はじめに
業務用・産業用センサーおよびソリューションを提供するオプテックス株式会社。特に特定用途向けセンサー分野において、世界シェアトップクラスの製品を複数提供しています。
滋賀県に本社を置きながら、グローバルに活躍する同社の強さの秘密は、技術力だけではありませんでした。なんと、離職率は驚異の約2%。さらに新卒入社の3年離職率も0%で継続中。
この数字が物語るのは、社員一人ひとりがイキイキと働ける組織文化こそが、会社の本当の競争力だということです。なぜ、オプテックスはこんなにも社員と社会から愛されるのか?
今回は、同社の戦略本部 経営戦略室 広報・販促課の岡井良文さんにインタビュー。
創業者の想いを引き継ぐための「オープン社内報」から、風通しの良さを実現する経営陣の情報発信、社員の「やりたい!」を引き出すユニークなプロジェクトまで、強い組織づくりの舞台裏を聞いてきました。
「コミュニケーションを増やす」のも広報の大事な仕事

ー 岡井さん、本日はよろしくお願いします!早速ですが、岡井さんが所属していらっしゃる「広報・販促課」のミッションを教えてください。
ミッションは大きく2つあります。1つ目は「事業に貢献する販促」、2つ目は「会社のブランド価値を高めること」。
加えて、広報・販促としても重視している全社目標の一つとして、ちょっと珍しいかもしれないですが、「チームやグループのコミュニケーションを増やし、みんなで挑戦する文化をつくる」ことが挙げられます。これは会社の中期経営方針にもしっかり書かれています。
ー 広報が“コミュニケーション活性化”をミッションに。なぜ会社として、コミュニケーションを大事にされているんですか?
僕らの事業って、一つひとつはそこまで大きくないんです。例えば、自動ドアセンサーは国内シェアでいくと約50%ほどなのですが、規模としては数十億円。そのため、ここからもっと会社を大きくしていくには、新しいアイデア、つまりイノベーションが不可欠です。
でも、組織が縦割りだと、隣の部署で同じようなことに取り組んでいたり、「ちょっと話せば解決するのに…」なんてもったいないことが起こりがちですよね。コミュニケーションを増やすことで、そういう壁をなくして、事業の生産性や創造性を高めたいというのが、経営層の想いなんです。
それに、「困ったときに気軽に相談できる人が増える」ということは、心理的な安心感や安全性を高めることにつながると考えています。
あえて全部見せ!「オープン社内報」に込めた想い

ー コミュニケーションを活性化させる具体的な取り組みとして、オープン社内報「Ripple Workers Index」を拝見しました。社員一人ひとりの入社前の歩みまで深掘りされていて、非常に読み応えがありますよね。このオープン社内報ですが、なぜ社内向けに留めず、あえて”オープン”な形にこだわったのでしょうか?
どうせやるなら、一つの施策でいろんなところに良い影響を広げたいなと。この社内報も、僕らが大切にしている「オプテックススピリッツ」や「I.F.C.S.」という経営理念を体現するものとして考えています。
ー「I.F.C.S.」ですか?
はい。I=Individual(個人)、F=Family(家族)、C=Company(会社)、S=Society(社会)の頭文字をとったもので、こんな考え方がベースにあるんです。
- 個人 INDIVIDUAL:人生の多くの時間を過ごす会社を自己実現の場として大いに利用してほしい
- 家族 FAMILY:家族を思いやる気持ちを尊重しあい、時には支え合うことが組織団結力の基本
- 会社 COMPANY:さまざまな個性が協創し未来を切り拓くためのステージ
- 社会 SOCIETY:快適で豊かな社会を創り出すことこそ存在し生き残り続けるための究極の目的
この社内報には、社員個人の想いを言葉にする「インディビジュアル」、その人の頑張りを家族にも知ってもらう「ファミリー」、社内での相互理解を深める「カンパニー」、そして僕らの活動を社外にも知ってもらう「ソサエティ」っていう、まさにI.F.C.S.の考え方を伝播させる、波紋をつくっていく狙いがあるんです。
実際、バックオフィスの社員を紹介した記事をきっかけに、創業者からその社員へ直接「こんな想いで仕事をしてくれていたなんて、本当に嬉しいよ」って連絡があったことも。
それくらい、普段は見えにくいお互いの仕事への想いを伝え合うのって、大事だけど難しいんですよね。
ー まさに相互理解のきっかけですね。
そうなんです。それに、自分の考えを言語化する機会って、なかなかないじゃないですか。
だから記事を通じて「この人って、こんなアツい想いを持ってたんだ」とか、取材を受けてくださった方にも「自分って、本当はこんなことを考えてたんだな」って再発見するきっかけになれば、もう最高だなと。
ー 実際に記事がきっかけで、何か嬉しい反響はありましたか?
めちゃくちゃありますよ!
登場してくれた社員から「自分の考えが整理できた」って言ってもらえたり、記事を読んだご家族から「すごくいい会社で働いてるんだねって褒められたよ」とチャットをいただいたり。
中には、友人が記事に刺激を受けて転職しちゃった、なんて話も(笑)。そういう小さな波紋が広がっていくのが、本当に嬉しいですね。
ー 会社としての、もっと大きな狙いもあったりしますか?
もちろん。一番の目的は「経営理念を、今の時代に合わせて育てていく」ことです。
うちの離職率が低いのは、間違いなく創業以来、先輩たちが築き上げてきてくれた文化やブランドのおかげ。創業者が引退された今、そのバトンを僕らがどう受け取って、次につないでいくかがすごく重要なんです。
だから、この社内報では、社員一人ひとりが自己実現に向かってイキイキと働く姿を発信しています。それこそが、僕らの経営理念を「見える化」することですし、結果的に他社には真似できない一番の差別化になると思っています。
経営情報を“全員”に開示。理念への共感が最強の武器になる

ー 創業者の想いを引き継ぐって、すごく難しいことだと思います。岡井さんがそれをできるのは、やっぱり経営層と話す機会が多いからですか?
それはありますね。でも、うちは本当に風通しが良くて、役員や社長にも「ちょっといいですか?」って気軽に話しかけられるんです。だから、自分の考えがズレていないか、いつでも軌道修正できます。
もう一つ、うちの会社の面白いところは、経営情報をトップから現場の社員まで、全部オープンにしていること。毎週・毎月の経営会議の内容が、売上や利益の数字も含めて、上司からちゃんと共有されるんです。
だから社員一人ひとりが「会社のために、自分に何ができるか」を常に考えながら動ける。これがすごく大きいですね。
ー それはすごい文化ですね!多くの製造業が抱える、経営と現場の距離という課題とは無縁ですね。
うちの社員は、経営理念、特に「オプテックススピリッツ」や「I.F.C.S.」への共感度がめちゃくちゃ高いんです。これは、採用のときから理念に共感してくれる人を仲間として迎えているからだと思います。
普通の会社って、C・S(カンパニー・ソサエティ)が先に来ることが多いじゃないですか。でもうちは、I(インディビジュアル)から始まる。まず個人の自己実現があって、それが家族を幸せにし、会社に利益をもたらし、社会を良くしていく。
この順番こそがユニークで、創業から続くこの考え方をストレートに伝えることが、何よりの差別化になると思っています。実際、以前「うちの経営理念、好きですか?」とアンケートを取ったら、「共感する」と答えてくれた社員が8割以上もいたんですよ。これってすごいことですよね。
「やりたい!」が形になる改善プロジェクト。ボトムアップで創造性を刺激する

ー I.F.C.S.の「I」、つまり個人の自己実現を大切にされているからこそ、従業員の皆さんの「やりがい」も高まっているのだと感じます。その「やりがい」をさらに引き出すために、何か具体的に取り組まれている施策はありますか?
「これがやりがい施策です!」みたいな、会社から押し付けるものは特にないんです。
やりがいって、結局は自分で見つけるものだと思うので。ただ、その「きっかけ」になるような仕掛けはたくさん用意しています。
その代表が、「改善プロジェクト(通称:RX活動)」ですね。「全社の生産性と創造性を上げるためなら、何をやってもいいよ」というテーマで、部署の垣根を越えて有志が集まって活動するんです。
ー 面白いですね!具体的にどんなことに取り組まれたのですか?
例えば、フリーアドレスにしたら「誰がどこにいるか分からない問題」が起きまして…
そしたら、開発部門の有志が部署をまたいで集まって、社員の居場所が社内コミュニケーションツール上でわかるシステムを自分たちで開発しちゃったんです。普段の業務とは違う領域に挑戦することが、メンバーにとってすごく楽しかったそうで。
これはあくまで立候補制で、業務が最優先。でも、自分たちの手で会社を良くしていく経験が、社員のやりがいに直結しているのは間違いないですね。こういう業務から少しはみ出した活動が、未来のイノベーションの種になっていると思います。
「この会社なら、何かやってくれる」。未来への期待感を醸成したい

ー 最後に、オプテックスが目指すこれからの組織の姿と、岡井さん自身が挑戦していきたいことを教えてください。
オプテックスって、チャンスが来たときにものすごく大きなジャンプができる会社だと信じているんです。例えば、すごい新製品が生まれたり、世の中を驚かせるような大きなプロモーションを仕掛けるタイミングが来たり。
その瞬間に、「あの会社なら、これくらいのことをやりかねない」って社内外から期待してもらえる。
そんな状態を、日々のコミュニケーションを通じて作っておきたいんです。土台がしっかりしていないと、どんなに大きなジャンプをしても、ミスマッチが生まれるだけですから。
ー まさに、企業文化がアウターブランディングに繋がる、というお話ですね。
そうですね。経営理念に基づいた土台をしっかり固めていくこと、それ自体が自然と差別化になっていくはずなんです。
これからも、会社の課題、経営の課題と向き合いながら、ドキドキする方、ちょっと緊張感のある方を選んで挑戦し続けたいですね。
みんなが「オプテックスでずっと働きたいな」って思える会社を作ることに、自分なりのやり方で貢献していく。それが僕にとってのI.F.C.S.なんです。