後編となる今回は、数々の独自制度を世に送り出してきた曽山氏が辿り着いた「しらけない組織づくり」の極意に迫ります。
人事制度が形骸化する原因や、施策の成功率を劇的に高める「しらけのイメトレ」の全貌、そして経営と人事を接続させるために人事が本来果たすべき役割について、実体験に基づいたプロフェッショナルな視点を伺いました。
【対談vol.1】ミッション・ビジョンは本当に必要か?3年連続“離職率30%”からの脱却。サイバーエージェント流の組織づくりに迫る!の記事はこちらをご覧ください。

なぜ良かれと思った制度はスベるのか?全ての人事施策は必ず誰かを「しらけさせる」
髙橋:組織を変えたい想いが空回りして施策がスベらないようにするためには、どうすればいいのでしょうか。
曽山:僕が苦労しながら磨いたもので「しらけのイメトレ」という手法があります。
持論として、全ての人事の取り組みは、絶対に誰かしらけます。全員が満足する制度なんてこの世に存在しないと思っています。
髙橋:全員が満足することはないんですね。
曽山:例えば、業績が良いから全員に10万円のボーナスを出すとします。
経営者は「みんな喜ぶだろう」と思いがちですが、現場では「なぜ社歴の長い俺と1年目が同じ額なんだ」としらける人が必ず出ます。
やる側もショックを受けるし、受ける側もしらけるんで、やらない方がいいんですよ。これでは誰も幸せになりません。
だからこそ、事前に「誰がどうしらけるか」を徹底的にイメージトレーニングする。その上で、経営として5年後10年後に必要な制度であれば、しらける人への配慮や説明、プラスのオプションを設計して、しらけの割合を減らしながら成功させなければなりません。
「しらけのイメトレ」は非常に重要で、いまでは打率がどんどん上がっていますね。
組織改革は経営陣と「経営人事課題」の合意が大事
髙橋:リソースの限られた中堅企業や地方の製造業などが、明日から組織改革に取り組むとしたら、何から着手すべきでしょうか。
曽山:一番大事なのは、経営課題の中から「経営人事課題」を選び出し、経営陣と合意することです。これがないまま「よかれと思って」アクションを始めるからスベってしまうのです。
髙橋:具体的にどうやって課題を見極めるのですか?
曽山:理想と現実のギャップを直視して書き出すことです。大量に出たものの中からこの未来の理想に紐づいて絶対に外せないものが何かの意思決定をすることが経営人事課題なんです。
サイバーエージェントの例でいくと、2004年の話になるのですが…。アメーバブログというサービスを作ったのですが、当時僕も記事を書いてたんですけど、最後まで書いて「送信」を押すとNot Foundとなるトラブルがとても多くて。また、記事の作成画面に戻ると全部消えていたんですよ…。
経営としては「アメブロを絶対に成功させる必要がある」。そのために、エンジニアを自社で抱え、責任を持って開発できる体制にする方針になり「エンジニアを20名採用する」というのが経営人事課題となりました。
髙橋:人事の施策が現場からスベるというお話があったかと思いますが、実は人事って先に経営とすり合わせておかないと、すでにそこでスベってる可能性もありますね。
曽山:そうなんです。人事は、経営の考えている戦略を“人と組織”で完遂するのが仕事です。経営のやりたいことが分かっていない人事は、非常に仕事がしにくい。まずは経営陣一人ひとりに15〜30分でも時間を取ってもらい、課題をヒアリングしに行くべきです。
髙橋:人事の方は自分から情報を取りに行くという姿勢も大事ですね。
制度を形骸化させない「成果定義」と「社内報」の活用法
髙橋:新しい制度を導入しても、すぐに形骸化してしまうという悩みも多いです。組織に定着させるためのコツはありますか?
曽山:必ず「成果定義」を先に決めておくことです。数値目標も大切ですが、「社員がどう受け止めてくれるか」を定義します。
例えば、社内異動の公募ができるキャリアチャレンジ制度であれば、将来のキャリアに不安がある社員が「うちは社内転職できるから安心です」と言ってくれたらそれは大成功なんです。
髙橋:なるほど。キャリアチャレンジ制度で実際に社内転職が成功した時に、それを組織内の共通認識にするために何か取り組まれてたことはありますか?
曽山:上司や同僚に内緒で申し込んでそれがバレない仕組みの制度なので、コミュニケーションがとても難しかったです。
結果的に、キャリアチャレンジ制度が良いんだと伝わったのは「社内報」の力が大きいですね。ただし、あからさまに成功事例のインタビューとかを出すとしらけてしまいます。
ポイントは、MVP社員のインタビューなど、別の切り口の記事の中に、ポロッと「実はあの時の異動が自分の分岐点だった」というエピソードが混ざっていること。
それを見た若手が「あの人も制度を使ってたんだ」と安心する。こうした事例の蓄積が、結果として企業風土を作っていくんです。
髙橋:なるほど。あからさまにやりすぎたらしらけますもんね。しらけないように、その情報の粒度とかタイミングも調整していくんですね。
曽山:相当イメトレしました。
人事は経営と現場をつなぐ「コミュニケーションエンジン」
髙橋:これから人事部長になる方や新しく人事担当になった方へ、まず何から着手すべきかアドバイスをいただけますか。
曽山:僕は、人事が果たすべき役割を「コミュニケーションエンジン」と定義しています。これは、経営と現場それぞれの声の「通訳・翻訳」になることです。
髙橋:具体的にはどういう動きになるのでしょうか。
曽山:経営の意思決定をそのまま伝えるのではなく、社員が納得して実行できるように分かりやすく言い換えて伝える。
逆に、現場の不満の中から本質を見抜いて、「経営目標のためにはこの課題解決が必要だ」と経営につなげていく。
経営と現場どちらかに寄りすぎるのではなく、両方の声を聞いて統合する。これが人事になった際の第1ステップです。
髙橋:着任したら経営と現場の声を聞きに行き、情報をどんどん集めていって、翻訳機能(コミュニケーションエンジン)を果たせるようにするということがすごく重要ですね。
まず制度を作るってことに囚われてしまう人事の方もいらっしゃる印象ですが、その制度と対話のバランスみたいなものは曽山さんはどう考えているんですか?
曽山:制度はできる限り作らないこと。運用コストもかかりますし、経営課題に紐づかない制度は余計な「しらけ」を生むだけですから。
髙橋:制度を増やすとか制度を作り込むっていうことよりも、まずは経営が何を考えているか何を目指そうとしているのか経営課題から紐づく人事課題が何かっていうところに立ち返るべきですね。
不安な中で人事に取り組まれている方もいらっしゃると思うんですけど、最後に曽山さんから応援メッセージがあれば。
曽山:人事は、感情を動かしてやる気を引き出す仕事です。やる気がある人のパフォーマンスは、当然高い。そのやる気を引き出す仕組みを経営陣と対話して作っていくことが、結果として業績につながります。
髙橋:ありがとうございます。経営課題から人事課題へ落とし込み、「しらけのイメトレ」で反発を納得へ変え、施策をスベらせないための緻密なコミュニケーションを設計する。組織開発の原理原則を改めて学ばせていただきました。

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