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日本企業は人材の無駄遣い?経営コンサルが語る、ハッピーな組織づくりに足りないモノ

2015年に刊行された書籍『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』(クロスメディア・パブリッシング)は、日本の社員のモチベーションが低い理由をさまざまな側面から紐とき、対策について言及しています。

今回は、この書籍の著者であり、日本で経営コンサルタントとして活躍されるロッシェル・カップさんに、ウィズコロナ時代における日本社員のモチベーションの変化や、モチベーションを高めるために日本企業が意識すべきことについて伺いました。

ロッシェル・カップ(Rochelle Kopp)
ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティングの創立者兼社長。
イェール大学歴史学部卒業、シカゴ大学経営学院卒業。日系大手金融機関の東京本社における職務経験を持つ。現在は異文化コミュニケ-ションと人事管理を専門とする経営コンサルタントとして、日系と外資系の多国籍企業のグローバル人材育成を支援している。

ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティングHP:https://japanintercultural.com/ja/
ロッシェル・カップ Twitter:https://twitter.com/JICRochelle

インタビュアー

2019年よりフリーランスライター・編集者・Webメディアディレクターとして活動。前職ではベンチャー企業のメディア事業部に在籍し、Webマガジンの副編集長としてWebメディアの運営・企画やライターマネジメントに従事。

現在は、ourly magazine編集部にてコンテンツ企画やインタビュー、ライティングを担当している。

目次

リモートワークの体験から新たな不満が生まれている

──カップさんの著書『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』が刊行されたのはコロナが流行する以前でした。ウィズコロナ時代になってから、日本の社員のモチベーションに何か変化はあったのでしょうか。

実は最近の統計でも、まだまだ日本企業の社員はモチベーションが低い状態を継続しています。これといった大きな変化はありません。

──ほとんど変化はないんですね……。

はい。逆に、モチベーションを低くさせる新たな不満の原因が生まれています。

コロナ禍に入り、最初の緊急事態宣言が発令された当初、ほとんどの日本企業がリモートワークを導入しました。その体験から、多くの日本の社員は「家でも働ける」「会社に行かなくても仕事をすることは可能なんだ」と感じたと思います。

しかし、緊急事態宣言が終了したとたん出社を命じられ、以前のように会社で働かなければならない状況に。一度リモートワークを体験したことで、「出社して働くこと」に不満を感じる人が増えてしまったんです。世論調査でも、日本の社員の大半は「毎日じゃなくてもいいが、リモートワークで働きたい」と思っているとの結果が出ています。

──なるほど。一度リモートワークを体験したことで、出社する働き方に不満を感じる人が多くなったんですね。

“a luxury once enjoyed becomes a necessity”(一度贅沢を楽しむと、その後は必需品になる)

イギリスの歴史・政治学者のC・ノースコート・パーキンソンの有名な引用ですが、多くの日本の社員にとって、リモートワークとはこのようなものになっています。一度リモートワークを経験したことで「これからも続けたい!」という希望が生まれたんです。

しかし、今は多くの日本企業が「事務所に戻りましょう!」「会社で働きましょう!」と、コロナ以前の働き方に戻そうとしています。これが大きな不満の原因になっていると私は考えます。

──個人的にはウィズコロナ時代に入り、リモートワークを導入した企業が増えていると思っていたのですが、実際はまだまだ少ないのでしょうか。

そうなんです。業種や企業の規模によりますが、欧米と比べて日本企業のリモートワークの導入数は非常に少ないままです。コロナ禍の間もそうですし、コロナ後の継続的なリモートワークの導入も少ない現状にあります。

環境の不整備や人間関係……。課題は山ほどある

──ほかに、コロナ禍における日本社員のモチベーション低下に影響する要素はありますか。

実はこれも統計を見てわかることですが、欧米企業と比べて日本企業はIT環境への投資が非常に低いんです。十分なツールや環境が揃わないままリモートワークを導入している企業も少なくありません。IT環境に必要なツールの使用方法などのトレーニング、サポートも少ないので、リモートワークをすることでかえって不満を抱えた人もいるのではないかと思います。

また、コロナ禍でのリモートワーク導入で日本企業のデジタル遅れや非効率な部分が明るみに出たとも言えます。テレビやSNSでIT環境が整った会社のケーススタディなどを見て、「うちの会社は古いやり方をしている」「フレキシビリティのない会社だ」と感じた社員も増えています。それが社員のモチベーションに悪影響を与えているケースもあるでしょう。

──なるほど。私の周りには人間関係に不満を抱えている人が多いんですが、それに関してはいかがでしょうか。

書籍にも書いていますが、人間関係は今でも非常に大きな問題だと思います。とくに上司との関係が悪い、上司を尊敬できない、上司の管理方法が好きじゃないなど、上司との人間関係によってモチベーションが低下している社員も多いのではないでしょうか。

私が以前目にした「コロナ禍でのリモート勤務が好きな側面と好きじゃない側面」に関する世論調査では、多くの社員が家で仕事をすることで職場の「人間関係のストレスがなく気楽」と回答していました。逆に上司への調査では、部下と同じ場所で仕事ができないから「人とのコミュニケーションがなくさみしい」という意見が多くて、部下と同じ場所で仕事ができないからそう感じているのでしょう。

なぜこんなにも多くの日本社員が人間関係に苦しんでいるのか、日本の上司がなぜ部下と同じ場所で働きたがるのか。日本の上司たちはどうしても部下をマイクロマネジメントしたいようです。

至急、週2日のリモートワークを導入すべし!

──ウィズコロナそしてポストコロナ時代、日本社員のモチベーションを高めるためにすべきことを教えてください。

至急対応すべきは、リモートワークをある程度可能にすることです。フルリモートにする必要はありません。まずは週2日からでもリモートワークを導入し、ハイブリッドな働き方を実現することが重要です。リモートワークを導入する環境や仕事の流れなどが整っていない場合は、その部分も至急に考え直すべきだと思います。

──なるほど。やはりリモートワークの導入が重要なんですね。

はい。リモートワークの導入で、仕事の流れややり方・タスクの振り方などを見直すきっかけになり、より効率的でデジタル化された仕事ができるようになります。また「リモートワークを導入してほしい!」という“従業員の希望に対して耳を傾けた”という証拠にもつながるでしょう。

社員の身体面から見ても大きな影響があります。日本はとくに通勤が長かったり、満員電車のストレスがあったりして、通勤するだけで疲れてしまう人も多いのではないでしょうか。また、通勤に時間を取られることで自分のために使える暇な時間が限られてしまう。

週2日だけでもリモートワークを導入すれば、出勤時のストレスを緩和するし、通勤するはずだった時間を自分のために使うことが可能です。ちょっとしたリフレッシュにもつながるので、モチベーションやより良い仕事への影響も期待できます。

──余談ですが、私の友人はリモートワークだと逆にモチベーションが上がらないと言っていて……。

もちろん、そういう人もいます。私は、リモートワークが合うか合わないかは個人の性格と職種によるものだと思っています。私の高校時代の親しい友人はスーパー営業マンですが、彼女はリモートワークが大嫌いでした。顧客を訪問して、話をすることからエネルギーをもらうタイプだったので、1人で黙々と仕事をするのは嫌だと。

私が言いたいのは、社員が自分に合った働き方を選べるようにすべきだということです。「絶対に出社!」というワンパターンの働き方を押し付けるのではなく、選択肢を与えるためにもハイブリッドな働き方を推奨します。

──先ほどリモートワークの導入が「“従業員の希望に対して耳を傾けた”という証拠にもなる」というお話がありましたが、この点について具体的に伺ってもよろしいでしょうか。

ウィズコロナ、そしてポストコロナ時代に必要なのは、従業員満足を第一にする管理です。

今までの日本は終身雇用制度があったので、社員が不満を抱えていても簡単に会社を辞めないという前提がありました。だから「社員がハッピーかどうかはそんなに気にしなくてもいいよな」という環境だったんですね。

しかし今では多くの企業で社員の流出が課題になっています。とくに数字を見ると一目瞭然。若い新入社員が入って3年以内に辞める人の数が非常に多いというデータもあります。だからこそ、今後は従業員の希望に耳を傾けることが重要です。

私は、その第一歩としてリモートワークの導入が良い影響を及ぼすのではないかと考えています。

インナーコミュニケーション活性化の鍵は経営者の決意

──コロナ禍における日本企業のインナーコミュニケーションについてもお話を伺いたいです!

正直、インナーコミュニケーションは日本企業の弱いところだと思っています。とくに、企業側から社員へコミュニケーションを取ることに対して、まだ十分力を入れていない。

アメリカの大企業では、インナーコミュニケーションに特化した部署もあります。社外向けの広報とは別にインナーコミュニケーションのチームや担当者が配置されている。日本企業でそこまでしている企業は少ないですよね。

なので、インナーコミュニケーションは1つの職業として大切にする必要があると思います。

──具体的にどのようなことをすべきだと思いますか。

近年は動画やSNSなどさまざまなコミュニケーションツールがあるので、それを上手に活用することがとくに重要ではないでしょうか。

また、企業側から社員に対して、会社の戦略・方針、最近の功績、サクセスストーリーなどをしっかりと伝えること。そして、社員が企業に対してさまざまな意見を出せるような環境づくりや、企業が社員に対して耳を傾ける姿勢が大切です。

社員が抱えている思いや不満、希望に耳を傾けることに対して、まだまだ日本企業の姿勢は不十分です。企業の伝統ばかりを重視して変わろうとしない。トップダウンのスタイルをとっている企業もまだまだ多いですよね。

──なるほど。企業が社員の意見を受け止め、変わるために大切なのは何なのでしょうか。

一番必要なのは経営者の決意ではないでしょうか。

でも、気をつけていただきたいのは「変えましょう!」と言うだけでは何も変わらないということです。最近は多くの経営者が「会社を変えよう」「時代に合わせた変化が必要だ」と発言しています。しかし中には、そう言うだけで魔法の杖のように全てが変わると信じている経営者もいるようですね。

「変えること」を決めただけでは何も変わりません。どういう方法をつかうのか、どういうインセンティブを出すのか、どういう仕組みにするのかなど、具体的なところまで落とし込む必要があります。経営者は「変えよう」という自分の発言をバックアップする行動を取ることが重要です。

人材の無駄遣いを止め、社員がハッピーに働ける世の中へ

──日本が今後どのように変化していけば、社員のモチベーションが高まるような社会がつくれると思いますか。

社員1人1人をユニークな個人として捉えること。そして、各社員のスキルと強みをしっかり把握して、その人にマッチした職場配属を考えることです。そのためには人事スタッフの数と努力が必要です。

──人事スタッフの数は欧米と日本ではやはり差があるのでしょうか。

統計をチェックしたところ、数からするとあまり大きな差はありませんでした。おそらく仕事の内容が異なるのではないかと思います。日本の場合は書類を作るなどの事務作業が多いのかもしれません。

アメリカでは事務作業や書類作業は自動化されているので、人事スタッフは社員の声に耳を傾けることに注力しています。カウンセラーのような働き方をしているんです。

──なるほど。人事スタッフの働き方も今後課題となりそうですね。最後に、カップさんは今後日本がどのように変化していってほしいと思いますか。

日本はよく自然資源が少ないと言われていますが、日本の最大の資源は“日本人”だと思っています。日本人は教育レベルが高く、とても勤勉。労働力としても優れている人が多いですよね。

しかし、日本の労働市場の流動性が低かったり、個人に合わせた配属がされていなかったり、ITへの投資が不十分だったりすることで、社員のモチベーションが低くなってしまっている。日本の素晴らしい社員たちの力が十分活用されてないことがすごくもったいないと思います。要するに日本は今、人材の無駄遣いをしているんですね。

日本人はすでに世の中に多くの価値を提供していますが、潜在的な能力やパワーもまだまだ隠されていると思います。だからこそ日本企業がこの状況を脱する対策を取り、日本人1人1人が好きな仕事を選択し、ハッピーに、生き生きと働ける環境に変わっていってほしいです。

【インタビュー後記】
取材の中でとくに印象深かったのは、モチベーションを高めるために個人が意識すべきことについて。「自分にどのような才能・スキル・強みがあるのかをきちんと理解し、社会にどのような価値を提供したいのかを深く考えること。そして、今の状況と照らし合わせることです」との回答をいただいたとき、ハッとさせられました。企業側だけでなく、個人が“自分の幸せな働き方”について考えることは非常に重要なのだと。残念ながら記事に入れることはできませんでしたが、誰かに届くといいな…との思いをこめてインタビュー後記でご紹介させていただきます。

interviewer / writer:Sachi Kagayama:
editor:Nozomu Iino:
photographer:Yuma Miyanaga:
designer:Akari Iguchi

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