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納得できないルールは意味がない。組織の心理的安全性を高めるルールデザイン

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リモートワークの普及や働き方の多様化など、ビジネスパーソンを取り巻く社会環境が変化するなかで、チームでパフォーマンスを発揮するために大切な「心理的安全性」が重視されています。心理的安全性の高い組織をつくるためにはどうすればいいのか、さまざまな手法が検討されていますが、その大きな一端を担うのがルールづくりです。

今回は『数理モデル思考で紐解くRULEDESIGN -組織と人の行動を科学する- 』(ソシム)の著者である江崎 貴裕さんに、組織の心理的安全性を高めるルールデザインについてお話を伺いました。

江崎貴裕さん

江崎 貴裕
(えざき たかひろ)

インタビュイー

東京大学 先端科学技術研究センター 先端物流科学寄付研究部門 特任講師
株式会社infonerv 取締役

2011年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2015年、同大学院博士課程修了(特例適用により1年短縮)、博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、国立情報学研究所特任研究員、JSTさきがけ研究員、スタンフォード大学客員研究員を経て、2020年より現職。2021年には株式会社infonervを設立し、研究だけでなく、データ解析技術を自ら社会に役立てることにも挑戦している。東京大学総長賞、井上研究奨励賞など受賞。数理的な解析技術を武器に、統計物理学、脳科学、行動経済学、生化学、交通工学、物流科学、金融工学など幅広い分野の問題に取り組んでいる。

インタビュアー

2019年よりフリーランスライター・編集者・Webメディアディレクターとして活動。前職ではベンチャー企業のメディア事業部に在籍し、Webマガジンの副編集長としてWebメディアの運営・企画やライターマネジメントに従事。

現在は、ourly magazine編集部にてコンテンツ企画やインタビュー、ライティングを担当している。

目次

問題解決に必要なルール。肝心なつくり方は誰も教えてくれない

──職場の心理的安全性を高める手法はさまざまですが、ルールをつくることも1つの方法ですよね。職場の心理的安全性を高めるルールづくりで、意識すべきことがあれば教えてください。

心理的安全性を確保するためのルールをつくる際には、ルールデザインの原則を意識するとよいと思います。

世の中には、ただつくっただけで役に立たないルールや、そのルールがあることでかえって生活しづらくなるルールが存在します。このようなネガティブなルールは、ルールデザインを意識しないままつくられたものがほとんどです。

職場の心理的安全性を高めるルールづくりにおいても、ルールをしっかりと機能させ、その効果を引き出すためにはルールデザインの考え方が役に立ちます。

──ルールデザインとは一体どのようなものなのでしょうか。

世の中にはたくさんのルールが存在します。その大半は何か問題が起きたときや、現状が理想の状態から逸脱しているときにつくられます。例えば「全員が一致団結した組織にしたいけど、上手く人がまとまらなくて困っている」のであれば、その状態をつくりあげている環境や行動を制約し、よりよい状態にする。それがルールです。

しかし、人間は複雑な生き物です。ルールをつくったからといって、必ずしも全員が従うわけでも、すぐに問題が解決するわけでもありません。「あるルールをつくったら人間はどう感じて、どう行動するのか」「ルールをつくった先に、どのようなことを考えるべきなのか」「そもそもこのルールはなぜ必要なのか」など、ルールをつくる過程や、つくった後に起こりうることを理解しないと、簡単に「失敗するルール」がつくられてしまいます。

ルールのあり方やつくり方、機能の仕方を考えて仕組みづくりにつなげる。それがルールデザインです。

──ルールのあり方や、つくり方、機能の仕方を考える。

ルールをつくるのは、みなさんが想像している以上に難しいことです。ルールをつくっても失敗するケースは多い。それなのに、「ルールをつくるとき、何に気をつけなければいけないのか」「ルールをどう運用するべきなのか」といったルールデザインの考え方は軽視されています。

また、肝心な「ルールのつくり方」は誰も教えてくれません。これらが、さまざまなルールの失敗を生む原因なのではないでしょうか。

なぜルールが必要なのかを明確化することが重要

──心理的安全性の高い組織づくりは、多くの企業が試行錯誤をしている課題かと思います。組織の心理的安全性を高めるルールデザインをするうえで、意識すべきことはありますか。

どのようなルールデザインにも当てはまりますが、まず大切なポイントを3つ挙げたいと思います。

  1. ルールが何のためにあって、どういう状態を⽬指したいのかを全員に周知すること
  2. ルールが機能していることをモニタリングし、改善点などを定期的に検討してアップデートすること
  3. ⼈の複雑さを前提に置き、ルールの機能を妨げる要素はないかを考えること

まずはルールが何のためにあって、どういう状態を⽬指したいのかを構成員全員に周知すること。例えば「心理的安全性を高めましょう! そのためにルールをつくりましょう!」といっても、ピンとくる人とそうでない人がいますよね。なぜ必要なのかを理解できなければ、ルールに従う必要性や重要性を感じることもできません。

──たしかに納得できないまま、ただ「ルールを守れ」と言われても、従う気になりませんよね……。

そうですね。全員がある程度納得できている状態であれば、「とりあえずやってみるか」という流れになるのではないでしょうか。

そして2つ目に大切なのが、ルールを設定しただけで終わらないことです。ルールを設定しても、すぐに効果が出るとは限りません。ルールが機能しているかどうかを定期的にモニタリングし、改善点などがある場合は検討・アップデートをする必要があります。とくに、感覚だけに基づいて「こうするとうまくいくんじゃないか」という思いつきでルールをつくってみたが、いざ実行に移したら全く効果がなかった、というケースもよくありますよね。

また、心理的安全性はチームの雰囲気や環境も関わってきますし、1個のルールを設定したからといって効果が出てくるものではないと思います。組織全体だけでなくチームごとにどんなアップデートが必要なのかも検討していくことが重要です。

人間は複雑な生き物。上手くいかないことを前提にルールを設定する

──やはりルールが機能しているかどうかは、こまめにモニタリングする必要があるのでしょうか。

どんなルールを設定したかにもよりますが、初めはこまめにモニタリングをしたうえで、ある程度アップデートや改善を重ねていきましょう。ある程度ルールが機能してきたら、モニタリングの間隔をあけていく方法がよいと思います。

──ありがとうございます。3つ目の「⼈の複雑さを前提に置き、ルールの機能を妨げる要素はないかを考えること」についてはいかがでしょうか。

はい。冒頭でもお話ししたとおり、人間は複雑な生き物です。どんなに考え抜いて設定したルールでも、全く機能しないケースもあります。上手くいかないことを前提にルールを設定し、長い目で運用・改善していくことが重要です。

また、ルールの機能を妨げる要素がある場合は、それらを取り除く必要があります。

例えば、心理的安全性を高めるために「言うべきことは、誰にでも何でも言うようにしよう」というルールを設定したとします。しかし、そもそも組織全体の雰囲気が悪かったり、従業員アンケートの結果が筒抜けだったり、過去に意見を言って嫌な思いをした人がいたりすると、ルールをつくったところであまり意味がありません。このようなケースでは、まず社員の信頼を取り戻す施策を考えることが重要です。

現場の意見も取り入れながら、ルールの機能を妨げる要素がある場合は、事前に取り除くようにしましょう。

本当のゴールは「心理的安全性を高めること」ではない

──ルールの設定は、経営層やマネージャー層がする場合が多いものですが、そういった人たちが意識すべきことはありますか。

心理的安全性に関する課題においては、下から変えていくより上から変えていくほうが圧倒的に簡単なので、まずはルールを設定する経営層やマネージャー層から積極的に取り組んでいくことが大切です。

話を聴く態度を変える、報告を上げた部下に感謝を述べる、 失敗を責めず建設的な議論にフォーカスする、「気になることは無いですか?」と現場の社員に意⾒を尋ねるなど、取り組むべきことは多岐にわたりますが、そもそも何のためにやっているのかという根本の⽬標に集中すれば、自ずと必要なことや意識すべきことが見えてくると思います。

──根本の⽬標とは、心理的安全性を高める先にある目標ということでしょうか。

おっしゃるとおりです。なぜ多くの組織が心理的安全性を高めることにフォーカスするかというと、その組織が団結し、達成したいゴールに進んでいくためですよね。

例えば、組織でこれだけの利益を上げるとか、競争力のある商品を開発するとか、社内の業務プロセス改善するとか。その組織の掲げるビジョンやチームごとのミッションなど、何かしらの目標があるはずです。その目標を達成するために、心理的安全性を高めることが必要となる。

だからこそ、根本にある目的を把握・周知し、それに関連づけて心理的安全性を高めるルールを考えていくことが大切です。

ありとあらゆる組織にルールデザインの導入を

──ルールデザインをどのような組織で活かしてほしいと思いますか。

あらゆる組織で、というのが答えですね(笑)。どんな組織にも、あまり役に立っていないルールや、邪魔なルールは存在するものです。ルールデザインを広めることで、そういったネガティブなルールが1つでもなくなるといいなと思います。

また、私の書籍を読んで解決できる問題は比較的簡単な問題です。官公庁や大企業などステークホルダーが多い組織になるほど、ルールの設定はより困難になります。もちろん国のルールもそうです。それらを良くしていこうと思うと、いろいろなしがらみや個別の事情、制約条件をなぎ倒していく必要がある。そういった組織にルールデザインを広めていくことが、これからの私の課題です。

インタビューのなかで、「約10年前から調査した内容がやっと書籍になったんです」と語った江崎さん。『数理モデル思考で紐解くRULEDESIGN -組織と人の行動を科学する- 』には、ありとあらゆる組織で起こったルールデザインの成功・失敗事例が数多く解説されています。世の中で生じるトラブルや課題を解決するためには、ルールが必要不可欠。

今後、組織のなかでも理不尽なルールに従わせるのではなく、全員が納得できるルールデザインが求められていくはずです。ぜひ、職場の心理的安全性向上に限らず、すべてのルールづくりに、ルールデザインを活かしてみてはいかがでしょうか。(ライター:加賀山)

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