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サービスプロフィットチェーンとは?従業員満足が利益を生む仕組みと事例を解説

髙橋 新平

公開日:

2025.09.30

更新日:

2025.10.02

企業の持続的な成長を目指す上で、「従業員の満足」と「顧客の満足」、そして「企業の利益」はどのように関わり合っているのでしょうか。この3つの要素が良い循環を生み出す仕組みを示した経営モデルが「サービスプロフィットチェーン」です。

本記事では、サービスプロフィットチェーンの基本的な考え方から、具体的なステップ、成功事例までを網羅的に解説し、貴社の成長戦略に役立つ情報を提供します。

目次

サービスプロフィットチェーン(SPC)とは?

サービスプロフィットチェーン(Service Profit Chain、略してSPC)は、企業の利益創出のプロセスを「従業員」から始めるという画期的な経営モデルです。従来のビジネスモデルが製品やサービス、あるいは顧客から利益を考えていたのに対し、SPCは従業員の満足度こそが全ての起点であると提唱しています。

従業員満足が企業の利益につながる経営モデル

サービスプロフィットチェーンの核心は、「従業員満足度(ES)の向上が、顧客満足度(CS)を高め、最終的に企業の利益成長につながる」という因果関係の連鎖(チェーン)にあります。 このモデルは、1994年にハーバード・ビジネススクールのジェームス・ヘスケット教授らによって提唱されました。

具体的には、以下のような好循環が生まれるとされています。

ステージ内容
従業員満足度の向上企業が働きやすい環境や公正な評価制度を提供することで、従業員の満足度が高まります。
従業員ロイヤリティの向上満足した従業員は会社への愛着や忠誠心(ロイヤルティ)を持ち、離職率が低下します。
サービス品質の向上ロイヤルティの高い従業員は、自発的に質の高いサービスを顧客に提供しようと努めます。
顧客満足度の向上品質の高いサービスを受けた顧客の満足度は自然と高まります。
顧客ロイヤリティの向上満足した顧客はリピーターとなり、他者へサービスを推奨してくれるようになります。
企業利益の向上顧客ロイヤルティの向上が、企業の安定した収益と成長を実現します。

このように従業員を大切にすることが、巡り巡って企業の利益として還ってくるという考え方が、サービスプロフィットチェーンの根幹です。

なぜ今、サービスプロフィットチェーンが重要なのか?

現代のビジネス環境において、サービスプロフィットチェーンの重要性はますます高まっています。その理由は大きく分けて2つあります。

製品・サービスだけで差別化するのは難しい

技術の進化により品質が均一化する中で、製品やサービスそのものでの差別化が困難になり、顧客は「どのような体験ができるか」を重視するようになりました。顧客に感動を与えるような質の高いサービスは、満足度の高い従業員でなければ提供が難しいのです。

SNSや口コミサイトの普及で、顧客の発信力が強まる

SNSや口コミサイトの普及により、顧客一人ひとりの発信力が強まりました。良いサービス体験は瞬く間に拡散され、企業のブランド価値を高めますが、逆に悪い体験は企業の評判を大きく損ないます。

ロイヤリティの高い顧客を増やし、良い口コミを広げてもらうことは、現代のマーケティング戦略において不可欠です。この好循環を生み出す起点となるのが、従業員の満足度なのです。

サービスプロフィットチェーンを構成する7つのステップ

サービスプロフィットチェーンは、7つのステップが連鎖的に作用することで機能します。それぞれのステップがどのように次のステップへと繋がっていくのかを具体的に見ていきましょう。

ステップ1:内部サービスの質が従業員満足度を高める

最初のステップは、企業が従業員に対して提供する「内部サービスの質」を高めることです。これには、働きやすい職場環境の整備、適切な研修や教育の機会、公正な評価制度、充実した福利厚生などが含まれます。従業員を「内部顧客」と捉え、彼らが仕事に対してやりがいや誇りを持てるような環境を整えることが、全ての始まりとなります。

ステップ2:従業員満足度が従業員ロイヤリティを高める

快適な職場環境で働き、会社から大切にされていると感じる従業員は、自然と会社に対する満足度が高まります。この満足感が、会社への愛着や「長くこの会社で働きたい」という忠誠心、すなわち従業員ロイヤルティを育むのです。従業員ロイヤルティの向上は、離職率の低下にも直結します。

ステップ3:従業員ロイヤリティが生産性を向上させる

会社へのロイヤルティが高い従業員は、単に与えられた業務をこなすだけでなく、自発的に業務改善に取り組んだり、チームに貢献しようとしたりするなど、エンゲージメントが高い状態で働きます。

このような主体的な働き方は、従業員一人ひとりの生産性を高める大きな原動力となります。

ステップ4:生産性の向上がサービス価値を高める

生産性が向上し、従業員が高いモチベーションで働くようになると、顧客に提供されるサービスの質、すなわち「サービス価値」が向上します。例えば、顧客の期待を超える提案をしたり、より丁寧で迅速な対応をしたりするなど、マニュアル通りの対応を超えた付加価値の高いサービスが生まれるのです。

ステップ5:サービス価値の向上が顧客満足度を高める

質の高いサービス、価値ある体験を提供された顧客は、当然ながらそのサービスに対する満足度が高まります。「この会社に頼んでよかった」「また利用したい」といったポジティブな感情は、この段階で生まれます。

顧客の期待を上回るサービスを提供することが、顧客満足度向上の鍵です。

ステップ6:顧客満足度が顧客ロイヤリティを高める

高い顧客満足は、一度きりの取引で終わらず、継続的な利用、すなわち「顧客ロイヤルティ」へと発展します。満足した顧客は、その企業やブランドのファンとなり、繰り返し製品やサービスを購入してくれるようになります。顧客ロイヤルティは、企業の安定した収益基盤を築く上で非常に重要です。

ステップ7:顧客ロイヤリティが企業の収益を向上させる

最終的に、高い顧客ロイヤルティは企業の収益性と成長を促進します。ロイヤルティの高い顧客は、リピート購入だけでなく、友人や知人にそのサービスを推薦(口コミ)してくれることで、新たな顧客を呼び込みます。 この好循環が、企業の持続的な利益向上を実現するのです。

サービスプロフィットチェーンの導入事例

理論を理解した上で、実際にサービスプロフィットチェーンを経営に取り入れ、成功を収めている企業の事例を見ていきましょう。

スターバックス:パートナーの満足が最高の顧客体験を生む

スターバックスでは、従業員を「パートナー」と呼び、その働きがいを非常に重視しています。約80時間に及ぶ手厚い研修制度や、個人の成長を支援する評価システム、福利厚生の充実など、パートナーが誇りを持って働ける環境が整えられています。

その結果、パートナーは自発的に顧客とのコミュニケーションを楽しみ、質の高い「スターバックス体験」を創出しています。この従業員満足度の高さが、高い顧客ロイヤルティにつながり、強力なブランドを築き上げているのです。

参考:https://about.starbucks.com/stories/category/people-impact/partners

星野リゾート:フラットな組織文化と従業員の裁量が鍵

星野リゾートは、「フラットな組織文化」を特徴とし、従業員一人ひとりに大きな裁量権を与えています。上下関係ではなく、顧客にとっての価値を基準に評価されるため、スタッフは忖度なく、顧客満足の最大化に集中できます。

各施設が地域の魅力を活かした独自のサービスを企画・運営できるのも、現場の主体性を尊重する文化の表れです。この従業員の自律性が、顧客にとって特別な体験価値を生み出し、高い評価を得ています。

参考:https://www.hoshinoresorts-reit.com/en/special/future_vol2.html

サウスウエスト航空:従業員第一主義が熱狂的なファンを作る

「従業員第一、顧客第二、株主第三」という明確な哲学を掲げるサウスウエスト航空も、サービスプロフィットチェーンの代表的な成功事例です。同社は、従業員を大切にすれば、その従業員が顧客を大切にし、結果として株主の利益にもつながる、という信念を持っています。

利益分配制度や手厚いサポート体制により従業員満足度を極限まで高めることで、従業員は心からのホスピタリティを発揮し、多くの熱狂的なファン(ロイヤルカスタマー)を獲得しています。

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サービスプロフィットチェーンを導入する際のポイント

自社でサービスプロフィットチェーンを機能させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。

従業員満足度(ES)と顧客満足度(CS)を計測する

まず、現状を正しく把握することが不可欠です。従業員満足度調査(ES調査)やeNPS(従業員推奨度調査)などを定期的に実施し、従業員が何に満足し、何に課題を感じているのかを可視化します。

同様に、NPS(顧客推奨度調査)や顧客満足度アンケートを通じて、顧客の声に耳を傾け、サービス改善のヒントを得ることが重要です。これらのデータを分析し、両者の相関関係を見ていくことで、具体的な改善策を立てることができます。

経営層がコミットし、長期的な視点で取り組む

サービスプロフィットチェーンは、短期的に成果が出るものではありません。従業員満足度向上のための施策は、時にコスト増を伴うこともあります。しかし、これを「コスト」ではなく、将来の利益を生み出すための「投資」と捉える経営層の強いコミットメントが不可欠です。 ぶれずに粘り強く取り組みを続ける姿勢が、成功への鍵となります。

得られた利益を従業員へ適切に還元する

サービスプロフィットチェーンのサイクルを継続的に回していくためには、「利益の還元」が欠かせません。顧客ロイヤルティの向上によって得られた利益を、昇給、賞与、福利厚生の拡充、新たな教育機会の提供といった形で従業員に還元します。これにより、従業員の満足度はさらに向上し、より強固な成長サイクルが生まれるのです。

まとめ

サービスプロフィットチェーンは、従業員満足度という企業の内部要素を起点とし、顧客満足度、そして企業利益へとつなげる強力な経営モデルです。製品やサービスでの差別化が難しい現代において、従業員の働きがいこそが、顧客に選ばれ続けるための最も重要な源泉となります。

本記事で紹介した7つのステップと成功事例を参考に、ぜひ貴社の成長戦略に活かしてください。