社員の幸福を追求する経営は、経営者を真に幸福にする〜組織崩壊を経験して実現した“働きがい”のある会社〜
2024年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング(※)にて3年連続で第1位に選出された、株式会社あつまる(以下、あつまる)。「従業員の物心両面の幸福を追求していれば、自分自身、つまり経営者が幸福になる」と語るのは、同社代表取締役社長の石井 陽介さんです。
今回は石井さんに、あつまるが働きがいのある会社づくりをする上で心がけていることや施策について伺いました。
※日本における「働きがいのある会社」ランキング…Great Place to Work® Institute Japanが発表しているランキング制度。同社では働きがいに関する調査の結果が一定水準を超えた企業を「働きがい認定企業」、さらにその上位企業を「働きがいのある会社」ランキングとして発表しています。2024年版は653社が参加しています。
理念やコミュニケーションを疎かにすると組織は崩壊する
──まずは、あつまるの理念について教えてください。
弊社は「全従業員の物心両面の幸福を追求するとともに、出逢った人たちに無限の可能性を伝え続ける集団である。」を理念に掲げています。物心両面というのは、衣食住医の贅沢ではなく安定的な提供と、「人生で一番、今が心が充実している」という心の充足感のことです。
また、無限の可能性に挑戦し、実現することを繰り返す過程こそが幸福であると定義づけ、全従業員が切磋琢磨しながら成長できる環境づくりを重視しています。
──あつまるでは、理念(フィロソフィ)を非常に重視していると伺っています。その理由があれば、教えてください。
その理由には、私の失敗が深く関係しています。私は25歳の頃に1度起業をしました。当時の私はとにかく稼ぐ従業員が偉い、稼がない従業員はダメだと考えていました。「従業員と会話したってなんの学びもない。外で他の経営者とお酒を飲むことのほうが重要だ」と、従業員とのコミュニケーションも疎かにしていたんです。
会社の業績は悪くありませんでした。企業当初7人だった組織は45人ほどにまで増えていましたが、振り返ると誰もついてきていなかった。従業員1人1人の人生に向き合っていなかったこと、社内のコミュニケーションを疎かにしていたことが、大きな要因です。だんだん従業員からの反発の声が大きくなり、30歳のとき、追い出されるような形で社長を辞任しました。
──なるほど。そんな過去があったんですね……。
そのような過去もあり、新しく会社を起こそうと考えたときに、経営についてきちんと学ぶ必要があると考えました。いろいろと調べるなかで、京セラや第二電電(現KDDI)を創業された稲盛和夫氏の「盛和塾」という経営者団体があることを知りました。
その際、稲盛氏の著書「生き方」を初めて読み、感銘を受けました。「これまでの自分の考えを全て捨て、この方の仰る通りに経営をしよう。それでまたダメだったら、自分はよっぽど経営者に向いていなかったということだ。」と、稲盛和夫氏から徹底的に学ばせていただくことを決めました。
そこで最初に学んだのが、経営者の仕事は「全従業員の物心両面の幸福を追求する」ことであり、そのために企業理念やミッション・ビジョン・バリューが必要不可欠ということです。そのため、あつまるでは理念(フィロソフィ)の共有を最も大切にしています。
──組織崩壊を経験した過去を経て、理念(フィロソフィ)の重要性を認識されたのですね。
稲盛和夫氏から学びをいただきながら気がついたのは、従業員の物心両面の幸福を追求していれば、自分自身、つまり経営者が幸福になるということです。従業員が愚痴を言いながら嫌々働いているよりも、日々、働きがいを感じながら働いてくれるほうが、経営者として幸せですよね。
──理念(フィロソフィ)が浸透しなければ、組織はどうなると考えますか?
弊社ではフィロソフィの“浸透”ではなく、“共有”という言葉を使っています。組織でフィロソフィを共有できなければ、それぞれの目線がバラバラになり、派閥ができ、やがて崩壊すると思います。実際に前の会社で私が体験した失敗の道を歩むことになりますね。
従業員の日々の生活とフィロソフィを繋げる事が重要
──あつまるでは、理念(フィロソフィ)を共有するためにどのような取り組みを実施しているのでしょうか?
日々、さまざまな取り組みを行なっていますが、日頃からフィロソフィをベースに会話をすること、コミュニケーションをとることを心がけています。
英語の勉強を週1回しかしない人と、毎日している人では語学力の成長に差が生まれますよね。それと同じで、毎日理念やフィロソフィを目にしている人と、そうでない人では、共有の度合いにギャップが生まれてしまいます。そのため、あえて社内コミュニケーションのなかに理念やフィロソフィに沿った発言を入れ込みながら、押し付けるのではなく自然と共有されていく環境づくりを意識していますね。
あとは、従業員1人ひとりがより理念の解像度を高められるように、『フィロソフィBOOK』の配布や『フィロソフィマップ』を作成しています。
──フィロソフィマップ?
弊社のミッション・ビジョン・バリューや行動規範は、すべて経営理念につながっています。フィロソフィマップは、それぞれの要素がどのようにつながっているのかを明確化し、意識してもらうためのマップです。
マップに落とし込むことで、従業員1人ひとりの理念に対する解像度を高め、行動に反映しやすくなるように意識しています。
──あつまるでは、よりコミュニケーションや言語化に関する設計を重視しているのですね。
そうですね。理念やフィロソフィの共有はコミュニケーションなくしては成し得ないと考えているので、そのあたりはより丁寧に設計しています。
個人のビジョンと経営理念を重ね合わせ、組織の目線を揃える
──そのほか、何か特徴的な取り組みはありますか?
『個人ビジョン経営』も、理念共有の取り組みの1つです。個人ビジョン経営は、従業員一人ひとりが個人ビジョンを「ビジョンシート」にまとめ、面談を通して個人ビジョンと会社の経営計画と連動させることで、自立した人生(仕事)を歩むことができる取り組みです。
ビジョンシートには、人生ビジョン・生い立ち・中期ビジョン・アクションプラン管理シート(6ヶ月以内)が入っています。最終的に、「会社の経営計画=全従業員のビジョンの集合体」となる状態を目指して実施しています。
──かなり設計して、さまざまな施策を実施されているのですね! これらのフィロソフィ共有の施策を行った結果、どのような成果がありましたか?
フィロソフィをしっかりと共有していること、従業員の幸福を追求する姿勢が伝わった結果が、「働きがいのある会社」ランキング3年連続1位につながっているのではないかなと思いますね。
従業員全員が理念を実現できているわけではありませんが、会社が理念を実現しようとしている姿勢は伝わっていると思います。今後も従業員全員がより理念の実現、幸福の実現に近づいていけるように様々な取り組みを実施していきたいです。