組織改善のためには原因を探ってはいけない?専門家に聞く、インターナルコミュニケーションを活発化させる方法
リモートワークやコミュニケーションツールの発達が進むなかで、インターナルコミュニケーションの希薄化が懸念され始めています。活発なインターナルコミュニケーションは従業員エンゲージメントの向上にも繋がる重要なファクターであると考えられていますが、具体的に組織にどんな影響をもたらすのでしょうか。
今回は『職場の経営学』の著者の1人であり、甲南大学 経営学科 教授の北居明先生にインタビュー。組織が個人にどのような影響を及ぼすのかという観点からさまざまな研究を進めてきた北居先生に、インターナルコミュニケーションの活性化が組織にもたらす影響や、従業員エンゲージメント向上との関係性などを伺いました。
組織の良し悪しはコミュニケーションで決まる
——昨今注目されているインターナルコミュニケーションですが、活性化させることによって起こる組織、あるいは個人への良い影響について教えてください。
基本前提として、組織はコミュニケーションがほぼすべてであると考えています。分業で成り立っている、ピラミッド型の階級構造があるなどさまざまな仕組みはあれど、組織が働く人にどう作用するかは「誰と誰がどこでどんな話をするのか」で決まる。これが私の考え方です。コミュニケーションを介して、個人と組織が影響し合っているイメージですね。
それらを踏まえ、コミュニケーションの活性化が組織に与える影響を考えると、その範囲は多岐に渡ります。具体的に挙げるとするならば、組織の業績、生産性、働きがい、個人やチームのモチベーション、メンタルヘルス、チームワーク、リーダーシップなどです。あるいは、組織のなかで何か問題が起こったとき、どう解決するのかといったところにも影響してきます。
——インターナルコミュニケーションが活発な組織とそうでない組織の間では、働く人の関係性や雰囲気にどのような違いが出てくるのでしょうか。
「そもそもコミュニケーションの活性化とは何か」というところがポイントになります。会話量が多いからコミュニケーションが活性化しているといえるかというと、必ずしもそうではないんです。よくありがちなのは、たくさん話しているけど、肝心なこと、言いたいことを言えていない状態ですね。
最近は「組織の心理的安全性が大事」とよく言われますが、自分の意見を相手に伝えられて、かつ前向きに検討できる、あるいはお互い相手の考えを否定せず、受け入れたうえで考えを広げていくといったコミュニケーションが行われているかどうかが肝となります。
このような組織では、働く人の創造性が発揮されるケースも多いですし、新しいアイデアも受け入れやすいです。改善点や問題点も指摘し合えることで、結果的に“働きやすい組織”へと変わっていくのではないでしょうか。
良質なコミュニケーションは個人や組織の資源を生む
——インターナルコミュニケーションが活性化している組織では、従業員エンゲージメントが高くなるのではないかと考えています。この点について、北居先生はどのように考えていますか?
エンゲージメントというと少し広義なので、仕事に対してどれぐらい熱心に向き合い、楽しく取り組めているかの心理状態を示す“ワークエンゲージメント”という考え方を元に説明しましょう。コミュニケーションの活性化によって、やがて個人や組織の資源の増加が見込まれます。そして、それらの資源がワークエンゲージメントの向上に繋がることが、これまでの研究で明らかになっているんです。
——個人や組織の資源、ですか。
例えば個人でいうと、自分が困ったときに助けてくれる人がいるかなど。組織でいうと、裁量権がある、意見を言い合える環境であることなどが重要な資源となります。そういった資源を働く人それぞれが認識するきっかけとなるのが、コミュニケーションなんです。
——なるほど!ちなみに、インターナルコミュニケーションが活性化しているけど、なかなかワークエンゲージメントがあがらないケースもあるのでしょうか?
ありますね。「社内では活発にコミュニケーションをとっていますか?」と聞くと「とっています!」と答えてくれるにも関わらず、ストレスチェック等で判明するメンタルヘルス状態があまり良くないこともしばしば。
あくまで一例ですが、仕事の割り振りや進め方など手段に関するコミュニケーションはしっかりとっているけど、その仕事をやる意味や、組織や個人としてどうなりたいのかという会話をしていないことが多いんです。そのため、まずはコミュニケーションとただの伝達の違いに気づくことが大切になります。
原因を探るのはNG。未来の可能性に目を向けてみる
——本来の意味でインターナルコミュニケーションがうまくいっていない組織を改善するにあたり、おさえておきたいポイントについて教えてください。
大きく3つのポイントがあります。1つ目は「原因を探らない」こと。誰が悪いとか、なぜこうなったのかは言及しないのが基本原則です。そもそも原因特定と改善についての話し合いができるのであれば、とっくにやっていますよね。そんななかで原因を探っていくのは、実は組織にとってリスクでしかありません。
——多くの人がついつい原因を探っている気がします……!では具体的に、どういったコミュニケーションが有効なのでしょうか?
そこで重要なのが、残り2つのポイントになります。これからどうなりたいのかという「未来について話す」こと、そして「すでにできていることに焦点を当てる」ことです。過去や現状の失敗・問題ではなく、これからの可能性に目を向ければ、組織は徐々に良い方向に向かっていきます。
ここでひとつ、具体例を出しましょう。とある調査で、「仕事量が多く残業が減らない」という問題を抱えた企業がありました。社員たちは残業が減らない原因について話し合うも、結局特定できず……。解決の糸口も見つからず、埒があかなくなってしまったんです。そこで、「残業を減らして持続可能な働き方を実現したい」という未来のビジョンを明確にし、「忙しくても早く帰れたのはどんなとき?」とできていたことに焦点を当てて話してみることに。
するとどうでしょう、残業しても早く帰れたときのエピソードがたくさんあがってきました。終業後に楽しみがある、朝礼時に用事があるため早く帰る旨を伝えていた、それを受けて周りも協力してくれたから早く帰れたなど……。まさに個人・組織の資源が活きてワークエンゲージメントの向上に繋がっている状態でした。考え方や質問の仕方ひとつで、そのさきに見えてくる可能性が違ってくるんです。
今できることからひとつずつ。小さなアクションが大きな変化に繋がる
——インターナルコミュニケーションを活性化させるためにできることを、経営者、人事、従業員それぞれの視点で教えてください。
まずは組織のトップである経営者、そして組織の顔である人事の方たちが、率先して前向きかつ未来を見据えたコミュニケーションをとることが大事だと考えています。組織全体に及ぼす影響もかなり大きなものになりますし、働く人全員から漏れなく可能性を見出すことにも繋がるはずです。
従業員の方たちにもぜひ実践してもらいたいですね。しかし、いきなりこれまでと違う方向性のコミュニケーションを組織内でとっていくのは、難しいと感じることもあるかもしれません。その場合、家族や仲の良い友人、日々一緒に仕事をしている同僚など、近しい人から始めてみてください。
最近は部下との1on1ミーティングを行う企業も増えているので、そこで実践しても良いですね。もちろん、この記事を読んで最初に会った人に向けてでも大丈夫です!エンゲージメント向上のためには能動的に動くことも重要なので、ぜひ積極的に実践してみてください。
——最後に、従業員エンゲージメント向上に向けて奮起している企業の担当者にメッセージをお願いします!
従業員のワークエンゲージメントを向上させることは、決して容易なことではありません。時間も労力も必要です。しかし、どんなときも「自分は頑張っている」と肯定し、褒めてあげてください。できてないところではなく、強みや長所に目を向ければ、きっと組織は変えられます!