近年、新たな採用手法として「アルムナイ採用」が注目されています。これは、一度自社を退職した元従業員を再雇用する制度です。労働人口が減少する中で、企業は優秀な人材を確保するために多様な採用チャネルを模索している状況です。
アルムナイ採用は、企業文化や業務内容を深く理解している人材を再び迎え入れることで、即戦力の確保や組織の活性化に繋がる可能性があります。本記事では、アルムナイ採用の基礎知識から、具体的な企業事例、そして導入を成功させるためのポイントまでを詳しく解説します。
アルムナイ採用とは?
アルムナイ採用について、その定義と注目される背景から見ていきましょう。言葉の意味を正しく理解し、なぜ今この採用手法が重要視されているのかを把握することが、導入検討の第一歩となります。

アルムナイ採用の定義
アルムナイ採用とは、自社を一度退職した元従業員(アルムナイ)を、再び雇用する採用手法のことです。「カムバック採用」や「出戻り採用」とも呼ばれます。
アルムナイは英語で「卒業生」や「同窓生」を意味する言葉で、企業と退職者の関係性を、学校とその卒業生の関係になぞらえています。退職後も良好な関係を維持し、社外で新たなスキルや経験を積んだ人材に再び活躍してもらうことを目的としています。
【業界別】アルムナイ採用の成功事例9選
ここでは、実際にアルムナイ採用を導入し、成果を上げている企業の事例を業界別に紹介します。各社がどのような工夫をしているのか、自社の取り組みの参考にしてください。
【IT業界】株式会社ミクシィの事例
SNS「mixi」などで知られるミクシィは、2024年9月にアルムナイ専用サイトを立ち上げ、アルムナイ採用を本格化させています。実際に2022年から2024年にかけて12名が再入社し、様々な部門で活躍している実績があります。
専用サイトでは、同社の最新ニュースやイベント情報を発信するほか、キャリア相談窓口を設けるなど、退職者との継続的な関係構築に力を入れています。
参考:https://mixi.co.jp/news/2024/0920/35288
【IT業界】サイボウズ株式会社の事例
グループウェアで有名なサイボウズでは、退職時に「いつでも戻ってきていい」と伝える文化が根付いています。明確な制度があるわけではありませんが、2023年からアルムナイコミュニティを立ち上げ、退職者同士の横のつながりを維持しています。このような文化が、自然な形でのアルムナイ採用に繋がっています。
参考:https://cybozu.co.jp/recruit/entry/alumni.html
【通信業界】NTTグループの事例
通信事業最大手のNTTグループは、数百人規模で経験者採用を進める中で、アルムナイ採用を重要な柱の一つと位置付けています。退職者を対象としたアルムナイコミュニティを設立し、2024年9月のイベントでは約250名が参加するなど、活発な交流を促進しています。
現役社員との交流イベントを通じて、再入社の機会だけでなく、新たなビジネスチャンスの創出も目指しています。
参考:https://www.facebook.com/NTTgroup/posts/943808831124707
【製造業界】三菱重工株式会社の事例
三菱重工では「ウェルカムバック採用」という名称でアルムナイ採用制度を設けています。自己都合で退職した元社員が対象で、退職後に得た経験やスキルを再び自社で活かしてもらうことを目的としています。退職理由を問わず、社員として1年以上勤務した経験があれば応募可能という、間口の広い制度設計が特徴です。
参考:https://www.mhi.com/jp/news/230927.html
【製造業界】トヨタ自動車株式会社の事例
日本を代表するトヨタ自動車も、アルムナイネットワークを構築し、元従業員との関係を大切にしています。「モビリティカンパニー」への変革を目指す中で、多様な経験を持つアルムナイの知見やネットワークを重要な経営資源と捉え、採用だけでなく、ビジネスでの協業なども視野に入れた活動を展開しています。

【金融業界】株式会社三菱UFJ銀行の事例
三菱UFJ銀行は、「ウェルカムバック採用」制度とアルムナイネットワークを連携させています。ネットワークを通じて、銀行の最新の事業内容や制度について情報を発信し、アルムナイが再入社を検討しやすい環境を整備しています。
現在、ネットワークの登録者数は約1000名に上り、採用活動のみならず、ビジネスや学びの機会としても活用されています。

【製薬業界】武田薬品工業株式会社の事例
武田薬品工業では、OB有志が2021年にアルムナイ専用プラットフォーム「Active-T」を立ち上げました。このプラットフォームは、OB・OGと現役社員が知識や経験を共有する場として機能しており、セミナーや交流イベントも開催されています。
再雇用だけでなく、アルムナイが所属する企業との協業も視野に入れた、多角的なネットワーク活用を目指しています。
参考:https://www.active-t.jp/about.html
【食品業界】株式会社スープストックトーキョーの事例
「食べるスープ」の専門店を展開するスープストックトーキョーでは、退職後も希望者に「バーチャル社員証」を発行し、会社とつながり続けられる「バーチャル社員制度」を導入しています。
会社の理念や価値観への共感を重視しており、一度離れても会社のファンであり続ける元従業員との繋がりを大切にする文化が、この制度を支えています。
参考:https://mytalent.jp/lab/article_soup-stock-tokyo
【小売業界】イオンモール株式会社の事例
商業施設の開発・運営を手がけるイオンモールも、アルムナイネットワークを設立しています。退職者との繋がりを広げ、深めることで、再雇用の機会を創出するだけでなく、現役社員への良い影響や、新たなビジネス機会の創出を目指しています。多様な人材との継続的な関係性が、企業の成長に繋がると考えています。
参考:https://www.aeonmall.com/wp/wp-content/uploads/2024/06/03aee43e0cde56f20e4de5f42d8e3863.pdf
アルムナイ採用のメリット
アルムナイ採用を導入することは、企業にとって多くのメリットをもたらします。ここでは、代表的な4つのメリットについて具体的に解説します。
即戦力人材の確保
アルムナイは、自社の企業文化、事業内容、そして業務の進め方を既に理解しています。そのため、入社後のオンボーディング(研修や教育)にかかる時間やコストを大幅に削減でき、即戦力としての活躍が期待できます。一般的な中途採用者と比較して、早期にパフォーマンスを発揮しやすい点は、企業にとって大きな魅力と言えるでしょう。


採用コストの削減と効率化
アルムナイ採用は、求人広告の出稿や人材紹介エージェントの利用といった外部サービスへの依存度を下げることができます。アルムナイネットワークなどを通じて直接候補者と繋がることができれば、採用に関わる手数料などのコストを大幅に削減することが可能です。
また、選考プロセスにおいても、既知の人材であるため、候補者のスキルや人柄を判断する時間を短縮でき、採用活動全体の効率化に繋がります。
入社後のミスマッチ防止
採用における大きな課題の一つが、入社後のミスマッチです。しかし、アルムナイ採用では、候補者である元従業員が会社の風土や人間関係、仕事の厳しさなどを理解した上で応募するため、ミスマッチのリスクを大幅に低減できます。
企業側もアルムナイの実績や人柄を把握しているため、相互理解の深い状態で再入社が決まり、結果的に定着率の向上にも貢献します。
組織の多様性促進
退職後、アルムナイは他の企業で新たなスキルや知識、異なる視点を身につけています。そのような人材が組織に戻ることで、既存の社員に新たな刺激を与え、組織全体の多様性を促進するでしょう。
外部の新しい風を取り入れることは、硬直化しがちな組織文化の変革や、新たなイノベーションの創出に繋がる重要な要素となります。

アルムナイ採用のデメリットと注意点
多くのメリットがある一方で、アルムナイ採用には慎重に検討すべきデメリットや注意点も存在します。円滑な導入と運用のために、事前にリスクを把握しておきましょう。
既存社員との人間関係への配慮
アルムナイが復帰する際には、既存社員との人間関係に注意を払う必要があります。特に、アルムナイが在籍時よりも高い役職で復帰した場合、当時同僚だった社員が部下になるケースも考えられます。
こうした状況が、既存社員の不満やモチベーション低下に繋がらないよう、事前に十分なコミュニケーションを取り、受け入れ体制を整えることが重要です。
退職理由の慎重な確認
再雇用を検討する際には、アルムナイの退職理由を改めて確認することが不可欠です。ネガティブな理由、例えば人間関係のトラブルや待遇への不満が原因で退職した場合は、その問題が現在解決されているかを慎重に見極める必要があります。
根本的な問題が解決されていないまま再雇用すると、再び同じ理由で退職してしまうリスクがあります。
待遇やポジションに関する調整
アルムナイの待遇やポジションを決定する際には、公平性と透明性が求められます。社外で積んだ経験やスキルを正当に評価しつつも、既存社員とのバランスを考慮しなければなりません。
特定のアルムナイを優遇していると受け取られると、社内に不公平感が生じ、組織全体の士気に影響を及ぼす可能性があります。明確な評価基準に基づいた、誰もが納得できる処遇を決定することが肝心です。
アルムナイ採用を成功させる4つのポイント
アルムナイ採用を単なる制度として導入するだけでなく、効果的に機能させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、成功のために押さえておきたい4つのポイントを解説します。
退職者との良好な関係を維持する
アルムナイ採用の最も重要な基盤は、退職者との良好な関係です。そのためには、まず従業員が退職する際に、円満なプロセスを心がけることが大切です。
退職をネガティブに捉えず、個人のキャリア選択を尊重する姿勢を示すことで、「また戻りたい」と思えるようなポジティブな印象を残すことができます。退職後も定期的に連絡を取るなど、関係を途切れさせない工夫が求められます。
アルムナイネットワークを構築・活性化する
退職者との関係を維持するためには、公式な「アルムナイネットワーク」を構築することが有効です。SNSの専用グループや、専門サービスを活用して、退職後も会社の最新情報や求人情報を提供できる仕組みを作りましょう。
また、情報発信だけでなく、アルムナイ同士や現役社員が交流できるイベントを企画するなど、ネットワークを活性化させる取り組みが、再雇用の機会を増やす鍵となります。

公平で透明性のある再雇用制度を設計する
アルムナイを再雇用する際のルールを明確に制度化することも重要です。どのようなスキルや経験を評価するのか、給与や役職はどのように決定するのかといった基準を明確にし、社内に公開しましょう。
制度の透明性を高めることで、既存社員の不公平感をなくし、アルムナイ採用に対する社内全体の理解と協力を得やすくなります。

受け入れ部署の理解と協力を得る
制度を整えるだけでなく、実際にアルムナイを受け入れる現場の理解と協力が不可欠です。復帰するアルムナイがどのような役割を期待されているのか、その人の経験がチームにどう貢献するのかを、受け入れ部署のメンバーに事前に丁寧に説明しましょう。
スムーズな受け入れ体制を整えることで、アルムナイは早期に能力を発揮し、組織に貢献することができます。
ourlyをアルムナイサービスとして活用する

ourlyは、web社内報とプロフィール機能を組み合わせることで、在籍社員とアルムナイ(退職者)とのつながりを継続・発展させられます。
- プロフィール機能
経歴・スキル・興味を可視化し、人となりやキャリアが一目でわかる。相談や案件連携もスムーズになる。 - web社内報
経営方針や部署の動き、新入社員の紹介といった情報を継続的に発信。アルムナイにも組織の動きを届け、心理的距離を縮める。
これらの機能により、在籍中から退職後まで一貫したつながりを支援します。
さらに「社外で得た知見を組織に還元」「リファラル採用の加速」など、持続的な関係構築を実現。
部署単位から全社展開まで、規模に応じた料金プランをご用意しています。
まとめ
本記事では、アルムナイ採用のメリットや成功事例、導入のポイントについて解説しました。アルムナイ採用は、企業文化を理解した即戦力を確保し、採用コストを抑えることができる有効な手法です。
成功のためには、退職者と良好な関係を維持し、公平な制度を設計し、社内の受け入れ体制を整えることが重要になります。この記事が、貴社の採用戦略を考える上での一助となれば幸いです。