【セミナーレポート】社内も社外も関係ない!?全てのステークホルダーにストーリーを伝える「経営広報」とは?
組織改善のインナーメディアプラットフォーム「ourly(アワリー)」を提供するourly株式会社は、2022年10月20日(水)に、「全てのステークホルダーにストーリーを伝える『経営広報』」というテーマのオンラインセミナーを開催いたしました。
登壇者には『プロフェッショナル 広報の仕事術』の著者であり高場経営広報舎代表の高場 正能氏をご招待。
モデレーターは弊社 執行役員/CMO 飯野 希が務めました。
パネルディスカッションでは、「経営広報」とは何か、なぜ誕生したのか、現代において「経営広報」が必要な理由に加え、著書に書かれている35のベストプラクティスのうちの1つを解説していただきました。
本記事では約1時間ほどのパネルディスカッションを、一部抜粋してご紹介します。
登壇者
1961年生まれ。早稲田大学商学部卒。1985年リクルート入社。
翌年リクルートコスモス(現 コスモスイニシア)の広報室立ち上げ以降、一貫して広報業務に従事。カルチュア・コンビニエンス・クラブ、ゴルフダイジェスト・オンライン、インデックス、ベルシステム24、ADワークスグループ(現任)等の広報責任者を歴任。
4度の上場、経済社会を揺るがす事件、企業変革等を多数経験。
2022年1月に高場経営広報舎を開業、現職と兼業で他企業の広報担当者育成や経営者直轄の広報関連タスクフォースなどの事業を展開中。著書に『プロフェッショナル広報の仕事術 ~経営者の想いと覚悟を引き出す~ 』(日本経済新聞出版)。
モデレーター
新卒で大手メーカーに入社。ユーザビリティエンジニアとして、HCDの啓蒙活動を行う。
ビットエー入社後は、AI特化型webメディア『Ledge.ai』の立ち上げや、AI開発部隊の立ち上げを行い、その部隊をレッジとして子会社化。執行役員に就任し、事業を推進。 2020年7月からビットエーのourly事業部へ転籍。
webメディア運用のノウハウと、データを元とした組織改善が強み。
セミナー本編
ドーナツ化現象の真ん中にあたるのは、経営者
——高場:まずはじめに、経営広報とは何なのかについてお話しさせていただきます。
経営と広報という言葉はそれぞれ普通名詞ですので、経営広報と聞いてもよくわからない、あるいは分かった気になってしまうのではないかと思います。
経営広報は、
- 広報戦略は経営戦略の一環である
- 経営者は最高の広報パーソンである
- 経営者をメディアにpushするための広報戦略である
と捉えられがちです。1つ1つは正しいのですが、そういうことではないんです。
——高場:例えば、80年代から90年代には、大手企業が世の中に役立たなければならないということで社会貢献や企業文化という言葉を多く耳にするようになりました。
2000年になるとインターネットの技術が登場し、同時に企業ブランドというものが言われるようになりました。2020年以降は、危機管理広報、つまりお詫び会見というものが多く散見されるようになりました。
こういった「旬の広報」によってそれぞれのHOWTOや最先端のことばかりがもてはやされた結果「何を伝えるのか」という部分が抜け落ちてしまい、ドーナツ化現象が発生していると考えています。
——高場:この抜け落ちた真ん中の部分に当たるのが経営者です。経営者の存在や考え方を掴んでおかないと、危機管理であれインターネットであれ、首尾一貫した経営ができなくなってしまうのではないか、という問題意識を抱えていました。
——飯野:企業ブランディングというと、多くの会社は化粧がうまいと思います。ただ、厚化粧が故に化粧をしている内側の部分が見えにくくなってしまっているという点が、このドーナツ化現象に通じる部分があるのではないかと思います。
——高場:説明した通り、HOWTOを競う流れに翻弄されてきたことに加え、創業経営者は広報領域を超える仕事を要望するようになりました。これらの要望は経営者が未来を構想するコンテンツそのものであり、それを経営者自らがつくることで最高の経営者のメッセージになります。
メッセージ力が強いコンテンツはメディアが取材し、その結果広報案件になります。つまり広報=メディア対応という固定観念をいったん外し、呪縛を解き放つことで、経営者に真っ直ぐに向き合い、メディアに限定せずに経営者の意思を発信する。これが経営広報です。
——飯野:内容だけを見ると広報らしくない仕事でも、それを依頼している狙いや意図まで理解することで経営広報に近づくということですね。経営のメッセージを伝える1つの手段としてのメディア対応に加えて、経営者の想いを掴む、社内外に対して広く報じるのが経営広報ということですか?
——高場:その通りです。より上流、源流といった、経営者の核心に近いところを掴んで、形にしていくというプロセスを経営者と一緒に作るというのが大切なのであり、ドーナツ化現象の解消策になるのだと思います。
経営広報と現代の時代的背景
——高場:経営広報は時代の要請なのではないかと考えています。現代の特徴として、以下3点が挙げられます。
1点目は加速度的変化の時代です。全く異なる2つのテクノロジーが合体することによって、新たなテクノロジーが誕生している一方で、そのチャンスに乗り遅れることで危機にもなり得る。このように機会と危機が背中合わせになった、変化の激しい時代です。
2点目は、衆人環視の時代です。SNSに象徴されるように、いつも誰かにみられている時代になりました。コンプライアンスという点においては、単に法律を守っていれば良いわけではなく、様々な目に晒されていて少々対話を誤るとすぐに炎上してしまう時代です。
3点目は、自利利他の時代です。自利利他は仏教用語ですが、まさにサステナビリティを意味しています。自社の利益だけではなく、社会の利益も考える必要があるということです。以前は社会貢献と言われていましたが、社会貢献の延長線上にありながら自らの利益と社会の利益の両立を本気で追求しなければならない時代になっています。
そうでなければ、見向きもされない会社になってしまいます。
このような状況に置かれた経営者と協働して、迅速な判断と首尾一貫したメッセージ発信を行うのが経営広報の役目だと思っています。その意味で経営広報は時代を表した大事な機能なのではないかと思います。
——高場:経営広報を実践するには、2つのことが必要になります。
- 経営者が何を考えているのか、経営者の意思は何かを掴んで、ストーリーとして言語化するためのスキル
- 広報=メディア対応という呪縛を解き放ったからには、広報の守備範囲を超える柔軟な発想と果敢な行動をとること
——飯野:経営者が広報の役割を理解していない、ということに対するアプローチ方法はありますか?
——高場:広報=メディア対応という前提があることによって、メディアに対して施策を打つ必要はない、危機管理ができていればいい、という枠組みで考えてしまっているのだと思います。
そうではなくて、経営者の考えや発信は社員や株主、取引先が求めているものであり、それが首尾一貫していないと会社として正当にみられないということを経営者に認識してもらう必要があります。
——飯野:経営広報という考え方が合致しやすい会社・合致しにくい会社はありますか?
——高場:私がこれまで担当してきた経営広報は創業経営者で、ベンチャープラスαのような企業でした。激しい成長プロセスにあって、やりたいことを多く持っている経営者にはこの考え方は絶対に必要です。
一方で、大手企業には必要ないのかというとそうではありません。
実際に私の書籍を読んでくださった大手食品メーカーは、広報からメディアを取り払ったことで、メーカーとして発信しなければならないサステナビリティの考え方をオウンドメディアで発信しています。つまり、一般のメディアの呪縛を解き放つことで広報部の運営に成功しているのです。
経営広報を実践するための7つの手順と35のベストプラクティス
ベストプラクティス7ー水面の上下の氷を見極める
——高場:「水面の上下の氷を見極める」という考えは、経営者が何を考えているのかキャッチしたいという想いからきました。一般社員には水に浮かんでいる氷の上の部分しか見えていません。彼らにとって、これが会社の現在であり水面下は未来です。
一方で、経営者にとって水面上の氷は会社の過去で、水面下は現在なのではないかと考えました。彼らは氷をより大きくするための新たな施策を水面下で考えていて、水面の上下をシームレスに行き来しています。
経営者が氷の上のことを言っているのか下のことを言っているのかを理解できるようになれば、経営者との付き合い方も楽になります。水面下のことをきちんと掴んで、言語化することに挑戦すると経営者の想いを理解することができます。
——質問:経営者と距離がある一般社員ができる経営広報活動はありますか?
——高場:経営者との接点の数は、広報の責任者と一般社員ではあまり変わらないと思っています。例えば、朝礼や会議で発言した一言や歩きながら見せた表情のような断片情報を日頃から集めておいて、今後会社がどのように動いていくのかといった全体像を推理する癖をつけると、会社の全体像や方向性がわかってくるようになります。
逆に、推理を働かせないと経営者の近くにいても全体像はわかりません。なので経営広報の責任者でなくても、同じような思考回路で推理をすることで徐々に掴めてきます。
経営広報と社内広報の関連性
——高場:社内広報は社外広報と比較して軽視されるということをよく聞きますが、それは誤解です。このような誤解が生じるのも、広報=メディア対応という固定概念があるためにメディア対応ではない社内のことは楽、という背景があるかもしれません。
私は、社内広報も社外広報もその重要性は全く変わらないと思います。
経営者が経営方針を社内に浸透させたいのは明らかなので、社内広報の重要性に議論の余地は全くありません。また手段も様々で、社内報、行事やイベント、朝礼、説明会、メルマガ、掲示板、オウンドメディア、中期経営計画などです。経営者の意思を乗せた力のあるコンテンツをつくることで、社内にも通用するのではないかと考えています。
質疑応答
——質問:経営広報担当者の適正はどこにありますか?通常のメディア広報担当とは異なりますか?
——高場:広報に必要な資質というのは礼儀正しいことだと思っています。ビジネスの中での礼儀正しさというのは例えば、時間を守る、レスポンスを早くする、先を読む、といったことですが、そういった当たり前のことができることが重要です。
また、話し上手よりも聞き上手、もう一歩上を目指すと話させ上手というスキルを持っている人が広報に向いていると思います。経営広報は経営者の想いを掴まなければならないので、物事を俯瞰して見る力や表層面だけではなく、裏側を考えて組み立ててみたいという思考の持ち主は経営広報を楽しむことができるのではないかと思います。