経営理念の作り方7ステップを解説!ポイントや具体例も紹介
経営理念は、組織の活性化や従業員のエンゲージメント向上のために大きな役割を担っており、企業の経営上の意思決定にも影響を及ぼします。
今回は、経営理念の事例と作り方、注意すべきポイントを説明すると同時に、経営理念作りにおすすめの書籍もいくつか紹介します。
経営理念とは
経営理念とは、経営における方向性や方針を示したものです。
一般的に経営理念は、ミッション(Mission)・ビジョン(Vision)・バリュー(Value)で構成されることが多いです。よく混同されるのは企業理念ですが、企業理念は企業の存在意義を明文化したものです。
ただ、実際には経営理念と企業理念に関して明確な使い分けがあるわけではなく、同義で使われていることもしばしばあります。
経営理念の構成
企業によって経営理念の解釈の違いはあります。しかし、一般的に経営理念は、ミッション(Mission)・ビジョン(Vision)・バリュー(Value)で構成されることが多いです。それぞれ何を表しているのか、簡単に解説します。
まずミッション(Mission)とは、日本語訳の通り「使命」です。
なぜその組織が存在するのか。その組織が実現を目指す目標や存在する目的を意味します。ミッションをベースにビジョンやバリューが決められるため、MVVの中でも重要度が高い項目です。
ビジョン(Vision)とは、「理想」の組織像・会社像です。
「使命を達成できる組織の状態」もしくは「達成した組織の状態」が表現されています。
バリューとは、組織の価値観・価値基準を表します。
「ビジョンの実現のために社員はこのように行動すべきだ」というような価値基準が定められています。
企業理念との違い
企業理念とは、その企業の存在意義を明文化したものです。
経営理念とは違って、企業理念が変更されることは滅多にありません。
以下に、経営理念と企業理念の定義をまとめておきます。
- 経営理念:企業の経営における信念や価値観、方針を明文化したもの
- 企業理念:その企業の存在意義を明文化したもの
しかし、企業理念と経営理念をしっかりと使い分けている企業は、実はそこまで多くありません。
経営理念の作り方 7ステップ
経営理念はしっかりとした手順を踏んで作成されることで、腹落ちしやすく伝わりやすいものになります。弊メディアがお勧めする手順は以下7ステップです。
- 多くの他社事例を参考にする
- 他社事例で受けた感想、良し悪しを言語化する
- 自社の判断基準、理想をブレストする
- ブレストした理想像をグルーピング・カテゴライズする
- 過去・現在・未来と照らし合わせる
- 社会的意義とすり合わせる
- 最適な表現を検討する
以下で詳しく解説していきます。
(1) 多くの他社事例を参考にする
まずは、業界にとらわれずにさまざまな企業の経営理念を参照することが重要です。
経営理念は、それぞれの企業における「こうありたい、こう進んでいきたい」ということを端的に伝えているものであり、どの企業でも経営理念には魂なり想いなりが込められています。
先人たちがどのような想いを込めて経営理念を作成したのかを想像して、自社の経営理念のイメージを膨らませましょう。具体的な他社事例については、後述してありますので、そちらを参考ください。
(2) 他社事例で受けた感想、良し悪しを言語化する
多くの他社事例を見る中で、それぞれについていろいろな感想を持つことになると思います。
よいと感じたものやとても素敵な考え方だと感じたものもあれば、イマイチしっくり来なかったものもあるでしょう。なぜそのように感じたのかは、自社の経営理念を作成するうえで非常に重要な手がかり・ヒントになります。
自分の中にある想いや気持ちをしっかりと言語化することで、経営理念の方向性がよりしっかりと定まるでしょう。
(3) 自社の判断基準、理想をブレストする
経営理念の核となる、自社が目指す理想や経営上の判断基準などについて、ブレスト形式でアイデア出しをおこないます。
なるべくいろいろな案を出しておくことで、その後意見をまとめやすく方向性が定まりやすくなるので、積極的に案を出すことが重要です。
なお、ブレストでは他人の意見を批判・否定しないことが重要ではありますが、質のいい案が数多く出るのが望ましいことは間違いありません。
そのためには、(2)の工程でいかに多くの他社事例をインプットして自分なりに咀嚼できるかが、大きなカギを握っていると言えるでしょう。
(4) ブレストした理想像をグルーピング・カテゴライズする
ブレストで出てきた意見やアイデアをグルーピング・カテゴライズして、1~3つ程度の大きな方針にまとめます。
このときまとまった意見は、当初想定していなかったような方向性のものになる可能性もあります。
ただ、「あらかじめ想定していたかどうか」よりも、「納得感があるかどうか」のほうが重要なことなので、ブレスト参加者全員が納得したうえで話をまとめられるように心がけましょう。
(5) 過去・現在・未来と照らし合わせる
グルーピングした意見や方針は、その場ではとても整合性のあるもののように思われます。
しかし、組織の経営理念として掲げる以上は、組織の過去・現在・未来と照らし合わせて一貫性のある内容になっていなければなりません。
組織のこれまでの歩み、現在の事業内容、今後目指していく方向性などがグルーピングした意見や方針と一致するかを、このフェーズで今一度確認しましょう。
(6) 社会的意義とすり合わせる
経営理念としてまとまった方針が、自社の歩みや今後進むべき未来の方向性と一致していれば、次にそれが社会的な流れに沿ったものになっているかについても、確認しておく必要があります。
「企業は社会の公器」である以上、自社の理念が社会的に見て意義深いものであるかどうかは、企業の中にいる人にとっても外にいる人にとっても重要なことです。
社会の空気や流れに迎合する必要はありませんが、自然と受け入れられる内容や方針になっているほうが好ましいのは間違いありません。
(7) 最適な表現を検討する
最後に、実際に経営理念を掲げるにあたって、自社の方針や担うべき社会的意義を示すためにはどのような表現が最適かを検討します。
「顧客第一」と「クライアントファースト」は、ほぼ同じ意味を表すと考えて差し支えありませんが、前者が似合う企業と後者が似合う企業は、それぞれ異なります。
「しっくりくるかどうか」は、経営理念の浸透しやすさにも大きく関わる要素なので、自社にピッタリの表現が見つかるまで妥協せずに考え抜きましょう。
経営理念を作成する上で注意すべき5つのポイント
経営理念を作成する手順については先ほど触れましたが、その手順において抑えておかなければならないポイントが5つあります。
- 社会性の観点が含まれているか
- 中長期的に掲げられるか
- 過去・現在・未来との一貫性があるか
- シンプルかつわかりやすい表現になっているか
- 自社で掲げる意義があるか
それぞれ以下で説明します。
社会性の観点が含まれているか
会社の経営的に正しくふさわしい内容であったとしても、それが社会的な流れに逆行していたり、社会的な意義が不足している場合は、経営理念として掲げるにはふさわしくありません。
企業は社会の公器であるという考え方を今一度思い出して、社会性という観点からは自社の経営理念がどのように見えるかを、客観的に判断しましょう。
中長期的に掲げられるか
経営理念は、一度掲げたらその後変更してはならないというわけではありません。
ただ、企業の方針を示すものであり、企業の顔としての役割を担うものでもある以上、あまり短期的に変更するのは好ましくありません。
経営理念策定の際に、中長期的な視点をもって話し合いやブレストをおこなっていれば、中長期的に掲げるのに耐えられる内容になっていることが多いですが、そうでない場合は中長期的な視点を加えたうえで、再度内容を練り直すほうがよいでしょう。
過去・現在・未来との一貫性があるか
どれだけ立派な経営理念であっても、その内容と組織がこれまでおこなってきたことやこれから目指していく方向性が合致していなければ、絵に描いた餅に過ぎません。
また、従業員が納得して受け入れられる経営理念でなければ、浸透するのは難しいですし組織文化を醸成させる助けにもならないでしょう。
経営理念の内容が自社に合っているかを判断する意味も込めて、自社のこれまでの歩みおよび進むべき未来と経営理念の間に、一貫性があるかどうかを確認しましょう。
シンプルかつわかりやすい表現になっているか
経営理念はお題目として掲げられるだけでは意味がなく、各従業員に浸透してその血肉になる必要があります。
そのため、シンプルでわかりやすい表現になっていることが重要なので、経営理念の中身をチェックする場合は、そういった視点からも判断することを心がけましょう。
ただ、必ずしもシンプルな表現にこだわる必要はなく、組織の現場でよく用いられている言葉や考え方があるのであれば、そういった表現を用いることでより従業員に腹落ちしやすい内容になることも考えられます。
自社で掲げる意義があるか
それぞれの組織には、「自分たちが成し遂げなければならない目標」「自分たちだからこそ目指せるゴール」があるものです。
それこそが存在意義・原動力になっているケースも多いので、経営理念もそれらに沿った内容で、自分たちだからこそ掲げる意義があるものになっている必要があります。
同業他社と同じような表現・方向性のものではなく、自社独自のエッセンスが含まれているかどうかは、経営理念において非常に重要なポイントです。
経営理念を作る際に参考にしたい企業の具体例
経営理念を作る際には、まずはじめに他社が掲げている経営理念を参考にすることが重要です。ここでは業界別に7社の経営理念を紹介します。
スターバックス
Mission
(引用:スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社, 「Our Mission and Values」,
人々の心を豊かで活力あるものにするために—
ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから
〈https://www.starbucks.co.jp/company/mission.html〉,2021年12月閲覧)
トヨタ
1. 内外の法およびその精神を遵守し、オープンでフェアな企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業市民をめざす
2. 各国、各地域の文化・慣習を尊重し、地域に根ざした企業活動を通じて、経済・社会の発展に貢献する
3. クリーンで安全な商品の提供を使命とし、あらゆる企業活動を通じて、住みよい地球と豊かな社会づくりに取り組む
4. 様々な分野での最先端技術の研究と開発に努め、世界中のお客様のご要望にお応えする魅力あふれる商品・サービスを提供する
5. 労使相互信頼・責任を基本に、個人の創造力とチームワークの強みを最大限に高める企業風土をつくる
6. グローバルで革新的な経営により、社会との調和ある成長をめざす
7. 開かれた取引関係を基本に、互いに研究と創造に努め、長期安定的な成長と共存共栄を実現する
(引用:トヨタ自動車株式会社, 基本理念,〈https://global.toyota/jp/company/vision-and-philosophy/guiding-principles/〉, 2022年10月閲覧)
オリエンタルランド
自由でみずみずしい発想を原動力に
すばらしい夢と感動
ひととしての喜び
そしてやすらぎを提供します
(引用:株式会社オリエンタルランド, 「企業理念」,
〈http://www.olc.co.jp/ja/company/philosophy.html〉, 2021年4月閲覧)
アビームコンサルティング
Our Mission
私たちは変革を通じて、クライアントに新たな成功をもたらし、
継続的な企業価値向上に貢献します。Our Vision
(引用:アビームコンサルティング株式会社 , 「経営理念」,
私たちは画一的世界観にしばられることなく、
地域や企業の特性を活かすアジア発のグローバルコンサルティングファームとして
クライアントの真のパートナーであり続けます。
〈https://www.abeam.com/jp/ja/about/idea〉, 2021年12月閲覧)
リクルート
私たちは、新しい価値の創造を通じ、社会からの期待に応え、
(引用:株式会社リクルート , 「経営理念」,
一人ひとりが輝く豊かな世界の実現を目指す。
〈https://www.recruit.co.jp/company/philosophy/〉, 2021年12月閲覧)
サイボウズ
チームワークあふれる社会を創る
(引用:サイボウズ株式会社 , 「社長挨拶」,
〈https://cybozu.co.jp/company/ceo-message/〉, 2021年12月閲覧)
サイバーエージェント
21世紀を代表する会社を創る
(引用:株式会社サイバーエージェント , 「ビジョン」,
〈https://www.cyberagent.co.jp/corporate/vision/〉, 2021年12月閲覧)
それぞれの理念は、各企業が目指すべき方向性を踏まえた分かりやすいものになっており、非常に納得できる内容になっていることがお分かりいただけるでしょう。
その他の経営理念の例をもっと知りたい方は、リンクからご覧ください。
経営理念を作成する必要性はあるのか
経営理念の作成は、経営上の意思決定、組織活性化、人材確保において重要な意味を持ちます。
以下では、それぞれの項目における経営理念作成の具体的なメリットについて、説明します。
経営上の意思決定
意思決定に必要な判断基準ができる
経営理念は経営上の方針や手段を明確にしたものであり、経営に関する判断に迷った際に、意思決定の拠りどころになるものです。
事業をおこなっていると意思決定の判断に迷う機会は多々ありますが、そのたびに会社にとってできる限り望ましい判断を下さなければなりません。
経営理念を策定して自社の旗印を明確にしておくことで、常にブレない判断を下すことが可能です。
スピーディーな意思決定ができる
意思決定の判断基準が明確であることは、判断の正しさだけでなく判断を下すスピードにも大きく影響します。
今の世の中は技術も日進月歩で発展していき、市場を取り巻く環境や消費者・顧客の意識も、絶え間なくアップデートされていきます。
そのような環境においては、判断を下すスピードが遅いのは致命的であり、時代に取り残されてしまう原因になりかねません。
経営理念のおかげでスピーディーな意思決定が可能になることで、常に第一線で戦い続けられるでしょう。
組織活性化
組織文化を醸成する
経営理念を掲げて事業をおこなうことで、経営指針は自然と一貫したものになるはずでし、ならなければなりません。
一貫した経営指針は社内に一体感をもたらし、その企業独自の文化である組織文化の醸成につながります。
文化がしっかりと根付いた企業や組織は独自の強さを持っており、その文化に惹かれた社員も数多く集まってくるため、組織の活性化が進みやすくなります。
エンゲージメントを向上する
一貫した経営指針は、従業員の行動やマインドにまで影響を及ぼすものであり、組織が目指すべき方向性と従業員の目線を合致させるのに効果的です。
自分の目指すべき方向と組織が目指している方向が同じだと感じると、従業員の組織に対するエンゲージメントは自然と向上していきます。
エンゲージメントが向上することによって、従業員のモチベーションが高くなって生産性も向上しますし、エンゲージメントの高い従業員が増えれば増えれば増えるほど、組織の活性化も進みます。
人材確保
離職率の低下につながる
従業員の流動性が以前よりも高まっている昨今においては、従業員の離職率を低下させることが非常に重要です。
離職率を低下させるための施策はいくつもありますが、従業員自身の組織に対するエンゲージメントを高めることは、非常に効果的な方法のひとつです。
経営理念の策定により従業員のエンゲージメントが向上することで離職率が低下し、離職率の低い組織は活性化しやすく、組織が活性化することでさらに従業員のエンゲージメントが高まる、というような理想的なループが生まれることも期待できるでしょう。
採用市場で強みになる
社員のエンゲージメントが高いことおよび、その背景にある一貫・浸透した経営理念や確固たる組織力は、採用市場で大きな強みになります。
エンゲージメントが高まることで、社員の能力や生産性が向上することは組織にとって重要であることは間違いありませんが、もともとの能力や生産性が高い人材を採用市場で確保できることも、同じぐらい重要です。
優秀な人材を採用したうえで、エンゲージメントの向上によって能力や生産性が向上すれば、まさに鬼に金棒と言えるでしょう。
自社にあった経営理念を作成しよう
経営理念とは、組織の経営上の方針や方向性を示したものです。
経営理念を策定することで、組織上の意思決定、組織の活性化、人材確保といった観点で大きなメリットを享受することができます。
実際に経営理念を作る際は、他社事例を参考にしたうえで、自社が目指すべき理想を明文化し、それを自社に合うようなワーディングで表現するという手順を踏むことが重要です。
社会性や中長期的な視点、自社独自の内容が含まれているかどうかを確認しながら作成することを心がけましょう。