ジョブ型とメンバーシップ型を比較!メリット・デメリットと事例を解説
ジョブ型雇用とは、従業員の仕事内容や労働時間、勤務地にいたるまであらかじめ明確に決められた雇用システムを指します。職務への高い専門性を持った人材を確保できるのが特徴です。
一方、メンバーシップ型雇用とは、従業員の配置を企業が判断し、総合的なスキルを身につけさせる雇用システムです。
本記事では、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用のメリットデメリットや、それぞれのシステムを導入している事例を解説します。さらに、新たな雇用システムとして、タスク型雇用とハイブリッド型雇用も紹介します。
ジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用とは?
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用は、どちらも雇用システムのひとつです。
従来の日本ではメンバーシップ型雇用が主流でしたが、近年はジョブ型雇用を導入する企業が増えてきました。
まずはそれぞれの違いを理解していきましょう。
ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用とは、仕事内容や雇用条件を事前に提示して採用する雇用システムです。
勤務地・勤務時間(曜日)・配属先部署なども細かく提示することが多く、なかには入社から5年10年経った後のキャリアパスを示すこともあります。
ミスマッチのない採用ができるため離職リスクを抑えやすいこと、欲しいポジションに合ったハイスキル人材を採用しやすいことが大きなメリットです。
メンバーシップ型雇用とは
メンバーシップ型雇用では、仕事内容を限定することなく採用する雇用システムです。
おおまかな仕事内容やおよその報酬は伝えられますが、配属先・勤務地などは入社してから決まります。「総合職」として採用し、入社後数ヶ月間の研修を経て適性を見ながら配属していくスタイルをイメージするとよいでしょう。
日本における新卒採用の場でよく見られる採用手法であり、大量の人員を一括で雇いやすいことがメリットです。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の比較表
ジョブ型型雇用とメンバーシップ型雇用との違いは、下記のようにまとめられます。
ジョブ型雇用 | メンバーシップ雇用 | |
基本原理 | 仕事に人を配置する | 人に仕事を配置する |
主な活用シーン | 中途採用・ハイキャリア採用 | 新卒採用・一括採用 |
配属・異動 | 本人と会社の希望をマッチさせて実施 | 会社判断による配属(異動)命令 |
昇進・昇格 | 実力主義 | 勤続年数・年齢重視 |
降級・降格 | 頻繁に実施される | ほとんど実施されない |
報酬 | 職務給(仕事内容に応じて変化) | 職能給(年功重視で変化) |
報酬基準 | 市場に合わせて変動 | 社内基準に併せて変動 |
人材の流動性 | 高い | 低い |
雇用保障 | 弱い | 強い |
ジョブ型雇用は仕事内容に応じて人を採用するため、事前に条件提示する必要があります。
また、高いパフォーマンスを発揮してくれる人材は積極的に評価しようという動きがあり、若い年代でもスキル次第で高い報酬を得ることが可能です。
一方でメンバーシップ型雇用は企業側による采配が強く、配属・異動も会社命令で決まります。
入社してしばらくの間は全員一括で同じ研修・教育を受け、その場で適性を見ながら配置案を練り上げることも特徴です。勤続年数や年齢が重んじられるため、長期間の就労を前提とした雇用システムだと言えるでしょう。
ジョブ型雇用のメリット・デメリット
下記では、ジョブ型雇用のメリット・デメリットを解説します。
近年なぜジョブ型雇用にシフトする企業が多いのか知るためにも、ひとつずつチェックしていきましょう。
メリット1:専門性の高い人材を確保できる
ジョブ型雇用の大きなメリットとして、専門性の高い人材確保に向いている点が挙げられます。
例えば、リードエンジニアとしてビッグプロジェクトを牽引してきた人と、戦略経理部の役職者として経営に関するアドバイスもしてきた人とでは、当然ながらスキル・適性・強みが異なります。
メンバーシップ型雇用のような一括採用では事前にスキルレベルが分からず、教育・育成にコストがかかることも多いのです。一方でジョブ型雇用では仕事内容や求めるスキルを細かく記載して求人を出すため、マッチする人材の目に留まりやすくなるでしょう。
専門性の高いハイスキル人材を採用したいときにこそ、おすすめの手法です。
メリット2:雇用のミスマッチが予防できる
ジョブ型雇用では事前に仕事内容・勤務地・勤務時間など細かな条件を提示して選考するため、雇用のミスマッチを予防できます。
「想像していた仕事ではなかった」「理想の働き方があったのに許可がおりなかった」など、入社後に判明する不満が出にくくなるのです。雇用のミスマッチが大きい場合、早期退職につながることもあるでしょう。
企業側・従業員側どちらにとっても満足できる雇用をしたい場合こそ、ジョブ型雇用が向いています。
メリット3:透明性の高い公平な評価ができる
ジョブ型雇用で採用した人には職務給を適用することが多く、透明性の高い公平な評価をしやすくなります。
仕事内容やパフォーマンスに合わせて報酬を決めることができれば、「頑張りをきちんと評価してくれる会社である」としてエンゲージメントが向上します。上司ひとりの好き嫌いで評価が左右されることも防げるため、評価が多少理想より低くても納得感を得ることが可能です。
また、スキルが高ければ若手でも評価されるため、自己学習のモチベーションにもなります。自主的に努力する従業員を育てたいときにも、ジョブ型雇用がおすすめです。
デメリット1:契約にない仕事は依頼できない
ジョブ型雇用は事前に仕事内容を提示することが前提となっているため、契約にない仕事を依頼することはできません。
企業側の都合に合わせて流動的な人材配置をしたいときや、部門再編の頻度が高いときにはあまり向かない雇用システムだと分かります。
契約にない仕事を無理に依頼した場合、「聞いていた話と違う」と思われミスマッチにつながる可能性があるため注意しておきましょう。
結果的に不満が蓄積し早期退職に至るなど、双方にとって損失となります。
デメリット2:引き抜きや転職されるリスクがある
ジョブ型雇用では、仕事内容や勤務体系にメリットを感じて応募してくる人材が多くなります。
「この会社で働きたいから」ではなく、「この仕事に魅力があるから」応募してくることを理解しておきましょう。
そのため、自社以上に魅力的な求人を出す企業があればそちらに人材が流れてしまう可能性があります。引き抜きやヘッドハンティングによる転職リスクが高くなり、長期的に貢献してくれる人材が育たないことがデメリットです。
デメリット3:広い知識を持つゼネラリストが育ちにくい
ジョブ型雇用はスペシャリストの採用に向いていますが、ゼネラリストの採用・育成には向きません。
部門横断型の幅広い知識を持つ人を求めていても、事前に仕事内容を限定して提示することが難しく、結局ミスマッチになりがちです。
また、ジョブ型雇用で入社した人は現場の最前線に立つスペシャリストとなることを望むケースも多いです。
「他の仕事を学ぶことで専門性を磨く時間が失われる」と考える人がいることを理解し、採用・育成プランを組む必要があるでしょう。
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メンバーシップ型雇用のメリット・デメリット
次は、メンバーシップ型雇用のメリット・デメリットを解説します。
日本ではなぜメンバーシップ型雇用が主流だったのか理解し、自社に合うか検討していきましょう。
メリット1:計画的に人材を育成・配置転換できる
メンバーシップ型雇用は、計画的に人材を育成・配置転換したいときに向いています。
採用人数さえ確保できれば、「どの部署に何人配属させたいか」という理想を叶えられるでしょう。理想に合う人数を採用するなど、採用計画も立てやすいことが特徴です。
また、長期的な育成計画を立てられることもメンバーシップ型雇用のメリットです。ジョブローテーションを繰り返しながら適性を見て配属先を決めたり、終身雇用を前提として将来の幹部候補を育てたりすることもできます。
メリット2:転職リスクが少なく、長期的な労働力が得られる
メンバーシップ型雇用は終身雇用・年功序列を前提とした雇用システムであり、長期的な就労を基本とします。
そのため転職されてしまうリスクが少なく、長期的な労働力を得やすいことがメリットです。
何十年も自社に属する従業員が増えれば、社風の浸透・企業理念の理解も進みます。「他ではなくこの企業にこそ貢献したい」と考えるエンゲージメントが育ち、愛着心が沸くでしょう。
メリット3:新卒一括採用なら採用コストが抑えられる
新卒一括採用などまとまった人数を確保したいときは、メンバーシップ型雇用が向いています。
細かな仕事内容を提示してパーソナライズされた選考をする必要がなく、選考ステップの簡略化が叶います。
人事部社員の労力も減り、採用コストも削減しやすくなるでしょう。入社後も全員一括で同じ研修を受けさせることが多いため、研修・育成コストも低めです。
コストを重視した採用活動をしたいときは、メンバーシップ型雇用を検討してみましょう。
デメリット1:スペシャリストの育成・確保が難しい
メンバーシップ型雇用では、スペシャリストの育成・確保が難しいことがデメリットです。
入社後は全員同じ研修を実施するため、適性に合わせて個別に研修することは難しいでしょう。仕事内容をあらかじめ提示しないことも、スペシャリストの目に求人が留まりにくくなる要因となります。
一方、メンバーシップ型雇用はゼネラリストの育成・確保に向いています。
自社がどんな人材を求めているかイメージを固め、それに合った雇用システムを導入することが大切です。
デメリット2:人件費が多くかかる
年功序列型で役職・報酬を上げることが前提となるため、年齢の高い従業員が増えるほど人件費が高くなります。
人件費率を下げようと思っても、年功序列を期待して入社してきた人材に対し降級・降格をすることは非常に難しいでしょう。リストラに踏み切れば社会的信用を大きく下げる可能性があり、大きな損失につながります。
メンバーシップ型雇用に踏み切る場合、将来的な人件費についても十分検討しておく必要があるでしょう。
デメリット3:待遇や評価への不満が生まれやすい
メンバーシップ型雇用では勤続年数や年齢を重視した評価になることが多く、不満が生まれやすいことが懸念点です。
「精力的に努力し成果をを上げている20代社員より、パフォーマンスの低い50代社員の方が高い報酬を得ている」
「若手のうちに努力しても評価されず、結局年齢が上がるのを待つしかない」
という不満が生まれ、いつの間にかモチベーションが下がってしまうことも考えられます。
不満が蓄積すると転職されてしまうこともあり、「長期的な戦力を確保できる」というメンバーシップ型雇用のメリットもなくなってしまうのです。
実力主義と年功序列の間でどう評価体制のバランスを取るかが、肝となってくるでしょう。
事例からみるジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用
ここからは、ジョブ型雇用を採用している企業と、メンバーシップ型雇用を採用している企業の事例を確認してみましょう。
どちらにもメリット・デメリットがあるため、自社に合った運用をしていくことが大切です。
ジョブ型雇用:日立製作所
日立製作所では、グローバル成長戦略を掲げたことをきっかけにジョブ型雇用を採用しています。
事前に役割・仕事内容・評価基準を提示したことで全世界から優秀な人材が集まるようになり、高いパフォーマンスが得られるようになりました。
また、それぞれ特化したスキルがあり人財情報を把握しやすくなるなど、人事部門の省力化にも貢献しています。
「就社」ではなく「就職」を体現し世界的大企業へと発展した事例と言えるでしょう。
URL:ジョブ型人財マネジメント:採用・インターンシップ│日立製作所
メンバーシップ型雇用:トヨタ自動車
トヨタ自動車では、「モノづくりは人づくり」という企業理念のもとメンバーシップ型雇用を採用し続けています。
昇給方式の採用・見習社員制度の導入・定年退職者に対する海外旅行の提供など、「長く働くこと」に対するメリットを多く提供してきました。
結果として「トヨタ愛」が強い従業員が増え、エンゲージメントやモチベーションにもポジティブな影響が現れています。
長期的な視点で人を育成したい企業には、メンバーシップ型雇用がマッチしていると分かります。
ジョブ型やメンバーシップ型にとどまらない新たな雇用システム
世界各国で導入されている雇用システムは、ジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用だけに留まりません。
下記では、近年広がりを見せている新たな雇用システムを紹介します。
ハイブリッド型雇用
ハイブリッド型雇用とは、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の中間に位置する雇用システムです。
両者の「いいとこ取り」ができる手法として、近年はハイブリッド型雇用に対する注目度が高まってきました。
高いスキル・知識を必要とする専門職・技術職はジョブ型雇用で採用し、全体を統括するマネージャー職などはメンバーシップ型雇用で採用するなど、部門に合わせて採用手法を組み替えることが特徴です。
また、新卒採用を重視する企業ではメンバーシップ型雇用・中途採用を重視する企業ではジョブ型雇用など、企業ごとの狙いに応じて変動させることもできます。
タスク型雇用
タスク型雇用とは、職務よりさらに仕事内容を限定して人を採用する雇用システムです。
特に自社が抱えている課題の解決・目標の達成に貢献してくれる人材を求めることが特徴で、プロジェクトやタスクごとに採用することから「タスク型雇用」の名がつきました。
スピード感と柔軟性を持って対応できるため、明確な課題のある企業に向いているでしょう。
一方、雇用の流動性が高くプロジェクトが解散したら離職する可能性もあり、長期的な雇用には向きません。
自社に最適な雇用システムを
ジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用には、それぞれメリット・デメリットが存在します。
どちらが一概に良いというものではなく、自社の狙いに合った雇用システムを採用することが望ましいでしょう。
今後雇用システムを変更する場合、既存社員に目的・意義を広く周知することも大切です。
社内報などを活用し「なぜこの雇用システムを採用するか」知らせ、理解を得る工夫をしておくとよいでしょう。