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インナーブランディングとは?目的から進め方、成功事例までを徹底紹介!

髙橋 新平

公開日:

2020.08.07

更新日:

2025.09.25

インナーブランディングとは?

企業価値・収益の最大化のため、ブランディングに力を入れている企業が増えています。

ブランディングには「インナーブランディング」と「アウターブランディング」の2種類があります。

インナーブランディングとは、企業が従業員に対して行うブランディング活動を指します。人材の流動化が進み、従業員の定着率や生産性の向上や重要視されるようになった現在、より一層注目されているコンテンツです。

この記事ではインナーブランディングとは何か、アウターブランディングとの違い、インナーブランディングのメリットなど、具体的に解説していきます。

目次

インナーブランディングとは

インナーブランディング(inner branding)は、企業が従業員に対して行うブランディング活動のことです。インターナルブランディングとも呼ばれます。

インナーブランディングの目的は、企業理念・ビジョンやブランド価値を浸透させ、企業の内側からブランド力を高めることです。理念・ブランド価値の浸透は、従業員の一体感・ロイヤリティを創出し、顧客満足度や定着率向上などの利益をもたらします。

つまり、従業員一人ひとりが企業ブランドの価値を理解・体現している状態をつくり、企業の目標達成を実現することがインナーブランディングの最終目標と言えるでしょう。

アウターブランディングとの違い

ブランディングは大きく「インナーブランディング」と「アウターブランディング」に分けられます。

インナーブランディグとアウターブランディングの関係
インナーブランディグとアウターブランディングの関係

インナーブランディングは従業員を対象に、企業理念やビジョン、製品・サービスに込めた想いを浸透させ、働く人の共感や意欲を高めることを目的とします。

一方、アウターブランディングは消費者や株主、採用候補者といった社外を対象に、ブランド価値やイメージを広く発信し、認知拡大を図ります。

媒体も異なり、インナーでは社内報や研修が中心であるのに対し、アウターではSNSやサービスサイト、社外メディアなど多様なチャネルが用いられます。一般的に「ブランディング」と言うとアウターを指すことが多いものの、どちらか一方では不十分です。

両方を組み合わせて取り組むことで、社内外で一貫性のある強固なブランド形成が可能となります。

インナーブランディングの必要性

近年、多くの企業がインナーブランディングの重要性を認識し、取り組みを強化しています。その背景には、社会や働き方の大きな変化があります。

働き方の多様化と人材の流動化

終身雇用が当たり前ではなくなり、転職が一般化しました。 

また、リモートワークの普及など働き方も多様化し、異なる価値観を持つ人材が同じ組織で働くようになっています。

このような状況では、従来のように時間をかけて企業文化を伝えることが難しく、意識的に理念や価値観を共有する場を設けなければ、組織の一体感を保つことが困難になっています。

企業間競争の激化とブランド価値の重要性

市場にはモノやサービスが溢れ、品質や価格だけで他社と差別化を図ることが難しくなっています。

生活者は製品そのものだけでなく、企業の姿勢やストーリーといった「ブランド価値」に共感して購買を決定する傾向が強まっています。

従業員一人ひとりがブランドの「伝道師」となることで、他社には真似できない独自の価値を提供できるのです。

インナーブランディングのメリット

インナーブランディングを進めることにより、以下のメリットを得られます。

  • 従業員同士・社内の一体感を生む
  • 企業理念・方針・行動指針との一貫性
  • ロイヤリティ・モチベーション・満足度の向上
  • 従業員の自発的な行動と顧客満足度向上
  • 定着率・採用への好影響

それぞれについて詳しく紹介します。

従業員同士・社内の一体感を生む

インナーブランディングは、理念・ビジョンの浸透を中心に行われるため、同じ価値観が共有されることで、組織に一体感を生み出します。

従業員同士が、同じ大きな目標を目指す仲間として助け合い、1チームとして生産性高く仕事に取り組むようになるでしょう。

企業理念・方針・行動指針との一貫性

従業員の意思決定・行動が、理念や行動指針など、企業として在りたい形と一貫性を持つようになります。

例えば顧客との間でトラブルが発生した際、従業員は時に素早く行動をしなければなりません。そんな時、充分なインナーブランディングが行われていれば、どの従業員であっても即座に適切な対応をとることができます。なぜなら従業員は、企業全体として目指している姿と、求められている行動規範を理解しているからです。

また、経営理念・ビジョンと関連して、行動指針が浸透することにより、マネジメントに割かれる時間が減るため、マネジメント層は自分の仕事に集中することができます。

ロイヤリティ・モチベーション・満足度の向上

インナーブランディングの一貫で発行されたビジョンステートメントなどを通し、従業員は自社の理念や、製品・サービスに込められた想いを理解します。

これに共感した従業員は、会社への理解度・好感度を高め、モチベーション・満足度ともに高く仕事に取り組むようになるでしょう。

従業員の自発的な行動と顧客満足度向上

インナーブランディングによって、従業員は自発的に顧客満足度を向上させる行動を取るようになります。

例えば、皆さんご存じの「スターバックス」では、従業員は「顧客を心から歓迎する」行動を自発的におこなっています。たとえばレジでちょっとした日常会話をしたり、名前を呼びかけたり、細かな気配りをしたりする接客につながります。

実際、スターバックスの高い顧客満足度は、こうした従業員のホスピタリティ精神と密接に関係しています。

定着率・採用への好影響

インナーブランディングによって、従業員は企業の方向性を理解します。これにより、従業員は企業の将来への不安を抱えずに、自然と長く勤めるようになるでしょう。

また、定着率が高いことは、求職者にとって良い要素として受け取られます。

さらにインナーブランディングで、従業員の愛着心などが育まれていることにより、彼らと話した求職者は会社に良い印象を持つこととなるでしょう。

インナーブランディングの具体例5選

実際にインナーブランディングを導入して、成功した事例を紹介します。

1.スターバックスコーヒー

先ほども少し紹介しましたが、「スターバックスコーヒー」はとてもいい例です。

スターバックスコーヒーに行った時、頼んだドリンクにイラストを書いてもらったり、とても居心地がいいなあと思ったりしたことはありませんでしょうか。その秘密はインナーブランディングに隠されています。

スターバックスコーヒーは「接客レベルの高さ」が有名ですが、実は接客マニュアルは存在せず、全てのパートナー(従業員)が自発的に行なっているものです。

なぜ、自発的な行動が出来るのでしょうか。それは、スターバックスコーヒーの理念・行動規範がパートナーに浸透しているからです。

マニュアルは存在しませんが、研修や人事考課の中で理念や行動規範について細かく触れる機会があります。その結果、パートナーが理念・行動規範を理解しており、各々が「顧客に感動体験を与える」ためにどうすればいいのか、と考えながら働くことができます。

その結果、広告を打たずとも、スターバックスコーヒーの接客や環境がブランドとなり、大人気のカフェとなっているのです。

2.ディズニーランド

ディズニーランドといえば、「夢の国」。

このブランドイメージは、もはや日本中に浸透していると言えるでしょう。なぜなら、「パークを訪れる全ての人が、現実を忘れ、幸せな時間を過ごせるためには「キャストはどんな努力でも惜しんではいけない」というウォルト・ディズニーの理念がキャスト(従業員)に浸透しているからです。

そのため、キャスト全員がゲスト(お客様)に夢の国の魔法をかけるという役割を果たすことができ、ゲストに感動体験を提供し、国内テーマパーク来場数1位の座を守り続けています。

3.リッツ・カールトン

顧客満足度が高いホテルとして知られる「リッツ・カールトン」。

実際に、CSに関する調査では、2006年から10年連続で第1位を獲得しています。この結果もインナーブランディングが成功しているからと言えるでしょう。

リッツカールトンは、お客様の要望に応える心のこもったサービスを提供することを理念に設立されました。

このサービスに対する考え方は「クレド」、「サービスの3ステップ」、「モットー」、「サービスバリューズ」、「従業員への約束」からなるゴールド・スタンダードに集約されています。

世界中の従業員が常にゴールド・スタンダードが書かれた「クレド・カード」を携帯しているため、その価値観が全従業員に浸透しており、顧客の期待を超える感動のサービスを提供し続けているのです。

また、リッツカールトンには、次のような感動エピソードがいくつもあります。

1.「大切な書類をホテルに忘れたお客様がいた。彼はすでに新幹線に乗ってしまっていたが、従業員が新幹線に乗って彼を追いかけ、東京駅で忘れ物を渡すことができた。」

2.「若い男性が、従業員に椅子を貸して欲しいと懇願した。
理由を聞くと、浜辺でプロポーズをするのだと言う。
それを聞いた従業員は急いで、浜辺にテーブルと椅子、そして上等なシャンパンを用意した。さらに跪くことが出来るようにテーブルのそばにハンカチも用意した。」

このような満足を超える感動を顧客に与え続けることができるのは、リッツカールトンの価値観が従業員に浸透しているためです。

4.ロック・フィールド

株式会社ロック・フィールドは、RF1や神戸コロッケなど全国に約300店舗の惣菜店を展開しています。

またビジョンとして「食の可能性を切り拓き、豊かな未来を創造する」を掲げながら、惣菜を通じ豊かなライフスタイルを提供し続けています。

実際に商品を販売するまでには、契約農家から仕入れ、加工製造し、店頭で販売するといった製販一体の組織となっています。

だからこそ、拠点や部門を横断した情報共有や企業理念の浸透に力を入れており、全国に300カ所もの店舗があるにも関わらず、高い店頭品質を維持しています。

詳しくはこちらの記事にまとめておりますので、ぜひご覧ください。

5.うるる

株式会社うるるは、急成長中のベンチャー企業です。

数年前の組織拡大のタイミングでの中途採用に際し、理念・価値観が全く浸透していないことを実感し、インナーブランディングに力を入れ始めました。

そこで2年前から取り組み始めたのが、シナプス組織です。シナプス組織とは、各チームにおいて、上長が階層が1つ下の部下だけに、企業の考え方や熱量を純度高く伝えていく。これを組織全体でしていこう、という考え方です。

シナプス組織は、チーム単位で考えます。そして、チームリーダーをコアと呼び、周りのメンバーをコアラーと言います。

例えば、代表をコア、役員をコアラーとすると、代表の考えや熱量は純度高く役員に伝わっています。また、役員をコアとすると、各事業部のマネージャーがコアラーとなり、役員が彼/彼女らに代表と同じ熱量で伝えていかなければなりません。

逆に、コアラーは納得いかないことがあれば、コアと納得するまで徹底的に話し合いをしてもらい、コアの考えや熱量を受け取ります。このように、コアでありコアラーでもある人が増えていくことで、双方向的に純度高くカルチャーの浸透を促す。これがシナプス組織なのです。

詳しくは以下のリンクから、インタビュー文をご覧ください。

インナーブランディングの手法

では、具体的にインナーブランディングを進める際に行うべき施策・手法を解説します。

社内報

インナーブランディングは、社内報をメインに進められることが一般的です。

社長や経営層へのインタビューを通して、従業員全体にメッセージを届けることができます。他の手法と違い、多くの従業員に、何度でも情報発信ができる点で適していると言えるでしょう。

また、リモートワーク環境であったり、現場と本社が別の場所にある企業、あるいは全国展開の企業においても、web社内報であれば問題ありません。

コンテンツの工夫次第で、社内コミュニケーションを促進させるというメリットも挙げられます。

社内SNS

社内SNSを導入することで、場所を問わず部署を超えたコミュニケーションを創出することができます。

インナーブランディングにおいて、横のつながりは大切な要素です。一方的な情報共有に限らず、従業員間で気軽なコミュニケーションが起こることで、インナーブラディングは促進されるでしょう。

そのためのひとつの場所として、社内SNSは機能します。

社内向けウェブサイト

社内向けウェブサイト(社内イントラ)は、情報の蓄積に便利です。

経営理念やMVV、展開している事業の詳細など、普遍的な情報を掲載し、従業員が自由にアクセスできるようにすることで、インナーブランディングの根幹として機能します。

クレドカード(ポスター)

クレドカードを作成し、従業員に常に携帯させることで、企業理念・ビジョンの浸透を進める企業が増えています。

クレドとは、従業員全体が心がけるべき信条や行動指針のことです。一般的に経営理念やビジョンと関連した文言で作られるため、インナーブランディングに効果的です。

また、クレドや企業理念、MVVを常に見える位置に設置することで、従業員に意識づけすることが出来ます。自社に愛着を持ってもらえるように、有名なデザイナーや漫画家にポスター依頼を企業もあります。

ただ、クレドやポスターを強調しすぎると、不快感を感じる従業員も少なからず出てくるため、注意が必要でしょう。

社内イベント

社内イベントは、普段関わらない人とのコミュニケーション創出や、気軽に話しかけられる関係構築を手助けます。

社内SNSの部分でも記載しましたが、インナーブランディングにおいてコミュニケーションは重要な要素です。

多くの従業員を巻き込んだ社内イベントで、コミュニケーションを活性化させ、ブランド価値が共有されやすい状態を目指します。

研修・ワークショップ

研修・ワークショップは、特に新入社員に対して、企業理念やビジョンをインプットしてもらう機会として有効です。

特にワークショップは、双方的コミュニケーションを作れるため、コミュニケーション活性化にも影響を与えます。

双方向コミュニケーションは、企業ブランドや理念についての共通認識の形成につながります。

研修やワークショップは、価値観の無理な押し付けと感じられにくいため、企業理念・ビジョンを自然と浸透させられる貴重な機会となるでしょう。

1on1ミーティング

1on1ミーティングは、上司と部下が行う1対1の面談を意味します。

これまでに紹介した手法とは違い、上司と部下が個別で話せるため、理念浸透や価値観の共有、コミュニケーション活性化をより丁寧に行うことができます。

時間と工数がかかることが難点ですが、インナーブランディングに限らずメリットの多い施策です。

インナーブランディングの進め方と成功のポイント

インナーブランディングは、以下5つのプロセスを通して行なわれます。

それぞれの段階で注意すべきポイントと合わせながら、インナーブランディング成功までの流れを解説します。

  1. 現状把握・課題抽出
  2. インナーブランディングの全体設計
  3. 企業理念・MVVの検討
  4. 施策の実行
  5. 定期的な効果測定

1.現状把握・課題抽出

インナーブランディングを導入する際、まずは自社の現状把握と課題の抽出です。

企業理念やビジョンがどれほど従業員に浸透しているか、また日常業務でどのように意識されているかを、アンケートやヒアリングで調査します。その際は職種や職層別に分析すると、具体的な改善ポイントが見えやすくなります。

さらに、結果を数値化して管理することが重要です。5段階評価やエンゲージメントサーベイ、web社内報の閲覧率などを活用すれば、施策の成果を可視化でき、改善の方向性や目標設定に役立ちます。

現状を正しく把握しないまま進めると、施策が現実から乖離してしまうため、まずは定量的なデータを基に課題を明確化しましょう。

2.インナーブランディングの全体設計

次にインナーブランディングの全体設計をします。

目指すべき最終ゴールや期限を設定し、理念浸透のプロセスや施策の優先順位を整理することで、行き当たりばったりの運用を防げます。その際、既存の経営理念やMVVにとらわれすぎる必要はなく、自社の将来像や社会的役割、数値目標など幅広い観点から議論を重ねるとよいでしょう。

複数人で意見を出し合い、短期・中期の目標を段階的に設定していくことで、理想とする組織像に近づくための道筋を描けます。

全体像を「設計図」として可視化し、目的とゴールを明確にすることが、施策を成功に導くための大前提となります。

3.経営理念・MVVの検討

インナーブランディングの全体設計が終われば、経営理念・MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の検討です。自社の核となる価値観や思想、顧客に提供する独自の価値を整理し、それに基づき既存の理念が有効かを見直します。

理念やMVVが未整備であれば新たに策定する必要があります。曖昧な理念のままでは、どんな施策も十分な効果を発揮しません。

検討が終わったら、将来の姿を明確に描いたビジョンステートメントを発行しましょう。ビジョンステートメントとは、企業が将来的に目指している姿や状態を言語化したものです。

従業員がこれを通じて企業の方向性を理解し、共感できれば、自発的に理念を自分ごと化でき、施策の浸透がスムーズに進みます。理念・MVVの明確化は、インナーブランディングの土台そのものです。

4.施策の実行

理念や目標が定まったら、次は具体的な施策の実行です。社内報やクレドカード、イベント、ワークショップなどさまざまな手法がありますが、共通して重要なのはPDCAを回すことです。実行にあたっては三つの注意点があります。

第一に、全従業員に価値観を無理に押し付けないこと。共感度には差がある前提で進めましょう。

第二に、経営陣やリーダーが日常で理念を体現すること。体現した行動が従業員の共感を呼び、理念浸透の最大の推進力となります。反対に、共感しやすい理念を掲げていても、経営陣がその理念に反するような行動をしている場合、当然従業員の意欲は低下するでしょう。

第三に、従業員が体現した行動を称賛・評価すること。組織の文化は一人ひとりの日々の行動や言動の積み重ねによって出来上がります。そして、他のメンバーの行動や言動を見て、真似することでさらに浸透が進みます。

これらを意識して進めることで、理念の定着が自然に進んでいきます。

5.定期的な効果測定

施策の実行後は、定期的に効果測定を行い、改善サイクルを回すことが欠かせません。インナーブランディングは短期的な効果が見えにくいため、根気強く成果を追い続ける姿勢が求められます。

調査方法としては、定量的なアンケートによる数値評価が一般的で、客観性を高めるために外部機関へ依頼する企業もあります。さらに、グループインタビューなど定性的な調査を組み合わせると、従業員の深い意見や具体的な課題を掘り下げられます。

短期的な成果を追うのではなく、中長期的な視点で持続的に取り組むことが成功の鍵となります。また、大きな組織になるほどイノベーター理論のように普及するため、まずは理念に共感し行動する上位15%をいかに早く形成するかを意識しましょう。

イノベーター理論とは
引用:イノベーター理論をわかりやすく解説!(https://www.utokyo-ipc.co.jp/column/innovation-theory/)

まとめ

この記事では、インナーブランディングとは何か、アウターブランディングとの違い、インナーブランディングのメリット、導入手順や具体例について解説しました。

インナーブランディングとは、企業が従業員に対して行うブランディング活動のことです。

人材の流動化が進む現在、多くの企業で進められています。

この記事が御社のインナーブランディングの役に立つと幸いです。