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【図解あり】マトリクス組織をわかりやすく解説|有名企業の成功事例付き

髙橋 新平

公開日:

2022.03.11

更新日:

2025.07.31

マトリクス組織とは、職能、事業、エリアなどの要素を縦横に組み合わせ、網の目のように交差して構成される組織形態です。

効率的な業務遂行や円滑な部門間の連携が可能な一方、責任の所在の曖昧さやチームメンバーへの集中的な負担などの課題もあります。

本記事では、マトリクス組織の特徴やメリット・デメリット、企業事例などを解説していきます。ぜひ最後まで読んでマトリクス組織への理解を深めてください。

目次

マトリクス組織とは

マトリクス組織とは、職能、事業、エリアなどの要素を縦横に組み合わせ、網の目のように交差して構成される組織形態です。

1人の社員に複数の管理者がつくことが多く、縦軸・横軸どちらの指揮命令を受けながら業務をするのが特徴だと言えるでしょう。

これにより、専門性を維持しつつ、プロジェクトや事業ごとの目標達成に柔軟に対応できる体制を作ることが可能になります。

アポロ計画により普及が進む

マトリクス組織は、1960年代にNASAの「アポロ計画」がきっかけで広く知られるようになりました。

アポロ計画では、縦軸に機能別組織、横軸にプロジェクトチームという形で組織を編成し、プロジェクトごとに「プロジェクトマネージャー制」を導入。マトリクス組織のマネジメントシステムを導入することで複雑なオペレーションに対応でき、複数のプロジェクト管理に成功しました。

マトリクス組織の有効性を認識したNASAが、アポロ計画に参画した航空宇宙産業企業に推奨したことをきっかけに、普及が進みました。

プロジェクト型組織との違い

プロジェクト組織とは、期間限定でプロジェクトごとにメンバーを再編成しながら事業を運営する組織です。

目的が達成され次第解散することが特徴で、一時的に高い専門性を得たいときに便利な手法として確立しました。

マトリクス組織でもプロジェクトごとのチーム編成をすることがありますが、経理・人事・営業など元々の配属部署やリーダー自身のポジションは崩しません。そのためチーム自体の解散がなく、長期的に継続していくことが大きな違いです。

職能別組織との違い

職能別組織とは、役割や仕事内容ごとに部門を細分化した組織です。

経理・人事・営業など部門ごとに役割が完全に分かれていることが特徴で、自身が所属する部門に与えられた仕事のみを実行します。

長期にわたって専門性を追求できる一方、縦割り組織になりやすく、部門間連携に課題を抱えやすいです。

マトリクス組織の種類

マトリクス組織には「バランス型」「ストロング型」「ウィーク型」の3種類があり、それぞれプロジェクト責任者の選出方法が異なります。詳しく解説していきます。

バランス型

バランス型では、プロジェクトメンバーから責任者を選出します。

リーダーは状況を把握しやすく現場統率がしやすい一方、兼任による負担が大きくなる課題があります。また、マトリクス組織では部門マネージャーとプロジェクト責任者の両方から指示を受けるため、調整が複雑になりやすい点が懸念されます。

ストロング型

ストロング型では、プロジェクト・マネジメントに特化した専門部署のマネージャーを各プロジェクトに配置します。

高い専門性に基づく明確かつ効率的な采配が可能になり、メンバーの負荷軽減やスムーズな進行が期待できます。一方、独立したマネジメント部門の新設が必要で、設立や維持にコストがかかる点が課題です。

ウィーク型

ウィーク型では、プロジェクトの責任者を設けず、メンバーが自ら責任を持って業務を進める体制を取ります。

自由度が高く、多角的なアプローチが可能で、スピーディーかつ柔軟な対応がしやすい点が特徴です。一方、責任の所在があいまいになりやすく、意思決定が遅れるリスクがあることがデメリットです。

マトリクス組織のメリット

マトリクス組織の主なメリットを4つ解説します。
メリットを理解することで、マトリクス組織の仕組みをより具体的にイメージできます。

業務の効率化

マトリクス組織では部門の垣根を超えて社員同士がコミュニケーションをとるため、事業が効率化しやすくなります。

各々の得意分野を持ち寄った業務にあたるため、高いパフォーマンスも発揮できるでしょう。

プロジェクトで得たノウハウを所属部門で活かしたり、逆に所属部門で得たノウハウをプロジェクトに使うなど、効果を最大化できます。

部門間の連携が円滑に

マトリクス組織では複数のチームに所属することが前提のため、部門間連携がしやすくなります。

従来の縦割り組織で問題視されていたような、部門同士のライバル意識やコミュニケーション不全が起きづらくなるでしょう。部門を超えた会話が生まれるため組織全体の風通しがよくなり、関係性が密になります。

トップマネジメントの負担を軽減

マトリクス組織は複数のリーダーが関わりながら事業を進行するため、トップマネージャーの負担が軽減されます。

「部長がいないと業務が回らない」「今のリーダーがいなくなったら組織が硬直する」というような、マネジメント業務の属人化から脱却できるでしょう。

また、トップマネージャーと現場で働くチームメンバーとの間で、意思疎通しやすくなることも負担軽減につながります。

人事異動が減り、チームに定着

マトリクス組織を導入すると人事異動を減らせるため、人材がチームに定着しやすくなります。

職能別組織の場合、適正・強み・経験・実績などに基づいて都度チーム編成をしなければならず、人事予算との兼ね合いから新入社員が入る度に玉突き人事が起こることもあるでしょう。

こうした頻繁な異動を避けることでノウハウやナレッジがチームに蓄積され、共有財産となることもメリットです。

マトリクス組織のデメリット

マトリクス組織には上記のようなメリットがある一方、デメリットも存在します。
主なデメリットを4つ解説します。

組織内の対立

マトリクス組織の場合、1つのプロジェクトに複数のリーダーが参画するため、対立が起きる可能性があります。

リーダー同士の意見が異なり、パワーバランスが明確でない場合、対立はさらに激化します。逆に、お互いの役割が明確で目指すゴールも共通であれば、対立は避けられるでしょう。

予算・リリースの配分が困難

マトリクス組織にすると組織形態が複雑になり、人事予算や人的リソースの配分が困難になるかもしれません。

例えば、繁忙期や退職・休職が発生しリソースが不足した場合、人員を補うのが難しく、組織全体が複雑なため、必要なリソース配分が遅れやすい点に注意が必要です。

負担が集中しやすい

マトリクス組織は、現場で働くチームメンバーに負担が集中しやすいです。プロジェクト型組織の場合、今実行しているプロジェクトのみに集中できますが、マトリクス組織は同時並行で複数のプロジェクトに関わることも多いからです。

職能別組織のように特定のリーダーからの指示だけを聞けばよいとも限らず、高いコミュニケーション能力や調整力が必要でしょう。

責任の所在が不明瞭になる

マトリクス組織は指揮系統が複数に分かれることがあり、責任の所在が不明瞭になりやすいです。

誰に報告・連絡・相談すればいいのか、万が一ミスやトラブルがあったときどのリーダーの責任となるのか混乱する可能性があります。

マトリクス組織を成功させるポイント

続いてマトリクス組織を上手く運用するために、押さえておきたいポイントを紹介します。

マネージャー同士の連携を強める

マトリクス組織では、メンバーは複数のマネージャーから指示を受けるため、マネージャーによって指示が異なる可能性があります。それを防ぐためにも、マネージャー同士の連携を強める必要があります。

プロジェクトごとに役割を明確にすることで、指示系統の混乱を防ぎ、正確に業務を進行できるようになります。

従業員のストレスケアをする

従業員は複数のプロジェクトに所属することで、気を遣う相手が増えたり、業務量が偏りやすくなります。そこで「一部の従業員に業務が集中していないか」「ストレスが溜まっている従業員はいないか」など各従業員の状況を把握する必要があります。

従業員のストレス状態を定期的に確認するストレスチェックの導入など効果的でしょう。

マトリクス組織の企業成功事例3選

最後にマトリクス組織を採用している企業を紹介します。
実際の企業事例を見ることで、マトリクス組織がどのように機能するのかイメージしやすくなります。

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車では、7つのカンパニーと地域別のビジネスユニットを組み合わせたマトリクス組織を構成しています。

小型車・乗用車・商用車など販売商品別にチームを作るとともに、先進技術・パワートレーン・コネクティッドなど機能別のチームも作りました。

それぞれを組み合わせることで時代のニーズやトレンドを反映させた車づくりができ、33万人という社員数をまとめあげる組織として機能しています。

株式会社村田製作所

村田製作所では、コンデンサー・圧電部品など商品に関する軸と調合・成形など製造工程に関する軸を設けたマトリクス組織を構成しています。

加えてグループ会社も横断した三次元構造になっており、グループ全体でのパフォーマンス向上にも寄与するようになりました。業務における無駄やチームごとの作業重複なども減り、業務効率改善にも役立っています。

花王株式会社

花王では、事業と機能との2つの観点でチームを細分化させたマトリクス組織を構成しています。

物質科学・生命科学・生産技術・人間科学・環境科学に分かれる専門性の軸と、化粧品・スキンケア&ヘアケア・ヒューマンヘルスケア・ファブリック&ホームケア・ケミカルに分かれる事業領域の軸を設けています。

花王が強みとしている化学技術を多数の領域に活かす取り組みです。

まとめ

ここまでマトリクス組織のメリット・デメリットや実際の企業事例など紹介してきました。

マトリクス組織の種類や、効率的な業務遂行や部門間の連携強化などのメリットがある一方、指揮系統の複雑さや負担の集中などの課題があることもお分かりいただけたかと思います。

これらを知ることで、マトリクス組織への理解が深まったのであれば幸いです。

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