世界初のCHOに聞く!従業員の“幸福感”を引き出すことの重要性
Chief Happiness Officer(以下、CHO)という役職をご存知でしょうか。CHOとは従業員の幸福度を高め、企業成長を促す存在です。
「従業員が幸せになれば、会社は伸びる」という言葉がありますが、実際にウォーリック大学の最新の研究によると、幸福度の高い従業員は幸福度が低い従業員より12%業績が向上することがわかっています。
今回はCHOのパイオニアであるArnaud Collery(アルノー・コレリー)氏に、CHOのミッションや今後の課題についてお話を伺いました。
CHOのミッションは「従業員の幸福感を引き出すこと」
── 日本では、CHOという役職にあまり馴染みがありません。具体的にどのような役職なのでしょうか。
CHOとは、2000年ごろにサンフランシスコのシリコンバレーで、私が初めて作ったポジションです。当時はGoogleやいくつかのスター トアップ企業で、世界初のCHOとして活躍しはじめました。
──CHOは、どのようなミッションを担っているのでしょうか。
CHOの主なミッションは、従業員の幸福感を引き出し、サポートできるコミュニケーション手段を保つことです。
具体的な業務は、大きく分けて3つあります。
- 理念・行動規範を浸透させるための施策を行うこと
- 経営課題を「組織」観点から解決するための施策立案をすること
- 組織開発・組織活性化のための制度や、企画立案を行うこと
これらの業務の遂行に適している、つまりCHOに適している人物像は、人を愛し、ビジネスについて詳しく、失敗を恐れないリーダー的存在を持つ人です。
苦しんでいる従業員を助けたい。CHOとしてのキャリアをスタート
── アルノー氏はCHOのパイオニアとして活躍されていますが、CHOというキャリアをスタートさせようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
私がCHOとしてキャリアをスタートさせたのは、2013年のことです。当時、2000年から2013年にかけて、私は南アフリカのケープタウンに滞在し、起業家としてのキャリアを積んでいました。
イベントを開催するためにさまざまなベンチャー企業に足を運んでいたのですが、そこで働く従業員のなかには、精神的な苦難を抱え、助けを必要としている人たちがたくさんいたのです。苦しんでいる従業員たちの姿を見ているなかで、だんだんと私がサポートしたいと思うようになりました。
──なるほど。CHOの起源は「従業員を苦しみから解放したい」という思いだったんですね。
はい。その後、多くの従業員へ幸福と笑顔をもたらすためのイベントを開催しはじめ、CHOとしてのキャリアをスタート。2013年にはニューヨークに戻り、ChanelやDior,、BMW,、Google、国際連合などの大企業や組織で短期のイベントを開催するなど、CHOとしてのキャリア拡大していきました。
── アルノー氏は普段どのような業務をしているのか、その業務を行う際に意識していることを具体的にご教示いただけますでしょうか。
私の仕事は、主にチーム管理とコーチングの2つに集中しています。
チーム管理を行う際は、従業員に対して尊敬の気持ちを忘れないことを大切にしています。従業員への尊敬の気持ちとは、それぞれの従業員のペースにあわせて、耳を傾けてあげられることです。
CHOには、社内でみんなが心地良く過ごし、スムーズなコミュニケーションができるように環境を整え、みんなのペースにあわせてチーム管理をしていくことが必要とされるのです。
──コーチングについては、具体的にどのようなことを行っているのでしょうか。
コーチングは、チームビルディングが完了したあとのステップとして取り入れています。
例えば、私はコーチングを行う際、「23日間のミッション」というアプローチを企業に提案しています。23日間のミッションプランが承認されれば、イベントの提案書を作成。その後、ミッションを行う会社のCEOとお話しし、チームビルディングを行い 、コーチングプログラムを実行しています。
CHOの責任は炎を保つこと。自身の健康管理にも力を入れるべきである
──アルノー氏が、CHOとして大事にしていることはありますか。
私はCHOのキャリアを積んでいくなかで、自分なりの“フィロソフィー”(価値観)を築いていきました。そのなかで最も大切に感じているのは、「CHOとは炎が消えないようにキープする存在であるべき」ということです。
炎とは、従業員の「モチベーション」「パッション」「コミュニケーション」「つながりや関係」「成長」など、さまざまなもの象徴しています。CHOの仕事は炎が消えないように、一貫性を保てる環境を作ったり、社員を支える必要があります。CHOの仕事には、「会社の炎を保つ」という大きな責任があるのです。
このような大きな責任を持ち続けるには、自分の健康やメンタルヘルスを気遣うことも重要であると感じています。
──なるほど。自身の健康やメンタルヘルスを気遣うために、具体的にプライベートではどのようなことに気をつけているのですか。
私は生活をおくるなかで、3つのルールを必ず守っています。3つのルールとは、「最低1時間のスポーツをすること」「栄養管理を行うこと」「目標を毎週・毎月決めること」です。
まず最低1時間のスポーツをすることは、私にとって精神的な健康と身体的な健康を保つために欠かせないルーティンです。ランニング、水泳、ヨガなど体を精一杯動かせるものを中心に行い、散歩などは避けています。
自分の体内に入れるものは、精神面や健康面に大きく影響するので、栄養管理にも気をつけています。例えば、オーガニックな食材をなるべく体内に取り入れるなどです。
──3つ目の「目標を毎週・毎月決めること」とは、仕事に関してでしょうか。
はい。私は仕事において自分自身が常に成長できるように、毎週1つ目標を決めて生活しています。1つの目標に集中し、達成できるように工夫した生活を送る習慣が、成功への第一歩だと信じています。
毎日変わり続ける環境の流れに身をまかせる大切さ。 “Go with the flow”
── CHOの今後の課題について教えてください。
CHOの将来性については、大きく2つのことが課題になると考えています。
1つ目は企画立案の減少です。 コロナの影響で、オンライン上で行う企画が増え、オフラインでの企画が少なくなっています。これからは、より多くのオフライン企画をつくることが重要な課題になってくるのではないでしょうか。
──2つ目はいかがでしょうか。
2つ目は、常に変わり続ける環境に適応できるサポート力です。経済危機のなか、世界中で転職が当たり前の時代になっています。
そのため、CHOは従業員の声により耳を傾けることが求められます。転職をする選択肢を与える前に、従業員の職場でのモチベーションを維持するサポートを行うことが今後の課題になるでしょう。
Interview / Write:Anna Tanigaki
Edit:Sachi Kagayama
Photo:Arnaud Collery
Design:Sachi Kagayama / Nozomu Iino