【事例10選】タレントマネジメントの成功・失敗例や目的を解説
労働人口の減少などを背景に、従業員一人ひとりの力を最大限に活用する「タレントマネジメント」が注目されています。企業が経営目標を達成するためには、次世代リーダーの育成や適材適所といった人事的な管理が欠かせません。
タレントマネジメントとは、タレント(従業員)のスキルや経験を一元的に管理し、適切な配置や育成に反映させるプロセスです。本記事では、タレントマネジメントの目的や導入方法を解説し、企業の成功事例10選を紹介します。
タレントマネジメントとは
タレントマネジメントとは、「タレント」と呼ばれる従業員のスキル・経験・保有資格・実績などを一元的に管理し、適切な配置・育成に反映させるプロセスのことです。
「タレント」を「マネジメント」することからそのまま名づけられた用語であり、近年の人事領域で特に注目を集める手法になりました。適材適所での人材配置について考えるとき、特に欠かせない思考だと言えるでしょう。
タレントマネジメントが注目される背景
近年タレントマネジメントが注目されるようになった背景には、少子高齢化による労働人口の減少が挙げられます。
業種・職種を問わず慢性的な人手不足に悩まされている企業は多く、採用を強化するだけでは今後の成長が危ぶまれると感じる企業が増えました。
打開のためには現在在籍している従業員1人ひとりの力を最大化していく必要があり、そのために「適材適所」を追及するタレントマネジメントの考え方が生まれたのです。
また、次世代リーダーの育成にタレントマネジメントの考え方を導入する企業も増えています。リーダーとして適性があるのは誰か、リーダーとしてのマインドをどう育成していくべきか考える際にも、タレントマネジメントが役立つのです。
タレントマネジメントを導入する3つの目的
下記では、改めてタレントマネジメントを導入する目的を解説します。
タレントマネジメントのどんな部分にメリットがあるのか知り、自社課題と照らし合わせながらイメージを膨らませていきましょう。
生産性向上
タレントマネジメントを経て適材適所な人材配置が叶うことにより、生産性が向上します。
過去の経験・実績・保有している知識や資格を最大限活かせる部署に配属できれば、従業員個人が持つスキルを最大限活かしやすくなるでしょう。適性に合った仕事であるため吸収も早く、教育・研修のコストが抑えられることもメリットです。
また、「自分に合った仕事を与えてもらう」ことは個人のモチベーション向上にもつながります。やりがいを実感し、より熱意を持って仕事と向き合う従業員が増えれば、自ずと生産性は上がるでしょう。
人材の発掘と育成
タレントマネジメントは、人材の発掘・育成にも役立ちます。
従業員ごとの特徴を可視化できるため、適性を見て長い目で教育しやすくなるでしょう。「次世代リーダーとして活躍できそうなマネジメント力ある人材」「研究肌で時間のかかることでもじっくりコツコツ取り組める人材」など、本人ですら自覚していない魅力を浮き彫りにできる可能性が高いのです。
新入社員など、まだスキルも実績もない従業員に対してもタレントマネジメントの視点を導入することができます。適性に合った研修を用意したいと考える企業ほど、タレントマネジメントを導入するメリットがあるでしょう。
従業員のエンゲージメント向上
タレントマネジメントを導入し、従業員エンゲージメントを向上させた企業も多いです。
「自分の適性を見抜いて配置を考えようとしてくれている」という満足感は企業への信頼につながり、エンゲージメントやモチベーションが上がっていくでしょう。社内からの支持率が上がり、優秀な人材の定着・早期の離職防止にも役立ちます。
労働人口が減少している昨今、一度獲得した人材を手放さず長い目で教育していく姿勢はどの企業にとっても欠かせません。エンゲージメントを向上させて定着率を上げたいときこそ、タレントマネジメントの導入を検討してみましょう。
タレントマネジメントの導入方法
下記では、タレントマネジメントの導入方法を解説します。
ステップを4つに分けて導入するとわかりやすく、フェーズに応じた課題を可視化しやすくなるため参考にしてみましょう。
目的の設定
まずは、タレントマネジメントを導入する目的を設定します。生産性向上を狙いたいのか、人材の発掘をしたいのか、エンゲージメントを上げたいのかによって方向性は大きく変わっていくでしょう。
例えば、経営者が交代した経験がなく次世代リーダーの育成ノウハウがない場合、人材の発掘・育成を目的にタレントマネジメントを導入します。一方、定着率が悪く新規で雇用してもどんどん退職してしまっている場合、エンゲージメント向上施策としてタレントマネジメントを導入するとよいでしょう。
タレントマネジメントに興味を持った根本的な理由を言語化し、自社のどんな部分に課題を感じているか理解していくことが大切です。
現状の人材情報を把握
次に、現状の人材情報を把握します。
職種・役職・給与・移動歴・保有資格・担当したプロジェクト・参加した研修プログラム・出身地・卒業校・家族構成・価値観・マインドなど、ありとあらゆる情報を集めます。その他、テレワーク活用中・時短取得中・産休育休取得歴あり、など働き方に関する情報を追加してもよいでしょう。
複数の部署に情報が点在しているケースもあるため、タレントマネジメントのメリットや導入目的を広く周知・共有したうえで協力体制を築くことも欠かせません。
モチベーションや会社への満足度など、組織状態が分かるような情報収集をすることでタレントマネジメントの成功率は大きく向上していきます。
計画の策定・運用
自社が求める人材イメージを具体化し、計画の策定・運用をおこないます。
スキルに合っていないと思われる配置があれば異動案を作成し、自社が保有しているノウハウが圧倒的に少ないと感じられれば外部から新規人材を雇用するなど、多彩な計画が考えられます。また、研修・教育プログラムの方法を見直すこともできるでしょう。
最も理想に近いと思われる状態に近づけるための計画を考え、スケジュール通りに実行していくことが大切です。
成果の検証
タレントマネジメントを導入し計画を運用し始めて以降は、定期的に成果の検証をおこないます。
目的とズレが生じている部分があれば、計画もしくは運用手法に誤りがあると判断できるため、改めて改善策を取る必要があるでしょう。また、人事異動後の従業員満足度やエンゲージメントスコアの上下を数値でチェックし、狙ったような効果が得られているか確認することも重要です。
会社だけでなく従業員にとって実のある施策にすることを意識し、調査していきましょう。
以上の流れの中でも、人材情報の把握や成果の検証はタレントマネジメントシステムを活用することで、比較的容易に進められます。システム導入を検討されている方はこちらの記事をご覧ください。
タレントマネジメントの成功事例10選
最後に、タレントマネジメントに成功した企業の事例を紹介します。
三者三様の導入方法があり、目的ごとに多彩なタレントマネジメントをできることがわかるでしょう。
下記を参考に、自社に合った運用手法を見つけていくことをおすすめします。
日産自動車┃社内スカウトマンの活用
日産自動車ではタレントマネジメントに特化した部門を置き、社内スカウトマンを導入しました。日本はもちろん海外で雇用している従業員のなかから優秀な人材を選定し、リーダー育成用のプログラムへの参加を促します。
個々の適性に合わせてターゲットポジションを示せること、「自分の頑張りが評価されている」という満足感が出やすいことなどがメリットとなっており、日産独自の文化として定着しました。
サントリーホールディングス┃1人ひとりが活躍できる環境づくり
サントリーホールディングスでは、1人ひとりが活躍できる環境づくりをするためタレントマネジメントを導入しています。「ダイバーシティ経営」を掲げているサントリーホールディングスだからこその取り組みであり、多様な人材が活躍できるようになりました。
具体的には、個々に与えられた役割および発揮した成果に応じた実力主義の人事評価を導入しています。そこに適材適所の配置というタレントマネジメントの視点を加えたことで、努力した人が正当に評価され、どんどん希望するポジションに移れるようにしたのです。
昇進・昇格を含めたキャリアパスも見やすくなり、働き続けるモチベーションも向上する取り組みとなりました。
参考:人事の基本的な考え方 サントリーグループのサステナビリティ サントリー
グローバルキッズ┃採用のミスマッチを回避
グローバルキッズでは、採用のミスマッチを回避するためタレントマネジメントに着手しています。
採用の前段階からタレントマネジメントをする画期的な取り組みであり、自社が求める人材像と求職者が自社に求めていることのマッチング率が高い人から優先的に採用するようになりました。入社してから「やっぱりイメージと違った…」と離職することを防ぎ、長期的な目線で研修・教育しやすくなったことがメリットとなっています。
また、顔・名前・出身校・経歴・趣味などを一致させたコミュニケーションができるようになり、新入社員とマネジメント層の交流が深くなるという効果も現れています。
参考:株式会社グローバルキッズ|導入事例|カオナビ【シェアNo.1】社員の個性・才能を発掘し、戦略人事を加速させるタレントマネジメントシステム
GEヘルスケア・ジャパン┃人事部門の役割強化
GEヘルスケア・ジャパンでは、人事部門の役割を強化し、従業員のキャリア形成を応援する動きを取っています。行動指針として「GE Leadership Behavior」を掲げ、社員1人ひとりの成長がGEヘルスケア・ジャパン全体の成長につながるという方針にしているからこそ、キャリア教育にコストと時間を割いているのです。
例えば、年齢・性別・国籍に関係なく参加できる社内公募制度や、実績を客観視するために自社独自の評価ツールを導入し、チャレンジ精神を培う取り組みを始めました。
適性さえあればどんな業務にでもチャレンジできるという環境こそが、従業員から評価を集める要因になっているのです。
日本マイクロソフト┃人事戦略の強化
日本マイクロソフトは、人材情報を一元管理するプラットフォームを構築したうえでデータドリブンな人事戦略の立案・計画に注力しています。
自社が保有する世界中の人的資本情報を可視化できるシステムをつくっているため、最適な人員配置・教育プログラムの考案・期待されている人事評価システムの立案などに貢献するようになりました。「従業員から何を期待されているか」を知り、行動していくことで生産性も向上しています。
また、HRBPなどエグゼクティブ層のサポート部門をつくるなど、人事部門そのものの強化にも力を入れています。
サイバーエージェント┃社内独自のシステムを活用
サイバーエージェントでは、適材適所の配置を実現するための組織として「キャリアエージェント」を置き、社員のコンディション把握ツール「GEPPO」や社内異動公募制度「キャリチャレ」の舵取りをしています。
GEPPOに記入されたコメントに対し丁寧な返信をするなど社内独自の手厚いサポートシステムを構築し、社風として受け入れられるようになりました。上司・先輩社員だけでなくキャリアエージェントという相談窓口が開いたこともあり、風通しのよい職場環境づくりに向けた取り組みにもなっています。
参考:87%の社員が「働きがいがある」と答える環境を実現ーーCHO曽山が語るエンゲージメントを高める人事施策 | CyberAgent Way サイバーエージェント公式オウンドメディア
日清食品ホールディングス┃人材育成の企業内大学を設立
日清食品ホールディングスでは、人材育成を目的とした企業内大学「NISSIN ACADEMY」を設立しました。全社員対象の研修・自己啓発支援・経営者候補の育成・各部門のリーダー候補選抜試験など、多彩な取り組みをしています。
その他、結婚・妊娠・出産・住宅購入・介護などプライベートな人生設計や海外赴任・異動・昇進などを含むキャリアプランなどをトータルで考えるライフデザインセミナーや、リーダー層を対象としたアウトドア研修など社内独自の企画も続きました。グルメ全体のビジョンである「EARTH FOOD CREATOR」を実現するための取り組みとして、現在も新たな企画が生まれ続けています。
味の素┃世界各国の人材を登用
味の素では、世界中に点在する優秀な人材を登用するため、人材の横断的な育成・登用をはじめています。グローバル人材マネジメントシステムを導入し、ポジションマネジメントとタレントマネジメントを融合した独自の取り組みとして評価されました。
役職・職種ごとに期待されているスキルを育成しやすいだけでなく、個人の希望・理想・適性に合ったスキルアップ施策が取れるようになったことで、従業員の満足度も年々向上しています。地域横断型の研修・選択型の教育プログラムなど多彩な取り組みがあり、参加する側のわくわく感が高いことも特徴と言えるでしょう。
参考:多様な人財の活躍推進
ANAホールディングス┃多分野の職種を管理
ANAホールディングスでは、統合人事パッケージシステムを導入しANAグループ全体のタレントマネジメントに着手しています。移動歴・教育履歴・保有資格などの人材情報を一元管理することに加え、グループ各社にまたがる異動シミュレーションを手軽に実行できるよう工夫しています。
結果として、多種多様な職種があるANAであっても適材適所な人員配置ができるようになり、生産性が上がりました。多様な人材がいる企業だからこそ、タレントマネジメントの重要性が分かる取り組みとなっています。
参考:ISID、ANAグループ36,000名のタレントマネジメントを「POSITIVE」で実現
モンテディオ山形社┃サッカー選手のデータを管理
モンテディオ山形社では、若手選手の積極獲得や既存選手の強化に向け、サッカー選手のデータ管理を徹底しています。
チームとして統一したスカウト基準をつくったことで優秀な選手を呼びやすくなり、チーム力の強化に貢献しています。また、スカウト時の情報を入団後の教育・指導に活かす取り組みをはじめ、スカウトから活躍までをワンストップでつなげやすくなったこともメリットと言えるでしょう。
攻撃・守備・フィジカル・パーソナリティ・過去の試合実績などサッカーチームに特化したタレントマネジメントを導入し、結果が出ている事例と言えます。
参考:Jリーグ「モンテディオ山形」が「SAP(R) SuccessFactors(R)」を活用した定量的評価により、選手のスカウトを強化
タレントマネジメントの導入・運用でよくある失敗例
タレントマネジメントは効果の見えづらい企業ごとに目的の異なる難しい施策です。そこで失敗例を先に学び、対策を行なっておくことが大切です。
導入前に見られる失敗例としては、以下の3つが挙げられます。
- 導入目的があいまい
- 導入するだけで効果が得られると思った
- 既存の人事制度との連携ができていない
続いて導入後・運用時に見られる失敗です。
- データ収集に社員の協力を得られない
- 集めたデータをうまく活用できていない
- 人材データの更新頻度が低い
- タレントマネジメントシステムを使いこなせない
それぞれの詳細や対策のポイントに関しては、以下の記事をご覧ください。
タレントマネジメントの要「人材情報の把握」に ourly profile
ourly profile(アワリープロフィール)は、個人のプロフィール機能やスキル管理機能などにより、組織のサイロ化を解消する社内コラボレーション創出ツールです。
簡易的なタレントマネジメントのためにご活用いただけます。
3つの大きな特徴により、リモートワーク下でも部署を超えた相互理解や社内のコミュニケーション活性化を実現します。
- 人となりが一目でわかる自己紹介画面
- 独自の探索機能により、思いがけない出会いを創出
- 組織図により、チーム・部署を超えて組織を理解できる
社員名などの基本的な検索機能に加え、所属部署や役職、Q&Aの回答項目などさまざまなセグメントでメンバーを絞り込むことができます。
それにより「この人こんなスキルを持ってたんだ!」「プロジェクトで行き詰まったから同じような経験ある人にアドバイスをもらおう」など、これまでになかった”新たなはじめまして”を社内で実現します。
料金については、従来のタレントマネジメントシステムに比べ、安価に運用いただけます。加えて、従業員規模に応じて幅広くご用意しておりますので、詳しくはサービスページまたは無料相談にて、詳しくお伝えいたします。
タレントマネジメントを取り入れ1人ひとりが活躍できる組織づくりを
タレントマネジメントは、生産性向上・人材の発掘および育成・従業員エンゲージメントの向上などさまざまなメリットをもたらします。1人ひとりに合った活躍の場を用意し、モチベーション高く働いてもらうための施策としても有効でしょう。
人材管理・配置に関する悩みを持つ企業は、タレントマネジメントの視点を取り入れてみるとよいでしょう。導入時には社内報などを活用し広く意義・目的を周知し、協力体制を構築することが大切です。