X理論・Y理論とは?人事・マネジメント業務への活用方法や事例を解説
X理論・Y理論とは、働く人のモチベーションにかかわる2種類の考え方です。アメリカの経営学者、ダグラス・マクレガーが提唱したもので、仕事に対する人間の両極端な姿勢を前提にしています。X理論は性悪説、Y理論は性善説に基づく考えです。
X理論・Y理論は、どのような人事管理シーンに取り入れると最適なのでしょうか。また、それぞれの理論を生かせる業務はどのようなものなのでしょうか。
本記事では、X理論・Y理論の定義、これらに基づく人事管理法、そして業務事例について解説します。
X理論・Y理論とは?
X理論・Y理論とは、組織で働く人々の動機づけに関わる理論で、2つの相反する考えに基づいています。X理論では「元来人間は働くことが嫌いで、命令や強制がなければ動かないもの」とします。これに対し、Y理論は「働くことは人間が本来持つ性質であり、意義を感じる目標・目的に対しては能動的に行動する」というものです。
X理論・Y理論は、アメリカの経営学者で心理学にも精通したダグラス・マクレガー氏が提唱したものです。仕事への動機づけを「性悪説」と「性善説」の両極で捉えた理論として、知られています。
X理論・Y理論の基本となるマズローの欲求段階説
X理論・Y理論の前提となるのが「マズローの欲求段階説」です。アメリカの心理学者であるマズローは、人間の欲求は以下の5段階で構成されるとしました。
- 生理的欲求
- 安全欲求
- 社会的欲求
- 承認欲求
- 自己実現欲求
生命維持に必要な本能的で低次の欲求から、人間としての存在価値に関わる高次の欲求を5段階で示しました。マズローの説では低次の欲求が満たされてはじめて、次の段階の欲求が生じるとしています。
X理論・Y理論とマズローの欲求段階説の関係性
X理論・Y理論とマズローの欲求段階説は、以下のように関連します。
X理論において人間が働く動機は、生理的欲求や安全欲求の実現であると考えます。これに対し、Y理論では、本来人間が持つとする高次の欲求(社会的・承認・自己実現)が、働く動機となると考えるものです。
生理的欲求
「生理的欲求」は、マズローが示す5段階の欲求のなかで、もっとも低次のものです。人間が生命を維持するために必要な欲求で、「食欲」「排泄欲」「睡眠欲」などがこれにあたります。動物が持つ本能的な欲求であり、通常人間がこの欲求階層にとどまることはありません。
安全欲求
「安全欲求」とは、生理的欲求の次に低次のもので、身体的・経済的に安心と安全を確保したいという欲求です。仕事に置き換えると、「労災事故やハラスメントなど心身の健康を害する恐れのない環境」や、「生活するうえで必要な賃金を確保したい」という欲求があたります。
社会的欲求
「社会的欲求」は、集団への帰属に関する欲求です。会社などの組織に所属することや、組織の一員として受け入れられている安心感を得たいとするものです。生理的欲求や安全欲求と比較し、社会との関わりを求める点が高度な欲求といえます。
承認欲求
「承認欲求」とは、社会的欲求が満たされたうえで、所属する組織などから「認められたい」「高く評価されたい」という欲求です。地位や名声を得たいという「出世欲」も、この承認欲求に当てはまるものです。より自身の「内面的な心を満たしたい」とする高次の欲求といえます。
自己実現欲求
「自己実現の欲求」は、マズローの欲求5段階説における、もっとも高次のもので「自分自身にしかできないことを成し遂げ社会に貢献したい」という欲求です。自身の価値観に基づいた、「あるべき姿」「理想」に近づきたいとする欲求ともいえるでしょう。
X理論・Y理論をマネジメントに取り入れる方法・効果
X理論・Y理論に基づく人事管理法では、それぞれ異なるマネジメント手法がとられます。一概にどちらが良い・悪いというものではありません。用いられる場面や目的によって使い分けることが必要です。
一般に事故防止やリスク管理においてはX理論に基づくマネジメントが適しています。社員満足度の向上や自発性を促す目的であれば、Y理論が適しているといえるでしょう。
X理論・Y理論、それぞれに基づいた人事管理法を以下で紹介します。
X理論に基づくマネジメント法
X理論に基づくマネジメントは、報酬の代わりに指示や命令により管理し、成果が得られなければペナルティを課すといったものです。「アメとムチ」のマネジメントともいえます。
こうしたアプローチは、ガバナンス強化を目的とした施策に適しています。たとえば、ハラスメントの防止や、個人情報の管理を徹底させるなど、リスクマネジメントに関わる施策では有効に機能するでしょう。
また、細かなチェックが必要な、業務に慣れていない新人への業務指導などでも、効果を発揮します。
Y理論に基づくマネジメント法
Y理論に基づくマネジメントは、責任や魅力のある目標を与え、自発的な行動を促すものといえます。「活躍するチャンスを与える」マネジメント手法ともいえるでしょう。
Y理論に基づくアプローチは、社員の自主性を促す必要があるときや、エンゲージメント向上を目的とする施策に有効です。部下指導の場面では、業務に習熟したベテラン社員の、モチベーション向上が必要なときに用いると効果を発揮します。
社員の離職やモラール低下などの問題は、自社に対する愛着を高めることで解決していかなくてはなりません。こうした問題の解消には、貢献意欲や承認欲求を満たしていくアプローチが必要となるでしょう。
X理論・Y理論を活用したマネジメントの具体例
ここまで、X理論・Y理論それぞれが有効な、人事管理の手法を解説してきました。ここからは、それぞれの理論に基づくマネジメントが適した業務の実例を見ていきましょう。
一般的にX理論による管理は、ミスに対する許容度が低く正確性を要求される業務や、属人化を防ぐ必要がある業務に用いられます。これに対し、Y理論による管理は、裁量権を持たせ独自の発想を求める業務や、自主性が必要な業務に用いることで効果を発揮するものです。
以下で詳しく見ていきます。
X理論が活用したマネジメントの具体例
X理論によるマネジメントは、強制や指示によって業務を管理していく手法です。指示どおりに行動しない場合は、ペナルティを課すこともあるでしょう。こうしたマネジメント手法は正確性が重視される業務や、手順が定型化されている業務に適しています。
具体的には、製造ラインの業務や定型化された事務作業など、ミスが許容されない業務が例として挙げられます。また、危険をともなう肉体労働、危険物や機密情報を扱うなど、自主性に任せることがリスクにつながる業務も同様です。
Y理論が活用したマネジメントの具体例
Y理論によるマネジメントは、自己実現や承認を動機として、自主性を引き出す管理の手法です。強制的な管理ではなく、魅力ある目標を与え責任感をもたせることで、業務に対する意欲を高めるマネジメント手法です。
こうしたマネジメントが有効な業務は、個人の発想力が必要な研究開発やデザインが例として挙げられます。また、さまざまな顧客に対応する、サービス業や接客業などの自主性が求められる業務にも適しています。
X理論・Y理論から派生したZ理論とは
マクレガー氏の提唱から20年後、アメリカの経済学者であるウィリアム・オオウチ氏が、X理論・Y理論を派生させた「Z理論」を提唱しました。Z理論は、X理論とY理論のよい面をピックアップした中間的なものといえます。
どちらかに偏るのではなく、業務内容や社員の特性・成長段階に合わせて、「強制」と「自主性の尊重」を柔軟に使い分けるのがZ理論の特徴です。
Z理論においては、組織の体制が盤石であれば、社員のモチベーションは自然に上がるものと考えます。こうしたマネジメントにより、ロイヤリティの高い社員が自主性を発揮します。それに加え、適切な強制力が機能することで、高いガバナンスを備えた組織へと成長していけるのです。
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X理論・Y理論を活用して社員のモチベーションを向上
X理論とY理論は、人材のモチベーションに関わる両極の考え方です。ある程度の強制力を持った管理と、社員の自主性を尊重することの両立が、組織の成長には欠かせません。どちらかに偏ることなく、組織の状況や管理する業務に応じてバランスよく取り入れることが、社員のモチベーション向上には求められます。
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