ブランドのヒットを機に直面した経営崩壊──。負のスパイラルから抜け出した鍵は“理念”の浸透

BOTANISTやYOLU、SALONIAなど、さまざまな人気ブランドを展開している株式会社I-ne。実は、組織の急拡大で、組織の目線が揃わず、組織崩壊を経験したのだそう。
今回は、実際に組織崩壊に直面した、創業メンバーの1名である執行役員CHRO・杉元将二さんにインタビュー。組織崩壊からどのように組織を立て直していったのかについて語っていただきました。
ブランドヒットの背景で崩れる組織体制
──大西社長が書かれたnote「社員が一気に300名を超えたら組織が崩壊した話」を拝見しました。改めて、なぜ組織崩壊が起きてしまったのでしょうか?
2015年にリリースした『BOTANIST』というブランドのヒットをきっかけに、組織拡大をしたのが始まりです。BOTANIST発売当時は社員が100人前後の規模だったのですが、それから1年で約300人まで社員が増えました。
ブランドの数もどんどん増やしていきました。
──一気に組織の人数が増えたことによる組織崩壊ですか…。
社内制度やしくみが整っていない状態で、人をどんどん増やしてしまったことが原因ですね。マネージャー職に就いている人もいたのですが、マネジメント自体が未経験という人が多かったので組織を立て直すことが難しく……。
能力が高い人は多かったのですが、そういった人たちを活かせる環境になっていなかったという感じです。
──業績はどうだったのでしょうか?
売り上げも停滞していましたね。在庫も消化できなくて、新たにブランドを出せども売れない。社員の不満も溜まり、自分たちの未熟さを痛感しました。会社のミッションである「Chain of Happiness(以下、COH)」という言葉や、行動指針であるクレドを掲げてはいたのですが、組織崩壊が起こる前からそのミッションやクレドがそこまで浸透していなかったのも、組織崩壊する要因のひとつだったと思います。

結果、2020年までに採用した社員の40%ほどは退職してしまいました。社内では経営批判も起こり、負の連鎖が起こっていたと思います。当時私は営業の責任者だったのですが、その後人事に立候補しました。組織づくりに対して、自分からアクセルを踏みに行ったんです。
理念の“浸透”を目的にしない

──まず、どのようにして組織を立て直していったのでしょうか?
大きく作用したのは、2018年ごろから実施した“1on1”です。社内ではコミュニケーションエラーが頻発していたので、毎月最低1回は上司と部下で1on1を実施するようにしています。いまでは、何かあればすぐに誰とでも1on1を実施するカルチャーが根付いていますね。 I-neを形作る価値観として、リスペクト・コミット・イノベートの3つのバリューを掲げており、1on1や行動に対する評価などにおいてもこの3つのバリューが軸となっています。

──コミュニケーション不足の改善から着手していったのですね。
そうですね。それ以外にも3か月に1度経営合宿を行っています。この施策はコミュニケーションの改善とともに、会社のCOHのミッションやバリューの落とし込みが目的となっています。
普段は忙しさで考える時間が取れないので、あえて1泊2日で開催し、自身が掲げるミッションはなんだったのか、そのために業務にどう紐付けをしているのか、日ごろからメンバーとミッションについての話ができているのかを再確認します。この合宿を部長クラス、課長クラスと繰り返し、社内全体で経営理念を浸透させていっています。
また、並行して年に2回大阪で社員が一同に会す社員総会を行っています。そこでも代表から我々のミッションはなんなのかを改めて話してもらい、後半はミッションに向けてどう行動していくのかを話し合うワークショップを設けています。そこでまた自身のミッションを振り返って……というサイクルを永遠に繰り返しています(笑)。しつこいくらい何度も機会を設けることで、社員一人ひとりのミッションへの解像度が上がるようにしています。
──会社の目指すものが、より自分ごととして捉えられますね。
そのためにも、約3年前からバリューに沿った行動を起こしているかを評価制度に含めています。業績と違って数値化できるものではないので評価はなかなか難しいのですが、自分含め、上長や人事全員で最終判断を行っています。
また弊社では、クレド(行動指針)を7つ設けていますが、評価制度に組み込む際に全員が正しくバリューを理解できるよう、「CREDO BOOK」を作成。「CREDO BOOK」には、それぞれのバリューに対する、Do / Don’t を記載し、組織として推奨する行動、推奨しない行動を明文化しています。

──なるほど。そうなると、上司がどこまでメンバーにミッションを落とし込んでいるかが重要になってきますね。
そうですね。ただ気をつけたいのは、“浸透させることを目的にしない”ことです。経営合宿や1on1などさまざまな施策を行っていますが、最終的な目的は、その施策を使って会社のミッションを実現することなんです。
最終的な目的がズレてしまうと、なんとなく施策をつくり、なかなか浸透せず、実施を中断する…といったことが生じてしまいがちです。会社のミッションを実現するために、組織がどのように変わっていく必要があるのか。そのために、ミッションをどのように落とし込めば良いのかを考えることが重要です。
自分の組織は自分でつくる

──組織崩壊時は急激な採用を行っていたとありますが、採用面はどのように変化したのでしょうか?
バリュー優先で採用をするようになりました。最終役員面接では、スキルはほぼ見ないですね。この段階まで来ているということはスキル面は合格しているということなので。それよりも、その人がどんな人なのかを判断します。といっても、数回顔を合わせただけで完璧にマッチする方だけを採用するのは難しいんですけどね。
ですが、そもそもお互いの考え方が合わなかったというのが1番辛いということを組織崩壊時に痛感しているので、あくまでも会社のバリューにマッチした人物なのかを重視します。ちなみに弊社では、採用目標は人事だけではなく、部長陣の目標にもなっています。
──それは珍しいですね。採用活動は人事の担当という会社が多いかと思いますが。
人事には事務周りのサポートを担当してもらっています。このしくみは私が言い出したのですが、最初は社内でも驚かれました(笑)。でも、組織づくりは部長の仕事だと思うんですよ。自分で会社の魅力を説明できるし、結果的に採用力も向上しています。しくみ上、組織づくりは部長の業績目標にマストで含まれているというのもあるのですが、そもそも自分の組織は自分でつくるべきだと思っているので。
いい芽が生えるために、いい土を耕す

──社内改革を経て、現在の業務にはどのような影響がありますか?
新たにブランドを考えるときも、やっと自然にミッションベースでアイデアが生まれるようになってきました。いままでの成果を実感できるようになるまで、5年ほどかかりましたね。
──ほかに社内の施策などはあるのでしょうか?
独自の施策でいうと、『ボランティア休暇制度』というものがあります。これは社会貢献活動をするために1年で3日の有給を付与するという施策で、個人でボランティア活動をするのにこの有給を使ってもいいですし、会社が企画する里山の保全活動などに使うこともできる制度です。ただボランティアに参加するのではなく、どうして里山を放置してはいけないのか、ボトルの生産によって生まれたプラスチックゴミについて、メーカーはどう考えていけばいいのかなど、ボランティアを通して改めて会社が目指すべき姿を考える機会になっています。
──施策のすべてに、バリューが精通するようになったのですね。改めて、会社にとってカルチャーとはどんな存在だと考えますか?
ビジネスを進める際に、業績や商品開発を優先してしまいがちですが、私は逆なんじゃないかなと思うんです。社会やお客さまに伝えたい想い(カルチャー)があって、それを広げるのがブランドや商品なんです。
いい土がないといい芽が育たないように、組織の床がぐらついていると事業もうまくいかないので。地道にいい土を重ねていって、しっかりと実りあるものを生み出す流れが大事なのかなと思っています。
interview / Design / Photo :Sachi Kagayama
Write:harumakimoe