リモートワーク時代の『入社1年目の教科書』。実りある新卒時代を過ごすのに必要な3つの新原則
仕事をするうえで大切にすべき3つの原則や、50のルールが記載された『入社1年目の教科書』。幅広い世代のビジネスパーソンに愛読されている、仕事の教科書・指南書です。そんな『入社1年目の教科書』について、ourly Mag.編集部では1つの疑問が浮かび上がりました。
「書籍が刊行されたのは2011年。現在は、コロナ・パンデミックなどを経て、新入社員を取り巻く環境は大きく変化しているので、もしかすると書籍の内容には少し変化があるのでは……?」
今回は『入社1年目の教科書』の著者である岩瀬 大輔さんに、リモートワーク時代に新入社員が意識すべき仕事のコツについて、刊行当初と比較してお話を伺いました!
現代の新入社員が抱える課題は「物理的な距離」
──岩瀬さんは、2011年に『入社1年目の教科書』をご刊行されましたが、当時と今とでは入社1年目の新入社員を取り巻く環境は大きく変化しています。当時と比較して、現代の新入社員が抱える課題について教えてください。
コロナ禍を経てリモートワーク中心の会社が増えましたが、現在の新入社員が働くうえでの課題は、「先輩や上司との物理的な距離が開いてしまっていること」だと思います。
──物理的な距離。
『入社1年目の教科書』を読んでくださった方はわかると思いますが、この書籍の軸にあるのは「On the Job Training」。先輩や上司の背中を見ながら、仕事を身につけていくことを重視しています。具体的には、先輩や上司のお客さんとのやり取り、あるいは文章の書き方、ミーティングでの対応の仕方を見て、真似して、学んでいくことを指します。
例えば僕の場合は、上司がクライアントと会議をする際に同席をして、話し方や商談のスキルを学んだり、会議が終わった帰り道で上司と振り返りを行ったり、あるいは休憩時間にちょっとした雑談から悩みを相談したり。そういった、リモートワークでは取り入れにくいコミュニケーションや関わり方から、仕事を身につけることがほとんどでした。
このように、「On the Job Training」は仕事の基礎を学ぶうえで最もよい方法ですが、先輩や上司と物理的な距離があると活用が難しくなります。
──たしかに物理的距離ができると、先輩や上司の背中を見て学ぶ機会だけでなく、気軽に話したり、相談をしたりする機会も減ってしまいますよね。
アジェンダが明確化された会議は、リモートワークでもそれなりに再現が可能です。でも、仕事をするうえでアジェンダのある会議は、ほんの一部に過ぎない。それ以外は、360度の視点を持って見たり聞いたりしながら学んでいくことがほとんどだと思うので、そのギャップをどう埋めていくか、ギャップを意識してどう仕事に臨むのかが重要になりますね。
“仕事における3つの原則”を遂行するには工夫が必要
──『入社1年目の教科書』の冒頭では、仕事における3つの原則が記載されています。現代の新入社員を取り巻く環境を踏まえ、3つの原則で変化した要素があれば教えてください。
書籍では、仕事における3つの原則として、
- 頼まれたことは、必ずやりきる
- 50点で構わないから早く出せ
- つまらない仕事はない
を挙げていましたが、これらの内容そのものに変化はありません。
3つの原則は、リモートワーク形式でも出社形式でも、どのような時代・環境になっても変わらない普遍的な原則です。
──では、要素の追加などはありますか?
追加というよりも補足になりますが、「50点で構わないから早く出せ」については、職場での「ちょっといいですか」という気軽な相談がしやすい環境を前提とした内容です。リモートワークの場合、Zoomなどのオンラインミーティングが主なコミュニケーションの手段になるかと思いますが、5分の相談のためにミーティングを設定することはなかなかありませんよね。
そのため、どうやって相談のサイクルを回すのか、どうやってコミュニケーションの機会をつくるのかなどの試行錯誤が必要です。例えば、毎週5〜10分電話をする時間を決めておいたり、チャットツールなどで積極的にコミュニケーションをとったりするなどの工夫ができると、「50点で構わないから早く出せ」の原則を実行できるでしょう。
──たしかに、気軽なコミュニケーションが取りづらいからこそ、自主的に相談のサイクルを回す必要がありますよね。他の原則はいかがでしょうか?
「頼まれたことは、必ずやりきる」についても同じです。
同じオフィスにいると先輩から「どう?」「仕事進んでる?」などと督促があるかもしれません。しかしリモートだとそれがなくなる可能性もあるので、より一層頼まれた仕事やタスクを管理して、責任を持ってやりきることが必要となります。
3つの原則のどれをとっても、刊行当初と大きな変化はありませんが、より実践していくうえでの工夫が必要です。ただ指示を待っているだけでなく、新入社員の皆さんからも積極的に報告や相談をしてみてください。
リモートワークでも工夫次第で「On the Job Training」を実現できる
──書籍では「仕事は盗んで真似るもの」との記載もありました。これは冒頭で出てきた「On the Job Training」に影響する点でもあると思いますが、先輩や上司との物理的な距離があるなかで、仕事の基礎をつかんでいくにはどうすればいいのでしょうか。
工夫次第で、物理的距離の溝を埋めることは十分に可能です。
例えば、お客様とのオンラインミーティングがある際に「自分も入れてください」と同席させてもらったり、あるいは自分が書いた議事録のフィードバックをもらう際に、テキストだけでなく電話やオンラインミーティングで少し時間をもらうようにしたり。
きっとみなさん移動時間がなくなってるぶん、仕事に使える時間は増えているはずなので、遠慮せずに「先輩の仕事を盗もう!」という姿勢を貫いてください。
──リモートワークでも十分に先輩や上司の背中を見て、真似て、スキルを身につけることが可能なのですね!
最近ではコロナによる規制もほとんど解消されてきているので、「どうやって物理的な距離を近づけるか」を考えることも重要です。
例えば、先輩と出社のタイミングをあわせる、上司が外出するタイミングでランチやお茶をする時間をつくってもらうなど、上司・先輩からだけでなく、若手からも物理的な距離を埋めるきっかけをつくるようにしましょう。
リモート時代、頭1つ抜けた若手になるには〇〇を使い分けろ!
──現在、岩瀬さんはリモートワークをされていると伺っています。これまで、リモートワークをするなかで、動き方や工夫の仕方が優秀だなと感じた若手社員の特徴があれば教えてください!
さまざまなコミュニケーションツールの特徴をうまく活かしながら、報告・連絡・相談ができる人ですね。リモートワークをするうえで、おそらく会社によっていろいろな連絡手段やツールを活用しているかと思います。
それぞれの媒体には特徴があり、コミュニケーションの内容によって向き・不向きがあります。それぞれの媒体の特徴を理解し、うまく使い分けながら、コミュニケーションが取れる若手は、非常に優秀だと感じます。
──具体的な場面も伺えますでしょうか。
例えば、「相談があるので電話していいですか」と連絡がくると、どんな内容を話し、どのくらいの時間がかかるのか分かりません。そのような場面で優秀な若手は、Notionに相談したい内容をテキストでまとめ、その内容と一緒に「この件について相談したいので、5〜10分お電話可能でしょうか」と連絡してきます。これだと、どれくらいの時間が必要で、どんな準備があればいいのかが分かるので、とても動きやすいですよね。
他にも、電話で解決できないことについては、「この件について、机を並べて相談したいので、この日の午後お時間いただいていいですか」など、オフラインでの業務を提案してくれるので、余計な手間が省けて助かっています。
──たしかに、直接話したほうがよい内容をテキストで話してしまうと、誤解を生むケースやうまく内容が伝わらないケースもあり、お互いにコストがかかってしまうことがありますよね。
多様なツールや手段を使い分けて提案できると、若手本人にとっても、上司や先輩にとっても、心地よい仕事ができますし、生産性を高めることもできます。
結局のところ、仕事をするうえで自分1人でできることは限られています。どれだけたくさんの人に力を貸してもらえるか、どれだけたくさんの人と関わりを持てるかということも『入社1年目の教科書』の主題の1つなんです。
現在、新しいITツールや新しい働き方が取り入れられていますが、この時代に沿った『入社1年目の教科書』はどこにも出ておらず、すべてを完璧にできる人がいるわけでもありません。そのなかで工夫をして仕事に取り組めば、若手社員として頭1つ抜けることができるのではないでしょうか。
リアルなコミュニケーションの大切さを忘れない
──これから新入社員になる方々へ、メッセージをお願いします。
これから新入社員になる方は、学生期間の多くをパンデミックのなかで過ごされてきたかと思います。最近は、コロナによる制限も明けつつあるので、ぜひリアルなコミュニケーションの大切さを再認識していただきたいと思っています。
たとえ会社がリモートワークだったとしても、リアルでの集まりに参加するなど、人と接する機会はいくらでもつくれます。仕事をする時間がほとんどパソコンとのにらめっこだという方こそ、積極的にいろいろな場面でリアルなコミュニケーションを取り入れてみてください。
会社の人とのコミュニケーションも然り、仕事で直接関わりのない人とのコミュニケーションも然り。人とのつながりの先には、きっと何か新しい発見が待っています。ぜひ有意義で楽しい新入社員期間を過ごしていただきたいです。
Interview / Write:Sachi Kagayama
Edit:Nozomu Iino
Design:Sachi Kagayama