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【対談vol.1】離職率が低いことは、本当に安心なのか?「静かなる分断」が組織の活力を奪う理由

髙橋 新平

公開日:

2026.06.22

更新日:

2026.06.22

【対談vol.1】離職率が低いことは、本当に安心なのか?「静かなる分断」が組織の活力を奪う理由
高橋 克徳さん

高橋 克徳
(たかはし かつのり)

インタビュイー

株式会社ジェイフィール
代表取締役

1966年生まれ。一橋大学大学院修士、慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。野村総合研究所、ワトソンワイアットにて、組織開発、人材開発に関するコンサルティングに一貫して従事。2007年ジェイフィール設立に参画。組織感情、つながり力、コネクティング・リーダーなど、日本企業再生に向けた新たなコンセプトを次々に提示し、「感情とつながりを再生し、良い感情の連鎖を起こす」ための組織づくり、人づくり支援している。2010年より現職。2013年より東京理科大学大学院イノベーション研究科教授、2018年より武蔵野大学経営学部特任教授を兼務。

2008年に出版した『不機嫌な職場』(共著、講談社)は28万部のベストセラーとなり、職場に焦点を当てた組織変革への動きをつくり出した。その他、『職場は感情で変わる』(講談社)、『人が「つながる」マネジメント』(中経出版)、『ワクワクする職場をつくる。』(共著、実業之日本社)、『静かに分断する職場』(ディスカヴァー携書)など著書多数。

「うちは離職率が低いから大丈夫」 
「エンゲージメント調査の数値もそこそこ安定している」

一見、何の問題もないように見ある組織。しかし、その水面下では、ある日突然キーパーソンが去ったり、部門間の壁が厚くなったりといった「目に見えない危機」が進行しているかもしれません。

今回は、組織開発・人材開発の専門家として20年近く「感情」や「つながり」をテーマに数々の組織変革を支援してきた、株式会社ジェイフィール代表の高橋克徳氏にお話を伺いました。

「仕事が面白い、職場が楽しい、会社が好き」と誇れる大人を増やすために奮闘してきた高橋氏とともに、数字に表れない組織の病理である「静かなる分断」のメカニズムと、それがもたらす恐ろしい経営リスクについて紐解きます。

【対談vol.2】AIが答えを出す時代に、人間の価値はどこにあるのか?「自ら問いを立てて悩む」組織がコモディティ化を防げる理由の記事はこちらをご覧ください。

目次

離職率が低くても安心できない。「静かなる分断」のリアル

ourly 髙橋:昨今、人的資本経営の流れもあり、エンゲージメントサーベイを導入する企業が増えています。その際、よく使われる指標の1つが「離職率」ですが、高橋さんはここだけを見ているのは非常に危ないと警鐘を鳴らされています。なぜでしょうか。

J.Feel 高橋:表面的な離職率が高くなくても、裏で本音を調査すると「仕事に想いが持てない」「職場の人間関係に距離を置いている」という声が噴出するケースが多々あるからです。実際に私たちが実施したアンケートでは、「仕事が面白い、職場が楽しい、会社が好き」だと明確に回答した人は、全体の1割程度しかいませんでした。

辞めてはいないけれど、心はすでに会社から離れている。これこそが「静かなる分断」の本質です。

仕事、職場、会社とつながっていますか?

ourly 髙橋:具体的には、どのような問題として現れるのでしょうか。

J.Feel 高橋:表面的には目の前の仕事をこなしているため問題がないように見えますが、実際にはみんなが閉じこもり、対話が消えています。

「何かあってもそれは経営や管理職がやること」と他人事になり、ビジョンを掲げても誰も共感して動きません。困ってはいないけれど、会社としての活力は一切出てこない。そんな状態に陥ってしまうのです。

コロナ禍で加速した「心の距離」と「対立のない寂しさ」

ourly 髙橋:こうした背景には、コロナ禍によるリモートワークの普及も影響しているのでしょうか。

J.Feel 高橋:そうですね。コロナ禍で「四六時中会社を最優先する働き方」から解放され、仕事だけが人生じゃないと気づけたことは良いきっかけでした。しかし一方で、「会社ってどういう場所なんだろう」「この働き方を続けていいのかな」というモヤモヤを抱えたまま諦めて黙って働く人や、心を引き離してしまう人も作ってしまいました。

もともと組織には、部署間、上下間、雇用形態による多くの壁があります。以前はどうにかコミュニケーションを取れていましたが、物理的な距離ができたことで相手の考えが見えなくなり、「踏み込むのが怖いから蓋をして仕事をする」という状態が、さらに分断を加速させています。

気づくと、違いが壁になりつつありませんか?

ourly 髙橋:目に見えて激しく対立しているわけではないからこそ、余計に気づきにくいですね。

J.Feel 高橋:そうなんです。今は対立すると「パワハラ」と言われるリスクもあるため、触れない方が自分の心を守れるという側面もあります。

管理職側も「パワハラ」を恐れて部下を飲みに誘うのを遠慮し、逆に若手は「孤立したくない、もっと上と関係を持ちたい」と思っているのに行き違いが起き、距離が生まれてしまう。最低限の業務連絡だけでは、信頼関係など作りようがありません。

効率の裏にある「ジョブ型」の落とし穴

ジェイフィール高橋氏とourly髙橋氏

ourly 髙橋:こうした中、雇用環境を「ジョブ型」へ移行しようという動きもありますが、高橋さんはどう捉えていますか。

J.Feel 高橋:実は、あまり好きではないんです(笑)。一人ひとりの役割を明確にすること自体は効率的ですが、「ジョブ型」という言葉を使った瞬間に「私の仕事はこの範囲だから、それ以上はやらなくていい」という割り切り(タコツボ化)や、新たな壁を生んでしまう誤解に注意が必要です。

ourly 髙橋:特に変化の激しいスタートアップや、創造的な仕事においてはフィットしにくそうですね。

J.Feel 高橋:まさにその通りで、創造的な仕事はいろいろなものとつながって、知恵を集めて対話するプロセスから生まれます。ジョブという範囲で切り分けをしてしまうと、自分の経験や、AIが答えを出してくれる範囲の中でしか仕事をしなくなってしまいます。

手段が目的化して分断を加速させないためにも、「何のためにジョブ型を導入するのか」をいま一度考えるべきです。

「管理職になりたくない」は分断のサイン。分断が進んだ組織が直面する経営リスク

ourly 髙橋:少し視点を変えて、経営者の方に向けてお話をお聞きしたいんですけど、分断が進んでしまった組織には、具体的にどのような経営リスクが起こりうるのでしょうか。

J.Feel 高橋会社の中に情報や感情の流れが途絶えてしまうことです。流れが止まれば共感や一緒に考える機会が奪われ、イノベーションも変化する力もどんどん落ちていきます。結果として、新しいことに挑戦したい面白い人材から先に辞めていってしまいます。

そういう人は逆に言うと、外の世界とのつながりをしっかり持っていて、面白い知恵があったり、面白い人がいたりする。「そっちの人と仕事した方が面白いじゃん」ってわかってしまいます。だから分断していって「つながりがない場所にいる意味がなくなる」と感じる人も結構増えている。 

さらに深刻なのが、上下の壁です。我々の調査でも、上司と部下の分断だけでなく、管理職とその上の上司(部長・役員)の間で分断が起きていると、エンゲージメントの指数が一気にガクッと下がることが分かっています。

管理職とその上司の間に分断があると・・・

ourly 髙橋:中間管理職が、上からも下からも孤立する狭間で一番苦しんでいるのですね。

J.Feel 高橋:そうです。その我慢している疲弊したオーラが、職場の空気を作ってしまいます。それを見た若者たちが「あんな風に大変で辛くなるなら、僕は管理職になりたくない」と思い、また周囲に触れない人になって閉じこもっていく。

この「管理職になりたくない」という声が蔓延している会社は、分断がかなり進んでいるサインだと言えます。

解決への第一歩。「関係革新」と「対話」で分断を食い止める

株式会社ジェイフィール 代表取締役 高橋克徳氏

ourly 髙橋:では、実際にどうすればこの分断を乗り越えられるのでしょうか。ジェイフィールさんでの具体的なアプローチを教えてください。

J.Feel 高橋:私たちは「関係革新」と呼んでいますが、まずは「お互いを知り、人に関心を持つこと」から始めます。

本当に簡単なことでいいので、「私はこういう人です」と自己紹介し合ったり、自分が大事にしてきたことや悩みをシェアしたりします。普段自分の話を全くしていないので、これだけでも場はものすごく盛り上がります。お互いが素直に悩みを持ち寄り、聞いてあげるだけで、気持ちが楽になり関係性の出発点に立てるのです。

ourly 髙橋:まずは「知る」という土台が必要で、そこがあって初めて本当の「対話」が機能するのですね。

J.Feel 高橋:その通りです。ただ、価値観がバラバラな中で対話をするには大事なスタンス(土台)があります。経営者と現場では見えているレイヤー(景色)が違うことを前提に、「一人ひとり見方が違ってもいいこと」「その背景や理由を聴いて共感すること」。そして、どっちが正しいかという「議論」にするのではなく、バラバラな人同士で「この場で一緒に働くために、何が本質的に大事なのか」そこを避けることなく向き合う対話の場づくりが必要です。

AI時代の岐路。分断を加速させるか、余裕を生むか

株式会社ビットエー ourlyカンパニー 取締役COO 髙橋新平氏

ourly 髙橋:昨今は生成AIの台頭も著しいですが、AIの普及は職場の分断を加速させるでしょうか、それとも変革のチャンスでしょうか。

J.Feel 高橋:私は前向きに捉えていて、むしろみんなでAIを使いこなして仕事に「余力」や「余裕」を作ろうよ、と言いたいです(笑)。AIで業務を効率化して生まれた時間で、今まで時間がなくて着手できなかった本質的な対話やクリエイティブな業務に集中すればいい。

ただし、関係性が希薄で分断が起きている職場に、単に業務改革として「一人ひとり使いこなしてください」とAIだけを入れると、ますます人が閉じこもり、二極化して分断を加速させる最悪のツールになってしまいます。

ourly 髙橋:道具を入れる前に、やはり人間関係の土台があるかどうかが分かれ道になるのですね。近年は大企業を中心に、AIの先を見据えた「黒字リストラ」の動きもありますが、この点はいかがですか。

J.Feel 高橋:人をひと括りの数字として扱いバッサリとリストラしてしまうのは、やはり会社と社員の信頼関係を根本から壊してしまいます。簡単に解雇できない日本の雇用環境は、捉え方を変えれば「その人をどう活かすか、向き合い続けることを強制されている環境」とも言えます。

構造改革が必要な時だからこそ、何に悩みどう変わっていきたいのかをメッセージし、合わないときは個別に素直に話し合う。こうした「対話のある経営」ができるかどうかが、これからの変革期を存続できる会社になれるかの境界線です。

「人と向き合うことを諦めない」という姿勢

ourly 髙橋:最後に、この記事を読んでいる経営者の方へ一言メッセージをお願いします。

J.Feel 高橋:気がつけば私も同世代の経営者が増え、日々苦しい決断を迫られている姿を見ています。だからこそ、経営者の皆さん自身も孤立しないでほしいな、と思うのです。

リーダーの振る舞い、使う言葉、発するオーラそのものが会社の文化や空気を作っていきます。自分がこの会社でどんな空気を作る存在になりたいのかを改めて考え、何があっても「人と向き合うことを諦めない」という姿勢を、ぜひ大切にしていただければと思います。

ourly 髙橋:お互いに興味を持ち、深く相互理解し合う「対話」こそが、分断を食い止める唯一の方法なのだと改めて確信しました。高橋さん、本日は本当にありがとうございました。

J.Feel 高橋:ありがとうございました。

続きは、【対談vol.2】AIが答えを出す時代に、人間の価値はどこにあるのか?「自ら問いを立てて悩む」組織がコモディティ化を防げる理由の記事をご覧ください。

ジェイフィール高橋氏とourly髙橋氏