介します。
課題
当時利用していた人事システムでは、扱える情報が限定されている、複数のツールを用いらざるを得ない、といった状況でした。
そのため、各種情報を手作業で関連づけてレポートすると言った非効率な仕事が頻繁に発生していました。
導入目的・内容・効果
多くの従業員を抱え、かつ全国に事業を展開する中で、従業員情報を一元的に管理したり、社員間のコミュニケーション活性化や組織戦略の推進が目的です。
これらを解決する最適なシステムが「タレントパレット(Talent Palette)」でした。
このシステムを導入することによって、以下のようなことが可能となりました。
- 全社レベルで人事情報を一元管理・可視化することによって、全国にある事業所を超えた従業員間のコミュニケーション活性化。それによる組織連携の強化
- 従業員一人一人に最適なキャリア教育の実施
- 従業員の能力やキャリアプランに応じた人材の最適配置
また、タレントパレットが得意とする“人材の見える化”機能を使って、人材の情報把握・分析がワンストップで行えるようになり、組織戦略を推進させることに成功させました。
株式会社サイバーエージェント
インターネット総合サービス企業のリーディングカンパニーとして日本に君臨する株式会社サイバーエージェントが「カオナビ」を、導入した事例を紹介します。
課題
人数が1,000人を超えてきたサイバーエージェントにとって、顔と名前が一致しないことが増えてきたことが課題でした。
導入目的・内容・効果
新卒・中途問わず、入社時に顔と名前が一致しないと話しかけることができない。業務上の会話日も日常の会話もできず、連帯感が生まれない。とサイバーエージェントの経営陣は考え、全従業員の顔と名前を一致させることを目的に「カオナビ」を導入しました。
カオナビを導入してから、全事業部のグレード別リストや新卒社員、また男女バランスの観点や年齢バランスの観点、など組織図をいろんな切り口から顔写真付きのリストで見れるようになったのです。
そのおかげで、役員陣全員で顔写真リストを見ながら組織を俯瞰して決められるようになり、さらに異動・配置・抜擢の意思決定が以前より速くなることで、よりスピーディーな事業展開が可能となりました。
まとめ
この記事では、タレントマネジメントとは何か、メリット、導入ステップ、注意点や具体例について解説しました。
最後にそれぞれの項目について、簡単にまとめておきます。
タレントマネジメントとは、従業員が持つ資質やスキルを最大限発揮できるよう、戦略的に人材配置や人材育成を行う人事マネジメントのことで、以下の3つの理由から近年注目を集めています。
- 経営方針の変化により人材が必要だから
- 働き手の獲得難化により人材が貴重だから
- 働き手の価値観が多様化してきたから
タレントマネジメントのメリットは以下の5つです。
- メリット1:人材の適正な配置
- メリット2:人材の適切な育成
- メリット3:人材の適切な評価
- メリット4:採用基準の明確化
- メリット5:離職防止
タレントマネジメントの導入ステップは以下の通りです。
- ステップ1:目的の明確化
- ステップ2:タレントの把握とデータ化
- ステップ3:新規採用・人材の配置と教育
- ステップ4:人材の評価(効果観察・成果の観察)
- ステップ5:データの管理とそれによる改善
タレントマネジメントの注意点は以下の3つです。
- 注意点1:タレントの適切な把握・管理
- 注意点2:自社に合う方法で行うこと
- 注意点3:データを収集し、改善を繰り返すこと
この記事が御社のタレントマネジメントの役に立てば嬉しいです。