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目に見えないコミュニケーションが職場をつくっている? 「場」の研究者に学ぶ、創造的な職場をつくる方法

「創造的な組織をつくりたいが、何からはじめるべきなのかわからない」
「組織の課題を解決したいが、うまくいかない」

このような悩みを抱える方は多いのではないでしょうか。今回は『共に働くことの意味を問い直す – 職場の現象学入門 – 』の著者であり、中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)研究科長・教授の露木 恵美子(つゆき えみこ)さんにインタビュー。

現象学を用いた職場の構造や、心理的安全性・創造的な組織をつくるために必要な考え方についてお話を伺いました。

露木さん

露木 恵美子
(つゆき えみこ)

インタビュイー

中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール) 研究科長・教授

神奈川県出身。博士(知識科学)。専門は組織論、戦略論、ベンチャー起業論。知識経営論の野中郁次郎氏に師事。株式会社前川製作所、(独)産総研ベンチャー開発戦略研究センター等を経て2011年4月に中央大学ビジネススクールに着任。研究テーマは「場と共創」。組織における創造的な場のあり方、組織変革プロセスを多面的に研究している。

インタビュアー

2019年よりフリーランスライター・編集者・Webメディアディレクターとして活動。前職ではベンチャー企業のメディア事業部に在籍し、Webマガジンの副編集長としてWebメディアの運営・企画やライターマネジメントに従事。

現在は、ourly magazine編集部にてコンテンツ企画やインタビュー、ライティングを担当している。

目次

職「場」は、目に見える場と目に見えない場で構成されている

──『共に働くことの意味を問い直す – 職場の現象学入門 – 』では、現象学に基づいた創造的な組織づくりに役立つヒントが記載されています。現象学と聞いてもピンとこない人も多いのではないかと思いますが、そもそもどのような学問なのでしょうか。

現象学というのは、私たちの日常で起こっている当たり前の出来事がなぜ起こっているのか、を考える学問です。

たとえば、「なぜ右、左、右、左と足を出して歩けるんだろう」「なぜさまざまな音を聞き分けられるんだろう」「なぜ車が来たらとっさに避けられるんだろう」など、当たり前すぎて考えないような物事の成り立ちを考えることを指します。

『共に働くことの意味を問い直す – 職場の現象学入門 – 』は、職場ってどういうふうにできているんだろう、どう成り立っているんだろうという疑問をテーマに、創造的な組織づくりについて紐解いています。職場づくりのノウハウではなく、どのように職場の課題を捉えるべきか、職場の見え方を変えるための書籍なんです。

──職場の見え方を変える。

職場の見え方について紐解くために、「場」について少し解説したいと思います。「場」というのは単なる物理的な空間・環境を指しているわけではありません。私たちは日常のなかで「場」という言葉をよく使いますが、「場が読める、読めない」「場が盛り上がる、しらける」など、あたかも「場」が生きているかのように扱っていますよね。

また「場がない」「場違い」「場が壊れる」など、情緒的な感情や感覚を示す場合にも「場」が用いられています。つまり日本人が捉えている「場」とは、人と人との関係性に大きく依存しているんです。

──職場という言葉にも「場」が含まれていますが、たしかに職場も人と人との関係性が大きく関わっていますね。

そして「場」は、“目に見える場”と“目に見えない場”で構成されており、目に見える場では言語コミュニケーションが、目に見えない場では情動的コミュニケーションが行われています。

──難しいですね……。

言語的コミュニケーションとは、職場で働くうえで交わされるさまざまなコミュニケーションを指します。「おはようございます」「あの資料作っておいて」「昨日の商談どうだった?」「おつかれさまです」など、職場で交わされるコミュニケーションはすべて、目に見える場で行われている言語的コミュニケーションです。

対して目に見えない場の情動的コミュニケーションとは、五感など身体全体で感じるコミュニケーションです。たとえば、会議室に入った瞬間に今日は話がうまく進みそうだと感じる、逆に今日はなんだかみんなの気持ちが沈んでいるように感じる、といったイメージです。

──なるほど! いまの例を聞くと、たしかに五感から伝わる「場」を感じることがあります!

それが情動的コミュニケーションです。職場ではじめて話した人に対して「意外とお茶目な人だな」「とても穏やかな人だな」みたいな、言葉にならない感覚も情動的コミュニケーションの作用です。

そして重要なのが、どれだけ言語的コミュニケーションが活発な場であっても、その背後には必ず情動的コミュニケーションが働いているということ。情動的コミュニケーションから伝わる感覚は、言葉で交わされるやりとりよりも、人間にとってより信じられる情報だということです。

目に見えない場の空気は常に伝わってしまっている!?

──情動的コミュニケーションと創造的な職場づくりは、具体的にどう関わっているのでしょうか。

情動的コミュニケーションで伝わった感覚は、働きやすさなど心理的安全性に大きく影響します。

「今日はなんだか職場の雰囲気が悪いなあ……」と感じたら、周囲を気にして、気を遣ってしまうのが日本人の特徴です。

なにより難しいのが、情動的コミュニケーションはコントロールできないということです。職場の雰囲気の悪さを感じ取った上司が、空気を変えようとがんばって明るく振る舞ったとしても、「あぁ。場の空気を明るくしたいからがんばって振る舞っているんだろうけど……」と、目に見えない場によって無意識に伝わってしまうんです。

──えっ……。では、心理的安全性をつくることってすごく難しいことなんじゃないですか……?

心理的安全性をつくろうと働きかけること自体、能動的志向性(目に見える場での意図)が働いているので、言葉にしなくても「あ〜心理的安全性をつくりたいんだな〜」と伝わってしまいますね(笑)。そうすると、みんなは何となく組織のやりたいことを汲み取って行動するものの、結局「何のために心理的安全性をつくりたいのか」がわからないと、「やっていても意味ないでしょ」となって進まなくなってしまう。

働き方改革だってそうです。政府や世論に押されてただ形だけやっているだけじゃ、結局何の課題の解決にもなりません。なんのためにやるのかを問い直さないと、本当にすべきことは見えてこないのです。

つまり「心理的安全性をつくろう」と動き出すのではなく、なんのために心理的安全性が必要なのかを問い直し、心理的安全性が必要だと感じられる場をつくっていくことが重要です。心理的安全性は、従業員が1つのゴールに向かって共に何かを行った結果として生まれ、必要だと認識されてこそ創造性につながっていくものなのです。

「なぜ」を問い直すことができていれば、パーパスなんていらない

──露木先生は、心理的安全性は何のために必要だと考えていますか。

私は、心理的安全性は組織の多様性を受け入れ、創造性のある組織づくりをするために必要なものだと考えています。書籍にも詳しく記載していますが、1人ひとりが多様な個であり、市場のニーズも多様化している今、組織も多様性を重視する必要があります。世の中が多様なのだから、組織も多様性を大切にしていかないと、市場に適応できず生き残っていけないのは当たり前です。

1人ひとりのものの捉え方が違うことも、1つの社会現象。組織によって心理的安全性に力を入れる理由はさまざまですが、まずは「なぜ」を問い直すところからはじめてみてください。

もちろん心理的安全性に限らず、「なぜ」を問い直すことは重要です。従業員1人ひとりが、そして組織全体が「なぜ」を問い直すことができていれば、パーパスが大事なのだとあえて言わなくても、おのずとパーパスに向かっていくものなのです。

──おのずとパーパスに向かっていく! 「なぜ」を問い直す先に、創造的な組織が待っているのですね。

組織にあわせる、社会にあわせるのではなく、自分はどうしたいのか、自分はどうありたいのかを自問自答しながら、職場でも社会でも自分の個性を出していくことが大切です。

それぞれが個性についてのアンテナを高く張り、市場の情報を拾ってくる。それを対話によって形にしていく。私はそういう職場の先に、創造的な組織が出来上がると思っています。

まずは現状を問い直す、組織の課題を問い直す、多様な人が集まって共に働くことの意味を問い直すところからはじめてみてください。

私は、露木先生の書籍を読むまで「現象学」という学問があることすら知りませんでした。当たり前に起こっていることについて、考え直す、問い直すことは簡単なようでとても難しいことだと感じています。しかし、職場というコミュニティのなかで1人1人が、組織の課題を問い直し、いますべきことを認識していけば、組織の目線はおのずと揃っていくのではないかと考えます。この記事で私と同じように初めて現象学に触れた方は、ぜひ共に働くことの意味を問い直してみてください。(ライター・加賀山)

Interview / Write / Photo / Design:Sachi Kagayama
Edit:Nozomu Iino

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